会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社リンクライン(神奈川県小田原市)

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社リンクライン(神奈川県小田原市)です。
この会社のことを知ったのは、昨年7月にSACECの企業見学会に参加し、オリンパスサポートメイト株式会社を訪問した時。そこで、同社社長の龍田久美さんにお願いし、リンクライン取締役の神原薫さんをご紹介いただき、2月14日、訪問しました。


《「化粧品メーカーとして」》

リンクラインは、一言で言えば、石鹸メーカーです。この写真のようなポップでカラフルな、見た目も楽しい石鹸を製造し、「リィリィ」(※)や「小春日和」というブランドで販売しています。

   (※)「リィリィ」とは、ハワイ語で「小さくて愛らしい」という意味だそうです。


我が家でも今、オンラインショップで購入した「プチリィリィソープ」(マーガレット)が活躍中です。


この日は、神原さんの案内で、石鹸を作っている作業場を見学させていただきました。
ここでは、様々な工程がある中で、約30名の障害のある社員が働いているとのこと。集中して黙々と、しかし、活き活きとした様子で、細かい作業に取り組んでいる姿が印象的でした。

神原さんのご説明には、「化粧品メーカーとして」という言葉が端々に登場します。
事情を知らない私は、後日、調べてみましたが、人の手や顔に使う石鹸は、薬機法(「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」)に規定する「化粧品」(または「医薬部外品」)に該当し、その製造や販売には、厚生労働大臣の許可が必要とのこと。さらに、薬機法では、「その直接の容器又は直接の被包」に成分を表示することが義務づけられているなど、様々な規制があります。

障害者就労の現場でも取り組んでいる例が少なからずあるように思いますが、衛生面を含め、厳しい生産管理が求められる商品であることを理解しました。

《世界にひとつだけの》

ところで、石鹸に埋め込まれているリアルで華やかな「細工」は、どのように作られているのか?
私も「誤解」したのは、キャンディバーにせよ、マーガレットにせよ、使っているうちに本物の果物やお花が出てくるのではないか、ということです。
さにあらず。しばらく使っている我が家の石鹸も、お花の模様もそのままに小さくなっています。

作業場の中には、たくさんの種類の小さなパーツがプラスチックケースに入れられて、棚に積まれていました。
これらのパーツは、色素と香料を混ぜた石鹸の素を樹脂の型に流し込んで、作成。現場で拝見したところ、その作業自体も神経を使う細かい作業ですが、さらに細かい装飾は、ひとつひとつ描き込んでいるとのこと。
その手数のかけ方は見事です。


そして、例えばマーガレットでは、カラフルなお花のパーツを四角い型枠の中にセットして、透明な石鹸の素をまわりに流し込むと、完成です。このように一個一個手作りするので、ひとつひとつ微妙に違った製品が出来上がることに。
リンクラインが「世界にひとつだけの石鹸」と謳っている所以です。

この日の作業場では、マカロンも作られていました。写真とはちょっと違うタイプで、間に挟むクリームの部分にブルーベリーを載せる作業。その様子は、ほとんどパティシエでした。


《10年後にもある仕事を》

このような石鹸を作ることになった背景には、何があったのか?
この日、神原さんから、その経緯について詳しくお話を伺うことができました。そこには、神原さんの慧眼ともいえる確たるお考えと行動がありました。

リンクラインは、コムテック株式会社(東京都港区)の特例子会社です。
コムテックは、情報処理サービスを手がけるIT企業。以前は、ハローワークから雇用率達成指導を受けていたとのこと。そのコムテックが本格的に障害者雇用に取り組むことになった時、担当となった神原さんは、特例子会社の設立を考えるとしても、コムテックの本業から業務を切り出したのでは、ダメだと考えたそうです。

障害者を雇用するということは、状況が厳しくなったからといっても、「やめた」というわけにはいかない。10年後にその仕事はあるか? その視点が重要。しかし、IT分野は変化が激しく、今ある仕事が10年後にあるかどうかは、誰にもわからない。

このように考えた神原さんは、紆余曲折を経て、本業とは関係がない、石鹸にたどり着いたそうです。
そこには、静岡で石鹸づくりに取り組んでいた就労支援事業所との出会いがあり、「ねば塾」(長野県佐久市)での、2週間にわたる泊まり込みの研修もあったとのこと。
石鹸ならば生活必需品であり、その需要がなくなることはない。そして、ねば塾で、働く障害者と寝起きをともにし、一緒に作業して、「これならできる」と、その力を確信したとのこと。そして、2010年、コムテックの創業の地である小田原市に、リンクラインが設立されました。


