株式会社KDDIチャレンジド
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社KDDIチャレンジド(東京都千代田区)です。
同社の間瀬英世社長は、SACECの理事をお勤めです。
そのご縁で、KDDIチャレンジドを見学する機会をいただき(2024年9月30日)、間瀬さんのほか、取締役・事業管理部長の毛村直哉さん、同部マネージャーの中澤真弓さんにご対応いただきました。また、KDDI株式会社の菱田直人・執行役員人事本部長にも、ご挨拶することができました。
KDDIチャレンジドは、KDDIの特例子会社として、2008年に設立。
設立当初、障害のある社員は12名でスタートし、現在は135名に。
当初は知的障害9名と身体障害3名であったところ、今は知的障害と精神・発達障害がそれぞれ45%程度と、人数の増加とともに、社員の構成も変化してきています。
障害のある社員については、就職時には契約社員として入社しますが、勤務状態、規律・協調性、積極性、責任感などを評価して3年間の間に、正社員(期間の定めがない雇用契約)に登用する仕組みを採用。約8割が正社員となっています。
年々社員が増加する中で、KDDIチャレンジドでは、事務系業務から作業系業務まで、幅広く多様な業務(13種類)を展開し、職域の拡大を図っています。
会社の概要についてご説明をいただき、オフィス内を見学させていただく中で、同社の職域確保・拡大の取組には、いくつかの特徴があるとお見受けしました。
第一には、KDDIグループの一員らしい業務として、携帯端末の分解分別業務や、法人端末のリサイクル業務を担っていることです。
携帯端末の分解分別は、実際に作業を行っているところを拝見しました。使用済みの携帯電話(いわゆるガラケー)をひとつひとつ工具を使って分解し、18種類のパーツに分別する作業です。機械処理に比べ、希少金属を2倍近い素材を取り出すことができ、ほぼ100%のリサイクルを実現しているとのことでした。
細かいパーツも数多くある中で、この作業に長い経験を持つというメンバーがてきぱきと素早く分別する様子は、お見事の一言でした。その熟練の技と繰り返し作業を厭わない集中力には、間瀬さんたちも、高い評価と信頼を寄せているとのことです。
ここでは、個々の端末について、サービス終了の手続が確実に行われているかをシステム上で確認することも、重要なポイント。こちらも集中力が求められる作業です。
いずれの業務も、グループの事業展開の一端を担い、欠かすことのできない大切な業務であると感じました。
第二に、その多様な業務を4つのカテゴリーに分類し、「事務系業務」「作業系業務」「専門業務(リフレッシュルーム)」とともに、「高スキル作業系業務」を展開していることです。
具体的には、次のような業務が、この「高スキル作業系業務」に位置づけられています。
・ビジネスセンター業務
(社内外のホームページの作成、プログラムやRPAの作成)
・PCキッティング業務
(KDDI社員が使用するパソコン・スマートフォンの設定)
(不要になったパソコンのデータ消去)
・DX推進業務 ~今後の展開として
(受託業務のDX化)
(デジタルイラストを用いた業務の事業化)
このような業務を既に手掛けている特例子会社は、他社でも拝見したことがありますが、「高スキル」と銘打って進めている会社は、あまりないように思います。
高いスキルが求められる業務と明示的に位置づけることは、従事する社員のモチベーションアップにもつながっていることでしょう。
この分類は、精神・発達障害者の雇用が進む中で、会社が今後どのような方針で業務を展開しようとしているのか、わかりやすく明示している事例であると感じました。
さらに、同社の説明資料では、「切り出した仕事(派遣社員や業務委託していた業務)」と「創り出した仕事(障がいの特性に合わせて創出)」という分類も、掲げられています。
この「創り出した仕事」には、リフレッシュルームやカフェがあり、この日はいずれも現場を見せていただくことができました。
KDDI本社も入るビルの中で、リフレッシュルームでは、理療の国家資格を持つ視覚障害のある社員が活躍し、KDDI社員の疲労回復や健康増進に貢献。カフェでは、ハンドドリップの本格コーヒーが提供されていました。いずれも、KDDI社員の皆さんに好評とのことです。
KDDIチャレンジドでは、テレワークなど、柔軟な働き方についても取組を進めています。
テレワークの導入は、新型コロナの感染拡大を機に、2020年度から始めたとのこと。現在でも、台風・豪雨などの非常時への備えという、BCP対策の観点も含め、事務系業務を中心に幅広く実施しているとのことでした。
また、2023年度から、短時間勤務も導入しています。入社時に短時間勤務から開始して、フルタイムに移行する仕組みです。精神・発達障害者が大きなウエイトを占めつつある中で、入職時の可能性を広げる試みとして、今後の展開に期待したいと思います。
KDDIチャレンジドは、「2030年ビジョン」として、「障がいのある人が『働くことの大切さ』を感じられる企業へ」を掲げています。
