【第8回】8種類もある!充実の「重度障害者等通勤対策助成金」<後編>

この連載では、毎回、障害者の雇用を応援する「国の助成金」について、解説しています。企業は、助成金を活用することで、障害者の雇用を進めることができます。ぜひ参考になさってください。

前回から2回に分けて、重度障害者の「通勤」をサポートする「重度障害者等通勤対策助成金」を紹介しています。今回は、その<後編>です。

この助成金は、8種類の助成金に細かく分かれています。それぞれの助成金の趣旨や目的について、前回の記事<前編>で内容をお伝えしました。

今回の記事<後編>では、8種類それぞれの助成金額、実際に助成金が出た事例を中心に、お伝えします。

【1.復習】

「重度障害者等通勤対策助成金」は、次の通り、8種類に細かく分かれています。
いずれも、「重度障害者等」に該当する従業員に通勤のサポートを行うと、助成対象となります。
8種類それぞれの目的、対象となる「重度障害者等」の定義については、前回の記事<前編>でお伝えしました。ぜひ、読み返してくださいね。

【2.助成金額】

8種類それぞれの助成金の額は、次のように定められています。
・費用※の3/4
・上限=単身用住宅は月60,000円、世帯用住宅は月100,000円
・助成期間は最大10年
・6か月ごとにまとめて支給

※費用は、「住宅の1㎡あたりの賃借料 × 住宅の面積」で算出します。
・費用※の3/4
・上限=月150,000円
・助成期間は最大10年
・6か月ごとにまとめて支給

※費用は、「指導員の1時間あたりの通常賃金  ×  所定労働時間数」で算出します。
・費用※の3/4
・上限=障害者1人あたり月60,000円
・助成期間は最大10年
・6か月ごとにまとめて支給

※費用は、「障害者の住宅手当の額 - 他の労働者の住宅手当の限度額」で算出します。
・費用※の3/4
・上限=バス1台700万円

※費用は、バスの購入価格、障害者数、バスの乗車定員数などにより算出します。
・費用※の3/4
・上限=委嘱1回あたり6,000円
・助成期間は最大10年間
・6か月ごとにまとめて支給

※費用は、委嘱1回あたりの費用です。
・費用※の3/4。
・上限=委嘱1回あたりの費用は2,000円、通勤援助にかかった交通費は30,000円
・助成期間は1か月

※費用は、「委嘱1回あたりの費用 + 通勤援助にかかった交通費」で算出します。
・費用※の3/4
・上限=月50,000円
・助成期間は最大10年
・6か月ごとにまとめて支給

※費用は、「駐車場の賃借費用 - 障害者から徴収する駐車場代」で算出します。
・費用※の3/4
・上限=自動車1台150万円。1級か2級の両上肢障害者の場合は、1台250万円

※費用は、「車両本体価格 + 「障害・高齢・求職者雇用支援機構」が認める付属品や改造などの費用」で算出します。

【3.A型事業所が利用する場合】

重度障害者等通勤対策助成金は、一般企業だけでなく、就労継続支援A型事業所でも活用するケースがあると思います。

そこで、A型事業所がこの助成金の対象になるかどうか、一覧表にまとめました。

〇=対象になる ✕=対象にならない

雇用する障害者がA型事業所の

職員

利用者

(注)

(注)「送迎加算に関する届出書」を提出している事業所は、助成対象とならない。

【4.助成金が支給された事例】

重度障害者等通勤対策助成金は、どのようなケースで支給されるのでしょうか。
具体的な事例がわかると、イメージがわきやすいと思います。

そこで、「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の資料をもとに、重度障害者等通勤対策助成金のうち、支給事例が多い「住宅の賃借助成金」「住宅手当の支払助成金」「駐車場の賃借助成金」について、具体的な支給ケースを紹介します。
▽Aさんは進行性の病気にかかり、身体障害者手帳を取得。通勤(電車とバスで1時間)が難しいため、職場の近くに引っ越したいと勤務先に希望したところ、会社は助成金を活用し、職場から歩いて1分の場所に、Aさんの障害に配慮したバリアフリー住宅を借りました。
これにより、杖を使って歩くAさんの通勤の負担は減り、今後、車いすを使うようになっても通勤できる見通しとなりました。

