特例子会社の現状と制度、算定特例の活用方法

厚生労働省の「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、特例子会社の数は毎年増加しており、令和5年は598社(前年より19社増)で、雇用している障害者の数は、47,872.5人でした。また、雇用者のうち、身体障害者は12,134.0人、(前年11835.5人)、知的障害者は24,062.0人(前年22941.0人)、精神障害者は10652.0人(前年9080.5人)でした。

障害者雇用のご担当であれば
一度くらいは「特例子会社を設立すべきか」と考えたことがあるのではないでしょうか。
とはいえ、
自社には適しているのだろうか?
自分たちだけで設立準備はできるの? 
設立には何が必要なのだろう? 
整理された情報を入手するのは簡単ではありません。

特例子会社の概要をまとめました。


1.特例子会社とは

「特例子会社」とは、「障害者の雇用の促進及び安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社」のことで、一定の要件を満たし厚生労働大臣から認可を受けた会社(障害者雇用促進法44条)を指します。昭和52年に1社目がスタートしました。
特例子会社の認可を受けると、子会社で雇用する全従業員は事業主(親会社)の雇用であるとみなされ、雇用率を算定する際には親会社と同一の事業所として取り扱われます。

特例子会社の数は令和5年(2023年)6月1日現在、598社です。平成23年(2010年)は283社だったので、10数年間で倍増しています。

【資料リンク】令和5年 障害者雇用状況の集計結果
図1 特例子会社数の推移(令和3年 障害者雇用状況の集計結果)
図2 2021年と2016年の特例子会社における障害種別雇用状況(令和3年と平成28年の障害者雇用状況の集計結果をもとに作成)
繰り返しになりますが、令和5年(2023年)6月1日現在、特例子会社に雇用されている障害者の数は、47,872.5人でした。内訳は、身体障害者は12,134.0人、知的障害者は24,062.0人、精神障害者は10,652.0人です。
 
データで見る限りでは、知的障害者の雇用数が最も多くを占めますが、近年では精神障害・発達障害者の雇用に取り組む特例子会社も増加傾向にあります。

特例子会社の業種や、特例子会社で働いている障害のある方が従事している職種の割合について見ていきます。

図3 アンケート調査に回答した特例子会社(194社)の業種 (高齢・障害・求職者雇用支援機構 2012年多様化する特例子会社の経営・雇用管理の現状及び 課題の把握・分析に関するアンケート調査結果より)
調査に回答した特例子会社の業種は、「サービス業(ほかに分類されないもの)」が99社(51.0%)、「製造業」が51社(26.3%)となっており、これらで全体の3/4以上を占めています。「サービス業(ほかに分類されないもの)」の内容については、「清掃・ビルメンテナンス」が25社(25.2%)と全体の1/4を占めており、また、「製造業」を見ると、「印刷・同関連」11社(21.6%)「食料品製造」5社(9.8%)、「電気機械器具製造」4社(7.8%)、プラスチック製品製造」3社(5.9%)等となっていました。

また、障害のある方が就いている職種は、事務が59.3%、運搬・清掃・包装などが54.1%、生産工程が30.9%です(図4)。
図4 特例子会社において障害者が従事する職種(複数回答)(N=194社) (高齢・障害・求職者雇用支援機構 2012年多様化する特例子会社の経営・雇用管理の現状及び課題の把握・分析に関するアンケート調査結果より)
親会社から発注された業務を請け負っている特例子会社が大半ですが、中には、親会社ではなく外部からの業務を受注したり、新たな事業を立ち上げて雇用の場を創出する特例子会社も見られます。


特例子会社でも一般企業でも、障害者に対する合理的配慮の提供義務を負っていると言う点では変わりません。
違いを挙げるとすると、その配慮の幅、質であると言えるでしょう。

その配慮を具体的に表しますと、「障害に対する理解」、「就業規則などの制度」、「環境の整備」などです。


一般企業では、周囲の一般社員が障害の知識を深めたり、様々な障害に配慮して人事制度を整えたり、業務プロセスの組み換えやマニュアルの整備を行っていくということは容易なことではありません。


