会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社長谷川製作所(埼玉県草加市)

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、長谷川製作所(埼玉県草加市)です。
6月に開催された「さいたま障害者就業サポート研究会」の懇親会で、同社の岡田由香さんとお話しする機会がありました。
お話を伺って、「そういうものを作っている専門メーカーがあるのか」とびっくり。しかも、その会社が障害者雇用に積極的に取り組んでいるとのこと。
これはぜひお伺いして、お話も詳しく伺ってみたいと考え、岡田さんにお願いし、11月29日、同社を訪問しました。
当日は、代表取締役社長の長谷川義貢さん、専務取締役の長谷川宜子さん、岡田さん(総務部総務経理課主任)にご対応いただきました。


《「人にやさしい」を特徴に掲げて》

長谷川製作所は、授与品の奉製を専門とする会社です。同社のホームページにある会社概要には、授与品として、「木札 紙札 絵馬 破魔矢 熊手 お守袋 各種御守 その他」と掲げられています。
長谷川製作所の創業は、昭和12年(1937年)。同業者は全国に十数社あり、同社は、その中で規模が大きい4社のうちに入るとのこと。ただ、江戸時代から続く会社もあるとのことで、創業は新しいほうであるとのお話でした。

長谷川製作所は、自社について9つの特徴を掲げており、そのひとつである「人にやさしい」には、「高齢者・障がい者・女性を応援し、働きやすい環境を目指してまいります。」と記載されています。
このような人を大切にする経営方針は、長谷川社長が東日本大震災で経験したことが契機となっているそうです。
同社のグループ会社に、宮城県女川町にある株式会社東和神栄社があります。女川町は津波の被害が甚大だった町。被災後の困難な状況にあっても、変わることなく働いてくれた東和神栄社の社員の姿を見て、社員あってこその会社、利益を追い求めるのではなく、人を大切することこそが経営なのではないかと、お感じになったそうです。
経営方針を転換して以来、長谷川製作所の経営は安定し、観光需要が激減して大きな打撃を被ったコロナ禍も乗り切って、着実に利益をあげているとのこと。それは、社員が一致団結して同じ方向を向いているからだと、長谷川社長はおっしゃいます。


《地域の期待に応えて》

その長谷川製作所が、障害者雇用に積極的に取り組むことになったきっかけは何か。
それは、地元商工会の会長から「長谷川さんのところはいいことをやっているのだから、障害者の雇用もやってみたらどうか」というお話があったからだそうです。
もともと人を大切にする経営に取り組んでいる同社ですから、長谷川社長は直ちに行動に移されたとのこと。
最初は受け入れを心配する声も社内にあったそうですが、実際に始めてみると、社員同士が自然に挨拶を交わすようになるなど、社内の雰囲気にもいい影響があったそうです。

このような取組は地域でも評価され、2023年、長谷川製作所は、「第3回草加でいちばん大切にしたい会社大賞」(主催:草加商工会議所)の大賞を受賞しました。
この賞は、「人を大切にする経営」をしている企業を表彰するものです。
2021年には、埼玉県内で3社目の「もにす認定」も受けています。


右から2人目が長谷川社長

《社内を見学》

これまでの会社の歩みを熱く語る長谷川社長のお話を伺ったあと、社内を案内していただきました。

最初は、企画開発部門。
お守りなどの授与品は、伝統的な要素が多分にありますが、長谷川製作所では、それだけではなく、社内のデザイナーが、新規の授与品や、寺社の要望に合わせた独自の授与品を企画・提案しているとのこと。
一例として、切り絵でデザインした御朱印用の台紙や、かわいい動物の消しゴムが入ったおみくじを見せていただきました。
長谷川社長からは、「歴史の新しい会社だからこそ、取り組めていること」とのお話がありました。
続いて、素材の在庫を管理しているフロアへ。
広いフロアに配列されている棚には、多種多様な素材を品目ごとに詰めた段ボール箱がたくさん積まれています。
もともと授与品は種類も多岐にわたり、寺社ごとに独特であるうえに、お守りひとつにしても、細かい素材がたくさん使われています。このため、素材の品目数は、約4万点にも及ぶとのことでした。
そのような中で、奉製部は工程全体のスケジュール管理を行っているとのお話でした。

最後に見せていただいたのは、出荷前の検品作業。
ここでは、出荷する授与品にキズなどがないか、必要な数が揃っているかなど、最後の確認を目視で丁寧に行っていました。


《人手に頼る部分が多い職場で》

社内をご案内いただいて感じたことは、全体の工程を通じて人手に頼る部分がとても多いということです。
奉製作業の多くは内職に発注しているとはいえ、社内でも、この日、土鈴の箱詰めが手作業で行われていました。また、内職への発注に際しても、必要な素材の数々を在庫の中からピックアップし、セットして渡す必要があります。
 
そのような中で、長谷川製作所では、従業員数が現在54名であるところ、5名を目安として障害者雇用を進めることにしているとのお話でした。
今、障害のある社員は2名。うち、奉製作業に従事していた社員は、現在、出産を控えて休業中とのこと。一方、今年は、特別支援学校から生徒を実習で受け入れており、来年4月に採用し、在庫管理の部門でピッキングを担当する予定とのことでした。
「もにす認定」の厳しい基準をクリアする就業環境を整えている長谷川製作所。様々な職務がある中で、これからの展開が楽しみです。

《多様性への取組はさらに》

長谷川製作所の取組は、さらに新たな展開を見せています。
検品作業のところで紹介されたのは、ミャンマーから来日し、難民認定を受けているという女性の社員。来日して約1年半とのことですが、私の質問にも、自然な日本語で答えていただきました。その上達ぶりは、日頃、社内でコミュニケーションが活発に行われているからこそではないかと、お見受けしました。
そして、授与品の検品という独特な仕事にもかかわらず、既に熟達している様子。長谷川社長とのやり取りからは、社長が信頼を置いていることもよくわかります。
すっかり溶け込んで活躍している様子に、多様性へのさらなる取組は、会社の活気につながっていると感じました。

長谷川製作所のパンフレットでは、全12ページの半分を使って、社内の4つの部を紹介していて、そこには、所属する社員の皆さんの集合写真が、それぞれ大きく掲載されています。
とても印象的なつくりで、このパンフレットは、社員を大切にする同社の社風を体現していると思いました。
この社風のもとで長谷川製作所がこれからますます発展されることを、心よりお祈りしたいと思います。

《自社PR》

『神社仏閣の伝統を重んじ、授与品の奉製に携わり、社会貢献いたします。健全な企業経営を推進し、一致団結のもと継続的な企業発展を目指します』 という経営理念のもと、神社仏閣の伝統を守ること、参拝者さんの祈りや想いを繋ぐことが私達の使命であることから、人を何よりも大切にしています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。