文京区障害者就労支援センター (特定非営利活動法人 日本就労支援センター)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、文京区障害者就労支援センターです。
障害者雇用に取り組む各社を訪問する中で、就労支援機関にもお伺いしたいと考えていたところ、SACECの会員名簿に、特定非営利活動法人日本就労支援センターという団体名を見つけました。
インターネットで検索してみると、私が住んでいる文京区の「障害者就労支援センター」の運営を受託しているとのこと。
そこで、12月22日、区役所のすぐ近くにある同センターを訪問し、藤枝洋介所長、皆川譲主任から、就労支援の現状や課題についてお話を伺いました。
「障害者就労支援センター」は、東京都の事業として区市町村ごとに設置され、多くの地域では、区市町村から社会福祉法人やNPO法人などに運営が委託されています。
センターでは、障害を持つ人の一般就労の機会の拡大を図り、安心して働き続けることができるよう、身近な地域で就労面と生活面に関する支援を実施するとともに、障害福祉サービスなどに関する相談も行っています。
(センター一覧)
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/nichijo/syuroshien_center.files/R5center.pdf
文京区のセンターでは、障害を持つ区内在住者を対象として支援を実施しており、現在、利用登録者は716名。精神障害を持つ方が約6割と多く、登録者の約半数は一般就労で働いている人たちとのことでした。
https://www.city.bunkyo.lg.jp/hoken/shogai/shigoto/shiencenter.html
最近の相談の状況についてお尋ねしたところ、最初にお話があったのは、障害だけではない様々な働きにくさを抱えた人の来所が多いということでした。介護や育児、生活困窮など、多岐にわたる相談が持ち込まれるそうで、60歳代・70歳代の人もいるとのこと。インテーク相談として丁寧な対応が求められるとともに、他分野の支援機関との連携も欠かせないとのことでした。
文京区には大学が数多く立地していて、大学のキャリアセンターや健康相談担当から紹介されて相談に来る人も多いそうです。
これらの大学の部局との連携について伺うと、組織同士の連携はこれからの課題とのこと。大学で修学支援の取組が進む中、その成果を地域で受け止めるためにも、連携が進むことを期待したいと思います。
最近の相談のもうひとつの特徴は、「会社に言われて来ました」という来所者が少なからずいることだそうです。採用面接などの際に、就労支援機関に登録しているか否かを問われ、センターを初めて訪ねてくるケースです。
そして、そういう来所者でも、その障害の特性や配慮事項などについて、企業がセンターに対してコメントを求める場合があるとのこと。限られた時間しかない中で、このような要請に対応するのはとても難しいとのことで、私も同感です。
最近訪問した企業では、「会社は働く場」と位置づけを明確にし、生活面の支援は就労支援機関に委ねるという考え方が一般的で、就労支援機関への登録を採用の条件とする企業も多いと感じます。就労支援機関が社会資源として一定数存在するようになって、それに頼ることができる時代になったということかもしれません。
とはいえ、就労支援機関としても、時間をかけて利用者と人間関係、信頼関係を築いてこそ、充実した支援ができるのだと思います。企業の側においても、このことをしっかりと理解し、就労支援機関との関係を構築したいものです。
おふたりからお話を伺ったのは、センター内のラウンジと名づけられた一室。壁際には、就労支援機関のパンフレットがずらりと陳列されています。なかでも、就労移行支援事業所については、区内・区外あわせて数多くの事業所の資料が並べられていました。
センターと就労移行支援事業所との関係をお伺いすると、利用者に紹介するにしても選択肢が多すぎて、マッチングに苦慮しているとのお話がありました。
事業所によって支援のあり方も様々で、なかには、利用者の個別の事情に十分配慮せずに、画一的なプログラムを運用する事業所もあるとのことで、支援の水準のばらつきも大きいようです。
就労移行支援事業を含む福祉サービスを提供する事業所に関しては、第三者評価の仕組があり、都内の事業所については、公益財団法人東京都福祉保健財団が開設している「福ナビ(東京都福祉サービス第三者評価)」(※)に、その評価結果が公表されています。
