会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

東急リバブルスタッフ株式会社

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、東急リバブルスタッフ株式会社です。

新しい特例子会社という観点から訪問先を探していたところ、株式会社FVPの大塚由紀子さんから、F&LCサポート株式会社とともに、東急リバブルスタッフをご紹介いただきました。

同社は、東急リバブル株式会社を親会社として、2021年8月、特例子会社に認定されました。新たな設立ではなく、既存のグループ会社を特例子会社に移行させた事例です。また、他社にない特徴として、「自律自走」で運営されているとの情報もいただきました。

そこで、6月8日、株式会社FVP、戸田建設株式会社の方々4名と一緒に、渋谷駅近くにある東急リバブルスタッフを訪問しました。当日は、チャレンジド事業課の野中絵理子調査役、和智由希子チーフ、石田美惠子さんにご対応いただき、海江田伸夫社長にもご挨拶することができました。


《「自律自走」は、最初の雇用の経験から》

東急リバブルでは、2014年、それまで続いていた法定雇用率未達成を解消すべく、精神障害者を雇用する取組が始まりました。

この時、同社が採用したのは、4人のチャレンジスタッフ。精神障害といっても、障害の態様は様々だったそうです。この4人を雇用した経験が、「自律自走」を方向づけたとのことでした。

今、東急リバブルスタッフでは、仕事を引き受けるかどうか、誰と誰が担当して処理するか、そして作業の進捗管理も、チャレンジスタッフの皆さんが自分(自分たち)で判断し、実行しています。

2014年当時は、「4人でチームを組んで、そこに専任担当がひとり付いて」という定番のチーム編成。しかし、ある時、野中さんは気づいたそうです。「チャレンジスタッフ自身が工夫して業務を処理している。みんなで相談して工夫している。」

野中さんは、「それならば、できるかどうか、任せてはどうか?」と考えました。そして、それが本人たちの成長にもつながるのではないか、と。

その後、様々な試行錯誤とご苦労があったことだろうと拝察します。しかし、チャレンジスタッフの人数が増え(現在は90名。約3/4が精神障害)、単発の依頼も含め、多様な仕事を依頼されるようになった現在でも、チャレンジスタッフの「自律自走」は続いています。

ご説明いただいた資料には、「自分たちでよりよい仕事ができるよう考え、相談し合い、提案してもらう」とありました。

オフィスの見学やチャレンジスタッフとの意見交換では、皆さんの穏やかで自信に満ちた表情を拝見。「自律自走」がしっかりと機能していることを確信し、感銘を受けました。




《サポーターと「とりまとめ」》

チャレンジスタッフの皆さんは、どのような体制と進め方で「自律自走」しているのでしょうか? そこには、キーパーソンとして、サポーターと「とりまとめ」の存在がありました。

サポーターは、個々の業務の引受の可否を判断し、処理する体制を決め(差配)、「とりまとめ」は、それぞれの業務ごとに、一緒に業務をする仲間を束ねます。


《繁忙の度合いを5段階で登録》

業務を円滑に遂行し、依頼に確実に応えることは、組織にとって重要です。サポーターが差配し、「とりまとめ」を中心にみんなで話し合いながら業務を進める。その際には、一人ひとりの得意不得意や、それぞれが担っている業務量の多寡がポイントとなります。

そこで、東急リバブルスタッフでは、得意分野など個人の特性をデータベース化するとともに、チャレンジスタッフが日々の繁忙の度合いを登録する仕組みを用意して、参照できるようにしました。繁忙の度合いは、5段階の数値(1~5)で2週間先まで登録。自己評価ですので主観も加わりますが、一人ひとりの体調のことなどを考えると、主観が加わることで、かえって絶妙な仕組みとなっていると思えます。

このような見える化によって、業務処理をめぐる差配や話合いは、効果的・効率的に行うことができることでしょう。このことは、失敗のリスクを小さくします。組織として失敗のリスクが小さくなるということは、個人がチャレンジしやすくなるということでもあると思います。

