会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

第一生命チャレンジド株式会社

皆さん、こんにちは。
今回の訪問記は、第一生命チャレンジド株式会社です。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の湯浅善樹理事長が第一生命チャレンジドの社長を長く務めておられたというご縁があることから、今回は、JEED 理事長代理の輪島忍さんにお声がけし、JEED職員2名も一緒に総勢4名で、10月7日、JR田端駅前のアスカタワーにある本社を訪問しました。

当日は、伊東剛直社長、網屋裕二常務取締役(SACEC理事)、新藤優課長、木村敦子課長にご対応いただき、物流、印刷、ビジネスサポートの3つのグループの職場を見学させていただきました。


16年の歩みは、知的障害者の雇用の歩み

第一生命チャレンジドは2006年に設立され、今年で16年目を迎えています。

親会社の第一生命保険株式会社では、当時、既に身体障害者の雇用が進んでいたことから、特例子会社として、知的障害者や精神障害者の雇用を主眼に設立されました。以来、着実に雇用を進めて、現在では、全社員約370名のうち、障害を持つ社員が270名を超え、その約8割を知的障害者が占める形で、事業を展開しています。

2006年というと、私が厚生労働省の障害者雇用対策課長だった時期です。当時は、知的障害者の雇用のノウハウが蓄積しつつある時期で、職域としては、清掃やメール業務などが中心だったと記憶しています。

第一生命チャレンジドでも、そのような領域から雇用が始まり、現在では、パソコンを駆使した作業にシフトが進んでいるとのこと。同社の歩みは、まさに知的障害者の雇用の進展を映すものと感じました。

モチベーションと横のつながりを大切に

第一生命チャレンジドでは、企業理念として、
「任される」
「チャレンジ」
「認め合う」
「支えあう」
を掲げ、長く働き続けるために、モチベーションと社員同士の横のつながりを大切にしています。

そして、社員の成長が会社の成長につながるとの考え方のもと、「自分で出来ることはやってみる」「意見を言ってみる」といった経験ができる機会や風土をつくることを大切にしているとのこと。事業の運営に当たっては、社員が話し合って決めるということを基本としていて、社員から出たアイデアから、様々な新しい取組が生まれているそうです。




名刺の印刷の現場では、ふたりの社員が分担して説明と実演を行い、工程ごとの作業を実際に見せていただきました。会社の方針が社員一人ひとりにきちんと浸透して、自らの対応力を高め、仲間との協力を大切にしながら、場面に応じて自律的に作業を進めていることを実感できました。

職位制度で、モチベーションアップ

第一生命チャレンジドにおける処遇の特徴のひとつに、職位制度があります。

設立後まもなくから、社員の意欲に応えるためにどうするかが社内で議論され、障害がある人もない人も昇格できる制度として、2010年に創設されたとのこと。「トレーナー」から「部長以上」まできめ細かに職位が設定され、現時点で14名の障害を持つ社員が「リーダー」以上となって、リーダーシップを発揮しているそうです。

社員一人ひとりの状況は様々で、向いている社員とそうではない社員がいるとのことでしたが、社員のモチベーションの向上に大きく貢献していると感じました。


リーダー層には、資格を持つ専門家も

案内していただいた新藤さんの名刺に「社会福祉士」とあったので、伺ってみると、社会福祉士も精神保健福祉士(PSW)も、有資格者が10名以上いるとのこと(両方の資格を持つ社員もいます)。リーダー層の社員には、ジョブコーチなどを含め、関係する資格の有資格者もいると伺いました。

一方、全体として第一生命からの出向者はわずかで、ほとんどがハローワークなどを経由した中途採用という中で、中堅層の社員の人財育成が課題とのことでした。


親会社とは包括契約で業務を受託

第一生命チャレンジドで扱う業務は、ほとんどが第一生命グループから受託している業務とのことです。

このうち、親会社の第一生命との関係では、年間を通じた包括的な業務委託契約を結んでいるとのこと。これが財政基盤の安定につながっているものと感じました。この方式は、第一生命の各部門からみると、それぞれの部門の経理と関係なく業務を依頼できることから、「頼んでみよう」いうことになりやすい面もあるそうです。

他のグループ各社においては、それぞれの判断で業務の発注が行われるとのこと。第一生命チャレンジドでは、受注に向けて積極的な働きかけを行っているとのことです。


親会社と同じオフィスで活躍

職域の変遷によって、パソコンを駆使した作業へのシフトが進む中で、近年では、田端本社だけではなく、日比谷・豊洲・新宿などの拠点で、事務補助業務に携わることも多くなってきているとのこと。これらの拠点は、第一生命のオフィスの中にあり、親会社の社員が働くフロアの一角で業務に従事しているそうです。

このような業務が増えているのは、個人情報など、オフィス外に持ち出すことが難しい情報を扱うことが多くなってきて、第一生命の担当部門と同じ場所で業務を行う必要が生じていることが背景にあるとのことです。

その結果として、第一生命チャレンジドの社員が働く姿が、親会社の社員に「見える」ように。これまでは、社内の喫茶店で働く人たちとして「美味しいコーヒーをありがとう」と思われていた存在が、パソコンを駆使する姿を見て「こんなこともできるんだ!」に変わったそうです。この効果には、たいへん大きな意義があると感じます。

一方、このような業務には適任者を選んで担当させていることから、田端本社では、よりきめ細かな対応が求められる社員の比率が高くなってきているとのことです。

今後は、双方の拠点の特徴に応じて、機能を分け合いながら雇用を進めていくことになりそうです。

心を込めて、折り鶴を届ける

第一生命チャレンジドでは、すべての社員がほぼ毎日、一定の時間を使って行っている作業があり、それは折り鶴をつくることです。

この折り鶴は、給付通知書に同封されて、入院給付金が支給される顧客に届けられています。「お客様からの反応はいかがですか?」と伺うと、心遣いへの御礼の手紙が届くことも多くあるとのことで、その内容は社員の皆さんにも伝えられているとのことです。

折り鶴の折り方は一般的なものですが、その品質は厳しく管理され、折りの正確さに関するいくつものチェック項目にすべて合格したものでなければ、使われません。そのことは、心を込めて折るということにつながっていると思います。実際に折っている社員の皆さんも、真剣そのものでした。

すべての社員が参加するということの大きな意義とともに、心のこもったお便りが、入院という事態に至った方々の心にしっかり届いていることに、感銘を受けました。

生命保険の本業に直結して、その価値を高めている折り鶴のように、第一生命チャレンジドの皆さんが、これからも大きく羽ばたいていかれることを期待したいと思います。


~一緒に訪問したJEED・松原孝恵課長から、一言~

整然と箱に並んだたくさんの折り鶴を見せていただいた時、思わず「きれい!」と声が出ました。羽の先端まで神経が行き届いた美しさは、合格基準の明確さによるもの。合格基準をいつでも確認できるよう、微妙に不合格となったさまざまな鶴(アヒルと呼ばれていました)をファイリングするといった工夫がされていました。

職場定着の支援をしていると、仕事への納得感が持てないという相談を受けることも多いのですが、折り鶴の美しさは、皆が納得して仕事に取り組める環境づくりの賜物だと思いました。説明を任された社員の方が、緊張しながらもイキイキと誇らしげに説明される様子が印象的でした。

《自社PR》

主に第一生命保険㈱のサポート業務を行っています。会社設立当初は印刷、書類発送、清掃業務など限られた業務を行っていましたが、現在ではPCデータ入力、スキャニング、物流、喫茶など業務の幅を広げています。障がい種別にかかわらず、各々の能力を発揮できる業務を担ってもらうことを心がけています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。