埼玉県障害者雇用総合サポートセンター(さいたま市)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、埼玉県障害者雇用総合サポートセンターです。
2月に株式会社シンフォニア東武を訪問した際に、同社の椎山博司社長から、埼玉県内の障害者雇用に関するネットワークとその特徴ある取組についてお伺いし、そのネットワークの中核には、同センターの存在があることを教えていただきました。
そこで、椎山さんにご縁をつないでいただき、3月14日、同センター(さいたま市浦和区)を訪問しました。当日は、企業支援業務部門・部門長の𠮷原市郎さん、部門長代理の河崎誠司さんにご対応いただきました。
埼玉県障害者雇用総合サポートセンターは、JR北浦和駅に近い埼玉県・浦和合同庁舎にオフィスがあります。
発足当初(2007年)、「埼玉県障害者雇用サポートセンター」という名称であったこのセンターの母体とも言えるのが、さいたま障害者就業サポート研究会(2003年~)の活動です。
同研究会には、多様な団体・個人(行政、支援機関、教育機関、福祉施設、保護者会、障害者本人、企業など)が会員として集結。その活発な活動をもとに、県の事業として、「企業を支援する」という切り口から障害者雇用に携わる、全国初のセンターが発足しました。
2018年度からは、雇用開拓業務、職場定着支援業務が統合され、センターの名称に「総合」の2文字を追加、雇用開拓、企業支援、職場定着支援を一体的に推進するセンターとして、企業の障害者雇用を支援しています。
埼玉県障害者雇用総合サポートセンターの特徴は、上記のとおり、「雇用開拓」「企業支援」「職場定着支援」という、障害者雇用を進める流れに即した、体系的な支援を確立していることです。
「雇用開拓」では、「障害者雇用開拓員」が、主に100人未満規模の法定雇用率未達成企業を訪問。障害者雇用のメリット、障害者雇用制度の仕組みや各種助成制度、サポートセンターの支援内容などを説明します。
「企業支援」では、実際に雇用の場を創出することを支援。具体的には、
・個別に企業を訪問し、専門的な助言のほか、短期雇用体験や実習生の受入れなどを提案
・「障害者雇用ヘルプデスク」で、専門スタッフが「ちょっとした質問やお悩み」に対応
・障害者雇用を進めている企業の見学会、理解を深めるためのセミナーを開催
・企業のネットワークづくり、課題や対応方法などを共有する情報交換会の開催
などの幅広い活動を展開しています。
そして、「職場定着支援」では、ジョブコーチの派遣のほか、地域の就労支援機関と協働して、「安心して長く働けるよう」支援を行っているとのことでした。
このような体系的な支援を行うサポートセンターは、埼玉県内の企業にとって、とても心強い存在に違いないと思います。
これらの活動の中で、私が特筆すべきと感じたのは、「企業支援」の一環として、100人を超える規模の企業について、法定雇用率未達成であれば、毎年必ず一度は訪問することとしていることです。年間で約800社が対象となっているそうです。
企業規模で100人超を対象としているのは、障害者雇用納付金制度の対象であるかどうかに着目しているとのこと。
この活動は、いわばプッシュ型の支援と言えるでしょう。ハローワークによる指導とは別の形で、埼玉県の機関でもあるサポートセンターからこの訪問を受けることによって、企業は、障害者雇用の必要性や意義を常に意識せざるを得ないに違いありません。
そして、訪問の成果は、「支援事例集」と題する冊子(全138ページ)に集約。ホームページにも、「企業事例紹介」(133社分)として掲載され、手軽に参照できるようになっています。
企業訪問と事例の紹介は、埼玉県における障害者雇用の進展に大きく寄与しているものと感じました。
※「企業事例紹介」 http://www.koyou-support.jp/new/example/index.html
サポートセンターがこのような取組を進めることができているのは、多彩で経験豊かな人材を豊富に揃えているからです。
サポートセンターの企業支援業務部門は、特定非営利活動法人サンライズが、埼玉県から事業を受託して業務を実施しています。この部門には、
・企業支援アドバイザー(𠮷原さんほか、8名)
・精神障害者雇用アドバイザー(河崎さんほか、4名)
・難病患者雇用促進アドバイザー(1名)
の皆さんのほか、精神保健福祉士(PSW)も4名いて、総勢24名のスタッフが揃っています。
いただいた「企業支援業務のご案内」というパンフレットで、上記の3つの職務に携わる皆さんのプロフィールを拝見すると、県内の企業や特例子会社で、障害者雇用の推進に深く関わった経験を持つ方ばかり。部門長の𠮷原さんも、シンフォニア東武の元責任者です。
※スタッフ紹介 http://www.koyou-support.jp/new/organization/index.html
そのような方々が、ハローワークの管轄区域別に担当地域を分担して受け持ち、企業に対する支援を実施しているのですから、ハローワークとの連携を含め、密度の濃い支援となること、間違いなしです。
