会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社シンフォニア東武

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社シンフォニア東武です。

昨年10月に学校法人ものつくり大学(埼玉県行田市)の顧問を仰せつかり、埼玉県に良いご縁ができました。思い返してみると、埼玉県内で障害者雇用を進めている会社には、あまり伺うことができていなかったと反省。このご縁を大切にして、これから訪ねてみたいと考えました。

また、埼玉県内では、障害者雇用に関係する会社や個人によるネットワークが広く形成され、特徴ある取組が行われていることも仄聞していましたので、そのお話も伺ってみたいと考えました。

そこで、まず、「さいたま障害者就業サポート研究会・企業部会」世話人の椎山博司さんが社長をお務めのシンフォニア東武を訪問。椎山さん、常務取締役の西潟弘悦さんにご案内いただき、同社を見学しました。

その後、同じく「企業部会」世話人のポラスシェアード株式会社・ビジネスサポート課長の鈴木英生さんにも、同席していただき、埼玉県内のネットワーク構築について、その端緒から現在の活動まで、詳しくお話を伺いました。


《当時、鉄道業界で設立相次ぐ》

シンフォニア東武は、東武鉄道株式会社を親会社として、2007年に設立。当時、厚生労働省で障害者雇用対策課長を務めていた私は、この頃、初めて除外率が引き下げられたこと(2004年)もあって、首都圏の私鉄各グループで特例子会社の設立が相次いだことを記憶しています。

現在では、東武鉄道のほか、駅務や車両、施設保守などを担当するグループ3社を含め、グループ適用の認定を受けており、従業員数は76名。うち、障害を持つ社員は51名で、全員が知的障害とのこと。4月には、さらに3名の障害を持つ社員が入社する予定です。

シンフォニア東武の拠点は、埼玉県内と都内に4か所あり、この日は、本社が置かれている東武鉄道・北春日部駅近くの拠点を訪問。この拠点は、東武鉄道の春日部乗務管区の一角にありました。


《雪が降っても雨が降っても、365日、休むことなく》

到着後、さっそく清掃作業を見学させていただきました。

春日部乗務管区の2階には、乗務員用の仮眠施設があり、ビジネスホテルを少し簡易にしたような個室がずらりと86室、並んでいます。シンフォニア東武の皆さんは、乗務管区全体のベッドメーキングやトイレ・浴室の清掃に従事しています。

他の特例子会社にはない特徴は、社員がシフトを組むことによって、この作業が、365日休むことなく行われていることでしょう。床の清掃は、区画ごとに5日に一度とのことでしたが、各個室の整備(ベッドや枕・布団の位置を整えるなど)や、共用のトイレ・浴室の清掃は、毎日行っているとのこと。作業後の整えられた状況を拝見すると、乗務員の皆さんが気持ちよく早朝の仕業に向かう様子が、目に浮かぶようです。




《円滑な作業のために、様々な工夫が》

北春日部の拠点には、会社設立時の採用の経緯から、自閉傾向のある社員も少なくないとのこと。円滑に作業を進めるために、これまで様々な工夫が編み出されたとのお話でした。

例えば、「真ん中」を理解することが難しい社員向けに作られた、枕の位置を決める発泡スチロールの板。1階から2階への階段では、階段の左右に分けて行う掃除の段取りがわかるように、中央部分に赤いテープ。そして、洗面台の鏡まわりの拭き掃除には、順番と拭き方を織り込んだ歌もあるそうです。


枕の位置を決める発泡スチロールの板


作業は、4名の社員と指導員1名をひとつのチームとしているとのことですが、各社員は手分けをして、それぞれ別の作業を行っていました。各社員が担当する作業は、5分刻みで組まれていて、「作業カード」として社員に手渡されています。見た目はまるで、電車の運転士が運転台に掲げる「乗務行路表」のシンフォニア版。さすが鉄道関係の会社です。


作業カード


《先輩から後輩へ》

トイレの清掃では、入社17年目の庄司加代子さんが、今年2月に入社したばかりの大久保茉衣さんを指導している様子も、拝見しました。

作業の様子をじっと見守りながら、適時適所で助言する庄司さん。「後輩の指導は、どうですか?」と問いかけると、「楽しい」と即答。大久保さんに「作業で難しいのは、どこ?」と聞いてみると、少し考えて「個室の扉の四隅を拭くときに、丸く拭いてしまうところ」とのお答えがありました。

後輩への指導は、モチベーションの点からも、自身の成長の面からも、いい経験となっているに違いありません。大久保さんも、作業のポイントを押さえた回答に、早くも習熟を深めている様子が感じられました。

1階では、東武鉄道の社員が働いている事務室の中でも、床の清掃が行われていました。シンフォニア東武の皆さんが、多くの乗務員がいる中でも、戸惑うことなく清掃を進めていることから、乗務管区にすっかり溶け込んで活躍しているとお見受けしました。

