会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

株式会社ダイキンサンライズ摂津

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、株式会社ダイキンサンライズ摂津です。

京都市で開催された技能五輪国際大会(※)の見学と組み合わせて、10月14日、新幹線に乗って関西へ。10月14日といえば「鉄道の日」です。開業150年の今年は、会員各社でも、鉄道好きの社員の皆さんが盛り上がっていたことと思います。かく言う私も、小学生の頃から時刻表を愛読していた筋金入り(?)の鉄チャン。この日に新幹線に乗ることができた幸運を喜びつつ、新幹線が社屋のすぐ目の前を走るダイキンサンライズの本社(大阪府摂津市)を訪ねました。

ダイキンサンライズには、厚生労働省の障害者雇用対策課長の時以来の訪問です。今回は、澁谷栄作社長、斉藤和義工場長、松本淳治製造部長にご対応いただくとともに、前社長の應武善郎さんにも、久しぶりにお目にかかることができました。

(※)昨年から今年に延期されていた上海大会が結局中止となったことを受けて、15か国に分散して特別開催することとなり、日本においても、京都市のみやこメッセを会場として、情報ネットワーク施工 など3種目の競技が行われました。



《時代の流れに先んじて、障害種別を拡大》

ダイキンサンライズは、1994年に操業を開始しています。設立に当たっては、親会社であるダイキン工業株式会社の社会貢献のひとつという位置づけのほかに、大阪府・摂津市の施策に協力するという位置づけもあり、府・市と設立協定が結ばれています。このような自治体との連携は、障害者雇用を進めていく当時のひとつの形でもありました。

操業開始時は、肢体不自由の社員を16名採用して始まったそうで、その4年後に聴覚障害者を採用、さらに2年後(2000年)には、早くも知的障害者の採用を始めています。

そして今、障害を持つ社員195名のうち、81名を占めるのが精神障害者とのこと。精神障害者の雇用を開始したのは2006年だそうですから、これも障害者雇用の趨勢を先取りする取組であり、その後の着実な雇用の進展が現在の状況につながっていると言えます。


特例子会社では、知的障害者の雇用を念頭に設立された場合には、今でも引き続き知的障害を持つ社員の比率が高いというような、設立時のモデルが大枠で維持されているケースが少なくありません。これに対して、ダイキンサンライズでは、その時々の先端を行く試みが行われて成果を出しており、その歩みは貴重なものであると感じました。

《出向社員がPSWの資格を取得》

精神障害者の雇用が進む中、特例子会社では、精神保健福祉士(PSW)を常勤で配置しているケースも多くなってきていると思います。

ダイキンサンライズでも、上記のような精神障害者の雇用状況に対応して、社員の中にPSWが2名いるとのこと。このうちの1名は、ダイキン工業からの出向社員が出向後に資格を取得したとのお話でした。経緯としては、募集をかけたものの、適当な人材に巡り合うことができず、それならばということで、総務を担当する出向社員が自ら資格を取ったそうですから、お見事です。

とはいえ、この経緯が示しているのは、PSWの活躍する領域が医療・福祉・教育など幅広く、引く手あまたでもあり、優れた人材の目が雇用の現場になかなか向かないということでもあるかもしれません。
PSWや臨床心理士などの専門職は、精神障害者の安定した就労の実現に大きな役割を果たす存在です。今後の雇用の進展に伴って、その重要性はますます高まっていくということを、我々は関係者にしっかりアピールしていかなければなりません。


《障害のある社員がリーダーに》

ダイキンサンライズは、現在、障害を持つ社員195名に対して、それ以外の社員が17名という構成になっています。

このような中で、ひとつの特徴は、身体障害も知的障害も精神障害も、いろいろな障害を持つ社員がひとつの現場で一緒に働いているということでしょう。もちろん障害特性に応じた配慮が必要な場面もあると思いますが、現場で社員の皆さんが働いている様子を見ただけでは、私には、どの人にどのような障害があるのか、ほとんどわかりませんでした。

そして、もうひとつの特徴は、上記のような社員構成の下で、現場の「リーダー」を中心に、障害を持つ社員の登用が進んでいるということです。リーダーには、下肢障害を持つ社員のほかに、聴覚障害や精神障害を持つ社員も就いています。


《治具の工夫、装置の改善、社員の提案》

ダイキンサンライズで行われている業務は、そのほとんどがダイキン工業からの受託によるものとのことです。なかには、ダイキン工業が製造している化学品(防汚コーティング剤)の小分け充填作業という、ダイキンの企業イメージからは、ちょっと意外に思う作業もあります。

車いすユーザーでもある松本製造部長に案内していただいた工場の現場では、作業の正確さや効率を確保するための治具の工夫や装置の改善が随所に見られました。
例えば、見た目はほぼ同じでコイルの太さが微妙に違う数種類のバネを仕分ける治具。治具の突起にバネをはめると、コイルの部分が「はまる」「はまらない」で、瞬時に仕分けることができます。
また、個別の受注で生産される業務用空調機の付属品は、必要な物がそれぞれに異なり、点数も多いとのこと。このため、付属品をピッキングして袋詰めする作業の現場に並んでいる棚は、ひとつひとつの空調機のデータが自動的に順次送られて来て、その空調機に必要な付属品の場所を示すランプが順番に点灯し、間違いなく次々と拾い上げることができるように工夫されています。社員の皆さんが棚の間を足早に移動して作業を進める様子は、迫力十分でした。

そして、各部門の現場には、社員の皆さんの具体的な改善の提案が、「採用」という評価の結果とともに、ずらりと張り出されていました。グループによる提案も、グループで力を発揮することの教育的な側面も重視して、大切にしているそうです。

これらの工夫や改善の取組は、まさに日本の製造業が強みを発揮してきた原点であると思います。そういった取組が今も現場にしっかり根付いているダイキンサンライズは、社員のモチベーションの向上を図りながら、今後も着実に実績を積み重ねていくに違いないと感じました。


《コロナの影響で、朝礼もバーベキュー大会も中止に》

こうした強みを持つダイキンサンライズであっても、新型コロナウィルスの影響を強く受けています。

毎朝、全社員が集まって実施していた朝礼は、2年以上にわたって行われず、各部門のモニターを使う形にしているとのこと。社員の気持ちをひとつにし、一日の安全を確認する大事な行事なのに、です。

また、毎年夏にダイキングループの社員を招待して盛大に開催していたバーベキュー大会も、ここ3年は中止を余儀なくされているそうです。こちらは、取引先との関係を深める重要な営業活動の場でもあり、ダイキンサンライズとその社員の存在を知ってもらう貴重な場でもあったとのこと。残念です。

では、以前のような朝礼やバーベキュー大会はもうやらないのかといえば、さにあらず。 


「コロナの影響が解消されれば、当然またやりますよ」と、力強いお答えをいただきました。今はやりの言い方をすれば、レジリエンスということでしょうか。
ダイキンサンライズのますますの飛躍を期待したいと思います。


《追記》2023年9月29日、4年ぶりに、
総勢234名で、バーベキュー大会が開催されたそうです!


《自社PR》

当初は16名の障がい者でスタートしましたが、現在は200名以上の人が働いています。障害があっても互いに協力し合い、色々な工夫をして出来ない事も出来るようにして働く、障がい者が主役の会社です。 「社員一人ひとりのできないことよりできることに目を向ける」、「人の能力は無限である」という考えで、働き易い環境作りに取り組んでいます。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問学校法人

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。