【2026年4月6日公開】「受け皿にとどまるのではなく、キャリアをつくることです」 ―特例子会社を役割とキャリアで捉え直す、その本質と可能性

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障害者雇用の拡大を牽引してきた特例子会社。
制度としての定着が進んだ今、その役割は新たな転換点を迎えている。

「雇用の受け皿」としての機能を果たしてきた一方で、働く本人の成長や役割の広がりという観点では、なお課題が残されているのも事実である。

では、これからの特例子会社は何を目指すべきなのか。本インタビューでは、キャリア形成と役割論の視点から、その本質と進化の方向性について松爲氏に話を伺った。

雇用拡大の先にある問い ―量から質への転換点

―まず、現在の特例子会社の状況をどのように見ていらっしゃいますか。

特例子会社は、日本における障害者雇用の進展において、非常に重要な役割を果たしてきました。
とりわけ大企業における雇用の受け皿として機能し、雇用機会の拡大に大きく貢献してきた点は評価されるべきです。

一方で現在、その役割は新たな局面に入っていると感じています。

現場を見ていると、「雇用されていること」と「成長や役割の広がりが実現していること」が必ずしも一致していないケースが見えてきています。

単純作業を中心とした業務提供にとどまっていたり、成果や付加価値の創出という観点が弱かったりすることで、働く本人にとっての成長実感が得にくい状況もあります。

問題は起きないが、変化も生まれない。
そうした停滞感が漂っている現場も少なくありません。

これは制度の普及と定着が進んだからこそ顕在化してきた課題です。

言い換えれば、「雇用の量」は一定程度確保された一方で、「質」をどのように高めていくかが問われる段階に入っているということだと思います。

「働く」をどう捉え直すか ―役割という視点

―特例子会社の本来の役割は、どのように捉えるべきでしょうか。

人が働くということは、単に作業をこなすことではありません。
本来は「役割」を担い、それを果たしていく営みです。

その役割は、職務だけで完結するものではなく、職場への適応、職業生活としての継続、さらには地域社会との関係の中で成立します。つまり、複数の文脈の中で初めて意味を持つものです。

そして、そこには社会的意義と個人的意義という二つの側面があります。
社会の中で必要とされる機能を担うという意味と、その役割を通じて自己有用感や達成感を得るという意味です。

この両方があって初めて、「働く」ということが成立します。

ただ現場では、この役割がしばしば「作業」として切り出されてしまいます。
そうすると、仕事の意味が本人に伝わりにくくなり、主体的な関わりや成長実感が生まれにくくなります。

だからこそ重要なのは、役割をどう設計し、どう言語化するかという点です。
ここに手を入れることで、同じ業務であっても、働く意味は大きく変わってきます。

特例子会社に蓄積された実践知と、その展開

―進化の方向性についてはどのように考えますか。

特例子会社には、長年の実践の中で蓄積されてきた知見があります。
業務を分解し、標準化し、一人ひとりの特性に応じた配慮を設計する。そして定着を支える仕組みをつくる。
これらはすべて、非常に高度な実践知です。

ただ、多くの場合それが特例子会社の内部にとどまっています。
本来はこれを親会社やグループ全体に展開することで、組織全体の生産性や業務品質の向上にもつながる可能性があります。

実際に、業務の再設計や雇用管理の知見が他部門に応用され、成果につながっている事例も見られます。
特例子会社は単なる雇用の受け皿ではなく、仕事の設計や人材活用のモデルを持つ存在でもあるのです。

役割の再設計がもたらす変化

―実際に、役割の設計によって変化が生まれた事例があれば教えてください。

ある製造系の特例子会社の事例ですが、当初は軽作業中心の業務でした。
一定の習熟は進むものの、成長の頭打ちやモチベーションの低下が見られ、現場全体に停滞感が漂っていました。

そこで、作業工程をあらためて見直し、細分化すると同時に工程間のつながりを可視化しました。
そして、「工程をつなぐ」という新たな役割を設定したのです。

その結果、従業員は単なる作業者ではなくなりました。
在庫の流れを把握したり、品質のばらつきを確認したり、前後の工程と調整を行ったりと、業務全体の中での役割を段階的に担うようになっていきました。

これによって、業務への理解が深まり、責任感が育まれ、本人自身が成長を実感できるようになりました。
重要なのは、新しい仕事を増やしたのではなく、既存の業務を役割として再構成した点です。

キャリアとは何か――役割の積み重ねとしての理解

―キャリア形成についてはどのように考えますか。

キャリアとは、生涯にわたる役割の積み重ねです。
仕事だけでなく、生活全体との関係の中で形成されるものです。

つまり、ワークキャリアとライフキャリアは切り離せるものではありません。
働き続けることや社会との関わりを持つこと、自分の役割を理解すること、こうした一つひとつがキャリアを形づくっていきます。