一方、特例子会社では、基本的に親会社の制度に制約を受けることなく制度や環境を整備できます。障害者採用や定着、マネジメントに必要となる人や設備などの経営資源を集中的に投入することもできます

その結果、特例子会社の方が、障害に対する配慮の幅が比較的広くでき、その質の充実を図ることができる。これが最大の特徴だと言えます。

年々タイトになる障害者採用環境において、特例子会社の存在感が年々高まっている要因の一つであるとも言えるでしょう。


2.親会社に障害者が雇用されているとみなされる特例の特例子会社

親会社が障害者の雇用に特別の配慮をした子会社(特例子会社)を設立し、厚生労働大臣の認定を受けると、親会社と特例子会社は障害者雇用率制度上、一つの事業主とみなされ、親会社と特例子会社で雇う障がい者を合算して算定できます。これにより、親会社が子会社を通じて障害者の雇用を推進することが可能となります。

この特例を利用するには、特例子会社と親事業主の「関係要件」と、「特例子会社の要件」をクリアする必要があります。

「関係要件」では、親会社が特例子会社の意思決定機関を支配し、人的交流が密であることが求められます。

「特例子会社の要件」では、
・株式会社であること。
・障害者の雇用数が5人以上で全従業員の20%以上を占め、重度身体障害者、知的障害者、精神障害者の割合が30%以上であること。
・障害者の雇用管理を適正に行う能力があること。
などが求められます。
※図表はすべて、大阪府「障がい者雇用率算定の特例制度」から抜粋

特例子会社の認定を受けると、次のようなメリットがあります。

<事業主にとってのメリット>
・障害の特性に配慮した仕事の確保や職場環境の整備がしやすくなり、障害者の能力を十分に引き出すことができます。
・障害者の職場定着率が高まり、生産性の向上が期待できます。
・障害者の受け入れに伴う設備投資を特例子会社に集中することができます。
・親会社とは異なる労働条件を設定できるため、柔軟な雇用管理が可能です。

<障害者にとってのメリット>
・特例子会社の設立により、雇用機会が拡大されます。
・障害者に配慮された職場環境の中で、個々人の能力を発揮する機会が確保されます。

*厚生労働省/特例子会社一覧(令和4年6月1日現在)


3.特例子会社制度がグループ企業も合わせて活用できるグループ適用

関係会社特例とは、特例子会社を持つ親会社が、特例子会社以外の関係会社においても障害者の雇用を進める際に、厚生労働大臣の認定を受けることにより、関係会社が雇用する労働者を特例子会社と同様に、親会社に雇用されているものとして雇用率を算定する特例です。関係会社特例が適用された企業グループは障害者雇用率制度上、一つの事業主として扱われるのです。

関係会社特例の適用を受けるには、親会社と関係会社の「関係要件」と「関係会社の要件」を満たす必要があります。

「関係要件」:
・親会社が特例子会社や関係会社の意思決定機関を支配していること。
・親会社が「障害者雇用推進者」を選任し、その者が特例子会社や関係会社に関与していること。
・グループ全体で障害者の雇用の促進と安定が確実に達成されること。

「関係会社の要件」:
・関係会社が株式会社であり、特例子会社との人的関係や営業上の関係が密であること。
・関係会社から特例子会社に対して一定の発注や出資が行われていること
関係会社特例の認定を受けると、関係会社の雇用者も特例子会社の雇用者と同様に、親会社に雇用されているものとみなされ、雇用率の算定に反映できます。この特例により、関係会社における障害者の雇用を促進できます。

なお、子会社の中で障害者を雇用していない場合でも、関係会社特例の認定要件を満たせば関係会社として申請することができます。ただし、グループ全体で法定雇用率を達成する必要があります。

また、関係会社特例の適用範囲は企業グループが任意に選択することができるので、全ての子会社に適用する必要はありません。

*厚生労働省/関係会社一覧(令和4年6月1日現在)


4.特例子会社をつくらなくても特例制度が使えるグループ算定特例

関係子会社特例とは、特例子会社がない場合でも、一定の要件を満たす企業グループ全体(すべての子会社を含む)に対して、厚生労働大臣の認定を受けることで、企業グループ全体で雇用率を算定する特例のことです。