そのビジョンのもとで、2021年度に、「自立と成長」を軸とした人事制度を整備しました。その内容は、わかりやすく次の二点に集約されています。
・賃金体系及び評価制度を刷新し、ガラス張りの制度とする。
・研修等の人財育成メニューを充実させ、各人の育成方針に従って成長を促していく。
この方針のもとで、活躍重視か定着重視かという観点を入れつつ、下記の3つのコースが設定され、求める姿などが明示されています。
KDDIチャレンジドの「人財育成」は、さらに新しい展開を見せています。
それが「ツナグ力プロジェクト」(コミュニケーション向上施策)。社員の主体的な参加を大切にするプロジェクトとして、様々な取組が行われています。
今年度の取組のひとつが「挑戦隊★チャレンジドック」。
スタッフから公募して誕生した、同社の公式キャラクターです。
新しい職域であるデジタルイラストのスキルも活かしつつ、社員の意気込みが感じられるこのキャラクター。いろいろな媒体を活用して、認知度向上を目指すとのこと。ホームページにも掲載され、オフィスでも、モニターに動画が流れていました。
ふだん担当している業務とは違う業務を、手上げ方式で経験してみるプログラムを実施予定です。
この試みには41人が参加を希望。参加率は約30%に上ります。
他チームのメンバーとコミュニケーションが図られ、新しい仕事発見を通じて成長につながることを期待しているとのことでした。
新しい展開といえば、親会社であるKDDIに兼務出向し、ネットワーク監視業務に携わっている社員が、10月から完全出向に移行したとのこと。社員の皆さんにとっても、新しい可能性が見えたのではないでしょうか。
一方、間瀬さんたちを悩ませている直近の課題は、オフィスの移転です。KDDIの本社移転と同時に、KDDIチャレンジドも、2025年度には移転することになるとのこと。飯田橋から高輪ゲートウェイへの移転ですから、通勤環境が大きく変わることになります。
オフィスの移転を契機として、どのように生まれ変わっていくのか。
着実に実績を積み上げてきたKDDIチャレンジドの皆さんが、移転による課題を乗り越え、さらに活躍されますことを、心からお祈り申し上げます。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、株式会社KDDIチャレンジド(東京都千代田区)です。
同社の間瀬英世社長は、SACECの理事をお勤めです。
そのご縁で、KDDIチャレンジドを見学する機会をいただき(2024年9月30日)、間瀬さんのほか、取締役・事業管理部長の毛村直哉さん、同部マネージャーの中澤真弓さんにご対応いただきました。また、KDDI株式会社の菱田直人・執行役員人事本部長にも、ご挨拶することができました。
《精神・発達障害者が半数近くに》
設立当初、障害のある社員は12名でスタートし、現在は135名に。
当初は知的障害9名と身体障害3名であったところ、今は知的障害と精神・発達障害がそれぞれ45%程度と、人数の増加とともに、社員の構成も変化してきています。
障害のある社員については、就職時には契約社員として入社しますが、勤務状態、規律・協調性、積極性、責任感などを評価して3年間の間に、正社員(期間の定めがない雇用契約)に登用する仕組みを採用。約8割が正社員となっています。
《多様な業務で、職域を確保・拡大》
会社の概要についてご説明をいただき、オフィス内を見学させていただく中で、同社の職域確保・拡大の取組には、いくつかの特徴があるとお見受けしました。
《グループの事業展開の一端を担う》
携帯端末の分解分別は、実際に作業を行っているところを拝見しました。使用済みの携帯電話(いわゆるガラケー)をひとつひとつ工具を使って分解し、18種類のパーツに分別する作業です。機械処理に比べ、希少金属を2倍近い素材を取り出すことができ、ほぼ100%のリサイクルを実現しているとのことでした。
細かいパーツも数多くある中で、この作業に長い経験を持つというメンバーがてきぱきと素早く分別する様子は、お見事の一言でした。その熟練の技と繰り返し作業を厭わない集中力には、間瀬さんたちも、高い評価と信頼を寄せているとのことです。
また、企業などで社員が社用で使用していた端末(携帯・スマホ)を回収してリサイクルに回す業務については、データの漏洩がないよう、必要な破砕を行った上で、精錬リサイクル事業者に渡しています。
ここでは、個々の端末について、サービス終了の手続が確実に行われているかをシステム上で確認することも、重要なポイント。こちらも集中力が求められる作業です。
いずれの業務も、グループの事業展開の一端を担い、欠かすことのできない大切な業務であると感じました。
《「高スキル作業系業務」を展開》
具体的には、次のような業務が、この「高スキル作業系業務」に位置づけられています。
・ビジネスセンター業務
(社内外のホームページの作成、プログラムやRPAの作成)
・PCキッティング業務
(KDDI社員が使用するパソコン・スマートフォンの設定)
