中電ウイング株式会社(名古屋市)
皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、中電ウイング株式会社です。
トヨタループス株式会社の有村秀一社長に同社の見学をお願いした際に、「愛知で一緒に活動している仲間の中電ウイングも、ぜひ訪ねてほしい」というお話をいただきました。
そこで、12月15日、トヨタループスを見学した後、同社の清水康史取締役が運転するVOXYに乗せていただいて、中電ウイングの本社(名古屋市)を訪問。見学は、秋葉覚専務取締役と石原俊総務部長にご対応いただきました。
中電ウイングは、中部電力株式会社を親会社として設立され、2003年に事業を開始しました。現在は社員253名のうち、障害を持つ社員(チャレンジド)が129名。そのうち、知的障害を持つ社員が79名となっています。秋葉さんから会社の概況について説明を伺い、会社紹介の動画を拝見したのち、社内の見学へ。
社内を案内していただいたのは、チャレンジドの朝倉国仁さんです。それぞれの職場で障害を持つ社員からご説明いただくことは、これまでもよくありましたが、見学の全体を通して、案内していただくのは初めてでした。
中電ウイングには、このような説明ができる社員が5名いて、交替で見学に対応しているそうです。
自分の仕事だけではなく、会社全体を理解して説明できる社員を育てることは、社員の皆さんのモチベーションの観点からも、優れた取組だと感じました。
見学は、まず玄関ホールから。ここには社名の「ウイング」の由来が、モニュメントのように5つの柱に掲げられています。
朝倉さんの説明では、ウイングは、「働く(Work)ことを通して自立(Independence)し、立派(Nice)に、成長(Growth)する」の頭文字4文字を取ったものとのこと。会社と共に大きく飛翔(WING)していこうという願いも込められているそうです。
これらの柱には、初心忘るるべからずの気持ちが込められていると感じました。
ご案内いただいたそれぞれの職場では、こちらから声をかける間もなく、あちこちから大きな声で「いらっしゃいませ!」「こんにちは!」と出迎えていただきました。仕事の具体的な内容を説明する社員も自信たっぷりで、自分の仕事に誇りを持っていると感じます。
中電ウイングでは、広報誌「レイール」(※)を年2回発行しており、私も今回、12ページからなるカラー印刷の34号(2021年11月発行)を頂戴しました。広報誌を定期的に発行して、会社の活動を親会社や関係者に広く伝えることは、多くの労力を要することとは思いますが、大切で貴重な取組だと思います。
そして、ここでも、チャレンジドの皆さんが、ひとり1ページを使って丁寧に紹介されていて、仕事への思いや余暇の過ごし方が語られています。このような発信もまた、社員の皆さんにとって、この会社で働く喜びにつながっているのではないでしょうか。
(※)「レイール(REIR)」とは、スペイン語で「笑う・笑顔」という意味だそうです。
JR笠寺駅に近い本社の敷地内には、アグリ事業部が置かれています。ハウスの中で四季折々の花を種から育て、中部電力の各拠点にある植栽に植える事業を行っており、設立以来の主力事業のひとつです。
この日は冷え込んで特に寒く、屋外の作業もありますし、ハウスの中は一定の温度管理があるとはいえ、作業環境は厳しいと感じましたが、社員の皆さんは元気よく働いていました。
秋葉さんに、会社の事業に対するコロナの影響についてお尋ねしたところ、最も影響が大きかったのは、このアグリ事業部だったそうです。
コロナ禍の初期には、厳しい行動制限が求められた中で、植栽の植え替え作業は人目につきやすいこともあって、全面的に休止状態となってしまい、社員は自宅待機を余儀なくされたとのこと。
一方、電力というインフラを担っているからでしょうか、中部電力では出勤抑制が限定的で、その分、中電ウイングが担う文書集配や事務補助の業務は、影響が少なかったそうです。
自宅待機が続く中で、チャレンジドの皆さんから「働きたい」という強い気持ちが示されたり、「働いていないのに・・」と休業手当をもらうことを戸惑う声もあったそうで、対応に苦慮されたとのことでした。
働ける、働く場があるということが如何に大切なことか、あらためて認識させられます。
中電ウイングは、近年、次々と新しい拠点(支社)を立ち上げています。
2013年に中部電力本店内で文書集配業務を開始し、2019年に岐阜市、今年7月には岡崎市と、親会社の支店の中にも進出して、近々、静岡市にも支社を設置する予定とのこと。中部電力の主要な営業エリアの中で、中電ウイング社員の活躍の場も大きく広がっています。