鉄道業に関しては、今後の法定雇用率の引上げに加えて、除外率の引下げも、2025年に予定されています。シンフォニア東武の新たな展開をご期待申し上げたいと思います。


《埼玉のネットワークについて、学ぶ》

見学を済ませた後、椎山さんと鈴木さんがその中核メンバーとなっている埼玉県内の障害者雇用のネットワークについて、お話を伺うことができました。

その取組は、次の3つの組織が核となって、重層的に展開されています。
・さいたま障害者就業サポート研究会       (2003年~)
・埼玉県障害者雇用総合サポートセンター    (2007年~)
・さいたま障害者就業サポート研究会 企業部会(2018年~)




《さいたま障害者就業サポート研究会》

「さいたま障害者就業サポート研究会」は、前年からの7回にわたる研究会の開催を礎として、2003年10月に正式に発足。その会則には、「障害者を雇用する事業所、障害者の就業に関わる関係者が連携しながら、障害者雇用に関わる様々な事項について研究活動を行うことにより、障害者の就業をサポートすることを目的とする。」と定められています。

研究会の特徴は、その構成。上記の目的のもとに、行政、支援機関、教育機関、福祉施設、保護者会、障害者本人、企業など、多様な団体・個人が会員として集結しています(会員数 34団体・個人)

年4回開催されている定例会(うち1回は企業見学会)でも、障害者雇用を取り巻く幅広いテーマを用意。厚生労働省や経団連の担当者だけではなく、弁護士、医師も講師として登壇。直近の2023年2月の定例会には、103名が参加し、定例会後の懇親会も好評とのことでした。

研究会には、立ち上げの時から朝日雅也・埼玉県立大学教授が深く関わり、名誉教授になった現在も、研究会の代表をお務めになっているとのこと。椎山さんと鈴木さんも、事務局の一員です。


《埼玉県障害者雇用総合サポートセンター》

研究会の活動が埼玉県を動かしたとも言えるのが、2007年の「埼玉県障害者雇用サポートセンター」の発足です。

研究会会員の有志が立ち上げた特定非営利活動法人サンライズが、埼玉県の事業を受託。この事業によって、「企業を支援する」という切り口から障害者雇用に携わる、全国初のセンターが発足。同センターは、知見の共有や障害者雇用への理解を促進する観点から、企業間のネットワークづくりにも注力してきました。

2018年度からは、障害者本人に向けた定着支援事業も開始。センターの名称にも「総合」の2文字が加わって、現在に至っています。


《企業部会》

これらの動きからさらに発展して、上記の研究会の部会として活動を始めたのが「企業部会」です。

当初、「首都圏連絡会運営部会」という名称で発足したこの組織の位置づけや研究課題については、下記の資料をご参照ください。資料にもあるように、その目指すところは、「地域企業全体としての課題研究を通して、研究会の更なる発展の一助となりたい。部会の成果を他地域に発信していく機能を担いたい。」とされています。椎山さんと鈴木さんは、ここでも世話人をお務めです。




最近の活動状況としては、2021年度に7回、2022年度には6回の会合を開催。毎回10社~16社と、多くの企業が参加しています。

2022年度のテーマは、前年度に「ICT活用型教育訓練」(埼玉県の事業)を受講した成果から、その成果を発展させた「社員への伝わる指示出しの仕方を学び直す」でした。また、2023年度は、障害者雇用促進法の改正を踏まえ、「質の高い雇用を考える」がテーマとなっています。

活動の成果は、首都圏障害者雇用企業連絡会において発表。他の地域の強い関心を呼んでいる様子を、私も連絡会の会場で拝見しました。


《ティーボールで、交流を深める》

椎山さんからは、ネットワーク構築のオフタイムにおける成果として、「埼玉県障害者雇用企業ティーボール交流大会」(2011年~)についても、お話がありました。

ティーボールの大会は、他の地域でも盛んに行われていますが、実は、埼玉の大会がその始まりとのこと。コロナ後の久しぶりの開催となった、昨年9月の第10回大会には、11企業の16チーム、261名の選手が参加。会社関係者や家族からの応援も、大いに盛り上がったそうです。




《地域に密着した活動を活発に》

このように、埼玉県内のネットワークは、様々な視点から地域に密着した活動が活発に展開され、かつ、他の地域にも発信され、大きな実績を上げています。お話を聞いただけでも、その熱気が伝わってくるように感じました。全国でみても、特徴ある優れた取組と言えるのではないでしょうか。

埼玉にご縁ができた者として、私もこれから、その活動の現場に、積極的に足を運んで参加してみたいと思います。ネットワークのますますの発展を、心よりお祈り申し上げます。


《自社PR》

東武鉄道の特例子会社として、埼玉県内に2事業所、東京都内に2事業所の合計4事業所で51名の知的障害者が清掃や事務サポートで活躍しています。
日々の鉄道運行や国内外からのお客様をお迎えする大切な業務を陰から支える仕事と自負しています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。