会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

「就労選択支援」を雇用へのかけ橋に

※この文章は、一般社団法人日本職業協会の会員誌「清流」(2025年中秋号)に寄稿したものです。

《「就労選択支援」とは?》

皆さん、こんにちは。
今回は、10月から新たに始まった「就労選択支援」についてです。

2022年に成立した法改正によって創設された「就労選択支援」が、障害者総合支援法に基づく就労系障害福祉サービスのひとつとして、10月からスタートしました。
就労選択支援は、障害者本人が就労先・働き方についてよりよい選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援するものです。
具体的には、就労(の継続)を希望する障害者に対し、「就労移行支援若しくは就労継続支援を受けること」や「通常の事業所に雇用されること」について、本人による適切な選択のための支援を行います。

その基本プロセスは次の4つの内容で構成され、障害者本人との協同を通じて、本人の意思決定支援を行うこととされています。
①     作業場面等を活用した状況把握(アセスメント)
     【就労に関する適性・知識・能力の評価、就労に関する意向や就労するために必要な配慮等の整理】
②     多機関連携によるケース会議
③     アセスメントシートの作成
④     アセスメントシートに基づく事業者等との連絡調整

《対象者は?》

この支援の具体的な対象者は、厚生労働省令において「就労移行支援又は就労継続支援を利用する意向を有する者」及び「現に就労移行支援又は就労継続支援を利用している者」と規定されています。

また、厚生労働省・障害福祉課長名の通知(3月31日付)には、下記のように記載されています。
「就労選択支援の施行に伴い、就労継続支援B型は、令和7年10月より、『就労選択支援事業者によるアセスメントにより、就労面に係る課題等の把握が行われている者』が利用対象となることから、新たに就労継続支援B型を利用する意向がある場合は、就労選択支援を予め利用すること。」

この記述は、読み方によっては、就労選択支援がB型を利用するためのワンステップであるかのようにも、読めるように思います。
しかし、私はそうではないと考えています。

《アセスメントの目的は》

就労選択支援の創設に際して、そのおおもとの議論が行われたのは、厚生労働省の「障害者雇用・福祉施策の連携強化に関する検討会」です。
その報告書(2021年6月)では、就労選択支援の創設につながる「アセスメント」に関する議論の集約として、その目的を次のように整理しています。

・障害者本人のニーズを踏まえた上で、一般就労の実現に向けて、納得感のあるサービス等を提供するために実施するものである
・障害者本人の能力のみならず、環境面で何が必要かを明らかにすることも重要である
・アセスメントのプロセスや結果が障害者本人と共有されることにより、本人にとっても、自己理解を深め、必要な支援を検討する際の一助となるものである
・本人の就労能力や適性、可能性等を一方的に決めつけたり、特定のサービス等への振り分けを行ったりするものにならないよう留意する必要がある

かつてこの検討会報告書のとりまとめに関わった私としては、就労選択支援を実際に実施する際も、上記のようなアセスメントの目的を十分意識していただき、B型の利用を裏打ちするだけではない、一般就労(雇用)もしっかり視野に入れた支援が行われることを期待したいと思います。

《雇用へのかけ橋に》

前述の2022年の法改正においては、障害者雇用促進法も同時に改正されました。同法においては、就労選択支援に関連して、下記の規定が新設されています。

「公共職業安定所及び障害者職業センターは、障害者総合支援法に規定する就労選択支援を受けた者から結果の提供を受けたときは、その結果を参考として、適性検査、職業指導等を行うものとする。」(第12条第2項/条文の一部を筆者が要約)

このように、法律においても、就労選択支援から雇用への道筋が明確に定められています。
新たに始まる「就労選択支援」が雇用へのかけ橋となるよう、ハローワークや企業の皆さんとともに、しっかりと見守っていきたいと思います。

土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 障害者雇用アドバイザー
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
2023年10月、FVP・執行役員に就任。
2025年4月、同社の障害者雇用アドバイザーとなる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。