会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

伊藤忠ユニダス株式会社

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、横浜市都筑区に本社がある伊藤忠ユニダス株式会社です。

私は、厚生労働省の障害者雇用対策課長だった時に一度訪ねていますので、ほぼ15年ぶりの再訪となりました。
先日の見学でお世話になった戸田建設と東京海上ビジネスサポート(TMBS)にも声をおかけして、9月2日に総勢4名で訪問し、社長の林啓志さん、常勤監査役の大津寄正登さん、総務課長の西山照美さんにご案内いただき、本社内にあるクリーニング部門とプリントサービス部門を見学しました。


多方面への営業努力が実って、今の姿に

伊藤忠ユニダスは、1987年に設立された、「老舗」と言ってよい特例子会社です。この年は、それまでの「身体障害者雇用促進法」が対象を拡大して「障害者の雇用の促進等に関する法律」に生まれ変わり、特例子会社制度が初めて法律に位置づけられた、障害者雇用の進展に画期をなす年でした。

同社の主力事業は、設立当初からクリーニング業であり、今でも大きなウエイトを占めています。私には、かねてより「伊藤忠の看板を背負った会社が、なぜクリーニングを?」というのが大きな疑問でした。

林さんのご説明によれば、親会社である伊藤忠商事株式会社には、当時、横浜山手に社員寮があり、伊藤忠ユニダスの設立に当たって、この社員寮から出る洗濯物を扱うプランが浮上したとのこと。納得です。

しかし、その後の展開は山あり谷あり。時代の趨勢で親会社の社員寮は廃止になってしまい、新しい得意先を模索することに。諸先輩の尽力により、近郊の工場やチェーン店などから安定した法人需要を確保し、さらには、大型マンションのコンシェルジェ・サービスに食い込み、一棟分まるごとの引き受けを、都内を中心に各所で獲得していったとのことです。
素晴らしい営業努力であるとともに、親会社との関連だけではなく、独自に経営を考えざるを得なかった状況に、大きな苦労があったことが偲ばれます。


新社屋で、主力のクリーニング業を究める

伊藤忠ユニダスは、2015年に、現在の社屋に移転しました。私が課長当時に訪ねたのは、倉庫を改造したという旧社屋で、クリーニングの現場ということもあり、たいへん暑かったことを記憶しています。

新しい社屋では、環境が一変。あちこちに高熱を発する機械があるにもかかわらず、場内は快適で涼しく感じるくらいです。加えて、ワンフロアに各種の機械が工程に沿って機能的に配置され、扱う洗濯物の移動は、自動化によってほとんど人手を要しない状況となっていました。社屋の移転を機に、思い切った投資がなされたものと思います。


社員の皆さんは、アイロンやプレス、たたみなどの工程に分かれて、てきぱきと作業をこなしていました。それぞれの工程で熟練が必要となる一方、ひとりでいくつもの工程がこなせるように、配置を工夫しているそうです。


また、日頃から社内で、マイスターや社長賞という形で表彰を行うとともに、ステップアップとして、グループリーダーのほか、国家資格であるクリーニング師を目指す人もいるとのこと。実技のほかに学科試験もあり、会社の全面的な支援もあって、これまで障害のある社員も3人(聴覚1人、知的2人)が合格。学科ではルビを振るなどの配慮はないそうですから、この結果は見事です。

どの工程でも仕上がりの品質に強いこだわりを持って作業が行われており、会社の方針としても、社員のモチベーションの面でも、主力であるクリーニング業を究めようとする姿勢が鮮明で、強く印象に残りました。


長く勤めた社員への対応

設立から既に35年ですので、社員の中には長期に勤続して、年齢が高くなっている人もいます。会社の方針としては、特に問題がなければ、60歳定年を超えて働き続けてもらうとのことですが、個人によっては、加齢とともに体力や能力の低下が否定できない人がいるとのことでした。

具体的な対応としてお話が出たのは、B型事業所への橋渡しを試みたケースでした。直ちに退職とするのではなく段階的に移行することを考え、収入面も考慮して「出向扱い(=賃金は会社の負担)でもいいから、受け入れてほしい」と交渉したそうですが、一般就労を続ける状態で、福祉のサービスは受けられないとされ、断念したそうです。