しかし、文京区内には就労移行支援事業所が現在7か所ある中で、評価が公表されている事業所は、そのうちの3か所に過ぎません。
(※)「福ナビ」https://www.fukunavi.or.jp/fukunavi/hyoka/hyokatop.htm
就労移行支援事業所自体の質の確保という課題もありますが、利用を希望する人にとって的確な選択ができるように、先般の障害者総合支援法の改正で新設された「就労選択支援」も含めて、支援の仕組や体制が充実・強化されることを期待したいと思います。
そのことは、一般就労への円滑な移行にもつながると考えます。
藤枝さんからは、サービスを選択する際には、サービス等利用計画を作成する「計画相談支援」の役割も重要なのに、担当者が就労支援に関する知識を十分に備えていないという課題があるとのお話もありました。
福祉の現場で働く方々は、大学で福祉を学んできた人が多いと思います。しかし、精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師、そして職場適応援助者と4つの資格を持つ藤枝さん自身の経験でも、大学の授業で就労支援に関して学ぶ機会は、ほとんどなかったとのこと。
福祉系の大学のカリキュラムに、就労支援に関する知識の習得を入れていただきたい、これは15年ほど前の課長時代からの私の思いでもあります。
日本就労支援センターは、文京区のほかに、千代田区の障害者就労支援センターも運営しています。どちらも数年に一度、プロポーザル方式で契約を見直す機会はあるそうですが、基本的には事業の継続が確保されているとのことでした。
このように今後も継続した運営が見通せる中で、これからの障害者雇用のあり方で関心を持っていることをお尋ねしたところ、藤枝さんから超短時間雇用のお話がありました。
超短時間雇用は、先日の職業リハビリテーション研究・実践発表会で、東京大学の近藤武夫教授の特別講演の中でお話があった取組です。23区内でも、既に渋谷区や港区で取組が行われています。
特例子会社などでは、短い時間の雇用を進めることは、勤務体制の面などから、なかなか難しいと考えているように思います。一方で、藤枝さんたちは、雇用率の対象ではないような、地域にある小さな会社やお店で、障害を持つ人たちがその状況に合わせて働くことができないか、その可能性を探りたいというお考えをお持ちです。
多様な働く機会の確保や、働く場の身近な地域への広がりという観点から、こうした試みが広がっていくことを期待したいと思います。
センターに伺った際に、「文京区版 障害者就労支援HANDBOOK」をいただきました。
70ページに及ぶこの冊子は、文京区障害者地域自立支援協議会の就労支援専門部会が編集し、その事務局であるセンターが発行したものです。
区内で就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)を実施している全事業所を1ページずつ使って紹介し、「就労の社会資源」「生活の社会資源」として、センター自体やハローワーク、障害者基幹相談支援センターも紹介されています。
この冊子で最も目を引いたのは、「社会資源相関図」です。医療機関や学校も含め、実に多様な機関が障害者の就労支援に関わり、それぞれの役割がわかりにくくなっている現状において、各機関の位置づけ・役割がシンプルかつ明快に図示されています。
また、「社会資源確認チャート」も掲載されていて、本人の意向や状況に応じて「はい」「いいえ」の選択肢を選んでいくと、どういう機関があるかがわかり、相談する際の参考になります。
(※)「社会資源相関図」
https://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0254/3847/22-24.pdf
「社会資源確認チャート」
https://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0254/3843/4.pdf
いずれもたいへん工夫された資料で、藤枝さんによれば、就労支援専門部会で議論を重ねた結果の賜物とのことでした。
この部会には、トヨタループス株式会社の有村秀一社長がメンバーとして参加しています。トヨタ自動車株式会社の東京本社が文京区にあり、そのビルにトヨタループスの東京事業所があるご縁とのこと。ちなみに、この冊子は、デザインから印刷・製本までトヨタループスが担当したそうです。障害者雇用をめぐる連携の広がりを実感しました。