この展開が地域の障害者雇用に与える影響も、きっと大きいに違いないと思いました。
ちなみに、中部電力本店に拠点を新設した時には、中電ウイング社員の元気いっぱいの挨拶が、本店の社員に「驚き」をもたらしたそうです。以後、本店の社員の間でも、自然に挨拶を交わすことが広がったとのこと。嬉しい効果です。
地域の広がりとともに、事業の拡大にも意欲的です。2016年に、中部電力の人財開発センター(愛知県日進市)の清掃業務を開始し、2年前から、独身寮の巡回清掃業務も始めています。
同じ年には、中部電力本店内で「ウイングカフェ」の営業も開始。一昨年からは、撤去した引込線(電線)をリサイクルできるように処理する業務も、名古屋市内の営業所を巡回する形で始めたそうです。
秋葉さんのお話によれば、新しい事業の開始に当たっては、先行事例を参考にしているとのこと。アグリ事業も、当時、株式会社かんでんエルハート(大阪市)の事例を参考にして取り組んだものであり、「ウイングカフェ」は、東京海上ビジネスサポート株式会社の取組を参考にしたとのことでした。
企業や業界の垣根を越えたこのような展開は、障害者雇用の進展にとってとても大切なものです。そして、中電ウイングが、他社の事例を参考にしつつも、新しい事業を自社の事業としてしっかり確立しておられることも、素晴らしいことと思いました。
中電ウイングの更なる新しい事業展開として、イチゴの栽培があります。
なぜイチゴ栽培なのか? その目的は、チャレンジドの皆さんの加齢に伴う体力の負担を軽減するために、アグリ事業部で培った経験と実績を活かしつつ、ハウスという屋内で作業できる環境を作り、皆さんが長く活躍できるようにすることにあるとのこと。4年前に実証生産を開始したそうですが、その前にはアグリ事業部の社員数名が県内有数のイチゴ生産農家で、1年間の研修を受けたとのことです。
現在、岐阜県可児市に建設した約4,000㎡のハウスで事業を本格化させていて、「ウイングいちご」というブランドで、今シーズンから本格的な販売を開始しました。ハウスを目にした地元住民の方々からは、「イチゴ狩りはいつからできるんかね?」というお尋ねもあるそうで、期待を込めて見守られているようです。
今年、事業開始から20年を迎える中電ウイングでは、長く勤続した社員の処遇をどのように確保していくかは、重要な課題です。その中にあって、花の苗の生産や花壇の維持作業で培った技術を活かせる場をつくる試みは、意義深いものと思います。
新しい事業の成功をお祈りしたいと思います。
中電ウイングを訪問したのは今回が初めてでしたが、中電ウイングの社員の方には、既にお目にかかったことがありました。
4年前に東京で開催された「就労支援フォーラムNIPPON2019」の開会セレモニーに、私は厚生労働省の職員として参加し、その時、ホールで私の後ろの席に座っていたのが、中電ウイングの社員の方でした。参加者同士の交流を目的のひとつに掲げたイベントでしたので、主催者から「まわりの席の人と話をしてみましょう!」という呼びかけがあり、振り向いてお話をしたのがその方だったのです。
そして、昨年11月の「職業リハビリテーション研究・実践発表会」でも、私が参加した分科会で、中電ウイングの社員の方が挙手をして発表者に質問しているのを目にしました。
私は、これは偶然なのではなくて、中電ウイングの皆さんが如何に勉強熱心で、意欲旺盛に新しい情報を学ぼうとしているかの証しではないかと思います。
新しい状況に果敢に対応し、障害者雇用を牽引する頼もしい存在として、中電ウイングの今後ますますの発展をお祈りいたします。
中電ウイングさんには、中部地区特例子会社の先輩としていつも学ばせて頂いています。
コロナ前に見学させて頂いた時よりも、新規事業のいちご栽培や新拠点が増えていて、常に進化・発展し続けているのを現地で拝見し、障害者雇用の質とはこうあるべきと、思いを新たにすることができました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
今回の訪問は、中電ウイング株式会社です。
トヨタループス株式会社の有村秀一社長に同社の見学をお願いした際に、「愛知で一緒に活動している仲間の中電ウイングも、ぜひ訪ねてほしい」というお話をいただきました。
そこで、12月15日、トヨタループスを見学した後、同社の清水康史取締役が運転するVOXYに乗せていただいて、中電ウイングの本社(名古屋市)を訪問。見学は、秋葉覚専務取締役と石原俊総務部長にご対応いただきました。