したがって、昇進や昇格といった外形的な変化だけで評価するのではなく、役割の広がりや深まりに目を向けることが重要です。

一律の成長モデルを超えて ―特例子会社に求められる複線的キャリア

―特例子会社におけるキャリア形成の難しさはどこにありますか。

成長の捉え方が限定的である点です。
実際の成長は、業務の幅が広がることや、複数の工程を担えるようになること、あるいは安定して働き続けられるようになることなど、さまざまな形で現れます。

また、周囲との関係性が築かれていくことも重要な変化です。
しかし、これらは数値としては見えにくい。

そのため、意識的に観察し、言葉にしていかなければ、評価や共有につながりません。
この言語化のプロセスこそが、本人の自己理解を深め、企業側の適切な評価にもつながっていきます。


―成長のとらえ方をもっとひろげなければならないということですね

そうです。
加えて、これからの特例子会社には、より多様なキャリアのあり方、いわば“複線的なキャリア形成”の視点が求められます。

たとえば、能力を発揮できる人材については、社内での昇進や専門性の深化、さらには親会社への登用といったキャリアパスを明確にしていくことも重要です。

特例子会社の中においても、高い付加価値を生み出し、それに見合った処遇や年収を得る障害者社員が存在してよいはずです。

一方で、すべての人が同じようなキャリアを歩むわけではありません。
環境の安定や業務の継続性の中で力を発揮する人に対しても、その人なりの成長や役割の広がりを丁寧に捉え、支えていく必要があります。

このように、一律の成長モデルに当てはめるのではなく、それぞれの特性や志向に応じたキャリアを育てていくという複線的な発想こそが、これからの特例子会社におけるキャリア形成の鍵になると考えます。


―企業が見落としがちな点について教えてください。

仕事の意味と将来の見通しです。

自分の仕事がどのような価値を持っているのかが理解できること、そして将来どのような役割を担えるようになるのかが見えること。
この二つが揃うことで、日々の取り組みに方向性が生まれます。

これは制度として用意すれば済むものではなく、日々の対話や振り返りの中で形づくられていくものです。
現場の関わり方が大きく影響します。

特例子会社のこれから ―「成長が続く組織」へ

特例子会社に求められているのは、単なる「雇用の受け皿」にとどまることではなく、キャリアを育てていくことです。

これからは、「雇用しているかどうか」ではなく、「どのような成長が実現されているか」という視点が一層重要になるでしょう。

役割が明確であり、それが徐々に広がっていくこと。
そして、自分の仕事の意味を理解し、将来に対する見通しを持てていること。

こうした状態が実現されているかどうかが、特例子会社における“質”の本質だと考えます。


また、障害のある社員のキャリア形成は、決して本人のためだけのものではありません。
成長が生産性や付加価値の向上につながる以上、企業にとっても大きなメリットがあります。

特例子会社はすでに、雇用を安定的に支える基盤を備えています。
だからこそ今問われているのは、「働けている状態」にとどまるのか、それとも「成長し続けている状態」へと進化できるのか、という点です。

その転換を実現できるかどうかこそが、これからの特例子会社の価値を決定づけていくのではないでしょうか。

インタビュアー FVP 大塚由紀子
ご協力 SWAN GINZAレストラン店
松爲 信雄 (MATSUI Nobuo) 氏
神奈川県立保健福祉大学・東京通信大学 名誉教授



<略歴> ※松爲雇用支援塾のHPに掲載された経歴をそのまま載せています
◾️ 神奈川県立保健福祉大学・東京通信大学 名誉教授
◾️ 職業研究所(現 労働政策研究・研究機構)、障害者職業総合センター研究員、東京福祉大学、神奈川県立保健福祉大学、文京学院大学、東京通信大学教授を経て現職
◾️ 一億総活躍国民会議委員、障害者政策委員会委員、労働政策審議会障害者雇用分科会委員、国立特別支援教育総合研究所外部評価委員長、高齢・障害・求職者雇用支援機構外部評価委員長、労働政策研究・研修機構リサーチ・アドバイザー等を歴任
◾️ 元日本職業リハビリテーション学会 会長
◾️ 専門分野は、職業リハビリテーション

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目指すべきことは、設立後の着実な運営と成長であり、障害者の定着と活躍です。
グループ企業の1社として自律的・自立的な経営を行えるようになることです。

そして、あえて特例子会社を設立しないことも、重要な判断だと私たちは考えています。

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