会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社大協製作所

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社大協製作所です。

同社は、公益社団法人全国障害者雇用事業所協会(全障協)の栗原敏郎会長(当時)が、代表取締役会長を務めておられる会社です。

栗原さんとは、厚生労働省の労働基準局で働き方改革に取り組んだ時に、お目にかかって以来、今日までたいへん親しくさせていただいています。しかし、会社にお伺いしたことは、これまでありませんでした。

そこで、全障協の野村栄一事務局長にアレンジをお願いして、10月28日、野村さんにもご一緒いただき、横浜市保土ケ谷区にある本社・横浜工場を訪問しました。




《めっきと塗装を一括で》

大協製作所は、本社・横浜工場のほか、福島県矢吹町に福島工場があり、社員は全体で60名、うち35名が障害を持つ社員(横浜に22名、福島に13名)です。

主力の事業は、電気亜鉛めっきとカチオン電着塗装で、トヨタ、日野、ホンダなど自動車メーカー各社向けの部品に、耐食性に優れた加工を施しています。

「こちらの会社の強みは、どこにあるのですか?」とお聞きすると、「亜鉛めっきの上にカチオン電着塗装を行う複合処理ができる。それにより、さらなる高耐食性が得られる。この処理は当社が日本で一番早く行った。」とのお答えでした。現在も、両方の処理設備を備えて事業を展開している会社は、少ないとのことです。


《作業の現場は》

横浜工場では、めっきと塗装と、全部で5つのラインがあり、それぞれにとても大きな加工装置が据え付けられていて、加工の工程そのものは、加工する部品が装置の中を流れる形で、完全に自動化されています。

それぞれのラインで働く社員の主な仕事は、例えばめっきのラインでは、
・加工する部品を専用の治具に吊り下げるなどの準備を行い、
・その治具を順番に装置のレールに吊り下げ、
・装置から出てきた加工済みの部品を治具から外して、品質を確認すること
です。

「部品をフックにかけて、ボタンを押すだけなので」というお話もありましたが、扱う部品は大量で種類や形も多岐にわたり、繰り返して続ける作業は、注意力と根気、体力が必要な仕事です。できあがった加工品をチェックする眼差しも、真剣そのものでした。






さらに、最近では、一部の社員が、前処理に使用する溶液の成分が適切な状態を保っているか、機器を使って分析する業務にも携わっているそうです。社員の状況に応じて職域を拡大しようとする積極的な試みは、現場の活力につながっていると思います。




《正規雇用で65歳まで》

このような現場で働く社員のほとんどは、知的障害を持つ社員です。私たちが見学に入る現場現場で、多くの社員から元気よく「こんにちは!」と声をかけていただきました。

その多くは新卒採用で、特別支援学校から2年生の時、3年生の時と重ねて実習に来て、意欲や適性をみて採用に至るとのこと。6か月の試用期間を経て、無期雇用の契約となり、定年65歳です。

障害を持つ社員の平均勤続年数は14.1年。それ以外の社員の13年を上回っています。栗原さんから「どちらかといえば、障害が重い社員のほうが作業に向いているし、定着もいい」というお話がありました。繰り返しの作業の場合にはそういう傾向があると、私も以前から感じていたので、納得です。

障害を持つ社員の年齢構成をみると、20歳代が14名と最も多くなっていますが、50歳代も5名ということで、長く勤める社員が多いがゆえに、高齢期に入った社員への対応は、同社でも課題となっています。

知的障害を持つ社員は、体力の衰えが早めに現れやすいようです。栗原さんとしては「勤務時間を短くして、慣れた仕事で、続けて力を発揮できるようにしたい。」とお考えになるものの、装置の稼働時間に合わせて、残業も含めた勤務のシフトを組む中では、時間の短い勤務の位置づけが難しく、具体化に至っていないとのことでした。

各社の尽力により、長年にわたって障害者雇用の実績が積み重ねられてきている中で、高齢期に入った時の対応は、福祉的就労への移行も含め、これからますます大きな課題になると、あらためて認識しました。


《最大の懸案は、工場の建て替え》

工場でめっきの加工装置を拝見して、相当使い込まれた感じを受けましたので、「この装置は、いつ頃設置したものですか?」とお聞きしたら、5年前とのこと。更新のサイクルは結構短いとのお話でした。短い期間での大きな投資は、経営にとっても相当の負担だと思います。

とはいえ、国内外との厳しい競争において、常に新しい技術を求めて設備投資をする姿勢は欠くことはできませんし、設備の更新は、働く社員の皆さんにとっても、働きやすさや処遇の改善につながっていると感じました。

栗原さんにとって、これからの最大の懸案として頭を悩ませているのは、本社・横浜工場の建て替えです。

28年前に新設した福島工場は、東北自動車道のインターに近く、地元自治体の理解も得ることができて、立地に恵まれたそうです。

一方、本社・横浜工場は、昭和30年代に企業事業組合の団地の中に建てられて以降、事業の拡大に伴って増築を繰り返しており、これからの事業展開のためには、建て替えは喫緊の課題とのこと。しかし、建設当初とは異なり、工場の周囲は住宅に囲まれ、市街化調整区域に指定されて、建て替えには大きな制約があるそうです。また、工場の立地に関する横浜市の方針もあって、市内で移転・新設を考えるのも難しいとのこと。

働いている社員のことを考えれば、それ以上遠くへの移転は難しそうで、これは難題です。


《「もにす認定」レベルの雇用を、いつまでも》

大協製作所は、2021年10月に、国の障害者雇用優良企業の認定(「もにす認定」)を受けています。特例子会社で認定を受ける企業も多くなっているようですが、中小企業でなかなか障害者雇用が進まない現状において、同社が、厳しい認定基準をクリアできる、質の高い雇用を実現していることは、素晴らしいことだと思いました。

本社・横浜工場の建て替えという難題をなんとか乗り越えて、大協製作所の障害者雇用がさらに発展されることを、心よりお祈りしたいと思います。


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《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。