厚生労働省が毎年発表している「障害者雇用状況の集計結果」(毎年6月1日現在の障害者雇用状況報告を集計したもの)をみると、埼玉県における実雇用率は、10年前(2013年)に1.71%(全国は1.76%)であったものが、直近の2023年には2.42%(全国は2.33%)と、着実に上昇。その上昇幅は、全国と比較して大きなものとなっています。
この障害者雇用の進展には、サポートセンターの働きかけと支援が大きく貢献していることと思います。
一方で、ご対応いただいたおふたりからは、「県内には、東京に本社がある会社の支店なども多く、支援の結果が数字上は東京に計上されてしまうケースも、結構あるんですよ。」とのお話もありました。
前述の発表資料では、障害者雇用率の適用が企業単位となっていることから、都道府県別の状況は、企業の主たる事業所(本社)が所在する都道府県において集計したもの(埼玉県であれば、埼玉県に本社がある企業を集計)が公表されています。
一方、厚生労働省は、一時期、参考データとして「事業所所在地による集計の実雇用率」(事業所単位でみて、事業所の所在地で集計)を発表していたことがありました(2006年~2009年)。このデータでは、各都道府県において、域内でどれほどの雇用がなされているのか、その実質を把握することができます。ちなみに、2009年の発表資料でみると、実雇用率は次のとおりです。
・埼玉県 企業単位の集計 1.54% 事業所単位の集計 1.63%
・東京都 〃 1.56% 〃 1.47%
※2009年の発表資料(都道府県別の状況は、資料の20ページに掲載)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002i9x-img/2r98520000002ibf.pdf
集計の煩雑さがあることとは思いますが、各都道府県の「実勢」を見るためにも、地域において雇用や支援に携わる方々のご尽力に報いるためにも、事業所所在地による集計が復活することを期待したいと思います。
当日、河崎さんから、ある記事のコピーをいただきました。2006年9月3日付の讀賣新聞の全面企画広告「障害を超えて、働く喜び、自立する誇りを」です。
そこには、当時、厚生労働省の障害者雇用対策課長だった私が「働きたい、という思いを実現できる社会へ」というメッセージを寄稿。地域で支援に取り組んでいる事例として、NPO法人東松山障害者就労支援センターが紹介され、事務局長だった河崎さんの写真が掲載されていました。
今回、私が訪問したい旨をサポートセンターに問い合わせた時、河崎さんは「土屋さんって、あの土屋さん?」と思い出してくださったのだそうです。古い記憶を大切にしてくださった河崎さんへの感謝とともに、このコピーは大切な一品となりました。
あらためて埼玉とのご縁を強く感じつつ、埼玉県における障害者雇用の推進力として、埼玉県障害者雇用総合サポートセンターがその機能をますます発揮されることを、心よりお祈り申し上げたいと思います。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、埼玉県障害者雇用総合サポートセンターです。
2月に株式会社シンフォニア東武を訪問した際に、同社の椎山博司社長から、埼玉県内の障害者雇用に関するネットワークとその特徴ある取組についてお伺いし、そのネットワークの中核には、同センターの存在があることを教えていただきました。
そこで、椎山さんにご縁をつないでいただき、3月14日、同センター(さいたま市浦和区)を訪問しました。当日は、企業支援業務部門・部門長の𠮷原市郎さん、部門長代理の河崎誠司さんにご対応いただきました。
《地域の研究会の活動から生まれたセンター》
発足当初(2007年)、「埼玉県障害者雇用サポートセンター」という名称であったこのセンターの母体とも言えるのが、さいたま障害者就業サポート研究会(2003年~)の活動です。
同研究会には、多様な団体・個人(行政、支援機関、教育機関、福祉施設、保護者会、障害者本人、企業など)が会員として集結。その活発な活動をもとに、県の事業として、「企業を支援する」という切り口から障害者雇用に携わる、全国初のセンターが発足しました。
2018年度からは、雇用開拓業務、職場定着支援業務が統合され、センターの名称に「総合」の2文字を追加、雇用開拓、企業支援、職場定着支援を一体的に推進するセンターとして、企業の障害者雇用を支援しています。
《流れに即した体系的な支援》
「雇用開拓」では、「障害者雇用開拓員」が、主に100人未満規模の法定雇用率未達成企業を訪問。障害者雇用のメリット、障害者雇用制度の仕組みや各種助成制度、サポートセンターの支援内容などを説明します。
「企業支援」では、実際に雇用の場を創出することを支援。具体的には、
・個別に企業を訪問し、専門的な助言のほか、短期雇用体験や実習生の受入れなどを提案
・「障害者雇用ヘルプデスク」で、専門スタッフが「ちょっとした質問やお悩み」に対応
・障害者雇用を進めている企業の見学会、理解を深めるためのセミナーを開催
