会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社西武パレット

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社西武パレット(埼玉県所沢市)です。
7月に開催された「アビリンピック埼玉大会2024」の会場でお目にかかり、知己を得た取締役事業部長の渡邊進さんに、ご案内いただきました。

《「カラー」を出して「パレット」に立つ》

西武パレットは、西武鉄道株式会社を親会社として、2007年に設立。
当時は、首都圏の私鉄各社が揃って特例子会社を立ち上げ、障害者雇用に積極的に取り組み始めた時期に当たります。
現在、社員62名のうち、44名が障害(知的障害)のある社員(スタッフ)。清掃業務を中核としつつ、西武鉄道やグループ各社から受託した事務補助業務などにも取り組んでいます。

西武パレットは、経営方針(西武パレットの理念)として3つの項目を掲げています。ここでは、会社が目指すところが、わかりやすく簡潔・明確に打ち出されています。

《「今日の安全宣言」を唱和》

当日は、西武鉄道の所沢駅から歩いてすぐの本社(パレットセンター)にて、8時40分から始まる朝礼に参加させていただきました。
スタッフ全員が集合する朝礼。作業を分担する「班」ごとに座って開始を待つ皆さんからは、「今日も一日、しっかりやるぞ」という気持ちが伝わってきます。
全員でストレッチを行ったあと、スタッフのひとりが進行役(当番制)となって、朝礼が始まります。
朝礼では、最初に渡邊さんほかの幹部から、指示やお知らせの伝達があり、身近な話題をテーマにした講話がありました。

印象的だったのは、そのあとに全員で行われた「唱和」です。
進行役の合図とともに、会社の経営方針などを唱和します。スタッフの皆さんが、それぞれのペースでではありますが、大きな声を出して読み上げる様子は、気持ちのこもったもので、迫力十分でした。
鉄道会社らしいと感じたのは、「今日の安全宣言」の唱和。読み上げられていたのは、次の内容です。

特例子会社といえども、業務遂行において安全を確保することは、特に作業系の業務が多いところであれば、重要なポイントです。
会社として働く環境を整備することはもちろんですが、スタッフも自ら守るべきことを守る。それを毎朝唱和して、確認する。基本動作と言っていい取組であると、お見受けしました。

《マニュアルを振り返る》

朝礼のあとは「所沢班」の皆さんに同行し、西武電設工業株式会社(グループ適用の対象会社)が入居するビルで行われる清掃業務を拝見しました。
ここでは、トイレ・洗面台のほか、シャワールームも清掃。
丁寧な作業ぶりはお見事で、平日は毎日行っていることもあって、ピカピカです。

渡邊さんのお話では、作業のしかたは詳細にマニュアルに定めてあるとのこと。
ただ、いつもマニュアルを見ながら作業するわけではないので、自己流になってしまう面もあり、このため、毎週水曜日は、いつもよりも作業時間に余裕を設けて、マニュアルを確認しながら作業する日としているそうです。
ただ、課題は、マニュアルは見直すたびに詳しくなっていて、項目が多岐にわたってしまっていること。
ポイントを外すことなく、簡潔に整理し直すことが、懸案となっているとのことでした。

《除外率引下げへの対応は》

この日は、県内の特別支援学校から、2名の生徒が実習に来ていました。ふたりとも3年生ですから、今回の実習で採否が決まる、重要なタイミングの実習です。ご本人たちは、既に何度か西武パレットで実習していることもあり、朝礼でも、すっかり場に馴染んでいる様子でした。

西武鉄道グループにとって喫緊の課題は、除外率の10%引下げ(2025年4月)への対応です。
グループ適用各社を含めた社員数は、約5千人。除外率引下げの影響は、大きなものがあります。
渡邊さんにお伺いすると、西武鉄道グループとしては、西武パレットのスタッフを増員する方向で対応することが基本線になっているとのこと。既に手狭になっているパレットセンターを拡張するために、壁を取り払ってスペースを確保する計画もあるそうです。
                 
ところで、西武パレットの社長は、西武鉄道の執行役員が兼務しています。       
除外率引下げへの対応のような大きな課題に向き合う時には、西武パレットの努力だけではなく、グループ全体で障害者雇用をどのように進めていくのか、大きな視点からの検討・対応が必要だと思います。
この点、グループを統括する会社の幹部が特例子会社の社長を兼務していることは、とても心強い体制となっていると言えるのではないでしょうか。
これからの動向に注目したいと思います。

《球場でも活躍》

西武パレットが今年9月から新たに始めた業務が、西武ドーム(ベルーナドーム)の清掃業務。
株式会社西武ライオンズからの委託を受けて、球場内の座席や通路の一部は、西武パレットのスタッフが清掃を行っているそうです。
ビジネスホテルなどに泊まると、「この部屋は〇〇が清掃しました」というメッセージカードが置いてあるのを、しばしば見かけます。渡邊さんに、「球場の椅子に『この椅子は西武パレットのスタッフが清掃しました』なんてシールが貼ってあったりすると、素敵ですね。」と、提案してみました。

除外率引下げという難しい課題への対応を契機としつつ、西武パレットの皆さんが、新しい仲間とともに、新たな活躍をされることを心よりお祈り申し上げます。


《自社PR》

西武パレットは、障がい者雇用の拡大および自立支援を目的に、2007年に設立され、西武鉄道およびグループ各社から清掃や事務補助などの業務を請け負っており、障がいのある皆さんがそれぞれの個性や得意分野を生かしながら、様々な業務に挑戦する、パワー溢れる職場です。
毎年面談を3月期と9月期の年2回実施しており、本人・家族・就労支援センター・出身校・グループホームのご担当者にもお越しいただき、情報を共有しさらに仕事へのモチベーションアップや、就労定着にも取り組んでおります。
またティーボール大会や歓迎会、食事会などイベントやレクレーションを通じストレスを解消し、誰もが気持ちよく働ける環境作りにも取り組んでおります。 

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。