SOMPOチャレンジド株式会社(東京都西東京市)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、SOMPOチャレンジド株式会社です。
損害保険の業界には、業界で最初に設立された東京海上日動ビジネスサポート株式会社(TMBS)のほかに、3つの特例子会社があります。
私も同業他社の取組に関心がありましたので、TMBS常務取締役の石川孝弘さんにお願いして、SOMPOチャレンジドの担当者をご紹介いただき、5月31日、同社の本社(西東京市)を訪問しました。
当日は、同行希望があった戸田建設株式会社、株式会社FVPの皆さん6名と一緒に、訪問。中川崇生 社長、矢野純司 常務執行役員(事業開発部長)、事業開発部キャリア支援グループリーダーの山﨑智美さん、同業務支援グループリーダーの浅野登紀子さんに、ご対応いただきました。
SOMPOチャレンジドは、SOMPOホールディングス株式会社を親会社として、2018年に設立。損害保険ジャパン株式会社をはじめとするSOMPOグループ18社が、グループ適用の認定を受けています。
設立から6年目を迎えた現在、社員数は203名、うち障害を持つ社員(メンバー)は123名。障害者手帳の種別でみると、精神障害が約72%、知的障害が約26%ですが、これらの方々の多くには、発達障害があるとのことです。
この日訪問した本社のある西東京オフィスは、JR中央線の武蔵境駅から少し離れた住宅地にある「損保ジャパン事務本部ビル」という大きな建物に、グループ各社とともに入居。新宿や日本橋、池袋(*)にも拠点を展開する中で、西東京オフィスでは56名のメンバーが働いています。
*池袋オフィスは、2023年7月に開設予定。社員数などは、同年4月1日時点の数字。
見学した様々な業務の中で、印象に残ったのは、倉庫に保管されていた古い保険申込書の仕分け作業。大量の段ボール箱にぎっしりと詰め込まれた申込書を、「保存」「永久(保存)」「廃棄」の3つに分類します。申込者が手書きで記入した、保険の種類によって様式も違う申込書。保険の終期の欄などを確認して1枚1枚仕分ける作業は、たいへん細かく神経を使う作業です。
この作業で、倉庫の保管料を大きく節減することができるとのこと。グループにとって、大きな意味のある仕事です。
もうひとつは、事故サポートセンターに入った事故連絡の電話音声のモニタリング。録音データを聞いて、受付担当者が必要事項をしっかりと伝えているか、確認しているかをチェックします。50を超えるチェック項目がありますし、事故の発生を伝える電話ですので、心理的な負担も大きい仕事だと思います。
この業務では、発達障害のひとつの特性として、聴覚による認知に優れた人がいることに着目。メンバーの処理能力は目を見張るものがあり、応答品質の向上に必要なこの業務に欠かせないとのことです。
SOMPOチャレンジドは、雇用の拡大だけではなく、「質の向上」に積極的に取り組んでいます。なかでも先進的と感じたのは、メンバーのキャリア形成支援です。
多様なメンバー一人ひとりに合わせて、着実な成長を支援するため、
「教育・研修」
「自己啓発」
「体験・経験」
の三つの柱で構成する「キャリア開発プログラム」を導入。
「教育・研修」では、各種の集合・動画視聴研修、SST(Social Skills Training)などを実施しているほか、OJTでは、スキルマップを作成し、スキル習得チェック表なども活用。
「自己啓発」では、会社が推奨する資格(ITパスポート検定、漢字検定など)を取得したメンバーに、受験料やテキスト代などの一部を補助しています。
特徴ある取組は、「体験・経験」の中に、ジョブローテーションと並んで位置づけられている「社内留学」。メンバーの自発的な希望に基づき、担当外の業務を短期間(1日~5日)体験します。社内のどこの部署へも、原則、応募することができるとのこと。初めて実施した時は、「手が挙がるだろうか?」と心配したそうですが、いざやってみると、たくさんの応募があったそうです。
特例子会社において、メンバーの主体性を尊重しながら、一般企業と遜色のない多様なメニューを体系的に提供していることに、感銘を受けました。
メンバーの主体性に関しては、指導者が日頃のコミュニケーションを通じて、いかに引き出していくか、その役割も重要とのお話がありました。SOMPOチャレンジドでは、指導者のスキルアップについても、豊富なメニューが用意されています。