《人手をかけてこそ》

作業の現場を拝見して、また、神原さんのお話をお伺いして感じたのは、リンクラインは、働く皆さんが人手をかけて「もの」を産み出すことこそが高い付加価値を生む、その高い付加価値をいかに市場にのせて消費者に届けるか、という基本理念に沿って活動し、成功しているということです。

神原さんからは、できる限り自動化しないというお話がありました。「伝統工芸のようなもの」というお話もありました。
型枠は3Dプリンターで作っているそうですが、作業場の中で機械を使っているのは、製品の一部を密封する工程のみ。働き手は細かい手作業に配置し、製品の付加価値を高める。
率直なところ、石鹸としては高価格ですが、それでも売れる。作っている現場を拝見して実感しました。


《就労系の福祉サービス事業所も併設》

リンクラインには、「こころね」と名づけられた多機能型福祉サービス事業所(就労移行支援+就労継続支援B型/定員20名)が併設されています(2017年開設)。
こころねのメンバーは、作業場の清掃や石鹸のラッピングなどを担当。この日は、石鹸のラッピングに使う紙紐を作る作業に取り組んでいました。

この作業を指導していたのは、リンクラインの社員たち。「後輩」を指導することは、モチベーションの向上につながっているというお話でしたし、「先輩」の背中を追って、リンクラインに移行したこころねのメンバーもいるそうです。
地域の中で多様な選択肢を用意し、ステップアップにもつなげる重層的な取組。お見事です。


《地域に開かれた存在として》

リンクラインの最寄り駅は、小田原駅を起点とする伊豆箱根鉄道・大雄山線の穴部駅です。
大雄山線に乗るのは、鉄道好きの私も初めて。
小田原駅で電車に乗って、まず目にしたのは中吊り広告でした。


(筆者撮影)

「ここからリンクラインが登場か?!」とびっくりしたのも束の間、穴部駅に近づくと、駅名とともに「リンクラインはこちらです」と車内放送も。さらに、駅に降りてみると、駅名標にも! 


「全ての人に働ける喜びを。」と書かれています(筆者撮影)
車内放送や駅名標は、鉄道会社からの提案によるコラボレーションとのこと。
これほど地域に開かれた存在となっている特例子会社は、他にないのではないでしょうか。


《心と心が線でつながる》

冒頭に述べたように、今回のリンクラインとのご縁は、オリンパスサポートメイトからいただいたご縁です。
同社は、設立15周年の記念品としてリンクラインの石鹸を使っていて、企業見学会に参加した私たちも頂戴しました。
オリンパスサポートメイトは、なぜリンクラインの石鹸を記念品にしたのか?
それは、オリンパスサポートメイト・事業部長の前河原稔明さんが、以前に仕事でコムテックとご縁があったからだそうです。

ご縁の広がりというものは、不思議なものだなあと、つくづく思います。
リンクライン(Link Line)」という社名に込められた思いは、同社のホームページに「心と心が線で繋がった関係」と書かれています。
まさにそういうご縁をいただきました。

使って楽しい石鹸を作り続けるリンクラインの皆さんの、ますますの活躍をお祈りいたします。
 
 ※「リィリィ」のオンラインショップは、こちらです。
   https://liilii.link/ 


《自社PR》

私たちリンクラインは、障がい者が働きやすい職場環境の確保と継続的な就労を可能にする為に設立された特例子会社です。
2010年より石けん作りを始め、無添加石鹸やOEM(他社ブランド製造委託)を中心とした石けんを数多く手がけてまいりました。
2017年には、お客さまの笑顔が見たい、そして手に取る全ての方に笑顔をお届けしたい一心で、自社ブランド「li'ili'i(リィリィ)」を立ち上げました。 企画、制作からギフトラッピングまで、すべてハンドメイドで製造しています。

心と心が線で繋がった関係 = 「LinkLine」
私たちは、彼らの社会的な“自立” を目指し、働くことの“喜び” を一緒に分かち合いながら、これからの社会を一歩一歩、歩んでいきます。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 障害者雇用アドバイザー
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
2023年10月、FVP・執行役員に就任。
2025年4月、同社の障害者雇用アドバイザーとなる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。