会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社JR東日本グリーンパートナーズ

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社JR東日本グリーンパートナーズです。

今後の障害者雇用の推進に関しては、法定雇用率の段階的な引上げ(2.3%→2.5%→2.7%)とともに、2025年4月に、除外率を原則10%引き下げることが決まっています。これらの大きな変更に向けて、除外率の適用がある業種では、どのように取り組もうとしているのか? 鉄道好きの私は、3月の株式会社京王シンシアスタッフへの訪問に続いて、JR東日本グリーンパートナーズを訪ね、お話を伺う機会をいただきました。

当日は、京王シンシアスタッフの西山豊社長、株式会社東電ハミングワークの東敬雄社長とともに訪問。JR東日本グリーンパートナーズの安彦仁社長、伊藤佳克総務部長にご対応いただき、戸田事業所(本社)と北戸田事業所を見学しました。


新幹線と埼京線の高架下に立地する戸田事業所(本社)


《親会社とともに、採用を進める》

JR東日本グリーンパートナーズは、2008年、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)を親会社として設立。他のグループ2社とともに、グループ適用の認定を受けています。社員数は115名。うち障害を持つ社員(スタッフ)は49名で、知的障害者が44名を占めています。

JR東日本だけでも社員数は5万人を超えますので、それに比べると特例子会社としての規模が小さめだなと思い、安彦さんに尋ねてみると、JR東日本は、法定雇用率を達成しており、約150人分超過している状況とのこと。JR東日本における雇用は、身体障害者がほとんどであるのに対し、JR東日本グリーンパートナーズでは、知的障害者を中心に雇用を進めているとのお話でした。

除外率の引下げも控える中で、今後の見通しについて伺うと、JR東日本では、障害を持つ社員の年齢構成から退職が進むものの、これまで一定数の採用(年間20名程度)を確保できていることから、親会社と特例子会社の双方で採用を進める方向で、現在、方針を固めつつあるとのことでした。

それでも、試算では、法定雇用率が2.7%となる3年後までに、JR東日本及びJR東日本グリーンパートナーズで、130名近い採用が必要となる見込みとのこと。現在の同社の規模に比べて、社員数が倍増するほどの採用ですので、採用そのものだけではなく、職域の拡大が大きな課題となりそうです。


《本業の円滑な遂行に欠かせない業務を、着実に》

JR東日本グリーンパートナーズの設立当初からの業務で、現在でも中核となっている業務は、JR東日本社員の制服の管理。同社の収入の約6割を占める業務です。

新幹線と埼京線の高架下に立地する広々とした戸田事業所では、約7,800種類、9万着の制服を常時保管。定期貸与(経年による更新)や新入社員貸与のほか、臨時貸与(人事異動、破損など)にも対応します。

スタッフの皆さんは、新規調達から発送・回収まで、制服管理に関するすべての業務を担当。携帯端末でバーコードを繰り返し読み取りながら、依頼どおりにピックアップして制服類をセット。そのセットを送付先の社員個人に紐付けて、発送していました。

制服は会社の信頼に直結するものですから、その管理は厳格であることが求められ、これらの作業は間違いのないよう、着実に行われることが必須です。
JR東日本グリーンパートナーズでは、グループの本業の円滑な遂行に欠かせない業務に、職域を次々に広げてきました。

そのひとつは、JR東日本やグループ各社向けの、名刺や名札の製作(2010年~)。駅や車内でよく見かける社員が着用している名札も、すべてJR東日本グリーンパートナーズから供給されていて、この日も、実演しながら作成する手順を説明していただきました。

また、鉄道関連らしい業務として、「ジャパンレールパス」の審査業務があります(2015年~)。このパスは、来日した外国人旅行客のみが使用できる特別な切符。取り扱った各旅行会社との経理処理に齟齬を来たさないよう、窓口で発券した際に回収した引換券の仕分け・集計を行っています。最近はインバウンド需要も復活し、年間で約100万件という膨大な件数を処理。きめ細かい確認作業を求められるこの業務は、対応できるスタッフも限られるため、スタッフにとって憧れの業務だそうです。




《トップブランドとの関わりが、高い付加価値を生む》

JR東日本グリーンパートナーズでは、グループの本業から派生して高い付加価値を生む業務にも、取り組んでいます。

その一例が、観賞用「苔玉」の作製。なぜ苔か? それは線路脇の管理に由来します。線路を維持管理する際の大敵は、雑草。鉄道会社では、その対策として、苔を植えて雑草の発生を防いでいるとのこと。「ならば、その苔を使って・・」ということで、農業生産法人と連携し、苔を「活用」して商品化したのが「苔玉」です。着実に販売実績を挙げているとのことでした。




また、同社では、木製のストローも作製。薄い板状に加工した木をくるくると巻いて作るストローは、新幹線の最上級席であるグランクラスで提供されているとのこと。ここでは、環境問題への対応も強く意識されていると感じます。


トップブランドとのかかわりという意味では、グランクラスだけではなく、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」にも、JR東日本グリーンパートナーズは「進出」。「四季島」の運行で使用するアメニティ用品は、同社のスタッフの皆さんが検品・セットして、納品しています。
これらの業務では、企業グループとして、社会的な課題への対応を自らのトップブランドと結びつけて、その価値を一層高めようとする戦略が感じられました。そのことは、働くスタッフの皆さんにとっても、大きな働きがいにつながっているのではないでしょうか。