社内研修では、「事例検討会」や「評価実務研修」を定期的に実施。社外研修には、障害者職業生活相談員の資格認定講習、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修や、SST講師養成講座も。2021年度には、社会福祉士と精神保健福祉士(PSW)に、それぞれ2名が合格しています。
SOMPOチャレンジドの指導員は、グループ各社からの出向者。損害保険の業務には精通していても、障害者対応は初めてという方も多い中で、このような体系的な取組は、とても心強いのではないでしょうか。
そして、メンバーのキャリア形成支援と指導員のキャリアアップが車の両輪となって、会社の活力を生み出していると感じました。
SOMPOチャレンジドでは、前述のとおり、精神障害者の比率が高く、メンバーの採用は、中途採用が中心(約77%)です。中途採用は、年4回の入社に合わせて随時実施。面談と職場実習(5日間)を経た上で、トライアル雇用を活用しています。
採用後の定着支援では、指導員やサポーター(PSWなど)による「いつでも相談できる体制」を整備。メンバーが業務進捗や相談事項を記載する日報をクラウドで管理して、定着支援にも活用しています。
同社では、就労支援機関との連携を重視していることも、印象的でした。
メンバーが登録している支援機関や特別支援学校を対象に、会社の取組を共有する「支援機関業務連絡会」を開催(年3回)。「定着面談」も、入社後6か月は原則として毎月、その後も必要に応じて、支援機関や特別支援学校の担当者が同席する形で実施しています。
メンバーが通勤している範囲から、多摩地域や23区西部のほか、埼玉県内の機関・学校とも関係を深めているとのこと。最近は、23区東部や神奈川県内の機関・学校との関係づくりにも、積極的に取り組んでいるそうです。
就労移行支援事業から就職したメンバーに関しては、就労移行支援事業者が行う定着支援から、地域の就労支援機関による支援に円滑に移行できるよう、必要な場合には、会社が主体となって、移行に向けた準備を進めることもあるとのことでした。
SOMPOグループでは、SOMPOチャレンジド以外のグループ各社(18社)においても、障害者雇用を推進。雇用率算定上のカウントにして約1100カウントと、障害を持つ多くの社員が働いています。
この状況を踏まえ、SOMPOチャレンジドでは、グループ各社の障害者雇用を支援する取組を開始。「つながるチャレンジド」として、グループ会社の障害者雇用担当からの相談に対応する窓口を設置しました。グループ各社に赴いて各社の実情を把握し、意見交換を行う取組も、近く始める予定とのことです。
このような他社への支援は、厚生労働省の施策の中でも、特例子会社の新たなあり方として位置づけられています。中川さんは、グループの中で「特例子会社ばかりで雇用が進むのは、いかがなものか」とお考えの様子。インクルージョンの観点からも、これからどのように取組が進んでいくか、楽しみです。
SOMPOチャレンジドでは、地域への貢献にも積極的に取り組んでいます。
昨年4月には、グループ2社とともに、地元の西東京市と「包括連携協定」を締結。さらに今年に入ってから、SOMPOチャレンジドと同市の間で、協定に関する覚書も取り交わしたとのこと。
この覚書では、就労体験の場の提供、企業に対するノウハウの提供、指導者層の交流の場の提供などについて、取り決めがなされているそうです。
SOMPOチャレンジドの業務を拝見し、損害保険の分野では、まだまだ紙による対応が多く残っていると感じました。今後、Web化やDXが進むに従って、同社の業務もきっと大きく変わっていくことでしょう。
グループや地域への貢献にも積極的なSOMPOチャレンジドが、変化に対応しつつ、今後どのように発展していくのか、期待を込めて見守りたいと思います。
2024年1月26日、SACECにおいて、会員向けの事業として「企業見学会」が実施され、私も参加し、SOMPOチャレンジドを再び訪問することができました。
当日は、会員各社から29名というたくさんの参加者があり、中川さんから会社の概要や取組をご説明いただいた後、実際にメンバーが働く職場を見学。その後の意見交換では、時間をオーバーして活発なやり取りが行われました。
当日の参加者は、いずれも各社で障害者雇用を担当している方々でしたので、現場の実感に即した、熱のこもった質疑が、たいへん印象的でした。
