会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

南九イリョー株式会社(鹿児島市)

皆さん、こんにちは。皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、南九イリョー株式会社です。

7月下旬に鹿児島県を訪ねる機会があり、障害者雇用を積極的に進めている地場の企業を見学したいと考え、同社の本社・鹿児島工場(鹿児島市)を訪問しました。
当日(2023年7月28日)は、全障協(公益財団法人全国障害者雇用事業所協会)の理事でもある、事業本部副本部長の池田拓郎さんにご案内いただきました。


《南九イリョーは、ワークステージつばさとともに》

南九イリョーは、クリーニング業を中核として、鹿児島県、熊本県、福岡県、宮崎県、千葉県に、あわせて8か所の拠点を有し、従業員数は586名です。

社名にある「イリョー」には、ふたつの意味(衣料・医療)が込められているとのこと。
医療と言っても、病院関係のリネン類の扱いが多いわけではなく、福祉施設や病院などを定期的に巡回して、入所者などの日常的な洗濯物(私物)を回収し、洗濯することが中心となっているとのお話でした。
このほか、同社は、ドライクリーニングやホテル向けのリネンサプライを、主力事業として展開しています。

障害者雇用の面では、同社の実雇用率は10%を超えているとのこと。さらに特徴的なのは、グループ会社として設立された株式会社ワークステージつばさの存在です。

ワークステージつばさは、就労継続支援A型・B型の事業所を5か所で運営。
今回訪問した鹿児島市の拠点では、南九イリョーの工場とワークステージつばさの事業所(B型・定員40名)が、同じ敷地・建屋の中に併設されています。各地の拠点も同様とのことで、例えば、姶良市では、A型とB型(定員各20名)の事業所が、南九イリョーの工場に併設されているとのことでした。
ちなみに、池田さんは、ワークステージつばさの統括施設長も務めておられ、グループ全体の障害者雇用や就労支援を統括しておられます。
では、なぜ、一般の企業である南九イリョーが、A型・B型を運営するグループ会社を立ち上げるに至ったのか? 池田さんに尋ねてみると、次のようなお話がありました。

ワークステージつばさの設立は、2008年。背景には、障害者自立支援法の成立があったそうです。
就労系の障害福祉サービスの体系が整備されたことに伴い、既に障害者雇用の実績があった南九イリョーには、特別支援学校の先生方から、新しい福祉サービスへの対応を要望する声が寄せられたとのこと。
一方、会社にとっても、長年にわたって障害者雇用を進めてきた中で、この当時、加齢などに伴い、従業員の福祉サービスへの移行について検討する必要が生じていたそうです。
これらの事情が相まって、障害福祉サービス事業を担うワークステージつばさの設立に至ったとのことでした。

《状況に応じた就労機会を、段階的に用意》

池田さんから概況の説明を受けた後、広い構内を巡って、南九イリョーの工場とワークステージつばさの事業所(B型)を見学させていただきました。


最初は、ドライクリーニングの工場(南九イリョー)。
暑い盛りの時期の訪問であったうえに、建屋の中には大型の洗濯機やプレス機など、高熱を発する機械が数多く設置されています。
厳しい作業環境ではありますが、熟達した従業員の皆さんがてきぱきと作業をこなしておられました。

次に見学したのは、私物の衣類を洗濯する工程(南九イリョー)。
個人の私物ですので、紛れることのないよう、個人ごとにタグが付いたネットで管理されていて、それをまとめて大型の洗濯機で洗濯します。
この現場には、姶良市にあるワークステージつばさの事業所(A型)から、施設外就労の形で4名が来ていて、南九イリョーの従業員の指導のもと、作業に取り組んでいました。
ここでは、施設外就労を経て南九イリョーの従業員に採用された先輩たちも働いていて、その背中を見ながらの施設外就労です(*)。
  (*)施設外就労をしている4名は、10月から南九イリョーに雇用となる予定とのことです。

同じ建屋の次の空間に進むと、洗濯を終えた私物をたたむ工程が。
こちらで働いているのは、ワークステージつばさ(B型)の皆さんです。個人が日常的に着ている衣類ですから、扱う種類も様々で、たたむ作業も単純ではありません。しわが残っている物は選り分けて、アイロンをかけたりもしています。
 
その2階には、ホテル向けのタオルや室内着をたたむ工程(B型)がありました。
こちらの作業は、私物をたたむ工程よりも定型的ですが、皆さん、きれいになった大量のタオルなどを前に、手を休める様子もなく着実に作業を進めていました。


これらのB型の現場で、指導員として一緒に働いているのは、南九イリョーでの経験も豊富なシニアの皆さん。
メンバーとのチームワークも絶妙で、グループ全体の人材活用にも役立っているとお見受けしました。
また、皆さんが整然と作業を進めていたのも印象的で、私には、その様子は(失礼ながら)B型らしからぬものと感じられました。

見学の全体を通じて感じたのは、南九イリョーが扱う洗濯物が多種多様であることに対応して、作業内容を工夫し、障害を持つ方々に、状況に応じた多様な就労の機会を用意しているということ。
そして、近接した場所で作業の様子が「見える」という利点も活かして、ステップアップしやすい環境を整えているということでした。
見学した拠点全体が、いろいろな働き方が選べてチャレンジできる場になっていると感じ、素晴らしいと思いました。


《ゆっくりでいい》

一方で、案内していただいた池田さんからは、「実はよく見ると、みんなそれぞれのペースでやっているんですよ」とのお話が。
確かによく見ると、整然と進んでいるように見える作業も、作業の進み具合は人それぞれで、間合いが長めの人もいれば、着々とこなしている人もいます。

池田さんのお話では、基本的な方針として、「ゆっくりでいい(=ステップアップを急かすことはしない)」「できることを自分のペースで、自分に合う場で」という考え方があるとのこと。たたむ枚数などについて目標は設定していますが、その目標は、個人ごとに状況に応じて設定しているとのことでした。

「では、工賃はどのようにされているのですか?」とお尋ねしてみると、時給で設定しているとのこと(現在は300円)。働く時間の長さは個人ごとに決めているとのことで、作業の効率ではなく、働いた(働ける)時間を評価しているとお見受けしました。
この工賃のあり方は、先ほどの基本的な方針と整合的であるだけでなく、職業準備性の評価という観点からも合理的であると考えられ、優れた取組であると感じました。


《地域に雇用の輪を広げる》

池田さんからは、今後の展開として、地域のネットワークを活かし、他の中小企業にも障害者雇用の取組を広げていきたいというお話がありました。
そのためには、就労支援に携わる機関の連携がまだまだ弱いと感じておられるようです。
また、地元の企業が取り組むだけでは機会が限られることから、大都市圏に立地する特例子会社に働きかけて、リモートで働く機会をつくることも考えられないかとのお話もありました。

南九イリョーグループの優れた取組がますます進展し、鹿児島の地に障害者雇用の輪が広がっていくことを、期待して見守りたいと思います。


《自社PR》

グループ会社として、就労継続A型・B型の取り組みを併設して展開(鹿児島・熊本・福岡・千葉)しており、障害者雇用にとどまらず、障害者就労支援についても事業として取り組んでいます。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。