【第13回】障害者を正社員に転換 「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」
この連載では、企業の障害者雇用を促す「国の助成金」について、わかりやすく説明しています。今回で13回目となります。
今回は、「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」を紹介します。「キャリアアップ助成金」は全部で6つのコースがあるのですが、障害者にかかわるコースは「障害者正社員化コース」です。
【1.復習】
障害者雇用にかかわる助成金制度全体の中で、「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」がどこに位置づけられているか、確認してください。
障害者の雇用を促す国の助成金 令和5年度
財源は雇用保険 | 1.特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース) | |
2.特定求職者雇用開発助成金(発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース) | ||
3.トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース) | ||
4.トライアル雇用助成金(障害者短時間トライアルコース) | ||
5.キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース) | 今回取り上げます | |
6.人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース) | ||
財源は | 7.障害者介助等助成金 | |
8.職場適応援助者助成金 | ||
9.障害者作業施設設置等助成金 | ||
10.障害者福祉施設設置等助成金 | ||
11.重度障害者等通勤対策助成金 | ||
12.重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金 |
【2.制度の概要】
具体的には、次のいずれかの転換を行うと、助成金を受けることができます。
①有期雇用の障害者を正社員(正規雇用)に転換 |
助成金を申請するまでの流れについて、厚生労働省作成のフロー図を載せておきます。
【3.用語の定義】
正社員(正規雇用) | 無期雇用で、かつフルタイム勤務。勤務地限定正社員、職務限定正社員、短時間正社員を含む。この助成金では、賞与または退職金があり、昇給も行われることが条件 |
有期雇用 | 雇用期間が限られている(半年間、1年間など) |
無期雇用 | 雇用期間に限りがなく定年まで雇うが、パートタイム勤務であるなど、自社の正社員(正規雇用)の定義から外れる |
正社員へ転換する場合には、これらの条件をクリアした「正社員(正規雇用)」に転換しなければなりません。
世間で一般的に言われる「正社員」とは異なることに、留意してください。やや複雑ですが、とても重要なので説明します。
この助成金の対象となる「正社員(正規雇用)」は、次の①~③のすべての条件を満たした正社員です。
①正社員用の就業規則が適用されている |
【賞与】
・賞与は原則として支給する。ただし、業績によっては支給しないことがある。 → 〇 |
【昇給】
・会社が必要と判断した場合には、会社は、賃金の昇降給その他の改定を行う。 → ✕ |
就業規則などに、客観的な昇給・降給の基準があり、基準どおりに運用されていれば、賃金据え置きや降給があっても、この助成金の支給対象となり得ます。
しかし、一番上の規定例のように、「会社が必要と判断した場合」というような、客観性のない基準で据え置きや降給をすると、この助成金は支給されません。
また、①~③のすべての条件を満たした正社員(正規雇用)であっても、試用期間中は正社員(正規雇用)とみなしません。たとえば、有期雇用の障害者を正社員(正規雇用)に転換したとしても、就業規則に「正社員の最初の3か月間は試用期間とする」という規定がある場合、この3か月間は、正社員(正規雇用)に転換したことにはなりません。就業規則を作る際に、「転換により正社員となった者には、試用期間を設けない」といった記載をしておくとよいでしょう。
【4.対象となる企業】
①雇用保険の適用事業所になっている |
②助成金の対象となる障害者について、労働条件、勤務状況、賃金支払い状況などの書類を作り、賃金の算出方法を明らかにできる |
③転換後、対象となる障害者を雇用保険に入れる |
④転換後6か月間の賃金を、転換前6か月間の賃金より減らしていない |
⑤転換6か月前から1年間、解雇など事業主都合の離職者を出していない |
⑥助成金の支給申請時点で、対象となる障害者を解雇など事業主都合で離職させていない |
⑦転換した障害者について、最低賃金の減額特例を適用していない |
【5.対象となる障害者】
重度身体障害者 |
さらに、こまかい条件が課されています。数が多いので、主な条件を紹介します。
①賃金の額と計算方法について、正社員(正規雇用)以外の就業規則が6か月以上適用されていること |
②将来、正社員(正規雇用)や無期雇用にすることを約束して雇い入れられていないこと |
③転換日から定年まで1年以上あること |
④有期から無期へ転換する場合、労働契約法の「無期転換ルール」の「無期転換申し込み権」を持つ労働者でないこと |
⑤事業主や取締役の3親等以内の親族でないこと |
①をクリアするには、賃金の額と計算方法について、「正社員(正規雇用)」「有期雇用」「無期雇用」で別々に就業規則や賃金規程に定めておくことが欠かせません。