SOMPOチャレンジドの新しい動きとしては、上述の「つながるチャレンジド」が本格的に活動が開始されていたことをご報告したいと思います。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、SOMPOチャレンジド株式会社です。
損害保険の業界には、業界で最初に設立された東京海上日動ビジネスサポート株式会社(TMBS)のほかに、3つの特例子会社があります。
私も同業他社の取組に関心がありましたので、TMBS常務取締役の石川孝弘さんにお願いして、SOMPOチャレンジドの担当者をご紹介いただき、5月31日、同社の本社(西東京市)を訪問しました。
当日は、同行希望があった戸田建設株式会社、株式会社FVPの皆さん6名と一緒に、訪問。中川崇生 社長、矢野純司 常務執行役員(事業開発部長)、事業開発部キャリア支援グループリーダーの山﨑智美さん、同業務支援グループリーダーの浅野登紀子さんに、ご対応いただきました。
《事務本部の中で、グループ各社と一体に》
設立から6年目を迎えた現在、社員数は203名、うち障害を持つ社員(メンバー)は123名。障害者手帳の種別でみると、精神障害が約72%、知的障害が約26%ですが、これらの方々の多くには、発達障害があるとのことです。
この日訪問した本社のある西東京オフィスは、JR中央線の武蔵境駅から少し離れた住宅地にある「損保ジャパン事務本部ビル」という大きな建物に、グループ各社とともに入居。新宿や日本橋、池袋(*)にも拠点を展開する中で、西東京オフィスでは56名のメンバーが働いています。
*池袋オフィスは、2023年7月に開設予定。社員数などは、同年4月1日時点の数字。
見学した様々な業務の中で、印象に残ったのは、倉庫に保管されていた古い保険申込書の仕分け作業。大量の段ボール箱にぎっしりと詰め込まれた申込書を、「保存」「永久(保存)」「廃棄」の3つに分類します。申込者が手書きで記入した、保険の種類によって様式も違う申込書。保険の終期の欄などを確認して1枚1枚仕分ける作業は、たいへん細かく神経を使う作業です。
この作業で、倉庫の保管料を大きく節減することができるとのこと。グループにとって、大きな意味のある仕事です。
もうひとつは、事故サポートセンターに入った事故連絡の電話音声のモニタリング。録音データを聞いて、受付担当者が必要事項をしっかりと伝えているか、確認しているかをチェックします。50を超えるチェック項目がありますし、事故の発生を伝える電話ですので、心理的な負担も大きい仕事だと思います。
この業務では、発達障害のひとつの特性として、聴覚による認知に優れた人がいることに着目。メンバーの処理能力は目を見張るものがあり、応答品質の向上に必要なこの業務に欠かせないとのことです。
《メンバーの主体性を尊重し、キャリア形成を支援》
多様なメンバー一人ひとりに合わせて、着実な成長を支援するため、
「教育・研修」
「自己啓発」
「体験・経験」
の三つの柱で構成する「キャリア開発プログラム」を導入。
「教育・研修」では、各種の集合・動画視聴研修、SST(Social Skills Training)などを実施しているほか、OJTでは、スキルマップを作成し、スキル習得チェック表なども活用。
「自己啓発」では、会社が推奨する資格(ITパスポート検定、漢字検定など)を取得したメンバーに、受験料やテキスト代などの一部を補助しています。
特徴ある取組は、「体験・経験」の中に、ジョブローテーションと並んで位置づけられている「社内留学」。メンバーの自発的な希望に基づき、担当外の業務を短期間(1日~5日)体験します。社内のどこの部署へも、原則、応募することができるとのこと。初めて実施した時は、「手が挙がるだろうか?」と心配したそうですが、いざやってみると、たくさんの応募があったそうです。
特例子会社において、メンバーの主体性を尊重しながら、一般企業と遜色のない多様なメニューを体系的に提供していることに、感銘を受けました。
《指導者のスキルアップも支援》
社内研修では、「事例検討会」や「評価実務研修」を定期的に実施。社外研修には、障害者職業生活相談員の資格認定講習、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修や、SST講師養成講座も。2021年度には、社会福祉士と精神保健福祉士(PSW)に、それぞれ2名が合格しています。