▽Bさんは仕事中の事故で頸椎を損傷し、身体障害1級で車いすを利用するようになりました。復職にあたり、公共交通機関を利用する通勤は、最寄り駅までの移動に時間と体力が必要で、しかも、ラッシュアワーでの乗り換えも困難でした。
そこで勤務先の会社は、助成金を活用し、会社近くのバリアフリー住宅を借り、Bさんと家族に入居してもらいました。自力で通勤できるようになったBさんは、リハビリ出勤を経て同社に復職し、これまでの経験を活かして営業などに活躍しています。

▽収納容器製造・販売会社に勤めるCさんは、営業職として長年活躍していましたが、病気のため腕や脚に障害が残り、身体障害2級となりました。会社はCさんの業務内容を見直し、外回りの多い営業職から事務職へと配置転換。しかし、Cさんは杖をついて満員電車で通勤するのが困難でした。
このため会社はCさんのために、助成金を利用して、職場から徒歩5分の場所に、エレベータ付きのバリアフリー住宅を賃借。その結果、Cさんは無理なく仕事を続けられるようになりました。
Dさんは人混みが苦手で強いストレスを感じるため、電車での通勤が困難でした。会社は、時差出勤や土日の出勤を認めましたが、欠勤や体調不良がなくならず、仕事でもミスをしてしまう状態でした。
そこで会社は主治医とも相談し、Dさんに、徒歩通勤ができる場所へ転居してもらうことにしました。その際、Dさんの経済的な負担を軽くするため、助成金を利用し、通常の社員の住宅手当にプラスした手当を支給。これにより、通勤の問題が解決され、安定して働けるようになりました。
▽心臓の機能障害(1級)があるFさんは、心臓に過度な負担をかける通勤はできません。公共交通機関を利用するには、駅までの徒歩や階段の昇り降りが必要で、特に自宅から最寄り駅までの道は起伏が激しかったのです。
そこで、勤務先の会社は助成金を活用し、会社から徒歩1分の場所に駐車場を借り、Fさんのマイカー通勤を認めました。これにより通勤の負担が減り、Fさんは同社で活躍しています。

▽G社では、パソコン入力作業の担当として精神障害のあるHさんを雇いました。Hさんは人混みが苦手で強いストレスを感じ、公共交通機関での通勤が難しいため、当初は会社の送迎車で通勤していました。しかし、送迎者も他の従業員と乗り合いになるため、次第に利用することが困難に。通勤のストレスで生活リズムが崩れ、仕事を休みがちになってしまいました。
そこで、G社の担当者がHさんと面談した結果、車通勤を希望したため、助成金を活用して会社に隣接した駐車場を借り、車通勤を認めました。その結果、Hさんは通勤ストレスが軽くなり、生活リズムも改善。同社で引き続き働き続けることができました。

▽情報通信業のJ社では、身体障害1級で車いすを使っているKさんを新規採用。社内システムの構築業務に従事してもらうことにしました。しかし、最寄り駅から職場までの通勤経路に段差や傾斜が多く、通勤時間帯の駅構内もたいへん混雑し、車いすによる移動は難しく、危険でした。
このためJ社は、Kさんにマイカー通勤を認め、助成金を利用して、会社に隣接した駐車場を借りました。その結果、Kさんはスムーズに通勤できるようになり、貴重な戦力として活躍しています。

【5.まとめ】

今回の記事は、「重度障害者等通勤対策助成金」の<後編>として、8種類に細分化された各助成金の金額や、実際の支給事例などについて書きました。

さらに詳しい情報や、申請書類の様式は、
「高齢・障害・求職者雇用支援機構」のウェブサイト
https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html
にある、以下の資料などを参照してください。

重度障害者等通勤対策助成金
https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/tsukin_joseikin/index.html

また、同機構の都道府県支部が、さまざまな相談にのってくれます。ぜひ活用してください。



今回も読んでいただき、ありがとうございました。
では、また1か月後!
<プロフィル>

安田武晴
特定社会保険労務士、労働時間適正管理者
1969年、東京生まれ。
大学卒業後、読売新聞の記者として、高齢者介護、障害者支援、公的年金などを取材。2013年、「取材・執筆に必要な知識を増やそう」と勉強し、社会保険労務士の国家試験に合格。2020年4月に独立し、東京・西荻窪に「社会保険労務士事務所オフィスオメガ」を開業した。
▽介護・障害事業所の「処遇改善加算」サポート
▽「メリハリのある職場づくり」のための就業規則作成
▽労務リスクを減らす「労働時間管理」アドバイス
に力を入れている。
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