【第7回】8種類もある!充実の「重度障害者等通勤対策助成金」<前編>

この連載では、毎回、障害者の雇用を応援する「国の助成金」について、詳しく解説しています。

今回から2回に分けて、重度障害者の「通勤」をサポートする「重度障害者等通勤対策助成金」を紹介します。

この助成金は、8種類の助成金に細かく分かれているので、1回の記事にまとめると、とても長くなってしまいます。前編、後編に分けて書きますので、ご了承ください。

【1.復習】

本題に入る前に、今回も、「復習用の一覧表」を下に載せておきます。
助成金制度の「全体像」をおさえ、そのうえで、「重度障害者等通勤対策助成金」が
どこに位置づけられているか、確認してください。

障害者の雇用を促す国の助成金(令和4年度)

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【2.重度障害者等通勤対策助成金の全体像】

この助成金は、重度の障害者の「通勤」をサポートする助成金です。

私はかつて新聞記者をしていた頃、車いすを利用している会社員の女性を取材した経験があります。20年くらい前だったと思います。

その女性の場合、母親が毎日、通勤をサポートしていました。出勤時は、自宅から会社まで付き添い、退勤時刻に母親が再び会社に来て、一緒に帰宅していました。
当時は、今ほど交通機関のバリアフリーが進んでいなかったこともあり、母親の介助が必要だったのです。

通勤の負担が大きすぎて、仕事に影響が出ないだろうか?
仕事を続けられるのだろうか?
取材しながら、心配になったのを覚えています。
同時に、働くことに関して、「障害者は不利な状況にある」と痛感しました。

「通勤」に焦点を当て、「不利な状況」を解消しようとするのが、重度障害等通勤対策助成金です。

次の通り、8種類に分かれています。

【3.対象となる障害者は?】

この助成金の対象となるのは、「重度障害者等」です。
「重度障害者等」の定義を、以下にまとめました。

もちろん、この定義にあてはまるとともに、通勤をサポートしないと雇い入れられない、雇い続けられない、という状況にあることが条件となります。

<①~⑤、⑦の助成金の対象>

<⑥の助成金の対象>

※重度身体障害者
 障害者雇用促進法の施行規則別表第1に該当し、障害等級が1級か2級の人、または、3級の障害を2つ以上重複することなどにより2級に相当する人。

<⑧の助成金の対象>

【4.種類ごとの詳細】

ここからは、8種類の助成金について、ひとつずつ詳しく紹介します。
8種類すべて、前章で説明した「対象となる障害者」に、企業が必要な措置を講じた場合に、助成金の対象になりえます。
重度の障害があるために、現在の住まいでは通勤が難しい場合があります。
その際、通勤しやすい住宅を企業が借りて、障害者に入居してもらうと、助成対象となります。

住宅の主な条件は、

▼職場まで、徒歩か車いすで10分程度であること
 (通勤方法が、公共交通機関、車、自転車、車による送迎の場合は対象外)
▼障害に配慮した構造、設備
▼世帯用住宅の場合、次のいずれかの人と同居する
・配偶者(事実婚を含む)
・6親等以内の血族
・3親等以内の姻族
・「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が「やむを得ない」と認める者

 借りる住宅の所有者が、

・親会社、子会社、関係会社
・その企業の代表や役員
・障害者本人

の場合など、助成対象にならないケースがあります。
5人以上の障害者に、障害に配慮した構造、設備の同一の住宅に入居してもらいます。そのうえで、その住宅に「指導員」を配置し、次の指導・援助をすべて行うと、助成対象となります。

「指導員」が行うべきことは、

・健康管理
・生活指導
・その他、通勤上の課題をクリアするために必要なこと

です。

その企業の代表者や役員などが「指導員」となるケースなど、助成対象にならない場合があります。
障害者が、自ら住宅を借りる場合に、企業が住宅手当を支給すると、助成対象になります。

住宅手当については、賃金規程などで定めなければなりません。
また、障害者への住宅手当の金額は、他の従業員への住宅手当の限度額を超える必要があります。

 障害者が借りる住宅が、その企業や関係会社の所有である場合など、助成対象にならないケースがあります。
5人以上の障害者の送迎のために、企業が通勤用バスを購入した場合に、助成対象となります。
ただし、以下の場合は助成の対象になりません。