見える化を加えた取組は、「自律自走」を下支えしていると感じました。


《支援スタッフが心がけていること》

東急リバブルスタッフにおいて、チャレンジスタッフ以外の「支援スタッフ」と呼ばれる社員は、野中さんたち3名のみです。

業務の面では、問題発生時にサポーターから相談を受けるとのことで、日々の業務の状況は「見守っている」といったところでしょうか。

とはいえ、チャレンジスタッフの皆さんとやり取りしている様子をみていると、野中さんたちは、業務の具体的内容や進め方をしっかりと把握しておられることがわかります。このことがあってこそ、「任せる」「任されている」という強い信頼関係が確立しているのだと思いました。

「自律自走」でチャレンジスタッフに多くを委ねている中、支援スタッフが何に心がけているか、お伺いしてみました。

石田さんは、とにかくしっかり話を聞くことを心がけているとのこと。定期面談や支援スタッフから声をかけて行う随時の面談はもちろん、「ちょっとお話が」というチャレンジスタッフからの相談にも、時間を取って耳を傾けているそうです。

和智さんからは、「ちょっと・・」と言い出せる環境をつくることが我々の大切な役割とのお話がありました。

私たちが意見交換に使わせていただいたのは、「Link!」と名付けられた、オフィスの一角にあるオープンスペース。開放感のある気持ちのよい場所で、すぐ横のテーブルでは、チャレンジスタッフがパソコンを使って仕事をしていました。我々のやり取りも、自然と耳に届いていたことと思います。

そんな風通しのよさと、支援スタッフの弛まぬ努力。これらも「自律自走」を支えていると思いました。




《特例子会社への移行は、雇用数の拡大が背景に》

東急リバブルスタッフは、もともとグループの中で、人材サービス業やクリエイティブ事業を担っていた会社でした。これを特例子会社に移行させたのは、一昨年のこと。背景には、東急リバブルにおける障害者雇用数の拡大があったとのことです。

例えば、時間単位の有給休暇の利用や通院休暇など、障害特性にも配慮した働きやすさを追求しようとすると、3千人以上いる社員全体への適用を前提とした制度の下では、きめ細かに対応することが難しくなってきたという事情があったそうです。

既存のグループ会社を移行させることによって、会社を新規に設立することに伴う諸負担も軽減。人材サービス事業を展開する東急リバブルスタッフの、人事管理ノウハウを活用することもできたとのことでした。

特例子会社となった現在の東急リバブルスタッフは、人材サービス業、クリエイティブ事業、業務サポートの3部門で構成。社員(常用雇用労働者)329名のうち、障害を持つ社員は、東急リバブルから転籍した社員を中心に97名です。見学したフロアでは、チャレンジスタッフ以外の社員も一緒に働いていました。インクルージョンの観点からも、優れた就業環境とお見受けしました。

野中さんたちは、東急リバブルの幹部に定期的にプレゼンしています。障害者雇用が生み出す効率化や生産性の向上を明らかにすることで、外部に発注するよりも効率的に業務を処理していることをアピールしているそうです。

特例子会社の存在意義を確認する大切な取組であると思いました。


《採用も、チャレンジスタッフの意見を参考に》

東急リバブルスタッフでは、社員の採用に際して、まず3日間の実習を実施。チャレンジスタッフが、カリキュラムを組み、進行・レクチャーします。その際のコミュニケーションの状況などをみて、仲間として一緒に働けるか、チャレンジスタッフの意見も参考に選考を進めているとのことです。

最近入社したチャレンジスタッフからは、実習を担当していた先輩たちの働く姿を見て、「ここなら自分も安心して働けそうと思った」とのお話も伺うことができました。

自分たちの仕事に自信を持って働くチャレンジスタッフの皆さんが、さらに新しい仲間を 呼び込む。「自律自走」を実現し、そんな好循環も生み出している東急リバブルスタッフの、これからがますます楽しみです。


2022年 もにす認定書授与式(ハローワーク渋谷にて)


~ 一緒に訪問したFVP・山梨恭子さんから、一言 ~

野中様の「精神発達障害のある方の可能性を広げていきたい。」という言葉が印象的でした。

採用するときは業務スキルではなく、「発信力」と「サポートを受ける力」をポイントにしているそうです。

チャレンジスタッフ一人ひとりが自分自身の希望や状態を周囲に伝えられること、また困ったときにチームメンバーや指導スタッフのサポートを受け、解決や修正につなげられること、これらがあって、チーム全体の自律自走につながっているのだと感じました。


《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。