さらに、「有期雇用」「無期雇用」については、基本給、賞与、退職金、各種手当のうちいずれかひとつ以上で、「正社員(正規雇用)」と異なる制度を定めている必要があります。たとえば、「有期雇用」は、正社員(正規雇用)に比べ基本給が少ない、賞与がないなどの規定が考えられます。
そのうえで、有期雇用の障害者には有期雇用労働者用の規定を、無期雇用の障害者には無期雇用労働者用の規定を、少なくとも6か月間適用し、賃金を支払います。
また、有期雇用の就業規則には、「契約期間」について明記しておく必要があります。「契約期間」が書かれていないと、「無期雇用」とみなされてしまいます。
【6.助成額】
助成期間は、転換後1年間。6か月間を1期とし、2期に分けて支給申請します。
一覧表の助成額が、1期間の賃金額を超える場合には、賃金額が助成の上限となります。
【中小企業】
対象者 | 転換のしかた | 対象者1人あたり助成額 |
重度身体障害者 | 有期雇用→正社員(正規雇用) | 60万円×2期 |
有期雇用→無期雇用 | 30万円×2期 | |
無期雇用→正社員(正規雇用) | 30万円×2期 | |
重度以外の身体障害者 | 有期雇用→正社員(正規雇用) | 45万円×2期 |
有期雇用→無期雇用 | 22.5万円×2期 | |
無期雇用→正社員(正規雇用) | 22.5万円×2期 |
【大企業】
対象者 | 転換のしかた | 対象者1人あたり助成額 |
重度身体障害者 | 有期雇用→正社員(正規雇用) | 45万円×2期 |
有期雇用→無期雇用 | 22.5万円×2期 | |
無期雇用→正社員(正規雇用) | 22.5万円×2期 | |
重度以外の身体障害者 | 有期雇用→正社員(正規雇用) | 第1期=33.5万円 |
有期雇用→無期雇用 | 16.5万円×2期 | |
無期雇用→正社員(正規雇用) | 16.5万円×2期 |
※中小企業が精神障害者をキャリアアップさせる例(厚生労働省の資料を転載)
<中小企業の定義>
小売業(飲食店を含む) | 資本金5,000万円以下、または常時雇用労働者50人以下 |
サービス業 | 資本金5,000万円以下、または常時雇用労働者100人以下 |
卸売業 | 資本金1億円以下、または常時雇用労働者100人以下 |
その他 | 資本金3憶円以下、または常時雇用労働者300人以下 |
<第1期>
転換した労働者に、転換後の賃金を6か月間支給した日の翌日から2か月以内に申請。
<第2期>
第1期(6か月)の次の6か月間の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請。
【7.キャリアアップ計画】
「キャリアアップ計画」は、正社員へのキャリアアップを計画的に進めるため、おおまかな取り組みのイメージを書くものです。転換する日の前日までに、労働局に提出し、認定を受けてください。
認定されるまでに時間がかかる場合があるので、転換日の1か月前までに提出することを勧めます。
「キャリアアップ計画」を作らずに転換した場合、この助成金はもらえないので、注意が必要です。
「キャリアアップ計画」を作る際には、次のことに留意してください。
①「キャリアアップ管理者」を決める | 「キャリアアップ管理者」は、 |
②「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」にそって、おおまかな取り組みの流れを決める | 「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」については、この表の下に記載するURLをクリック |
③計画期間は、3年以上5年以内とする | |
④有期雇用労働者などを含む全労働者の代表(労働者代表)から、意見を聴く |
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000758164.pdf
厚生労働省が「キャリアアップ計画」の作成例を作っているので、紹介します。
【8.まとめ】
とても複雑な助成金なので、ここで書ききれなかった細かい点については、厚生労働省のサイトをご覧ください。申請書類の様式も載っています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index_00004.html
では、また次回お会いしましょう。
この記事は、厚生労働省の2023年5月20日時点の情報をもとに執筆しています。助成金の内容は頻繁に見直されるので、必ず最新情報をご確認ください。 |
<プロフィル>
安田武晴
特定社会保険労務士、労働時間適正管理者
1969年、東京生まれ。
大学卒業後、読売新聞の記者として、高齢者介護、障害者支援、公的年金などを取材。2013年、「取材・執筆に必要な知識を増やそう」と勉強し、社会保険労務士の国家試験に合格。2020年4月に独立し、東京・西荻窪に「社会保険労務士事務所オフィスオメガ」を開業した。
▽介護・障害事業所の「処遇改善加算」サポート
▽「メリハリのある職場づくり」のための就業規則作成
▽労務リスクを減らす「労働時間管理」アドバイス
に力を入れている。
障がい者雇用に関するご相談メール info@fvp.co.jp
電話 03-5577-6913
お問い合わせフォーム https://www.fvp.co.jp/contact/ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。
人事担当者にぜひ知っていただきたい
FVP 障害者雇用サービスのご紹介
障がい者雇用コンサルティング サービスブック障害者雇用は「採用したら終わり」ではありません。採用した人材が定着し、組織の中で活躍し戦力化する。
ひいては、障害者雇用をきっかけとした企業価値向上を目指し、1000社以上をご支援してきたFVPのサービス内容を詳しく紹介しています。
詳細・ダウンロードページへ