会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社日立ゆうあんどあい

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社日立ゆうあんどあいです。

SACEC理事でもある同社の浅野和則相談役からお誘いをいただき、1月25日、横浜市戸塚区にある本社を訪問しました。本社は、親会社である株式会社日立製作所の横浜事業所の構内にあります。当日は、浅野さんのほか、大岩一郎社長、水津隆史 業務統括部統括部長、山口秀信 採用定着支援課長にご対応いただきました。

また、今回の訪問では、これまで訪問してお世話になったSACEC会員各社にもお声がけし、東京海上ビジネスサポート株式会社の小室知彦社長、伊原裕取締役、株式会社FVPの上野利之さんと一緒にお伺いしました。


《「拠点分散型」で展開》

日立ゆうあんどあいは1999年に設立され、現在は社員数597名。そのうち障害を持つ社員が435名で、その約8割が知的障害者です。展開している業務は、今回見学したオフィス清掃や社内郵便集配のほか、幅広く18種類に及んでいます。




日立ゆうあんどあいの取組の特徴は、「拠点分散型」にあります。いただいた資料にも会社の特徴として明記され、7都府県に125拠点と記載されています。

お話を伺うと、その背景には、二つの大きな要素があると理解しました。一つは、事業所の現場で障害者雇用を推進するという日立製作所の方針であり、もう一つは、障害を持つ社員が働く場所である事業所の広さです。


《ビジネスユニットごとに、実雇用率を算定》

日立製作所では、障害者雇用を進める仕組みとして、ビジネスユニットごとに実雇用率を算定して、法定雇用率に比べて不足が生じていないかを評価しているとのこと。この評価に当たっては、その時点の状況だけではなく、3年後の見通しも推計して、対応を検討するそうです。

ビジネスユニットには、ホームページを拝見すると
・エネルギー
・インダストリアルデジタル
・鉄道
・サービス&プラットフォーム
などがあり、また、グループ各社についても、その会社ごとに同様の評価・検討を行っているとのことです。

そして、不足がある場合(見込まれる場合)には、ビジネスユニットの人事担当と協議して、そのビジネスユニットの現場からの職務の切り出しを検討します。

その際、ビジネスユニット側が主体的に考えることが基本とのこと。残念ながら、ビジネスユニット側から、おんぶにだっこの対応を求められるような場合もあるとのことで、如何に本気にさせるか、日立ゆうあんどあいの力の見せ所です。


《職務の切り出しは、3人一組を単位に》

職務の切り出しでは、障害を持つ社員3名を1つの単位と想定して、どのような職務が考えられるかを具体的に検討します。

この3人一組という考え方は、浅野さんによれば、日立ゆうあんどあい設立の頃には、他社にもよくあった考え方とのことですが、具体的な職務を考える単位として、大きすぎず、検討しやすい規模ではないかと感じました。

そして、この3人一組は、指導員1名とあわせて「拠点」の単位にもなっています。

訪問した横浜事業所においても、例えば社内郵便集配の拠点は建屋ごとにあり、オフィス清掃の拠点もあちこちにあって、そこから会議室の清掃などに出動します。

このような分散した配置の様子を実際に拝見し、この取組が、広大な敷地に大きな建屋という横浜事業所の特色によくマッチしたものであることを実感しました。


《指導員教育をきめ細やかに》

一方で、拠点の分散は、労務管理やガバナンスの点ではデメリットになりそうです。この点には、指導員教育をきめ細やかに行うことで対応しているとのお話でした。

指導員はそのビジネスユニットから選抜されるので、業務や組織の文化に精通していますし、日立社員としてモチベーションを高く持っているとのことです。

そのうえで、150名近くいる各地の指導員を束ね、業務指導を向上させる取組が用意されており、例えば、「スキルアップ研修」や現場作業の情報共有を図る「拠点業務向上会議」をそれぞれ年1回行うなど、多彩なメニューがみられます。


(スキルアップ研修)
(拠点業務向上会議)

日立ゆうあんどあいは、社員研修にも力を入れており、社員研修と指導員教育が、会社の活力を生む車の両輪になっていると感じました。


《就労移行支援やB型からの採用が多数》

日立ゆうあんどあいへの入職経路をお伺いすると、特別支援学校からの新規卒業者よりも、就労移行支援や就労継続支援からの移行が多く、6割以上を占めているとのこと。就労継続支援からの移行は、B型もA型も実績があるそうです。

