あけぼの123株式会社(埼玉県羽生市)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、あけぼの123株式会社(埼玉県羽生市)です。
私は、昨年10月から学校法人ものつくり大学の顧問を務め、本年4月に理事長に就任しました。大学は埼玉県行田市にあるため、埼玉にご縁ができ、これを機会に、埼玉県内で障害者雇用を進めている会社にお伺いして、勉強させていただいています。
今回は、ポラスシェアード株式会社の鈴木英生さんにご紹介いただき、大学から車で約30分と近い、羽生市にあるあけぼの123を訪ねました。同社には、大学の竹下典行専務理事、窪田岳領総務課長、三井実教授のほか、教授が率いる学生プロジェクト「学生フォーミュラ」の学生3名と一緒に訪問。代表取締役社長の尾釜芳昭さん、社長補佐の山元輝之さんのほか、指導員4名の皆さんに、ご対応いただきました。
あけぼの123は、曙ブレーキ工業株式会社を親会社として、2003年に設立。昨年、創立20周年を迎えました。
設立当時の曙ブレーキグループの実雇用率は、1.5%。「企業として社会的責任(CSR)を果たさなければならない」という、曙ブレーキ工業の当時の社長の強い思いのもと、埼玉県内に立地する製造業の会社としては、第1号として特例子会社を設立するに至ったとのことです。
ところで、「あけぼの123」という社名は、とても特徴のある社名です。
なぜ、この社名に?
この点は、今回の訪問でも、概要説明の冒頭でご説明があり、同社のホームページにも、「社名の由来」として、次のとおり掲載されています。
“「あけぼの123(いちにさん)」という社名は、企業が社会に対してするべきことの始めとして、小さなことから始める、つまり、いちから始めるという意味で名付けられました。
この「123」には、「埼玉県で『一番良い会社』をつくりたい」、「家族と会社、障がい者と健常者の『二人三脚』で小さなことから一歩ずつ始める」という想いが込められています。”
当日、いただいた説明資料には、あけぼの123が掲げる理念として、
“曙ブレーキグループの一員として、曙の理念「ひとつひとつのいのちを守り、育み、支え続けて行きます」を基本に、人に配慮し地域に根ざした企業として社会に貢献し続けます”
と掲げられていました。
皆さんから伺ったご説明からも、設立当時の熱い思いが失われることなく、今も脈々と息づいていることが感じられました。
あけぼの123は、現在、社員31名。うち障害のある社員は25名で、全員が知的障害のある方々(うち重度が12名)です。
業務は、曙ブレーキ工業の国内本社があるグループの拠点「Ai-City」における清掃業務からスタートし、補修用のブレーキ部品の梱包、名刺印刷など、職域を拡大しています。
この日最初に名刺交換をしたのは、尾釜社長をはじめとして、6名の管理者・指導員の皆さん。「おや? 全社員31名で、障害のある社員は25名。ということは、ここには管理者・指導員が勢揃い?」 そう思ってお聞きすると「そうです」とのお答えが。
障害のある社員の皆さんは、「所要時間表」に沿って、ひとりひとり持ち場で仕事中。「何かあれば、構内電話などで指導員に連絡」ということを徹底して、あとは各自が自律的に仕事に当たっているとのことでした。
ご説明をお伺いして、この状況が実現できている背景には、三つの要素があるとお見受けしました。
一つ目は、明確でシンプルな業務マニュアルと治具の工夫です。
当日拝見した作業のひとつは、トイレの清掃。A4一枚のマニュアルには、便器を清掃する手順(どの部分から作業を進めるか、どのタイミングで水を流すかなど)や使用する用具が明記されており、社員はマニュアルを目の前に置いて、声に出して指差し確認しながら作業を進めます。そして、作業は「いち、に、さん」と掛け声をかけながら、リズムよく。社名を掛け声に作業を進めるなんて、ちょっと素敵です。
また、補修用の部品の梱包作業では、封入する部品の種類や個数を間違えることのないように、目視で確認しやすい台紙のようなものが使われていました。
これらに共通するのは、作業する社員が迷うことのないようにするという点でしょう。
その点でもうひとつ印象的だったのは、広い構内を歩いて移動している時の出来事です。
途中で一般の道路を横切る場面があり、かなり距離のある所から自転車がこちらのほうに。それでも渡れると思ったところ、横断を制止されました。山元さんからは、「うちの会社では、『見えたら止まる』を徹底していますので」とのお話が。