《社員ひとりひとりが活き活きと》
社内を案内していただいたのは、チャレンジドの朝倉国仁さんです。それぞれの職場で障害を持つ社員からご説明いただくことは、これまでもよくありましたが、見学の全体を通して、案内していただくのは初めてでした。
中電ウイングには、このような説明ができる社員が5名いて、交替で見学に対応しているそうです。
自分の仕事だけではなく、会社全体を理解して説明できる社員を育てることは、社員の皆さんのモチベーションの観点からも、優れた取組だと感じました。
見学は、まず玄関ホールから。ここには社名の「ウイング」の由来が、モニュメントのように5つの柱に掲げられています。
朝倉さんの説明では、ウイングは、「働く(Work)ことを通して自立(Independence)し、立派(Nice)に、成長(Growth)する」の頭文字4文字を取ったものとのこと。会社と共に大きく飛翔(WING)していこうという願いも込められているそうです。
これらの柱には、初心忘るるべからずの気持ちが込められていると感じました。
ご案内いただいたそれぞれの職場では、こちらから声をかける間もなく、あちこちから大きな声で「いらっしゃいませ!」「こんにちは!」と出迎えていただきました。仕事の具体的な内容を説明する社員も自信たっぷりで、自分の仕事に誇りを持っていると感じます。
中電ウイングでは、広報誌「レイール」(※)を年2回発行しており、私も今回、12ページからなるカラー印刷の34号(2021年11月発行)を頂戴しました。広報誌を定期的に発行して、会社の活動を親会社や関係者に広く伝えることは、多くの労力を要することとは思いますが、大切で貴重な取組だと思います。
そして、ここでも、チャレンジドの皆さんが、ひとり1ページを使って丁寧に紹介されていて、仕事への思いや余暇の過ごし方が語られています。このような発信もまた、社員の皆さんにとって、この会社で働く喜びにつながっているのではないでしょうか。
(※)「レイール(REIR)」とは、スペイン語で「笑う・笑顔」という意味だそうです。
《コロナの影響は、アグリ事業部に》
この日は冷え込んで特に寒く、屋外の作業もありますし、ハウスの中は一定の温度管理があるとはいえ、作業環境は厳しいと感じましたが、社員の皆さんは元気よく働いていました。
秋葉さんに、会社の事業に対するコロナの影響についてお尋ねしたところ、最も影響が大きかったのは、このアグリ事業部だったそうです。
コロナ禍の初期には、厳しい行動制限が求められた中で、植栽の植え替え作業は人目につきやすいこともあって、全面的に休止状態となってしまい、社員は自宅待機を余儀なくされたとのこと。
一方、電力というインフラを担っているからでしょうか、中部電力では出勤抑制が限定的で、その分、中電ウイングが担う文書集配や事務補助の業務は、影響が少なかったそうです。
自宅待機が続く中で、チャレンジドの皆さんから「働きたい」という強い気持ちが示されたり、「働いていないのに・・」と休業手当をもらうことを戸惑う声もあったそうで、対応に苦慮されたとのことでした。
働ける、働く場があるということが如何に大切なことか、あらためて認識させられます。
《地域の広がり、事業の拡大》
2013年に中部電力本店内で文書集配業務を開始し、2019年に岐阜市、今年7月には岡崎市と、親会社の支店の中にも進出して、近々、静岡市にも支社を設置する予定とのこと。中部電力の主要な営業エリアの中で、中電ウイング社員の活躍の場も大きく広がっています。
この展開が地域の障害者雇用に与える影響も、きっと大きいに違いないと思いました。
ちなみに、中部電力本店に拠点を新設した時には、中電ウイング社員の元気いっぱいの挨拶が、本店の社員に「驚き」をもたらしたそうです。以後、本店の社員の間でも、自然に挨拶を交わすことが広がったとのこと。嬉しい効果です。
地域の広がりとともに、事業の拡大にも意欲的です。2016年に、中部電力の人財開発センター(愛知県日進市)の清掃業務を開始し、2年前から、独身寮の巡回清掃業務も始めています。
同じ年には、中部電力本店内で「ウイングカフェ」の営業も開始。一昨年からは、撤去した引込線(電線)をリサイクルできるように処理する業務も、名古屋市内の営業所を巡回する形で始めたそうです。
秋葉さんのお話によれば、新しい事業の開始に当たっては、先行事例を参考にしているとのこと。アグリ事業も、当時、株式会社かんでんエルハート(大阪市)の事例を参考にして取り組んだものであり、「ウイングカフェ」は、東京海上ビジネスサポート株式会社の取組を参考にしたとのことでした。
