有限会社奥進システム (大阪市)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、有限会社奥進システムです。
同社代表取締役の奥脇学さんは、全障協(公益社団法人障害者雇用事業所協会)の専務理事を務めておられます。
大阪を訪問するこの機会に、奥脇さんにもお目にかかりたいと考え、5月26日、株式会社FVPの大塚由紀子さんと一緒に、同社(大阪市中央区)を訪問しました。
奥進システムは、2000年に設立。役員・社員あわせて11名、そのうち9名が障害を持つメンバーです。
奥脇さんは、もともと大手ソフトウェア会社でエンジニアとして勤務。しかし、家族との時間がまったく取れない生活に疑問を感じ、独立を決意したそうです。
その際、「仕事をする意欲と能力がありながら、毎日の出勤が難しく仕事をあきらめている人」に着目し、ネットワークで結んだ在宅勤務を基本として、システムエンジニアとして能力のある障害者やシングルマザーの雇用に取り組んだとのお話でした。
奥進システムの主力事業は、中小企業向けの業務管理システムの受託開発と、ホームページの制作。奥進システムといえば、SPIS(後述)のイメージがありましたので、意外でしたが、業務管理システム開発が売上の約9割を占めているとのこと。同社のホームページにある「システム開発事例」を見ると、業種・分野を問わず受注して、生産管理、受発注管理など様々なシステムを開発した実績があることがわかります。
また、「ホームページ制作事例」には、関西の医療・福祉関係の事業所などに多くの実績が。奥脇さんのお話では、障害者優先調達推進法に基づく優先調達によるものもあれば、社会的な意義を考えてボランタリーに受けた仕事もあるとのことでした。
地域のネットワークに根差した仕事を大切にされていると感じました。
奥進システムのオフィスは、大阪中心部のこぢんまりとしたテナントビルにあります。社員はほとんど在宅勤務だそうですが、この日は、技術部所属の社員6名が出勤。お仕事中のオフィスを見学させていただきました。
車いすユーザーの社員もいる中で、オフィスがある4階のフロアは、スロープや引き戸、低い位置にあるワイドスイッチなど、あちこちにバリアフリーの改善が施されています。ビルのオーナーが理解のある方で、思い通りにできたとのこと。これは、(残念ながら)他ではなかなかないことだと思います。
一方で、同社のバリアフリー化は、フルスペックでというわけではありません。例えば、男性用トイレの入口は、ドアではなくカーテンになっていますが、小便器には手すりが付いていません。手すりがなくとも障害を持つ社員は用が足せて、むしろ手すりがあると邪魔にもなるからだそうです。
限られた予算で必要に即した分を改善して、意味のあるバリアフリーを実現する、そういう考え方が徹底されていると感じました。
バリアフリー化に当たっては、障害者作業施設設置等助成金を活用したとのこと。ただ、奥脇さんは当初、助成金に頼るお考えはなかったそうです。しかし、全障協の仲間から「申請することによって、助成金の予算や取組が大きなものになる」という話を聞き、考えを変えたとのことでした。
奥脇さんからは、「自分たちが申請した時の経験や申請書類を、ホームページで公開しているから」とのお話も。中小規模の企業でも助成金を活用しやすいように、同じような取組をしている方々の少しでも参考になれば、との気持ちからだそうです。
私も後日、ホームページのこのコーナーを拝見しました。トップページにある「私たちが社会に対してできること」というバナーから入ると、「助成金の活用」というコーナーが。少々見つけにくい所にありますが、「どんな場面でどんな助成金が使えたか」「認定申請で何が面倒だったか」や、提出した申請書類の実例(PDF)など、会社の経験を広く公開していて、情報量が豊富です。
一企業の取組として、社会への貢献を意識し、ここまでの取組をされていることは、素晴らしいことだと感じました。ご関心のある方は、ぜひ下記のURLをご覧ください。
*「助成金の活用」 https://www.okushin.net/system/subsidy/
奥進システムといえば、SPISが思い浮かぶ方も多いと思います。
SPISは、職場定着を支援するweb日報システム。「かんたん日報で業務報告」「しっかりコミュニケーション」などの機能が搭載されています(https://www.spis.jp/)。奥進システムが障害者雇用に取り組む中で、精神障害や発達障害を持つ方の定着支援が社会的に必要との認識に至り、同社の精神障害を持つ社員が、自身の経験を踏まえて開発したそうです。