わかりやすく明確な判断基準を立てることが、安全の確保と円滑な作業につながっていると感じました。
二つ目は、入社の際の徹底した職場実習と見極めです。
あけぼの123においては、社員のほとんどが特別支援学校から入社しています。
その際、特に3年生の職場実習では、同社の基本業務である清掃作業に従事し、作業内容を習得してもらうとともに、会社側も、適性や意欲、障害特性や個性などを見極めるとのこと。見極めが十分できなかった時には、繰り返し実習を行い、採用を判断するという徹底ぶり。このため、採用された社員は、採用当初から即戦力です。
このような実習は、学校との信頼関係が確立していなければ、成り立ちません。同社が地域にしっかり根差していることの証しであると感じました。
三つ目は、多能工化を進める際の訓練の徹底です。
あけぼの123では、清掃作業を基本業務としつつ、社員の可能性を広げるために、新しい仕事への挑戦を進めています。
この日は、自前・手製の訓練機を使い、補修用部品の梱包作業を訓練する様子を見せていただきました。
実際の作業で使う機械や環境を再現した場所で、十分に訓練を積み、実働と同様の水準に達してから、現場に入るとのこと。ここでも即戦力にこだわる理由は、「それで(発注元から)お金をもらうんだから」とのことでした。
あけぼの123では、チームワークを育むために、様々なイベントを大切にしています。
誕生会は2か月に一回、定期的に開催。季節の行事として、いちご狩りやバーベキュー大会、ボウリング大会も。埼玉が発祥の地とされる「ティーボール交流大会」にも出場しています。
これらの行事には、社員の保護者の皆さんが参加することも。昨年の「会社創立20周年を祝う会」では、あわせて家族見学会も実施したとのこと。参加された皆さんの笑顔を写真で拝見しました。
最近は、業務以外の支援に関しては、地域の就労支援機関との関係を重視する会社が多いと思いますが、あけぼの123では、これからも保護者との関係を大切にしたいとのこと。これもまた、都内などとは異なる環境にあるこの地域に立脚した会社のあり方として、特徴的であると感じました。
あけぼの123がある「Ai-City」には、曙ブレーキグループが開設した「ブレーキ博物館」があります。尾釜さんのご配慮により、この機会にこの博物館も見学させていただきました。
素人の私にとっては、ブレーキの仕組みや種類といった基礎から、曙ブレーキがF1に挑戦した歴史や、そのことが欧州の厳しい規格に適合した高性能ブレーキの受注につながっていることなどを勉強することができ、この世界の奥深さを知ることができました。
「学生フォーミュラ」の学生たちも、興味津々だったようです。ちなみに、鉄道好きの私には、新幹線と在来線のブレーキの実物を見て、その構造が全く異なることを知って驚いたというのも、見学の成果でした。
あけぼの123が、これからも地域に根差した会社として、「埼玉県で一番良い会社」を目指して発展を続けることを、心よりご期待申し上げたいと思います。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、あけぼの123株式会社(埼玉県羽生市)です。
私は、昨年10月から学校法人ものつくり大学の顧問を務め、本年4月に理事長に就任しました。大学は埼玉県行田市にあるため、埼玉にご縁ができ、これを機会に、埼玉県内で障害者雇用を進めている会社にお伺いして、勉強させていただいています。
今回は、ポラスシェアード株式会社の鈴木英生さんにご紹介いただき、大学から車で約30分と近い、羽生市にあるあけぼの123を訪ねました。同社には、大学の竹下典行専務理事、窪田岳領総務課長、三井実教授のほか、教授が率いる学生プロジェクト「学生フォーミュラ」の学生3名と一緒に訪問。代表取締役社長の尾釜芳昭さん、社長補佐の山元輝之さんのほか、指導員4名の皆さんに、ご対応いただきました。
《設立当時の熱い思いが、今も脈々と》
設立当時の曙ブレーキグループの実雇用率は、1.5%。「企業として社会的責任(CSR)を果たさなければならない」という、曙ブレーキ工業の当時の社長の強い思いのもと、埼玉県内に立地する製造業の会社としては、第1号として特例子会社を設立するに至ったとのことです。
ところで、「あけぼの123」という社名は、とても特徴のある社名です。
なぜ、この社名に?