職業生活からの緩やかな引退への対応は、以前から大きな課題であり、今後ますますその必要性は高まっていきます。

制度の壁が立ちはだかる現状については、制度検討の場でも議論がなされています。本年(2022年)6月の社会保障審議会(障害者部会)の報告書(*)においては、一般就労中の福祉サービスの利用について、新たな提言が盛り込まれました。しかし、退職段階に関しては、残念ながら、なお今後の検討課題とされています。

「本人の状況や意欲に応じて働き続けることができるようにするためには、何をなすべきか」という観点に立って、すみやかに検討が進むよう、企業の立場からもしっかり発言していくことが重要だと思いました。


親会社の本社ビルにある拠点で、業務を拡大

最近はコロナの影響が甚大で、マンションのフロントが一時閉鎖となった影響などで、クリーニングの受注が4割減にまで落ち込んでしまったとのことでした。
 
そういった厳しい経営環境の中でも、伊藤忠ユニダスは、新たな展開を次々と打ち出しています。
 
クリーニング関係では、昨年(2021年)8月に、近隣のショッピングタウンの中にある閉店した取次店を受け継いで、一般住民を対象にした店頭サービスを始めたとのこと。
また、コロナ前の2018年から、青山にある伊藤忠商事の東京本社ビルの中にある青山事業所の業務範囲を、他のグループ会社から引き継ぐ形で、館内郵便物の集配送やビル内清掃などに、順次拡大しています。


さらに、時代の流れで親会社の社員寮(独身寮)が日吉に「復活」したことを受けて、この寮の中にも事業所を新設し、寮内の清掃やランドリーサービス(寮生の洗濯代行)の業務を開始したとのことです。


伊藤忠ユニダスでは、かねてより、伊藤忠商事の新入社員全員を研修の一環として受け入れてきたそうですが、この2つの事業所は、親会社やその社員の皆さんとの絆を一層深めていくきっかけを生む場所として、大いに期待されるところです。

伝統ある伊藤忠ユニダスが果敢に新しいことに挑戦するのを楽しみにしつつ、今後ますますの発展をお祈りしたいと思います。

~一緒に訪問した戸田建設・平野初枝課長から、一言~

今回、クリーニング部門とプリントサービス部門を見学させていただきましたが、どちらもグループ会社内だけではなく、一般消費者を対象に業務を展開されていました。そのため、品質に対してとても厳しく管理され、名刺作成では肉眼で確認できない擦れも見抜き、その完成度の高さに驚かされました。競争の激しい市場で受注を勝ち取っているだけに、社員の皆さんはとてもプロフェッショナルであると感じました。

当社は特例子会社ではなく社員の業務サポートが中心ですが、求められるものは同様であり、高品質の提供により社員からの信頼を得て、メンバーが働き甲斐を感じることができる職場環境づくりを推進していきたいと思います。

(*)社会保障審議会障害者部会の報告書(2022年6月13日・抜粋)
   https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000107941_00002.html

3 障害者の就労支援について 
(2)今後の取組
(一般就労中の就労系障害福祉サービスの一時的な利用)
   (中略)
〇 具体的には、就労移行支援及び就労継続支援の対象者として、企業等での働き始めに週10時間~20時間未満程度から段階的に勤務時間を増やす者や、休職から復職を目指す場合に一時的なサービス利用による支援が必要な者を、現行の対象者に準ずるものとして法令上位置付けることとすべきである。
〇 一方、中高齢の障害者が企業等を退職して福祉的就労へ移行する場合等については、 雇用主である企業等が責任を持って雇用を継続することが望ましいという指摘や、既存の雇用施策・福祉施策と役割が重なる部分があるため整理が必要であるという指摘があることなども踏まえ、一般就労中の就労系障害福祉サービスの利用に関して、引き続き、市町村による個別の必要性等の判断に基づくものとしつつ、現行の取扱いの中でより適切な運用を図るよう検討する必要がある。

《自己PR》

1988年に神奈川県で第1番目に特例子会社の認可をいただきました。
クリーニング、印刷を中心に、障がい者と健常者が共に支え合って仕事をしています。社員ひとりひとりのキャリア形成を大切にしています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。