これは、日立ゆうあんどあいの取組が地域の事業所によく理解されている証左であり、日頃の連携の賜物ではないかと思います。福祉から一般就労への移行の、ひとつのモデルケースと言っていいのではないでしょうか。

連携という面では、日立ゆうあんどあいの社員が、休職時の復職に向けた訓練の場として一時的にB型の事業所を利用する取組も、地域における工夫として行われてきたとのこと。

この取組は、昨年の障害者総合支援法の改正によって、制度として位置づけられました。浅野さんは、この改正を高く評価されるとともに、職業生活からの引退過程の仕組みづくりが今後の課題として残されたことに、残念な思いを漏らしておられました。


《在宅勤務が定着する中で》

横浜事業所の正門から幅広く真っ直ぐに伸びる中央の通路は、完成したテレビを満載したトラックが行き交っていたであろう、かつての光景を彷彿とさせます。今は周囲の建屋も建て替えられてIT関連事業の拠点となっており、構内には静けさが漂います。

しかし、この静けさは、事業の変遷だけが理由ではありません。コロナ禍前には約6千人が勤務していたという大きな建屋でも、現在はほとんどの社員が在宅勤務とのこと。1階に設置された大型コンピューター・サーバーが黙々と(?)稼働しているのが、印象的でした。

この変化が日立ゆうあんどあいの業務にどのように影響していくのか、今後の大きな課題となっているとお見受けしました。使用頻度が減少した会議室の清掃作業は、どうなるのか。在宅勤務が定着する中、社内便はどのようになっていくのか。

加えて、訪問した際のホットな話題は、法定雇用率の2.7%への引き上げでした。在宅勤務の定着と法定雇用率の引き上げ、その両面を見据えて、これからの職域をどのように確保していくのか、精神障害者の雇用をどのように拡大していくのか、新たな展開を期待したいと思います。


《処遇改善は特例子会社でも》

最近のもうひとつのホットなテーマは、賃上げです。今回の訪問は1月下旬でしたので、春闘が始まったちょうどその頃でした。

今年の春闘の課題は、賃上げのモメンタムの維持だけではなく、物価上昇にも負けない賃上げを如何に行い、賃上げと成長の好循環を実現するかにあると思います。そして、そこには、中小企業への波及がしっかりと織り込まれなければなりません。そのためには、適正取引の実現や適切な価格転嫁が不可欠です。

このことは、特例子会社にとって、親会社との特有の関係性があるとしても、例外ではありません。日立ゆうあんどあいにおける対応についてお伺いすると、親会社と議論を重ねながら、関係各社も含めて相互理解を進めているとのことでした。


直面する様々な課題を乗り越えて、日立ゆうあんどあいが今後ますます発展されることを、心よりお祈り申し上げます。


《自社PR》

 「この~樹なんの樹・・・」のCMでお馴染み・・・「(株)日立ゆうあんどあい」は、日立グループの一員です。「友情と愛情」「あなたと私」を表す社名は、「人と人とのつながり」や「支え合い」「助け合い」など、人生の原点に通じています。
当社は、1999年10月に、知的障がい者雇用機会創出のために(株)日立製作所の特例子会社として設立以降、社員全員が、「オアシス」(挨拶)、「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)することを基本に、コミュニケーション・信頼関係を大切にし、社員サポートにおいては、一人ひとりの障がいの特性を個性と捉え、きめ細かなケアに努め、定着に向けて、就労支援機関・学校など各機関・団体との連携を密に、最大限の対応を図って参りました。また、業務開発も進め、2018年からは、身体障がい者や精神障がい者の雇用にも取り組みました。
さらに、2020年4月には、(株)日立製作所の特例子会社である「サンシャイン茨城」および(株)日立ビルシステムの特例子会社である「ビルケアスタッフ」と合併し、各社が有していた人財 や運営ノウハウ・知見などを当社に集約することで、障がい者が働きやすい環境を整備するとともに、提供するサービスの拡充を図り、障がい者の就業機会拡大をめざしています。
これらの取り組みの結果、当社は、障がい者雇用数において、日本有数の特例子会社に成長しており、これもひとえに、(株)日立製作所や日立グループ各社のご支援・ご協力、そして、支えていただいている全ての方々の努力の賜物であると、心から御礼申し上げたいと思います。当社は、今後とも、障がい者に多くの就業機会を提供するとともに、活躍できる機会創出を通じて、社会価値の向上と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。