【第13回】障害者を正社員に転換 「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」


いつも読んでいただき、ありがとうございます。社会保険労務士の安田武晴です。
この連載では、企業の障害者雇用を促す「国の助成金」について、わかりやすく説明しています。今回で13回目となります。

今回は、「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」を紹介します。「キャリアアップ助成金」は全部で6つのコースがあるのですが、障害者にかかわるコースは「障害者正社員化コース」です。

【1.復習】

本題に入る前に、今回も、「復習用の一覧表」を下に載せておきます。
障害者雇用にかかわる助成金制度全体の中で、「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」がどこに位置づけられているか、確認してください。

障害者の雇用を促す国の助成金 令和5年度

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【2.制度の概要】

「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」は、正社員でない障害者を正社員に転換すると受けられる助成金です。「転換」という言葉がポイントなので、頭に入れておいてください。

具体的には、次のいずれかの転換を行うと、助成金を受けることができます。
「障害者正社員化コース」という名称が付いているので、①と②が原則ですが、③も認められています。

助成金を申請するまでの流れについて、厚生労働省作成のフロー図を載せておきます。

【3.用語の定義】

用語が少しわかりづらいので、以下におおまかに説明します。
この助成金では、「正社員(正規雇用)」について、こまかい条件が設けられています。
正社員へ転換する場合には、これらの条件をクリアした「正社員(正規雇用)」に転換しなければなりません。

世間で一般的に言われる「正社員」とは異なることに、留意してください。やや複雑ですが、とても重要なので説明します。

この助成金の対象となる「正社員(正規雇用)」は、次の①~③のすべての条件を満たした正社員です。
この3つの条件をクリアするには、まず、正社員(正規雇用)用の就業規則をきっちり整備する必要があります。厚生労働省が、「賞与」と「昇給」について就業規則の規定例を示しているので紹介します。「〇」はこの助成金を受給できる記載、「✕」は不支給となる記載です。

【賞与】

賞与は原則として、年1回以上の定期賞与を規定すべきです。

【昇給】

賃金の据え置きや降給の規定を設ける場合には、注意してください。
就業規則などに、客観的な昇給・降給の基準があり、基準どおりに運用されていれば、賃金据え置きや降給があっても、この助成金の支給対象となり得ます。

しかし、一番上の規定例のように、「会社が必要と判断した場合」というような、客観性のない基準で据え置きや降給をすると、この助成金は支給されません。


また、①~③のすべての条件を満たした正社員(正規雇用)であっても、試用期間中は正社員(正規雇用)とみなしません。たとえば、有期雇用の障害者を正社員(正規雇用)に転換したとしても、就業規則に「正社員の最初の3か月間は試用期間とする」という規定がある場合、この3か月間は、正社員(正規雇用)に転換したことにはなりません。就業規則を作る際に、「転換により正社員となった者には、試用期間を設けない」といった記載をしておくとよいでしょう。

【4.対象となる企業】

この助成金の対象となる企業には、条件があります。数が多いので、主なものを取り上げます。この記事では、わかりやすくするため「企業」という言葉を使っていますが、NPO法人や社会福祉法人、医療法人なども対象になり得ます。

【5.対象となる障害者】

「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」の対象となるのは、次のいずれかの障害がある非正規(有期雇用、無期雇用)の労働者です。
就労継続支援A型事業所の利用者は、この助成金の対象にならないので注意してください。

さらに、こまかい条件が課されています。数が多いので、主な条件を紹介します。
重要なのは①です。

①をクリアするには、賃金の額と計算方法について、「正社員(正規雇用)」「有期雇用」「無期雇用」で別々に就業規則や賃金規程に定めておくことが欠かせません。

さらに、「有期雇用」「無期雇用」については、基本給、賞与、退職金、各種手当のうちいずれかひとつ以上で、「正社員(正規雇用)」と異なる制度を定めている必要があります。たとえば、「有期雇用」は、正社員(正規雇用)に比べ基本給が少ない、賞与がないなどの規定が考えられます。

そのうえで、有期雇用の障害者には有期雇用労働者用の規定を、無期雇用の障害者には無期雇用労働者用の規定を、少なくとも6か月間適用し、賃金を支払います。

また、有期雇用の就業規則には、「契約期間」について明記しておく必要があります。「契約期間」が書かれていないと、「無期雇用」とみなされてしまいます。

【6.助成額】

助成額は、転換のしかたや障害の種類などによって、細かく分かれています。企業の規模によっても異なっています。そこで、わかりやすいように一覧表にまとめました。

助成期間は、転換後1年間。6か月間を1期とし、2期に分けて支給申請します。
一覧表の助成額が、1期間の賃金額を超える場合には、賃金額が助成の上限となります。

【中小企業】

【大企業】

次のように助成金を受給することもできます。

※中小企業が精神障害者をキャリアアップさせる例(厚生労働省の資料を転載)
中小企業と大企業の違いは、以下の「中小企業の定義」をご覧ください。この定義にあてはまれば中小企業、あてはまらなければ大企業となります。

<中小企業の定義>

助成金の支給申請方法は、次のように決まっています。

<第1期>
転換した労働者に、転換後の賃金を6か月間支給した日の翌日から2か月以内に申請。

<第2期>
第1期(6か月)の次の6か月間の賃金を支給した日の翌日から2か月以内に申請。

【7.キャリアアップ計画】

【2.制度の概要】のフロー図の最初に、「キャリアアップ計画の作成・提出」とあります。

「キャリアアップ計画」は、正社員へのキャリアアップを計画的に進めるため、おおまかな取り組みのイメージを書くものです。転換する日の前日までに、労働局に提出し、認定を受けてください。

認定されるまでに時間がかかる場合があるので、転換日の1か月前までに提出することを勧めます。

「キャリアアップ計画」を作らずに転換した場合、この助成金はもらえないので、注意が必要です。

「キャリアアップ計画」を作る際には、次のことに留意してください。
※「有期雇用労働者等のキャリアアップに関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000758164.pdf

厚生労働省が「キャリアアップ計画」の作成例を作っているので、紹介します。
「キャリアアップ計画」は、あくまでも当初の予定を書くので、いつでも変更できます。変更したら必ず、労働局に「キャリアアップ計画変更届」を提出します。変更届を提出しないと、助成金を受給できない場合があります。

【8.まとめ】

今回は、「キャリアアップ助成金 障害者正社員化コース」について説明しました。
とても複雑な助成金なので、ここで書ききれなかった細かい点については、厚生労働省のサイトをご覧ください。申請書類の様式も載っています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index_00004.html
長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
では、また次回お会いしましょう。
<プロフィル>

安田武晴
特定社会保険労務士、労働時間適正管理者

1969年、東京生まれ。
大学卒業後、読売新聞の記者として、高齢者介護、障害者支援、公的年金などを取材。2013年、「取材・執筆に必要な知識を増やそう」と勉強し、社会保険労務士の国家試験に合格。2020年4月に独立し、東京・西荻窪に「社会保険労務士事務所オフィスオメガ」を開業した。
▽介護・障害事業所の「処遇改善加算」サポート
▽「メリハリのある職場づくり」のための就業規則作成
▽労務リスクを減らす「労働時間管理」アドバイス
に力を入れている。
障がい者雇用に関するご相談メール info@fvp.co.jp
電話 03-5577-6913
お問い合わせフォーム https://www.fvp.co.jp/contact/
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