会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

ポラスシェアード株式会社

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、ポラスシェアード株式会社です。

ものつくり大学に関わるようになって、ご縁が深くなった埼玉県。これを機に県内の会社を巡ってみようと思い立ち、先日、株式会社シンフォニア東武を訪問しました。その際、同席していただいたのが、ポラスシェアードの鈴木英生 ビジネスサポート課長です。

そこで、今度は鈴木さんにお願いして、埼玉県越谷市にある同社を訪問することとしました。当日は、取締役の内田美由喜さんと鈴木さんに、ご対応いただきました。




《グループの事業や業務に必要な人的資源を確保する》

ポラスシェアードは、埼玉県内を中心に住宅関連事業を展開するポラス株式会社(埼玉県越谷市)の特例子会社として、2015年に設立。ビジネスサポート課(59名)とローンサポート課(13名)の2課で構成され、43名の障害のある社員は、ビジネスサポート課に所属。身体障害者が10名、知的障害者が6名、精神障害者27名となっています。

ポラスシェアードの特徴は、単に障害者雇用を進めるというだけではなく、ポラスグループの一翼を担い、グループの事業や業務に必要な人的資源を確保するという観点から、運営されていること。その背景には、同社設立以前の雇用率確保重視の障害者雇用に対する反省があったそうです。

当日いただいた説明資料には、
「自立(自分のことは自分で)」
「利他(誰かを助け、誰かを支える)」
との記載があり、これらも、人的資源の確保という観点に由来するものと拝察しました。ほぼ100%をグループ各社から受託しているという多様な業務は、各社からの発注に当たって、グループ内といえども、相見積もりが行われているとのことです。

そのような厳しさがある中で、ポラスシェアードは、設立以来、黒字を追求。2017年には、ポラス株式会社からローンサポート業務を移管し、経営基盤の強化も図られました。ローンサポート課は、ポラスシェアードのホームページで「特例子会社の安定成長を支える」と紹介されています。

ビジネスサポート課単体でも、設立以降、2016年度から直近の2023年度まで、継続して経常利益の黒字を計上してきました。2023年度には、設立以来最高の業績を挙げ、3年連続の営業利益の黒字化を達成したとのこと。素晴らしい成果です。


《障害のある社員が業務のリーダーに》

鈴木さんから、ポラスグループの事業展開とその特色、ポラスシェアードの取組みについてご説明いただいたあと、皆さんが働いている社内を案内していただきました。

ポラスシェアードが担っている業務は、現在、約90種類とのこと。グループ各社から発注されている多様な業務は、社員一人ひとりの経験や資格、障害特性に合わせて、担当する社員が決められています。

見学では、一人ひとりがどんな業務を担当しているか、丁寧な説明がありました。みんながそれぞれに違う仕事を行っている様子は、特例子会社のオフィスではあまり見かけない光景かもしれません。

業務を進めるに当たっては、障害のある社員が業務のリーダーとなって、メンバーの日常業務の管理・指示・指導を自ら行っているとのことでした。このような業務体制は、これまで訪問した特例子会社でも、ごく数社で拝見したのみです。これも「自立」(自律)という考え方に基づくものとお見受けしました。

ポラスシェアードには、いわゆる指導員という立場の社員はいないそうです。管理的な業務に携わっているのも、鈴木さんをはじめ、親会社から出向している4名の社員のみとのことでした。

社員の皆さんが、集中して活き活きと、それぞれの業務に主体的に取り組んでいる様子を拝見して、会社が掲げる「自立」「利他」の精神が社員に浸透し、働きがいや生産性の向上にもつながっていると、実感しました。


《技術系の業務を強みに》

ポラスシェアードの多様な業務は、大きく分けると、技術系サポート業務と事務系サポート業務に分けられます。事務系の業務の中には、ポラスグループがトップパートナーとなっている浦和レッズとのコラボグッズを、販促用のノベルティとして管理する業務などもありました。