・企業のネットワークづくり、課題や対応方法などを共有する情報交換会の開催
などの幅広い活動を展開しています。
そして、「職場定着支援」では、ジョブコーチの派遣のほか、地域の就労支援機関と協働して、「安心して長く働けるよう」支援を行っているとのことでした。
このような体系的な支援を行うサポートセンターは、埼玉県内の企業にとって、とても心強い存在に違いないと思います。
《毎年必ず一度は訪問》
企業規模で100人超を対象としているのは、障害者雇用納付金制度の対象であるかどうかに着目しているとのこと。
この活動は、いわばプッシュ型の支援と言えるでしょう。ハローワークによる指導とは別の形で、埼玉県の機関でもあるサポートセンターからこの訪問を受けることによって、企業は、障害者雇用の必要性や意義を常に意識せざるを得ないに違いありません。
そして、訪問の成果は、「支援事例集」と題する冊子(全138ページ)に集約。ホームページにも、「企業事例紹介」(133社分)として掲載され、手軽に参照できるようになっています。
企業訪問と事例の紹介は、埼玉県における障害者雇用の進展に大きく寄与しているものと感じました。
※「企業事例紹介」 http://www.koyou-support.jp/new/example/index.html
《経験豊かな人材が事業を支える》
サポートセンターの企業支援業務部門は、特定非営利活動法人サンライズが、埼玉県から事業を受託して業務を実施しています。この部門には、
・企業支援アドバイザー(𠮷原さんほか、8名)
・精神障害者雇用アドバイザー(河崎さんほか、4名)
・難病患者雇用促進アドバイザー(1名)
の皆さんのほか、精神保健福祉士(PSW)も4名いて、総勢24名のスタッフが揃っています。
いただいた「企業支援業務のご案内」というパンフレットで、上記の3つの職務に携わる皆さんのプロフィールを拝見すると、県内の企業や特例子会社で、障害者雇用の推進に深く関わった経験を持つ方ばかり。部門長の𠮷原さんも、シンフォニア東武の元責任者です。
※スタッフ紹介 http://www.koyou-support.jp/new/organization/index.html
そのような方々が、ハローワークの管轄区域別に担当地域を分担して受け持ち、企業に対する支援を実施しているのですから、ハローワークとの連携を含め、密度の濃い支援となること、間違いなしです。
《埼玉県の「実勢」は?》
この障害者雇用の進展には、サポートセンターの働きかけと支援が大きく貢献していることと思います。
一方で、ご対応いただいたおふたりからは、「県内には、東京に本社がある会社の支店なども多く、支援の結果が数字上は東京に計上されてしまうケースも、結構あるんですよ。」とのお話もありました。
前述の発表資料では、障害者雇用率の適用が企業単位となっていることから、都道府県別の状況は、企業の主たる事業所(本社)が所在する都道府県において集計したもの(埼玉県であれば、埼玉県に本社がある企業を集計)が公表されています。
一方、厚生労働省は、一時期、参考データとして「事業所所在地による集計の実雇用率」(事業所単位でみて、事業所の所在地で集計)を発表していたことがありました(2006年~2009年)。このデータでは、各都道府県において、域内でどれほどの雇用がなされているのか、その実質を把握することができます。ちなみに、2009年の発表資料でみると、実雇用率は次のとおりです。
・埼玉県 企業単位の集計 1.54% 事業所単位の集計 1.63%
・東京都 〃 1.56% 〃 1.47%
※2009年の発表資料(都道府県別の状況は、資料の20ページに掲載)
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002i9x-img/2r98520000002ibf.pdf
集計の煩雑さがあることとは思いますが、各都道府県の「実勢」を見るためにも、地域において雇用や支援に携わる方々のご尽力に報いるためにも、事業所所在地による集計が復活することを期待したいと思います。
《大切な一品に感謝》
そこには、当時、厚生労働省の障害者雇用対策課長だった私が「働きたい、という思いを実現できる社会へ」というメッセージを寄稿。地域で支援に取り組んでいる事例として、NPO法人東松山障害者就労支援センターが紹介され、事務局長だった河崎さんの写真が掲載されていました。
今回、私が訪問したい旨をサポートセンターに問い合わせた時、河崎さんは「土屋さんって、あの土屋さん?」と思い出してくださったのだそうです。古い記憶を大切にしてくださった河崎さんへの感謝とともに、このコピーは大切な一品となりました。
あらためて埼玉とのご縁を強く感じつつ、埼玉県における障害者雇用の推進力として、埼玉県障害者雇用総合サポートセンターがその機能をますます発揮されることを、心よりお祈り申し上げたいと思います。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。