[特別インタビュー] 障害者雇用ビジョンのある会社は強いと思います
雇用の創出が目的化している最近の障害者雇用
奥脇さん(以下敬称略):全障協は、重度障害者多数雇用事業所に対する助成金や融資を受けた企業140社が、それぞれの障害者雇用の経験、制度活用の知見などを、より多くの企業に役立ててほしいとの思いから、昭和56年に「重度障害者多数雇用事業所協議会」という名称の任意団体を組織したのが始まりです。
当時から、会員企業自らが全国各地で、障害者雇用に取り組みたい企業の相談に直接対応し、さまざまな情報提供や助言を行ってきました。
FVP:重度障害者を多数雇用する企業が中心になって発足した団体だったのですね。
奥脇:そうなんです。でも、精神障害者雇用が進んでいきました。精神障害者には重度の概念がありません。ですから組織の名称からも「重度」をなくし、「全国障害者雇用事業所協会」と改められました。現在の会員企業数は220社です。各地での障害者雇用の相談に応じる活動はもちろん今も続いています。
FVP:全障協での奥脇さんの役割は何ですか?
奥脇:様々な障害者雇用促進の会合に出席したり、会員の意見を集約したり、事務サポート等をするのが主な仕事です。東京や大阪などの大都市では障害者雇用に取り組む企業も多いですが、それにくらべると地方ではまだまだ少ないです。
障害者を採用しようと思ってもどこに相談にいけばよいのかわからない。どうすれば定着させられるのか誰にきいてよいかわからない状況ですから、地方の企業でもしっかり障害者雇用を進められるように、相談体制をつくっていくこと、情報交換の場をセッティングしたりすることが自分の仕事です。
FVP:障害者雇用をしたい企業、障害者雇用に取り組んでいる企業の経営者や担当の方とたくさんお会いし、さまざまなお話を聴くことも多いとうかがっています。
奥脇:はい。たくさんの企業の方とお会いします。相談をお受けする数は、だいたい1年に30社くらいだと思います。
FVP:それはお忙しいですね。
FVP:最近の障害者雇用について感じることはありますか?
奥脇:年々障害者雇用人数は右肩上がりです。 障害者を雇用するのはあたりまえというか、以前より障害者雇用が特別視されなくなったように感じます。そして法定雇用率達成へのプレッシャーを強く感じているようにうかがえます。また、精神障害の方の雇い入れが進んでいることが印象的です。
FVP:令和6年4月施行予定の改正障害者雇用促進法では、事業主の責務として障害者雇用の「質の向上」について明文化されました。
奥脇:はい。そこが障害者雇用の現状であり、課題なんだと思います。法律で今更ながら「質」について明示しなければならないほど、最近の日本の障害者雇用は、数の達成に傾倒し過ぎていると感じています。
法定雇用率達成のプレッシャーが大きいと申し上げましたが、あまりにも数の達成にばかり意識が向きすぎ、障害者雇用が目的化し、会社への貢献だとかを意識していない障害者雇用が散見されます。
FVP:厳しいご意見です。
奥脇:本業と関係のない分野の仕事を障害者の社員にやってもらっている企業も少なくないです。
FVPさんは、「本業に関係する仕事で障害者雇用をやっていこう」という考えで障害者雇用の支援をされていますよね。「うちの会社は障害者にやってもらう仕事がないからしょうがないんだ」といったような企業にお会いすることはないですか。
FVP:はい。ご苦労されている企業は少なくないです。けれどもやってもらう仕事がない、というのは誤解で、よくよくお話をうかがっていくと仕事はあるんですよね。
奥脇:私もそう思います。
配慮が過度になり、処遇に見合った働きを追求できていない特例子会社も
FVP:最近の特例子会社についてはどのようにお感じになりますか?
奥脇:障害者が働きやすい環境を整えるための特例子会社です。これ自体はいいことだと思います。
けれども合理的配慮という名目で、配慮が過度になってしまっている特例子会社も少なくありません。とにかく在籍してくれればいいということで。
処遇に見合った働きをしていない状態が容認されている特例子会社も少なくありません。
FVP:配慮が過度になっているとお感じになるのはどのようなところですか?