この点は、今回の訪問でも、概要説明の冒頭でご説明があり、同社のホームページにも、「社名の由来」として、次のとおり掲載されています。
“「あけぼの123(いちにさん)」という社名は、企業が社会に対してするべきことの始めとして、小さなことから始める、つまり、いちから始めるという意味で名付けられました。
この「123」には、「埼玉県で『一番良い会社』をつくりたい」、「家族と会社、障がい者と健常者の『二人三脚』で小さなことから一歩ずつ始める」という想いが込められています。”
当日、いただいた説明資料には、あけぼの123が掲げる理念として、
“曙ブレーキグループの一員として、曙の理念「ひとつひとつのいのちを守り、育み、支え続けて行きます」を基本に、人に配慮し地域に根ざした企業として社会に貢献し続けます”
と掲げられていました。
皆さんから伺ったご説明からも、設立当時の熱い思いが失われることなく、今も脈々と息づいていることが感じられました。
《知的障害者を雇用し、職域を拡大》
業務は、曙ブレーキ工業の国内本社があるグループの拠点「Ai-City」における清掃業務からスタートし、補修用のブレーキ部品の梱包、名刺印刷など、職域を拡大しています。
《社員ひとりひとりが自律的に》
障害のある社員の皆さんは、「所要時間表」に沿って、ひとりひとり持ち場で仕事中。「何かあれば、構内電話などで指導員に連絡」ということを徹底して、あとは各自が自律的に仕事に当たっているとのことでした。
ご説明をお伺いして、この状況が実現できている背景には、三つの要素があるとお見受けしました。
《わかりやすく明確に》
当日拝見した作業のひとつは、トイレの清掃。A4一枚のマニュアルには、便器を清掃する手順(どの部分から作業を進めるか、どのタイミングで水を流すかなど)や使用する用具が明記されており、社員はマニュアルを目の前に置いて、声に出して指差し確認しながら作業を進めます。そして、作業は「いち、に、さん」と掛け声をかけながら、リズムよく。社名を掛け声に作業を進めるなんて、ちょっと素敵です。
また、補修用の部品の梱包作業では、封入する部品の種類や個数を間違えることのないように、目視で確認しやすい台紙のようなものが使われていました。
これらに共通するのは、作業する社員が迷うことのないようにするという点でしょう。
その点でもうひとつ印象的だったのは、広い構内を歩いて移動している時の出来事です。
途中で一般の道路を横切る場面があり、かなり距離のある所から自転車がこちらのほうに。それでも渡れると思ったところ、横断を制止されました。山元さんからは、「うちの会社では、『見えたら止まる』を徹底していますので」とのお話が。
わかりやすく明確な判断基準を立てることが、安全の確保と円滑な作業につながっていると感じました。
《入社時から即戦力に》
あけぼの123においては、社員のほとんどが特別支援学校から入社しています。
その際、特に3年生の職場実習では、同社の基本業務である清掃作業に従事し、作業内容を習得してもらうとともに、会社側も、適性や意欲、障害特性や個性などを見極めるとのこと。見極めが十分できなかった時には、繰り返し実習を行い、採用を判断するという徹底ぶり。このため、採用された社員は、採用当初から即戦力です。
このような実習は、学校との信頼関係が確立していなければ、成り立ちません。同社が地域にしっかり根差していることの証しであると感じました。
《新しい仕事への挑戦も、訓練を徹底》
あけぼの123では、清掃作業を基本業務としつつ、社員の可能性を広げるために、新しい仕事への挑戦を進めています。
この日は、自前・手製の訓練機を使い、補修用部品の梱包作業を訓練する様子を見せていただきました。
実際の作業で使う機械や環境を再現した場所で、十分に訓練を積み、実働と同様の水準に達してから、現場に入るとのこと。ここでも即戦力にこだわる理由は、「それで(発注元から)お金をもらうんだから」とのことでした。
《チームワークを大切に》
誕生会は2か月に一回、定期的に開催。季節の行事として、いちご狩りやバーベキュー大会、ボウリング大会も。埼玉が発祥の地とされる「ティーボール交流大会」にも出場しています。
これらの行事には、社員の保護者の皆さんが参加することも。昨年の「会社創立20周年を祝う会」では、あわせて家族見学会も実施したとのこと。参加された皆さんの笑顔を写真で拝見しました。
最近は、業務以外の支援に関しては、地域の就労支援機関との関係を重視する会社が多いと思いますが、あけぼの123では、これからも保護者との関係を大切にしたいとのこと。これもまた、都内などとは異なる環境にあるこの地域に立脚した会社のあり方として、特徴的であると感じました。
《ブレーキの世界は奥深い》
素人の私にとっては、ブレーキの仕組みや種類といった基礎から、曙ブレーキがF1に挑戦した歴史や、そのことが欧州の厳しい規格に適合した高性能ブレーキの受注につながっていることなどを勉強することができ、この世界の奥深さを知ることができました。
「学生フォーミュラ」の学生たちも、興味津々だったようです。ちなみに、鉄道好きの私には、新幹線と在来線のブレーキの実物を見て、その構造が全く異なることを知って驚いたというのも、見学の成果でした。
あけぼの123が、これからも地域に根差した会社として、「埼玉県で一番良い会社」を目指して発展を続けることを、心よりご期待申し上げたいと思います。
《自社PR》
【社員の強み】
異常発生時は「止めて・呼んで・指示を待つ」ことができる。
労働災害・交通災害ゼロ 2003年設立以来20年間継続中
品質意識の向によるお客様クレームゼロ2000日達成
【指導員の強み】
社員との二人三脚、一人ひとりの個性を認め強みを活かす
協調性、助け合いができる。
課題の共有と改善力。改善のスピードがある(まずは、やってみる!)
フットワークがとても良い!!
《会社概要》
社名 | あけぼの123株式会社 |
主な業種 | 清掃、梱包、名刺制作、コピー用紙供給・スキャニング等の業務 |
従業員数 | 31名 |
うち障害者社員の人数 | 25名 |
障害の内訳 | 身体:0名、知的:25名、精神:0名 |
URL | https://www.akebono-brake.com/corporate/network/akebono123_01.html |
親会社の社名 | 曙ブレーキ工業株式会社 |
主な業種 | 各種ブレーキおよび構成部品・関連部品の製造・販売・研究開発 |
親会社のHPに障害者雇用に関する記述がある場合には、その箇所のURL |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。