障害者雇用で特例子会社を活用するメリット・デメリット
1. 導入
特例子会社制度の概要やメリット・デメリット、設立までの流れなどについて、人事の担当者として知っておきたいことをまとめました。
2. 特例子会社を活用して障害者雇用を進める企業が増えている
特例子会社の認定企業や雇用数も例年、増加傾向にあります。「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」では、特例子会社の認定を受けている企業は前年度より25社多い542社、雇用されている障害者は前年度より2,144人増え、38,918.5人となりました。
特例子会社による障害者雇用は10年前の2.7倍、全雇用数にしめる特例子会社雇用数の構成比は10年間で1.6倍増加しています。
3. 特例子会社とは?
また、特例子会社の設立による「グループ適用(関係会社特例)」制度は、特例子会社があり、グループ会社で年間最低60万程度の発注が行われているなど一定の要件を満たす場合、グループ会社も同様に障害者雇用率を通算することができる制度です。
さらに、一定の要件を満たす場合に複数の事業主で実雇用率を通算することができる制度として、従来の特例子会社制度及び企業グループ適用(関係会社特例)に加え、平成21年4月より、企業グループ算定特例(関係子会社特例)が創設されました。
この企業グループ算定特例は、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、特例子会社がない場合であっても、企業グループ 全体で実雇用率の通算が可能となるものです。
4. 特例子会社のメリット
①雇用管理上の資源(人・設備・ノウハウ等)の集中的な投入が可能になる
障害のある方を、複数の会社や部署に分散して雇用するより、一か所で雇用・管理することで業務を集約しスケールメリットを生かすことが可能です。
いくつかの部署に分散して雇用すると、マネジメントをする社員の人数が多く必要になることや、雇用管理に対するコストが大きくなりますが、特例子会社による雇用の場合、障害者の業務やマネジメント、資源配分を集中できるので、各部署やグループの他の会社が負担していたコストを抑えることができます。
②職場定着率の向上による障害者採用コストの低減
特例子会社では、障害のある方が一緒に働いているので、孤独を感じづらい・作業目標を他の同僚と同じレベルに設定できるといったことから、仕事に対するモチベーションを高く保ちやすくなります。その結果、就業年数が伸び、職場定着率が向上します。
③障害者の生産性向上
特例子会社の適正な制度やマネジメントの下で業務を続けることで、社員の職場定着率が向上し、その過程でスキルの向上が見られたり、リーダーの役割を担う社員が現れたり、より幅広い業務を担えるようになるなど、個々のレベルアップだけでなく、会社やチーム全体の生産性が向上するというメリットが期待できます。
そのほか
④各種助成金の活用が可能になる、
といったメリットがあります。
(2)非経済的な側面:
①障害の特定に適合した人事制度(就業規則・賃金規定、評価制度)を構築できる
障害のある方を多数雇用する場合、様々な特性に考慮した雇用条件や配慮、雇用管理を行うことが大切です。特例子会社は親会社とは別に雇用管理の仕組みを柔軟に設計したり、必要な配慮を行うための職場環境を構築しやすくなります。
また、障害の特性や職務能力を前提とした人事評価制度を制定することによって適正な評価やスキルアップの機会を提供することができます。
そのほか
②社内外、ステークホルダーに対して社会的責任の履行やCSR活動を示す手段となる
③メディアでの紹介が増え、企業イメージの向上が期待できる
といったメリットがあります。
5. 特例子会社のデメリット
①親会社への依存度が高くなる
多くの特例子会社は、親会社やグループ企業をサポートする業務をおこなっているところが多く、そのため親会社への依存度が高くなり、付加的な価値を生みにくくなります。
②時間的な経過により、親(グループ)企業の支援が減少することがある
設立時には、もちろん売上や障害者確保等についての親会社からの厚いサポートがあると思いますが、永続的に設立時と同じ環境が続くことはあり得ません。親会社の状況が変わった際に、その変化に柔軟に対応できるかは特例子会社に課せられた課題といえます。
(2) 非経済的な側面:
①親(グループ)会社の障害者雇用に対する当事者意識が低下しやすい
特例子会社設立によって親会社の雇用率がある程度達成できると、「障害者雇用は特例子会社が行うもの」という意識が強くなりがちです。親会社が進める障害者雇用と特例子会社が担う障害者雇用の役割分担や進め方を常に確認していくことは大切です。
