会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社松屋フーズ

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社松屋フーズです。

ご縁のきっかけは、同社の人事部に所属する顧問の宮腰智裕さんとの出会い。6月に開催された「さいたま障害者就業サポート研究会」に参加した際に、懇親会で同じテーブルとなって、親しくお話しする機会がありました。
熱く語る宮腰さんと意気投合し、さっそく訪問・見学をお願いすることに。9月27日、宮腰さんの車で、埼玉県内をご案内いただきました。

《特例子会社も、店舗における雇用も》

松屋フーズホールディングスグループの障害者雇用の取組のひとつは、株式会社エム・エル・エス。
同社は、松屋フーズを親会社とする特例子会社で、2000年設立と、長い歴史をお持ちです。
東松山市に本社・工場があり、店舗ユニフォームや工場白衣のクリーニングなどの事業に、25名の障害のある社員が活躍しています。

ところで、今回の訪問・見学のテーマは、この特例子会社ではありません。
もともと松屋フーズで商品開発を手掛け、工場長も務めた宮腰さんは、社命によって、エム・エル・エスの運営に関わってきたとのこと。その宮腰さんに、さらに2002年に下った社命は、首都圏を中心に全国約1200か所にチェーン展開している、店舗における障害者雇用です。
でも、職場としては店舗は小規模で、シフトや作業内容の点からも、様々な課題がありそうです。それらを乗り越えて安定した雇用を実現しているとすれば、どのように? 
そんな関心を持ちながら、この日、店舗を見せていただきました。

《異なるタイプの2つの店舗を訪問》

ご案内いただいたのは、「松屋」の埼玉県内にある2つの店舗です。
一つ目の店舗(A店)は、大きな国道に面してドライブスルーもある、いわゆる路面店。
一方、二つ目の店舗(B店)は、鉄道の駅に近い、商店や飲食店が並ぶ街並みの中にあるお店。
立地も運営形態も異なっています。

A店にお伺いしたのは、お昼時に差し掛かる頃。このお店で働いているチャレンジドメンバーのPさんは、お店の奥にある休憩スペースで、少し早めのお昼を食べているところでした。
宮腰さんの顔を見ると「ああ!」という表情をして、満面の笑顔で「こんにちは!」という挨拶が。しばしば訪れているという宮腰さんと、しっかり信頼関係が築かれているとお見受けしました。
このお店は、注文した料理が出来上がると番号が掲示され、客が配膳口に取りに来る、セルフサービス方式。下膳も客が行います。したがって、従業員が携わるのは、厨房での作業がほとんどで、調理・加熱や定食類のセット、使用済み食器の洗浄などです。
Pさんに「午前中はどんな仕事をしたの?」と聞いてみると、「野菜とお新香」という答えが。宮腰さんによれば、メニューにある野菜サラダや、定食類に付けるお新香の小鉢を、注文に備えて事前にセットする仕事とのことです。
「仕事は楽しい?」と聞いてみると、「楽しい!」と笑顔で即答。日々の充実ぶりが伝わってくるお答えでした。

次に訪ねたのは、B店。こちらでは、少し遅めのお昼をいただきました。
カウンター越しに個々の来店客に接するタイプのこの店舗では、従業員は、まず「いらっしゃいませ」と声をかけ、注文を確認し、出来上がった料理を運んで客に出すという、接客業務を行うこととなります。
B店で働くチャレンジドメンバーのQさんは、かつてひきこもりの生活を送っていた時期があったとのこと。その後、就労継続支援B型の事業所でしばらく就労経験を積み、この昨年11月からこのお店で働くこととなったそうです。そのようなご苦労を感じさせない、自然な応対ぶりで、名札をよく見なければ、チャレンジドメンバーとは気がつきません。
配膳していただいたのは、期間限定メニューの「ごろごろチキンのバターチキンカレー」。美味しかったです。
午後2時近くで客も少ない時間帯でしたので、Qさんは、夕食の時間帯に向けて、野菜サラダのセットも、手を休めることなく自発的に行っていました。


《店舗における雇用のポイントは?》

2つの店舗を拝見して感じたのは、それぞれ3~4名程度と思われる少人数の体制の中に、おふたりがすっかり溶け込んでいて、他の従業員も、一緒に働く仲間として自然に受け入れているということです。
なぜ、このような雇用が、全国の多くの店舗(約177店舗)で安定的に実現できているのか? 
宮腰さんのお話から見えてきたポイントは、以下の五点ではないかと思います。

第一に、チャレンジドメンバーは、本社人事部が一括して雇用し、各店舗に配置していることです。
このため、各店舗にとっては、人件費の負担を心配することなく、チャレンジドメンバーを受け入れることができ、かつ、増員が実現できることになります。

第二に、宮腰さんをはじめとする本社人事部の担当者が、定期的に各店舗を訪問し、チャレンジドメンバーと面談したり、他の従業員と意思疎通を図っていることです。
松屋フーズの本社は、東京都武蔵野市にありますが、ここを拠点として、宮腰さんは一都三県に点在する各店舗に、2~3か月に一度は足を運んでいるとのこと。また、宮腰さんの社内向けの名刺の裏側には「メールにて質問をご送付ください」とあり、専用のメールアドレスが記載され、チャレンジドメンバーからも他の従業員からも、いつでも相談を受け付ける態勢を整えています。
これらの取組は、店舗側の心理的な負担感を大きく減らしていることと思います。

 第三に、提供されるメニューの食材は、工場で加工・調理されたものが各店舗に配送されており、店舗では、お客に提供する直前の工程のみを担当していて、いろいろな作業がありつつも、ひとつひとつの作業は明確で、役割分担がしやすいことです。
このことは、チャレンジドメンバーの働きやすさに直結しており、段階に応じていろいろな作業に挑戦できる可能性にも、つながっていると思います。
また、店舗の運営上、使用済みの食器を洗浄する作業は必須であり、これをチャレンジドメンバーの基幹業務とすることによって、安定的に仕事を確保できている面もあるとのことでした。

第四に、長時間にわたって営業する店舗がほとんどである中で、チャレンジドメンバーは、平日の昼間時間帯のシフトにのみ配置されているなど、勤務面で一定の配慮が図られていることです。
また、各店舗で働くチャレンジドメンバーは、1名のみとしているとのこと。ふたりを配置すると、互いに競い合ったり、周囲が比較してしまったりして、うまくいかなかった経験を踏まえたものだそうです。
小規模な職場だからこその優れた工夫とお見受けしました。

第五に、この取組が地域に密着したものであることです。
各店舗は地域に点在していますので、どのように通勤しているのだろうと思い、宮腰さんに尋ねたところ、「近所から、場合によっては、徒歩や自転車で」とのお答えがありました。
例えば「市街地まで通うには交通面で制約がある」という人に対しても、自宅に近い店舗で、その就労ニーズに応えることができるということになれば、この取組は、新しい可能性を広げているのではないでしょうか。

松屋フーズの取組が、店舗が所在する各地域に根差して、ますます広がっていくことをお祈り申し上げます。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。