企業や業界の垣根を越えたこのような展開は、障害者雇用の進展にとってとても大切なものです。そして、中電ウイングが、他社の事例を参考にしつつも、新しい事業を自社の事業としてしっかり確立しておられることも、素晴らしいことと思いました。
《「ウイングいちご」、販売開始!》
なぜイチゴ栽培なのか? その目的は、チャレンジドの皆さんの加齢に伴う体力の負担を軽減するために、アグリ事業部で培った経験と実績を活かしつつ、ハウスという屋内で作業できる環境を作り、皆さんが長く活躍できるようにすることにあるとのこと。4年前に実証生産を開始したそうですが、その前にはアグリ事業部の社員数名が県内有数のイチゴ生産農家で、1年間の研修を受けたとのことです。
現在、岐阜県可児市に建設した約4,000㎡のハウスで事業を本格化させていて、「ウイングいちご」というブランドで、今シーズンから本格的な販売を開始しました。ハウスを目にした地元住民の方々からは、「イチゴ狩りはいつからできるんかね?」というお尋ねもあるそうで、期待を込めて見守られているようです。
今年、事業開始から20年を迎える中電ウイングでは、長く勤続した社員の処遇をどのように確保していくかは、重要な課題です。その中にあって、花の苗の生産や花壇の維持作業で培った技術を活かせる場をつくる試みは、意義深いものと思います。
新しい事業の成功をお祈りしたいと思います。
《中電ウイング社員、あちこちに》
4年前に東京で開催された「就労支援フォーラムNIPPON2019」の開会セレモニーに、私は厚生労働省の職員として参加し、その時、ホールで私の後ろの席に座っていたのが、中電ウイングの社員の方でした。参加者同士の交流を目的のひとつに掲げたイベントでしたので、主催者から「まわりの席の人と話をしてみましょう!」という呼びかけがあり、振り向いてお話をしたのがその方だったのです。
そして、昨年11月の「職業リハビリテーション研究・実践発表会」でも、私が参加した分科会で、中電ウイングの社員の方が挙手をして発表者に質問しているのを目にしました。
私は、これは偶然なのではなくて、中電ウイングの皆さんが如何に勉強熱心で、意欲旺盛に新しい情報を学ぼうとしているかの証しではないかと思います。
新しい状況に果敢に対応し、障害者雇用を牽引する頼もしい存在として、中電ウイングの今後ますますの発展をお祈りいたします。
~ 一緒に訪問したトヨタループスの清水康史取締役から、一言 ~
コロナ前に見学させて頂いた時よりも、新規事業のいちご栽培や新拠点が増えていて、常に進化・発展し続けているのを現地で拝見し、障害者雇用の質とはこうあるべきと、思いを新たにすることができました。
貴重な機会を頂き、ありがとうございました。
《自社PR》
中電ウイングは今年で開業20周年を迎えました。
ウイングという名称には、働く(Work)ことを通して自立(Independence)し、立派(Nice)に、成長(Growth)して、会社とともに大きく飛翔(WING)していこうという願いが込められています。
中電ウイングは、「共生」と「人間尊重」の精神に基づき、いきいきと就労できる場を創出し、働く喜びを味わい、生き甲斐と誇りを持てる会社にします。
中電ウイングは、ここで共に働くだれもが力と心を合わせて、夢に挑みながら共に成長し、人と環境に優しい、地域社会に貢献できる会社を築いていきます。
《会社概要》
社名 | 中電ウイング株式会社 |
主な業種 | 印刷業、商品販売、園芸事業 |
従業員数 | 260 名 |
うち障害者社員の人数 | 138 名 |
障害の内訳 | 身体12人、知的87人、精神39人 |
URL | |
親会社の社名 | 中部電力株式会社 |
主な業種 | 電気事業 |
親会社のHPに障害者雇用に関する記述がある場合には、その箇所のURL | https://www.chuden.co.jp/resource/corporate/report/chudenCP2023_all.pdf |
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)
株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問
1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。