奥脇:精神障害の人とか発達障害の人って、医療面でのサポートも必要ですよね。いきなり大きな期待をかけるとうまく行かない人もいますしね。
そういった背景からか、精神保健福祉士などを外部から採用し、日々の雇用管理をそのスタッフに任せてしまうようなシーンも見受けられます。何かあったらすぐ休んでいいとか、休憩ばかりしているとか。障害者雇用ってそういうことなのかな、違うだろう、と私は思うのですよ。
いわゆる障害者雇用率代行ビジネスが問題視されていますが、問題なのはそこだけではない。
厳しいことを申し上げますが、特例子会社も含めた障害者雇用の現場が、「いてもらうための場所」になっている傾向が否めないです。
特例子会社であっても、しっかりと成果を追求してもらいたいと思います。
FVP:合理的配慮の本来の目的は、配慮によって障害のある社員が求められる水準の成果を上げることなのですが、そうなっていないということでしょうか。
奥脇:そう感じます。
コロナが契機となり、より付加価値の高い仕事に挑戦できている特例子会社も生まれている
奥脇:シュレッダーの仕事とか会議室の清掃とかを障害者の人にやってもらっていた会社はとても困っておられました。でも3年も経っているので、もうコロナのせいにもできないですよね。コロナによってペーパーレスや非対面でのコミュニケーションは一気に進みましたが、その流れは以前からあったわけですし。
FVP:またもや厳しいご意見ですね。
奥脇:すみません(笑) 現在も仕事の確保、捻出にご苦労されていると特例子会社もありますが、もうそれを嘆いても仕方ないと思います。
付加価値の高い仕事に挑戦している特例子会社も生まれています。
ある特例子会社では、これまで障害者社員が担っていた仕事がなくなってしまったことをきっかけに、RPA開発の業務を障害者のチームがやっていけるように整えていかれました。
FVP:「整えていった」というのが肝ですね。
奥脇:そうです。はじめからRPA開発ができる障害者社員がいたとか、外から採用した、ではなく、障害者のチームでやっていけるように、業務プロセスを改善したり、手順書を整えたり、障害のある社員達に教育の機会を与え、やっていけるようにしていったのです。
FVP:ケア的な配慮を提供していくだけでは、付加価値の高い仕事にチャレンジしていくことは困難ですね。医療の専門家にはRPA開発のことはわかりませんしね(笑)
奥脇:そうなんです。
FVP:奥脇さんとして特例子会社に期待することはどんなことですか?
奥脇:もちろん時間は必要だと思いますが、「特例子会社だから」というエクスキューズをどれだけ少なくしていけるかだと思います。
親会社などの経営課題の解決を目指していってほしいなと思います。そうなっていくと、コロナだからとか、業績が悪いからという理由で障害者雇用を問題視しなくてもよくなるからです。
FVP: おっしゃる通りです。障害のある社員を、特例子会社を「なくてはならない存在」にしていかなければならないという意見に私たちも賛成します。
自らも社員の9割が障害者、完全在宅雇用の会社を経営
奥脇:私の経営する有限会社奥進システムは、社員は全員完全テレワークで、システム開発やホームページ制作をやっています。全従業員の9割、8人の従業員が障害者の会社です。
FVP:それは興味深いお話ですね。
奥脇:会社を設立した際に掲げたビジョンが、「インターネット技術を活用し、社会に対し貢献できる企業を目指す」でした。なので、設立最初から就業場所にはとらわれずに仕事をできる環境を整えてきましたが、障害者雇用を目的に作った会社ではないんです(笑)
FVP:通勤しなくても仕事ができる環境が整っていたから、重度の障害などによって通勤が困難な障害者の方を雇用していくことができたということでしょうか。
奥脇:はい。応募のあった人がたまたま障害者でした。私も最初は仕事ができるかどうか不安でした。実習を行い、3カ月ほど一緒にやってみて仕事をする能力があることがわかりました。とても驚きでした。それで採用しました。出勤は週1日だけ、のこりの週4日は在宅勤務という形です。そのあとの採用も、先入観なく進められたので実習を沢山受け入れていくうちに、自然と障害者ばかりの会社になってしまいました。
特例子会社だからできることがある。着眼点を変えてもっとチャレンジしてほしい
着眼点を変えればどんどんいろんなことにチャレンジできると思います。そしてそういうチャレンジをしてこそ障害者雇用の面白さを感じられるんだと思います 。
FVP:チャレンジすることで障害者雇用の面白さが感じられるということですね。
奥脇:「人(障害者)を育てる」「経営戦略と融合させる」というビジョンを持っている特例子会社は強いですね。もちろん課題も大きいと思いますが、ビジョンがチャレンジの原動力になると思います。うまくいっている特例子会社には必ずしっかりとしたビジョンがあると感じます。断言していいとすら思います(笑)。
FVP 断言してもいいと(笑)
奥脇:はい。こういう障害者雇用を目指すんだ、こういう特例子会社にしていくんだということを明確にしているから、やるべきことが見えてくるんですよ。障害のある社員にやれることを増やしてもらうとか、成果を上げるための仕組みを整えるとか。その取り組みこによって障害のある社員たち、そして関わる一般社員たちを成長させ、会社を成長させていくんだと私は思います。
特例子会社のゴールは雇用の創出ではない。
奥脇:特例子会社のゴールは雇用の創出ではありません。障害者に活躍してもらえる職場、きちんと会社に貢献してもらえる環境を整え、親会社の経営課題の解決に貢献していくことだと私は思います。
自社の障害者雇用をどのように進めるべきか、ぜひ勇気をもってビジョンを描いていただきたいです。ビジョンの達成に向けて、どうコーディネートしていくか、どう成果を出していくかということが人事担当者、そしてすべての企業に問われていると思います。全障協も応援します。そして、FVPさんにも手伝ってもらったらいいですよね。きっとよい伴走者になってくれると私は思います。
公益財団法人全国障害者雇用事業所協会
専務理事
奧脇 学 氏
有限会社奥進システム 代表取締役
https://www.okushin.co.jp/
特定非営利活動法人 大阪障害者雇用支援ネットワーク 代表理事
中小企業家同友会全国協議会 障害者問題委員会 副委員長
大阪府中小企業家同友会 障がい者部 副部長
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用管理サポーター
大阪府障がい者雇用促進センター障がい者雇用支援員
障害者職業生活相談員
家族支援ピアカウンセラー
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