地域に密着した就労支援が企業の雇用と車の両輪となって、障害者雇用の着実な進展に結びついていくよう、センターの一層の発展をお祈りいたします。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、文京区障害者就労支援センターです。
障害者雇用に取り組む各社を訪問する中で、就労支援機関にもお伺いしたいと考えていたところ、SACECの会員名簿に、特定非営利活動法人日本就労支援センターという団体名を見つけました。
インターネットで検索してみると、私が住んでいる文京区の「障害者就労支援センター」の運営を受託しているとのこと。
そこで、12月22日、区役所のすぐ近くにある同センターを訪問し、藤枝洋介所長、皆川譲主任から、就労支援の現状や課題についてお話を伺いました。
《多岐にわたる相談に対応》
センターでは、障害を持つ人の一般就労の機会の拡大を図り、安心して働き続けることができるよう、身近な地域で就労面と生活面に関する支援を実施するとともに、障害福祉サービスなどに関する相談も行っています。
(センター一覧)
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/shougai/nichijo/syuroshien_center.files/R5center.pdf
文京区のセンターでは、障害を持つ区内在住者を対象として支援を実施しており、現在、利用登録者は716名。精神障害を持つ方が約6割と多く、登録者の約半数は一般就労で働いている人たちとのことでした。
https://www.city.bunkyo.lg.jp/hoken/shogai/shigoto/shiencenter.html
最近の相談の状況についてお尋ねしたところ、最初にお話があったのは、障害だけではない様々な働きにくさを抱えた人の来所が多いということでした。介護や育児、生活困窮など、多岐にわたる相談が持ち込まれるそうで、60歳代・70歳代の人もいるとのこと。インテーク相談として丁寧な対応が求められるとともに、他分野の支援機関との連携も欠かせないとのことでした。
文京区には大学が数多く立地していて、大学のキャリアセンターや健康相談担当から紹介されて相談に来る人も多いそうです。
これらの大学の部局との連携について伺うと、組織同士の連携はこれからの課題とのこと。大学で修学支援の取組が進む中、その成果を地域で受け止めるためにも、連携が進むことを期待したいと思います。
《「会社に言われて」という相談に苦慮》
そして、そういう来所者でも、その障害の特性や配慮事項などについて、企業がセンターに対してコメントを求める場合があるとのこと。限られた時間しかない中で、このような要請に対応するのはとても難しいとのことで、私も同感です。
最近訪問した企業では、「会社は働く場」と位置づけを明確にし、生活面の支援は就労支援機関に委ねるという考え方が一般的で、就労支援機関への登録を採用の条件とする企業も多いと感じます。就労支援機関が社会資源として一定数存在するようになって、それに頼ることができる時代になったということかもしれません。
とはいえ、就労支援機関としても、時間をかけて利用者と人間関係、信頼関係を築いてこそ、充実した支援ができるのだと思います。企業の側においても、このことをしっかりと理解し、就労支援機関との関係を構築したいものです。
《就労移行支援の事業所を選ぶのは、難しい》
センターと就労移行支援事業所との関係をお伺いすると、利用者に紹介するにしても選択肢が多すぎて、マッチングに苦慮しているとのお話がありました。
事業所によって支援のあり方も様々で、なかには、利用者の個別の事情に十分配慮せずに、画一的なプログラムを運用する事業所もあるとのことで、支援の水準のばらつきも大きいようです。
就労移行支援事業を含む福祉サービスを提供する事業所に関しては、第三者評価の仕組があり、都内の事業所については、公益財団法人東京都福祉保健財団が開設している「福ナビ(東京都福祉サービス第三者評価)」(※)に、その評価結果が公表されています。
しかし、文京区内には就労移行支援事業所が現在7か所ある中で、評価が公表されている事業所は、そのうちの3か所に過ぎません。
(※)「福ナビ」https://www.fukunavi.or.jp/fukunavi/hyoka/hyokatop.htm
就労移行支援事業所自体の質の確保という課題もありますが、利用を希望する人にとって的確な選択ができるように、先般の障害者総合支援法の改正で新設された「就労選択支援」も含めて、支援の仕組や体制が充実・強化されることを期待したいと思います。