関係子会社特例を受けるには、親会社と関係子会社の「関係要件」と「関係子会社の認定要件」をクリアする必要があります。

関係要件:
・親会社が関係子会社の意思決定機関を支配していること。
・親会社が「障害者雇用推進者」を選任し、関係子会社においても業務を行っていること。
・企業グループ全体で障害者の雇用の促進と安定が確実に達成されること。

関係子会社の認定要件:
・関係子会社が株式会社であり、すべての子会社が対象となること。
・法定雇用障害者数が0人であるような子会社も含まれること。
関係子会社特例の認定を受けると、関係子会社の雇用者も特例子会社の雇用者と同様に扱われ、雇用率の算定に反映されます。これにより、関係子会社における障害者の雇用を促進できます。関係子会社特例が適用された企業グループは、障害者雇用率制度上、一つの事業主として扱われるのです。

また、注意点として、子会社が特例子会社を持っていなくても、企業グループ全体が一定の要件を満たす場合には、関係子会社特例の認定を受けることができます。ただし、法定雇用障害者数が0人であるような子会社も含まれるため、雇用率の算定には注意が必要です。

また、関係子会社特例の適用範囲は企業グループが任意に選択することができるので、全ての子会社に適用する必要はありません。

*厚生労働省/関係子会社一覧(令和4年6月1日現在)


5.中小企業が事業協同組合やLLPを設立することで使える特例

事業協同組合等算定特例とは、複数の中小企業が事業協同組合等を利用して協力し、障害者の雇用機会を確保することで、それらの中小企業全体で障害者の雇用を促進するしくみです。この特例制度では、厚生労働大臣の認定を受けることにより、組合員である特定事業主(事業協同組合等に所属する事業主)で雇用される労働者を事業協同組合等に雇用された労働者とみなして、雇用率を算定することができます。

事業協同組合等算定特例の認定要件には、以下の条件があります。
・対象となる事業協同組合等は、事業協同組合、水産加工業協同組合、商工組合、商店街振興組合であること。
・事業協同組合等の定款や規約に、障害者雇用納付金を徴収し、特定事業主の雇用状況に応じて特定事業主に負担を課す規定を置くこと。
・事業協同組合等と特定事業主の両者が、障害者の雇用促進・安定を確実に実施するための計画を作成し、2年間の実施計画に基づいて目標や内容を設定すること。
特定事業主として認定されるための要件は次のようになっています。
・特定事業主は、事業協同組合等の組合員であること。
・雇用する常用労働者の数が43.5人以上であり、他の特定事業主特例や子会社特例などの認定を受けていないこと。
・事業協同組合等と特定事業主は、人的関係や営業上の関係が緊密であること。
  (例)役員や従業員の相互派遣や定期的な発注

事業協同組合等算定特例の認定を受けると、障害者雇用率制度の適用上、事業協同組合等と特定事業主全体は一つの事業主として扱われます。

上記の特例に関し、平成29年に法改正があり、LLP(有限責任事業組合)であっても特例事業主特例が適用されています。しかしながら、従来は国家戦略特区の制限がありましたが、令和5年度に制限が撤廃され、全国でLLPを活用した特定事業主特例が活用できるようになりました。

この特例を使うと、LLPと特定事業主で合算して雇用率を算定できます。また、LLPは、異業種の企業が参画しやすく、設立手続きも簡便です。行政の許認可なども必要ありません。
LLPを設立するためには、事業協同組合等の特例認定と同様の要件を満たす必要があります。

具体的な要件としては、以下の条件があります。
・組合員となる事業主は、中小企業者または小規模の事業者に限られること。
・事業主が常時43.5人以上の労働者を雇用していること。
・組合契約書に特定の条件が記載されていること。

*厚生労働省/特定事業主認定一覧(令和5年6月1日現在)
*労働政策審議会障害者雇用分科会第113回資料 中小企業における障害者雇用の促進について(関係資料)

6.まとめ

今回は、特例子会社の現状や仕組みについて解説しました。
「特例子会社」が、企業の法定雇用率を満たすための解決策の1つであることがご理解いただけたと思います。次回は、特例子会社をつくることのメリット、デメリットについて、詳しく解説します。


特例子会社 事業計画書テンプレート

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