SPISは、現在、奥進システムのほか、特定非営利活動法人 全国精神保健職親会、一般社団法人SPIS研究所が、その運営や普及を進めています。
また、派生システムとして、ATARIMAEクラウド(株式会社FVPが提供)、リワーク向けのWellco(株式会社リウェルが提供)が生まれているとのこと。
奥脇さんは、これらの各主体が連携して、システムや活用方法の周知に一緒に取り組めたらとのお考えです。私も、精神障害者や発達障害者の雇用が今後ますます進むことを考えると、SPISの普及はとても重要だと感じました。
奥進システムは、前述のとおり、役員・社員あわせて11名という規模。奥脇さんに「システム開発の会社としては、どの程度の規模が一般的なのですか?」とお尋ねしてみたところ、「20人から30人といったところかな」とのお答えでした。
奥脇さんとしても、会社の安定的な運営のために、20人程度まで社員を増やしたいとの思いがあるとのこと。特に「今、できていないこと」という意味では、受注が受け身になっていて、提案型の営業が十分にできていないそうです。
システム開発は、当然に業務フローの見直しを伴います。そこで、むしろ業務フローの改善提案とセットで、システムを売り込めないかとの構想をお持ちです。さらには、「あわせて、障害者雇用もお勧めできないか」とのお話もありました。
営業も担当できる社員を増やして、体制を強化する。その方針に関して、障害を持つ社員からは、「社員を増やすのであれば、これからは健常者を増やしてほしい」との声があるそうです。自分たちの技術を一層活かしていくためにも、障害の有無に関わらない協働を、ということでしょうか。
私は、インクルージョンの点からも、興味深いお話としてお伺いしました。
対外的・社会的な活動でも全国を駆け回っている奥脇さんに、大阪のオフィスでお目にかかり、お話を伺えたのは幸運でした。
奥進システムが、地域とのつながりを大切にしながら、DXの波にも乗って、ますます発展されることをお祈りしたいと思います。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、有限会社奥進システムです。
同社代表取締役の奥脇学さんは、全障協(公益社団法人障害者雇用事業所協会)の専務理事を務めておられます。
大阪を訪問するこの機会に、奥脇さんにもお目にかかりたいと考え、5月26日、株式会社FVPの大塚由紀子さんと一緒に、同社(大阪市中央区)を訪問しました。
《業務管理システムの開発が、事業の中心》
奥脇さんは、もともと大手ソフトウェア会社でエンジニアとして勤務。しかし、家族との時間がまったく取れない生活に疑問を感じ、独立を決意したそうです。
その際、「仕事をする意欲と能力がありながら、毎日の出勤が難しく仕事をあきらめている人」に着目し、ネットワークで結んだ在宅勤務を基本として、システムエンジニアとして能力のある障害者やシングルマザーの雇用に取り組んだとのお話でした。
奥進システムの主力事業は、中小企業向けの業務管理システムの受託開発と、ホームページの制作。奥進システムといえば、SPIS(後述)のイメージがありましたので、意外でしたが、業務管理システム開発が売上の約9割を占めているとのこと。同社のホームページにある「システム開発事例」を見ると、業種・分野を問わず受注して、生産管理、受発注管理など様々なシステムを開発した実績があることがわかります。
また、「ホームページ制作事例」には、関西の医療・福祉関係の事業所などに多くの実績が。奥脇さんのお話では、障害者優先調達推進法に基づく優先調達によるものもあれば、社会的な意義を考えてボランタリーに受けた仕事もあるとのことでした。
地域のネットワークに根差した仕事を大切にされていると感じました。
《バリアフリーは必要に即して》
車いすユーザーの社員もいる中で、オフィスがある4階のフロアは、スロープや引き戸、低い位置にあるワイドスイッチなど、あちこちにバリアフリーの改善が施されています。ビルのオーナーが理解のある方で、思い通りにできたとのこと。これは、(残念ながら)他ではなかなかないことだと思います。
一方で、同社のバリアフリー化は、フルスペックでというわけではありません。例えば、男性用トイレの入口は、ドアではなくカーテンになっていますが、小便器には手すりが付いていません。手すりがなくとも障害を持つ社員は用が足せて、むしろ手すりがあると邪魔にもなるからだそうです。