そのことは、一般就労への円滑な移行にもつながると考えます。
《福祉人材も就労支援の知識を》
福祉の現場で働く方々は、大学で福祉を学んできた人が多いと思います。しかし、精神保健福祉士、社会福祉士、公認心理師、そして職場適応援助者と4つの資格を持つ藤枝さん自身の経験でも、大学の授業で就労支援に関して学ぶ機会は、ほとんどなかったとのこと。
福祉系の大学のカリキュラムに、就労支援に関する知識の習得を入れていただきたい、これは15年ほど前の課長時代からの私の思いでもあります。
《身近な地域で新しい雇用の試み》
このように今後も継続した運営が見通せる中で、これからの障害者雇用のあり方で関心を持っていることをお尋ねしたところ、藤枝さんから超短時間雇用のお話がありました。
超短時間雇用は、先日の職業リハビリテーション研究・実践発表会で、東京大学の近藤武夫教授の特別講演の中でお話があった取組です。23区内でも、既に渋谷区や港区で取組が行われています。
特例子会社などでは、短い時間の雇用を進めることは、勤務体制の面などから、なかなか難しいと考えているように思います。一方で、藤枝さんたちは、雇用率の対象ではないような、地域にある小さな会社やお店で、障害を持つ人たちがその状況に合わせて働くことができないか、その可能性を探りたいというお考えをお持ちです。
多様な働く機会の確保や、働く場の身近な地域への広がりという観点から、こうした試みが広がっていくことを期待したいと思います。
《自立支援協議会の議論の賜物》
70ページに及ぶこの冊子は、文京区障害者地域自立支援協議会の就労支援専門部会が編集し、その事務局であるセンターが発行したものです。
区内で就労移行支援や就労継続支援(A型・B型)を実施している全事業所を1ページずつ使って紹介し、「就労の社会資源」「生活の社会資源」として、センター自体やハローワーク、障害者基幹相談支援センターも紹介されています。
この冊子で最も目を引いたのは、「社会資源相関図」です。医療機関や学校も含め、実に多様な機関が障害者の就労支援に関わり、それぞれの役割がわかりにくくなっている現状において、各機関の位置づけ・役割がシンプルかつ明快に図示されています。
また、「社会資源確認チャート」も掲載されていて、本人の意向や状況に応じて「はい」「いいえ」の選択肢を選んでいくと、どういう機関があるかがわかり、相談する際の参考になります。
(※)「社会資源相関図」
https://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0254/3847/22-24.pdf
「社会資源確認チャート」
https://www.city.bunkyo.lg.jp/var/rev0/0254/3843/4.pdf
いずれもたいへん工夫された資料で、藤枝さんによれば、就労支援専門部会で議論を重ねた結果の賜物とのことでした。
この部会には、トヨタループス株式会社の有村秀一社長がメンバーとして参加しています。トヨタ自動車株式会社の東京本社が文京区にあり、そのビルにトヨタループスの東京事業所があるご縁とのこと。ちなみに、この冊子は、デザインから印刷・製本までトヨタループスが担当したそうです。障害者雇用をめぐる連携の広がりを実感しました。
地域に密着した就労支援が企業の雇用と車の両輪となって、障害者雇用の着実な進展に結びついていくよう、センターの一層の発展をお祈りいたします。
《自社PR》
文京区障害者就労支援センターでは、文京区に住む障害者の方の一般就労の機会拡大を図り、安心して働き続けられるよう、福祉施設・ハローワーク等関係機関と連携しながら、就労面と生活面の支援を行っています。文京区内に事業所のある企業の障害者雇用に関するご相談もお受けしております。お気軽にお問い合わせください。文京区内の事業所で企業実習をお受け下さる企業様探しています!
《会社概要》
社名 | 文京区障害者就労支援センター(特定非営利活動法人日本就労支援センター受託) |
主な業種 | 障害のある方の就労支援及び就労に伴う生活支援、その他理解啓発などの事業 |
従業員数 | 9 名 |
URL | https://www.city.bunkyo.lg.jp/hoken/shogai/shigoto/shiencenter.html |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。