SOMPOチャレンジドの指導員は、グループ各社からの出向者。損害保険の業務には精通していても、障害者対応は初めてという方も多い中で、このような体系的な取組は、とても心強いのではないでしょうか。
そして、メンバーのキャリア形成支援と指導員のキャリアアップが車の両輪となって、会社の活力を生み出していると感じました。
《地域の就労支援機関との連携を重視》
採用後の定着支援では、指導員やサポーター(PSWなど)による「いつでも相談できる体制」を整備。メンバーが業務進捗や相談事項を記載する日報をクラウドで管理して、定着支援にも活用しています。
同社では、就労支援機関との連携を重視していることも、印象的でした。
メンバーが登録している支援機関や特別支援学校を対象に、会社の取組を共有する「支援機関業務連絡会」を開催(年3回)。「定着面談」も、入社後6か月は原則として毎月、その後も必要に応じて、支援機関や特別支援学校の担当者が同席する形で実施しています。
メンバーが通勤している範囲から、多摩地域や23区西部のほか、埼玉県内の機関・学校とも関係を深めているとのこと。最近は、23区東部や神奈川県内の機関・学校との関係づくりにも、積極的に取り組んでいるそうです。
就労移行支援事業から就職したメンバーに関しては、就労移行支援事業者が行う定着支援から、地域の就労支援機関による支援に円滑に移行できるよう、必要な場合には、会社が主体となって、移行に向けた準備を進めることもあるとのことでした。
《グループ各社への支援を開始》
この状況を踏まえ、SOMPOチャレンジドでは、グループ各社の障害者雇用を支援する取組を開始。「つながるチャレンジド」として、グループ会社の障害者雇用担当からの相談に対応する窓口を設置しました。グループ各社に赴いて各社の実情を把握し、意見交換を行う取組も、近く始める予定とのことです。
このような他社への支援は、厚生労働省の施策の中でも、特例子会社の新たなあり方として位置づけられています。中川さんは、グループの中で「特例子会社ばかりで雇用が進むのは、いかがなものか」とお考えの様子。インクルージョンの観点からも、これからどのように取組が進んでいくか、楽しみです。
《地元自治体と連携協定を締結》
昨年4月には、グループ2社とともに、地元の西東京市と「包括連携協定」を締結。さらに今年に入ってから、SOMPOチャレンジドと同市の間で、協定に関する覚書も取り交わしたとのこと。
この覚書では、就労体験の場の提供、企業に対するノウハウの提供、指導者層の交流の場の提供などについて、取り決めがなされているそうです。
SOMPOチャレンジドの業務を拝見し、損害保険の分野では、まだまだ紙による対応が多く残っていると感じました。今後、Web化やDXが進むに従って、同社の業務もきっと大きく変わっていくことでしょう。
グループや地域への貢献にも積極的なSOMPOチャレンジドが、変化に対応しつつ、今後どのように発展していくのか、期待を込めて見守りたいと思います。
《追記:SACECの企業見学会で、再訪問》
当日は、会員各社から29名というたくさんの参加者があり、中川さんから会社の概要や取組をご説明いただいた後、実際にメンバーが働く職場を見学。その後の意見交換では、時間をオーバーして活発なやり取りが行われました。
当日の参加者は、いずれも各社で障害者雇用を担当している方々でしたので、現場の実感に即した、熱のこもった質疑が、たいへん印象的でした。
SOMPOチャレンジドの新しい動きとしては、上述の「つながるチャレンジド」が本格的に活動が開始されていたことをご報告したいと思います。
《自社PR》
設立当初9名だったメンバーが、今度の4月には150名を超すこと、今後も増員するので、新たな業務を拡大し、メンバーそれぞれの強みを活かして活躍することを目指します。
《会社概要》
社名 | SOMPOチャレンジド株式会社 |
主な業種 | 特例子会社 |
従業員数 | 203 名 |
うち障害者社員の人数 | 125名 |
障害の内訳 | 身体1人、知的34人、精神90人 |
URL | https://www.sompo-cha.com/ |
親会社の社名 | SOMPOホールディングス株式会社 |
主な業種 | 損害保険会社、生命保険会社その他の保険業法の規定により子会社等とした会社の経営管理およびこれに附帯する業務 |
親会社のHPに障害者雇用に関する記述がある場合には、その箇所のURL |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。