また、特例子会社が設立したから、親会社では障害者雇用に関して理解をしていると考えるのではなく、常に特例子会社の方から情報発信していくことが必要です。全体集会や社内報、社内のイントラネットなどを活用し、親(グループ)会社の社員にも障害者雇用に関心をもってもらうような仕掛けづくりが求められます。
6. 特例子会社設立の流れ
親会社が、特例子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していることが必要です。具体的には、子会社の議決権の過半数を有することが求められています。また、特例子会社への役員派遣、従業員の出向等、人的交流が密であることも求められます。
また、雇用される障害者が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること、雇用される障害者に占める重度身体障害者、知的障害者及び精神障害者の割合が30%以上であることが、設立の要件となっています。そのため比較的規模の大きい企業が特例子会社を設立していることが多く見られます。
さらに、障害者の雇用の促進及び安定が確実に達成されることを目的にしていますので、障害者のための施設・設備の改善、専任の指導員の配置等、障害者の雇用管理に配 慮がされていることが必要です。
(2) 設立の流れ
①設立準備
ここでは特例子会社を設立する目的・意義を明確にし、経営層も含めてそれを共有します。
▼全体フレームの策定
・グループ内の障害者雇用状況、不足数等の確認
▼ベンチマーク企業視察
・職域、障がい種別、管理体制検討
・経営戦略イメージの醸成
▼準備室発足
・準備室メンバーの決定
・責任者(設立後の社長、または管理責任者)の決定
・親会社人事代表の決定
・設立目的、ビジョンの策定
②採用計画
▼職域開発
・従事する業務内容の調整
・採用人物像の確定、採用要件の作成
・業務スケジュール作成
▼事業計画作成
・1.設立趣旨
・2.特例子会社概要
・3.雇用に関する支援措置の決定
▼定款作成、会社登記
③採用活動
▼求人開始
・求人票提出
▼面接会
・会社説明、面接
▼採用決定会議
・合否検討、選考結果の連絡
・ハローワークへの連絡
▼受け入れ準備
・採用決定通知
・雇用契約書等の書類準備
④雇用定着・管理
▼入社
▼特例子会社申請
・子会社特例認定申請書類一式の作成
・添付書類の準備
7. 特例子会社で障害者採用を行う場合の注意点
親(グループ)会社の障害者雇用義務のために設立された特例子会社であっても、株式会社として営利企業としての経営が求められています。親会社と売上、業務などの調整を図りながら、バランスのとれた経営を行っていく必要があります。社員の大多数が障害者であっても、企業として、障害者がどのように活躍できるかを考える必要が求められます。
(2)親(グループ)会社から存在意義を認めてもらう
特例子会社の設立に関しては、親(グループ)会社の役員会で、特例子会社制度を活用 した障害者雇用をすすめることが機関決定されています。しかし、特例子会社設立から 年数を経ても、経営状況や業務の拡大等ではなかなか難しい面も多くあります。
企業として、障害者雇用率の達成・CSRの遵守に関する役割を担っていることや、社内の活性化、コミュニケーションの向上に貢献していることを機会があるごとに伝えていくこと は必要です。
(3)障害者雇用管理のノウハウの蓄積
特例子会社では、障害者社員の能力や特性を把握し、適材適所に配置し、活躍の場を創 出していくことによりノウハウを蓄積することができます。
これらの障害特性に応じた雇用管理や合理的配慮などの法制度の知見は、親(グループ)会社の障害者雇用に役立つはずです。また、障害者雇用に関連する機関や地域の教育・福祉等の連携に関わる情報、及び活用方法などのノウハウも親(グループ)会社にとっては有用な情報となることがあります。
8. まとめ
障害者雇用率が未達成の場合、特例子会社を設立する話がでることはよくありますが、特例子会社の設立は十分検討することが必要です。
もちろん特例子会社を設立するメリットは、障害者雇用率の達成・CSRへの貢献ができる こと、リソースを集中や環境の整備がしやすいこと、障害特性に配慮した業務が切り出しやすいこと、社内の活性化やコミュニケーションの向上などあります。
しかし、特例子会社を設立するということは、一つの会社をつくることです。瞬間的に障 害者雇用率を達成するものではありません。経営環境の変化が激しい中においても、持続的に経営し、結果を出していくことが求められます。
そのような環境の中でどのように売上や業務を確保、拡大していくか、親会社、グループ会社の理解や協力を得られる関係をどのように構築していくか、障害のある社員のスキルアップやキャリアパスをどのように進めていくか、どのようにつくっていくかなど、取り組み続けなければならない課題が多くあることを 認識することが大切です。
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