そして、鈴木さんからは、「他の特例子会社にあまり例がないのは、技術系の業務ではないか」とのお話が。例えば、次のような業務です。
・CADを使った、注文住宅の竣工図面の作成
・上下水道の配置計画、設計
・サイディング(外壁を仕上げる板材)やクロス材の積算、環境計算書作成  など
これらの業務の中には、資格を必要とするものもあるとのこと。ポラスシェアードでは、一級建築士や宅地建物取引士など、社員の資格取得の推奨・支援も行っています。

技術系のノウハウは、業務の効率化の面でも活かされています。

ポラスシェアードでは、RPA(Robotic Process Automation)を自社で構築して、業務に活用。夜間でも稼働し続けることができるRPAは、効率的な業務処理に大きく貢献しているそうです。私も、RPAで自動的にデータを処理している様子を、パソコンのモニター上で見せていただきました。

RPAの構築・活用は、ポラスグループ全体の方針となっており、各社の業務に即して、それぞれで行われているとのこと。鈴木さんは、グループ他社の業務でも、ポラスシェアードが持つノウハウを活かすことができるはずとのお考えで、受注拡大につなげていきたいとのお話でした。


《出勤率や社員の退職に課題》

着実に事業が進展する中にあって、課題として挙げられたのは、社員の出勤率(通年で約85%)や、少なからず発生している退職者(2023年度は7名)です。このことは、精神障害者を雇用する特例子会社の多くに共通する課題でもあります。

鈴木さんに、「PSW(精神保健福祉士)の資格をお持ちの社員は、いらっしゃるのですか?」とお尋ねしたところ、社会福祉士の資格を持つ社員はいますが、産休・育児休業に入る予定とのこと。PSWは、募集してもなかなか応募がないとのお話でした。

精神障害者の雇用が進む中、企業におけるPSWのニーズは高まっており、PSWの資格を持つ方々にとっても、雇用の現場は、医療や福祉の現場と並ぶ、資格を活かせる働きがいのある職場となってきていると感じます。PSWの養成課程においても、このような状況の変化を踏まえた教育が行われることを強く期待したいと思います。


《全国アビリンピックに出場》

今回の訪問で、ポラスが越谷発祥の企業であり、「地域密着型経営」を理念として掲げていることを知りました。ポラスグループのパンフレットには、JR武蔵野線沿いにある4つの拠点から「60分を目安に駆けつけられる範囲に施工エリアを限定し、アフターメンテナンスを充実させています。」とあります。

また、グループの方針である一貫施工の体制を支える人材を育成するため、グループ内に「ポラス建築技術訓練校」(1987年設立。職業訓練法人ポラス建築技術振興会が運営)を擁している点も、大きな特徴と言えます。青年技能者の大会である「技能五輪全国大会」や、熟練技能者が集う「技能グランプリ」にも、これまで多くの選手(建築大工など)を送り出し、大きな成果を収めているとのことでした。

この気風はポラスシェアードにも受け継がれ、アビリンピックの埼玉大会には、毎年、同社から選手が出場。2023年には、「ワード」「オフィスアシスタント」の2種目で、全国大会にも出場を果たしています。




建設業では、2025年4月に除外率の引下げ(20%→10%)もあり、障害者雇用の一層の拡大が求められています。厳しい環境の中にあっても、ポラスシェアードが、地域密着というグループの特色も活かして、埼玉県東部地域の障害者雇用に大きく貢献されることを心からご期待申し上げたいと思います。

《自社PR》

ポラスシェアードは、2015年にポラスグループに誕生した「特例子会社(越谷市では初、埼玉県では22番目の設立)」。グループの障がい者雇用をより一層促進・充実させることはもちろん、地元密着企業として更なる地域貢献を果たすことを目的として設立。人事・総務系の事務業務を中心に、特例子会社としては珍しい設計補助業務もグループ内から受託し、“他にはない特例子会社”を目指しています。また、設立後の2016年から積極的に「アビリンピック(全国障害者技能競技大会)」にも参加。2023年度は4種目に参加し「ワード」「オフィスアシスタント」で埼玉大会『金賞』を獲得しています。(2競技とも全国大会出場)。 更には、公的資格取得へのチャレンジや、グループ内で展開する教育施策「ポラスアカデミー」への講座参加も推進するなど、人材育成にも積極的に取り組んでいます。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。