《雇用の質の向上を目指して》

JR東日本グリーンパートナーズは、近年、雇用の質の向上を進める取組を積極的に進めています。当日の説明資料の表題も、「雇用の質の向上を目指して」でした。

この取組は、
・人材育成、能力開発・向上
・共働・共生
・定着支援
の三本柱で進められています。




「人材育成、能力開発・向上」の中核となるのが、本年度から導入された人事賃金制度。

この制度は、等級制度・賃金制度(昇進モデル)・目標管理制度の3つによって構成され、説明資料の中で、「障がいの有無にかかわらず、同一の制度とすることで、役割等を明確にし、処遇格差に整合性を保つとともに、能力に応じて昇進が可能な制度とする。」と説明されています。スタッフは一般職の1等級からスタートしますが、来年4月にはさっそく2等級への昇格者を出すべく、現在、候補者への指導を深めているとのことでした。

もうひとつのポイントが、多能工化です。スタッフの皆さんは、1日の中でも様々な業務に従事。2回の休憩で区切られる3つの時間帯で、例えば、制服業務・社員証作成・苔玉作製と3つの業務に携わります。

このようなマルチジョブの取組は、様々な可能性に挑戦し、力を引き出すという意味で、スタッフの能力開発やモチベーションの向上につながっています。あわせて、指導員との相性という課題に対応する要素もあるとのことでした。




《グループ内に発信を続け、交流も盛んに》

「共働・共生」では、スタッフのグループ会社への出向と、グループ社員の研修・見学の受け入れという、双方向の取組が行われています。

出向は、現在、グループ適用の対象である株式会社ジェイアール東日本都市開発に、スタッフ3名が出向中。売上データの入力などの業務で、社員と一緒に働いているとのこと。スタッフの出向に関連して、同社の社員には、JR東日本グリーンパートナーズにおいて「指導員研修」を実施。スタッフの指導の下で業務を体験するなど、年間で30名程度が受講しているそうです。

グループ社員の研修・見学は、2020年度・2021年度の2年間で、約700名を受け入れたとのこと。コロナ禍の最中だったこの時期にこの人数は、驚きです。

グループ内のイントラネットで毎月発行されている「GPネットワーク」を拝見すると、毎月2~4か所の事業所の社員が見学。例えば、10月の見学者は、籠原運輸区、小山新幹線車両センター、東京新幹線車両センター、横浜支社と、第一線の現場を含め、多彩な顔ぶれです。


「GPネットワーク」は、本年6月に100号を迎えました。毎月の「GPネットワーク」では、社内の動き、スタッフの活躍(スポーツ大会、アビリンピックなど)、各地からの見学者などが、豊富な写真とともに紹介されています。

特例子会社からグループ内に弛まず発信を続け、グループ社員との交流も盛んに行う。素晴らしい取組に感銘を受けました。




《アットホームな雰囲気も、強みのひとつ》

ちょうどお昼の休憩に差し掛かった時間帯に、班長を務める指導員が集まる「班長会議」を拝見することができました。皆さん和やかに何を議論をしているのかなと思っていると、午後の各班の作業体制を話し合いで決めているとのこと。前述したように、マルチジョブで業務は行われていますので、これはさながらドラフト会議です。

スタッフの皆さんからみると、午後の仕事は直前に決まることになります。ちなみに、午前中の仕事も、その日の朝、判明するとのこと。多能工化を図る中で、日々の様々な状況を勘案しつつ、一人ひとりの力を最大限に引き出そうとする取組と拝察しました。

ところで、この班長会議は、どこかアットホームな雰囲気を持っています。指導員の皆さんには女性が多く、安彦さんに尋ねてみると、「子育てがひと段落した、ご近所の皆さん」とのこと。戸田市という、住宅街が広がる郊外に立地しているからこその、地域密着のこの特徴にも、JR東日本グリーンパートナーズの強みがあるように感じました。


《新たな職域に次々と挑戦》

冒頭で触れたように、職域の拡大が今後の大きな課題となる中、JR東日本グリーンパートナーズは、新たな展開を次々と進めています。

8月には、BPOセンターが発足。社員証(IC乗車証)の作成やPDF化作業が新たに始まっています。

もうひとつ、この夏からスタートしたのは、キッチンカーの事業。この日も、北戸田事業所の駐車場でスイーツやパンを販売。私たちもご馳走になり、美味しくいただきました。


 一緒に訪問した西山社長(左)、東社長(中央)と、「ふわふわ雪いちご」を囲んで


主力事業である制服管理では、5月から業務を拡大し、定期貸与(経年による更新)も担当。これによって、発送実績は4倍強となったそうです。さらに、JR東日本の支社レベルで管理している地域特有の被服類(防寒服など)についても、JR東日本グリーンパートナーズで担当できないか、現在検討中とのこと。その場合には、宮城県などに新たに拠点を開設することになるだろうとのお話でした。広い営業エリアを持つJR東日本グループならではの地方展開となりそうです。

10月には「ジョブ・サポートチーム」も発足。同社の実績に裏打ちされたノウハウをグループ各社に提供すべく、障害者雇用を進めるためのコンサルティング事業も始まっています。

安彦さんたちは、これらの事業展開を進めるに当たっては、体制の確保も重要とのお考えです。現在、スタッフ以外の社員数が多くなっているのも、このためとのことでした。


JR東日本グリーンパートナーズの新たな動きは、目を見張るものがあります。新しい職域へ、新たな地域へ。そして、グループ全体でも、同社のノウハウが雇用の拡大へとつながる。今後のさらなる展開が楽しみです。

《自社PR》

JR東日本グリーンパートナーズは、JR東日本における障がい者雇用の促進と長期的な雇用安定を図るために設立された特例子会社です。
私たちは障がいの有無に関わらず、社員一人ひとりの個性が最大限に発揮され、いきいきと活躍できる職場づくりを目指しています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。