(不要になったパソコンのデータ消去)
・DX推進業務 ~今後の展開として
(受託業務のDX化)
(デジタルイラストを用いた業務の事業化)
このような業務を既に手掛けている特例子会社は、他社でも拝見したことがありますが、「高スキル」と銘打って進めている会社は、あまりないように思います。
高いスキルが求められる業務と明示的に位置づけることは、従事する社員のモチベーションアップにもつながっていることでしょう。
この分類は、精神・発達障害者の雇用が進む中で、会社が今後どのような方針で業務を展開しようとしているのか、わかりやすく明示している事例であると感じました。
《障害の特性に合わせて、業務を創出》
この「創り出した仕事」には、リフレッシュルームやカフェがあり、この日はいずれも現場を見せていただくことができました。
KDDI本社も入るビルの中で、リフレッシュルームでは、理療の国家資格を持つ視覚障害のある社員が活躍し、KDDI社員の疲労回復や健康増進に貢献。カフェでは、ハンドドリップの本格コーヒーが提供されていました。いずれも、KDDI社員の皆さんに好評とのことです。
「切り出した仕事」「創り出した仕事」という分類は、他の特例子会社でも自然になされていることと思いますが、資料に明示する形で区分されているのを拝見し、これも、職域拡大に対する会社の考え方を体系立って整理している好例であると感じました。
《柔軟な働き方も活用》
テレワークの導入は、新型コロナの感染拡大を機に、2020年度から始めたとのこと。現在でも、台風・豪雨などの非常時への備えという、BCP対策の観点も含め、事務系業務を中心に幅広く実施しているとのことでした。
また、2023年度から、短時間勤務も導入しています。入社時に短時間勤務から開始して、フルタイムに移行する仕組みです。精神・発達障害者が大きなウエイトを占めつつある中で、入職時の可能性を広げる試みとして、今後の展開に期待したいと思います。
《「自立と成長」を軸に》
そのビジョンのもとで、2021年度に、「自立と成長」を軸とした人事制度を整備しました。その内容は、わかりやすく次の二点に集約されています。
・賃金体系及び評価制度を刷新し、ガラス張りの制度とする。
・研修等の人財育成メニューを充実させ、各人の育成方針に従って成長を促していく。
この方針のもとで、活躍重視か定着重視かという観点を入れつつ、下記の3つのコースが設定され、求める姿などが明示されています。
《社員の主体的な参加を大切に》
それが「ツナグ力プロジェクト」(コミュニケーション向上施策)。社員の主体的な参加を大切にするプロジェクトとして、様々な取組が行われています。
今年度の取組のひとつが「挑戦隊★チャレンジドック」。
スタッフから公募して誕生した、同社の公式キャラクターです。
新しい職域であるデジタルイラストのスキルも活かしつつ、社員の意気込みが感じられるこのキャラクター。いろいろな媒体を活用して、認知度向上を目指すとのこと。ホームページにも掲載され、オフィスでも、モニターに動画が流れていました。
もうひとつが「仕事体験」。
ふだん担当している業務とは違う業務を、手上げ方式で経験してみるプログラムを実施予定です。
この試みには41人が参加を希望。参加率は約30%に上ります。
他チームのメンバーとコミュニケーションが図られ、新しい仕事発見を通じて成長につながることを期待しているとのことでした。
《さらなる展開へ》
一方、間瀬さんたちを悩ませている直近の課題は、オフィスの移転です。KDDIの本社移転と同時に、KDDIチャレンジドも、2025年度には移転することになるとのこと。飯田橋から高輪ゲートウェイへの移転ですから、通勤環境が大きく変わることになります。
オフィスの移転を契機として、どのように生まれ変わっていくのか。
着実に実績を積み上げてきたKDDIチャレンジドの皆さんが、移転による課題を乗り越え、さらに活躍されますことを、心からお祈り申し上げます。
《自社PR》
KDDIチャレンジドPurpose
「就労が難しい障がい者が社会参加するための場所、そして成長する場所」
KDDIチャレンジドは、2008年にKDDIの特例子会社として設立しました。
2030年ビジョンでは「障がいのある人が『働くことの大切さ』を感じられる企業へ」を掲げ、障がいのある方に成長機会を積極的に提供し、社会で活躍できる人財に育成することをKDDIチャレンジドの存在意義とし、社内外にコミットしています。
《会社概要》
社名 | 株式会社KDDIチャレンジド |
主な業種 | 情報通信関連企業 |
従業員数 | 184名 |
うち障害者社員の人数 | 135名 |
障害の内訳 | 身体:15名、知的:60名、精神:60名 |
URL | |
親会社の社名 | KDDI株式会社 |
主な業種 | 電気通信事業 |
親会社のHPに障害者雇用に関する記述がある場合には、その箇所のURL |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。