・事業所を公共交通機関による通勤ができない場所に移転、設置したために、通勤用バス  を購入する場合
・障害特性に関係なく、通勤が難しい場合
・中古や自社製品のバスを購入する場合
・親会社、子会社、関係会社からバスを購入、改造などの発注を行う場合
・会社が自ら設計、改造、整備するバスの場合

など。
5人以上の障害者の送迎のために、企業が通勤用バスを整備し、自社で雇う従業員以外の人に、運転業務を委嘱した場合に、助成対象となります。
自社で雇う従業員に委嘱する場合には、助成の対象になりません。

通勤用バスは、自社が所有、または賃借するものに限られます。

次のケースも、助成対象となりません。

・事業所を公共交通機関による通勤ができない場所に移転、設置したために、通勤用バスを購入して、運転を委嘱する場合
・障害特性に関係なく、通勤が難しい場合
・その企業の代表や役員が運転する場合  

など。
次のいずれかに当てはまる場合に、「通勤援助者」を委嘱すると、助成対象となります。「通勤援助者」の委嘱は、自社で雇う従業員以外の人に行います。自社で雇う従業員に委嘱した場合は、助成の対象外です。

・新たに、通勤が難しい障害者を雇い入れた場合
・採用後に障害者となった人が、職場復帰する場合
・障害が悪化し、通勤援助が必要となった場合
・通勤経路を変更しなくてはならない場合
・その他、通勤援助者による援助が必要な場合

「通勤援助者」とは、公共交通機関を利用して通勤する障害者に対し、その通勤をスムーズにするために、指導・援助する人です。

その企業の代表や役員に「通勤援助者」を委嘱するケースなどは、助成の対象外です。
車で通勤する障害者のために、企業が、次のすべてに当てはまる駐車場を借りた場合に、助成対象となります。

・通勤のために、障害者が自ら運転する自動車を駐車させる駐車場
・障害に配慮した駐車場
・勤務先や自宅の近くに設置されている駐車場

次の場合は、助成対象となりません。

・親会社、子会社、関係会社が所有する駐車場を借りる場合
・障害者本人、自社の代表や役員が所有する駐車場を借りる場合
・障害特性に関係なく、自動車を使わなければ通勤できない場合

など。
障害者のために、企業が通勤用の自動車を購入すると、助成対象となります。
ただし、次の場合には、対象となりません。

・事業所を公共交通機関による通勤ができない場所に移転、設置したために、通勤用の自動車を購入する場合
・障害特性に関係なく、自動車を使わなければ通勤できない場合
・中古や自社製品の自動車を購入する場合
・親会社、子会社、関係会社から自動車を購入する場合
・親会社、子会社、関係会社に自動車の改造を発注する場合
・自社で設計、改造、整備する自動車の場合
・障害者本人から自動車を購入する場合
・障害者本人が所有する自動車を改造する場合

など。

【5.まとめ】

今回の記事は、「重度障害者等通勤対策助成金」の<前編>として、8種類に細分化された各助成金について説明しました。

次回<後編>では、8種類それぞれの助成金額、助成金が出た具体的なケースを中心に書きます。

さらに細かい情報や、申請書類の様式は、
「高齢・障害・求職者雇用支援機構」のウェブサイト
https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html
にある、以下の資料などを参照してください。

重度障害者等通勤対策助成金
https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/tsukin_joseikin/index.html
また、同機構の都道府県支部が、さまざまな相談にのってくれます。



今回も、読んでいただき、ありがとうございました。
では、また1か月後!
<プロフィル>

安田武晴
特定社会保険労務士、労働時間適正管理者

1969年、東京生まれ。
大学卒業後、読売新聞の記者として、高齢者介護、障害者支援、公的年金などを取材。2013年、「取材・執筆に必要な知識を増やそう」と勉強し、社会保険労務士の国家試験に合格。2020年4月に独立し、東京・西荻窪に「社会保険労務士事務所オフィスオメガ」を開業した。
▽介護・障害事業所の「処遇改善加算」サポート
▽「メリハリのある職場づくり」のための就業規則作成
▽労務リスクを減らす「労働時間管理」アドバイス
に力を入れている。
人事担当者にぜひ知っていただきたい
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