限られた予算で必要に即した分を改善して、意味のあるバリアフリーを実現する、そういう考え方が徹底されていると感じました。
《助成金の活用経験をオープンに情報提供》
奥脇さんからは、「自分たちが申請した時の経験や申請書類を、ホームページで公開しているから」とのお話も。中小規模の企業でも助成金を活用しやすいように、同じような取組をしている方々の少しでも参考になれば、との気持ちからだそうです。
私も後日、ホームページのこのコーナーを拝見しました。トップページにある「私たちが社会に対してできること」というバナーから入ると、「助成金の活用」というコーナーが。少々見つけにくい所にありますが、「どんな場面でどんな助成金が使えたか」「認定申請で何が面倒だったか」や、提出した申請書類の実例(PDF)など、会社の経験を広く公開していて、情報量が豊富です。
一企業の取組として、社会への貢献を意識し、ここまでの取組をされていることは、素晴らしいことだと感じました。ご関心のある方は、ぜひ下記のURLをご覧ください。
*「助成金の活用」 https://www.okushin.net/system/subsidy/
《SPISは、社員の経験から開発》
SPISは、職場定着を支援するweb日報システム。「かんたん日報で業務報告」「しっかりコミュニケーション」などの機能が搭載されています(https://www.spis.jp/)。奥進システムが障害者雇用に取り組む中で、精神障害や発達障害を持つ方の定着支援が社会的に必要との認識に至り、同社の精神障害を持つ社員が、自身の経験を踏まえて開発したそうです。
SPISは、現在、奥進システムのほか、特定非営利活動法人 全国精神保健職親会、一般社団法人SPIS研究所が、その運営や普及を進めています。
また、派生システムとして、ATARIMAEクラウド(株式会社FVPが提供)、リワーク向けのWellco(株式会社リウェルが提供)が生まれているとのこと。
奥脇さんは、これらの各主体が連携して、システムや活用方法の周知に一緒に取り組めたらとのお考えです。私も、精神障害者や発達障害者の雇用が今後ますます進むことを考えると、SPISの普及はとても重要だと感じました。
《提案型の営業を目指したい》
奥脇さんとしても、会社の安定的な運営のために、20人程度まで社員を増やしたいとの思いがあるとのこと。特に「今、できていないこと」という意味では、受注が受け身になっていて、提案型の営業が十分にできていないそうです。
システム開発は、当然に業務フローの見直しを伴います。そこで、むしろ業務フローの改善提案とセットで、システムを売り込めないかとの構想をお持ちです。さらには、「あわせて、障害者雇用もお勧めできないか」とのお話もありました。
営業も担当できる社員を増やして、体制を強化する。その方針に関して、障害を持つ社員からは、「社員を増やすのであれば、これからは健常者を増やしてほしい」との声があるそうです。自分たちの技術を一層活かしていくためにも、障害の有無に関わらない協働を、ということでしょうか。
私は、インクルージョンの点からも、興味深いお話としてお伺いしました。
対外的・社会的な活動でも全国を駆け回っている奥脇さんに、大阪のオフィスでお目にかかり、お話を伺えたのは幸運でした。
奥進システムが、地域とのつながりを大切にしながら、DXの波にも乗って、ますます発展されることをお祈りしたいと思います。
《自社PR》
システム開発、ホームページ制作などで、私たちの理念の「私たちと、私たちに関わる人たちが、とてもしあわせと思える社会づくりをめざします」を目指して頑張っている一般企業です。
社員も障がいある人がほとんどで、役員1名も重度身体障がい者ですが、日々工夫しながら他の会社に負けないように頑張っています。
「SPIS(就労定着支援システム)」なども実験的に作って、私たちのノウハウと技術が「とてもしあわせと思える社会づくり」に貢献できるか日々考えています。
《会社概要》
社名 | 有限会社奥進システム |
主な業種 | システム開発、ホームページ制作 |
従業員数 | 10 名 |
うち障害者社員の人数 | 9 名 |
障害の内訳 | 身体2人、知的0人、精神7人 |
URL |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。