会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

東京海上ビジネスサポート株式会社(大阪支社)(大阪市)

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、東京海上ビジネスサポート株式会社の大阪支社です。

私は現在(訪問当時)、東京海上日動火災保険株式会社の顧問も務めています。このご縁もあって、東京海上ビジネスサポート(TMBS)には、昨年7月に本社を訪問して以来、何度もお伺いする機会をいただきました。

その中で、「大阪支社は、本社とはまた違うところがあるので、ぜひ訪ねてみてください。」とのお勧めがありました。そこで、大阪支社長の高野直樹さんをご紹介いただき、5月26日、株式会社FVPの大塚由紀子さんと一緒に、大阪支社(大阪市中央区)を訪問しました。


《グループの本業に直結する業務を担当》

TMBSの大阪支社は、大阪城に近い大阪ビジネスパークにある、OBP大阪東京海上日動ビルにあります。

社員数は62名、うち障害を持つ社員は49名。知的障害を持つ社員は11名、精神障害を持つ社員が38名です。TMBS全体の精神障害者の比率(約55%)に比べ、大阪支社は約78%と高くなっています。

大阪支社の主要な業務で特徴的なのは、「自賠責ステッカー作業」です。バイクなどが自賠責(自動車損害賠償責任保険)に加入していることを示すステッカー(保険標章)は、ナンバープレートに貼付することとされ、法律上「保険標章を表示しなければ、運行の用に供してはならない。」と定められています。

このステッカーは、代理店から保険契約者に交付されるので、大阪支社では、毎月、代理店ごとに必要な枚数を送付し、余ったステッカーを回収する作業を行っています。コンビニエンスストアでも保険を扱っているため、全国にある配送センターに向けて、こちらは3か月ごとに同様の作業を行っているそうです。法令上も重要な位置づけを持つステッカーですので、破損などに注意しながら作業を進める必要があり、厳格な枚数管理も求められます。

もうひとつの主要な業務は、「損業作業」。前日に全国で受け付けた事故の届出リストをもとに、受付通知を作成。印刷・三つ折り・封入して、保険契約者に直接送付しています。三つ折りする際には、最初の「お見舞い申し上げます」の一文がきちんと前面に出るように折るなど、細やかな配慮も求められる作業です。

いずれの業務も、グループの本業である損害保険事業の一角を占める業務。社員のモチベーションアップにつながっていると感じました。


《他の拠点と分業、BCPに関わる業務も》

代理店向けの「自賠責ステッカー作業」は、西日本と東日本で担当を分けて、名古屋支社と分担して作業を行っているとのこと。また、「損業作業」も、保険の種類に応じて他の拠点と分業していて、大阪支社では、傷害保険、海外旅行保険、ゴルファー保険などを担当しているとのお話でした。

いずれも分業しているとはいえ、処理手順は共通していることから、業務量に大きな変動があった時には、他の拠点の応援に回ることもあるそうです。

この分業には、BCP(事業継続計画)が意識されている面があるようです。そして、大阪支社では、BCPそのものに基づく業務も行われています。

ご説明があったのは、「一般・自賠キット発送業務」。東京の本社が担当しているこの業務は、毎週木曜日、大阪支社でも行っているとのこと。いざという時に備えて、業務のノウハウを体得しておくことが目的です。

また、大阪支社には、有事に備えて帳票類も備蓄されているとのこと。備蓄ですので、日常的に作業があるわけではありませんが、たびたび行われる様式変更の際には、在庫の入替を行っているとのこと。有事の際には、ここから全国に、必要となる帳票が発送されます。

企業グループ全体のBCPに関わる業務が、特例子会社の業務に組み込まれている例を初めて伺い、特例子会社の存在意義も様々に進化を遂げていると感じました。


《「EAST」「WEST」で、業務分担も機動的に》

大阪支社のオフィスは、見晴らしのいい24階の広々としたワンフロア。業務体制は、本社と同様、原則5人のチャレンジサポーター(CS)とジョブサポーター(JS)1人で、ワンチーム。全10チームで業務を分担しています。

そのうえで、大阪支社の特徴は、見通しのよいフロアを東西に分けて、5チームずつの「EAST」「WEST」に編成していること。この編成の中で、JSとCSの対応関係も柔軟にし、機動的に業務を処理できるようにしているそうです。

これによって、CSの皆さんは、いろいろな仕事を経験することができるようになり、JSの方々も休暇が取りやすくなるなど、メリットがあるとのことでした。

《社員の方の体験談をお伺いして》

この日は、CSの皆さんから業務の説明を受けながら、職場を見学。その後、社員おふたりから、TMBS入社に至るまでに体験したことについて、お話を伺いました。

おひとりは大学院で修士課程まで学び、職歴もある方でした。発達障害の診断は、最初の会社に就職してからだったとのこと。しかし、学生時代にも様々なご苦労があったと伺い、私は、高等教育段階における気づきと支援がいかに重要かを強く感じました。

例えば、大学のキャリアセンターが、就職相談の場面で支援の必要性に気づくこともあるでしょう。その感度をいかに高めるかは、すみやかに専門的な支援につなげていくためにも重要です。

高野さんからは、職業準備性を高めることの重要性について、現場の実感に即したお話がありました。大塚さんからは、就学中は卒業の見込みが立つまで就労移行支援のサービスを利用できないという問題が提起されました。

私も、おふたりに同感です。就学中の福祉サービスの利用については、自治体によって運用に差もあるようです。一般就労中の福祉サービスの一時利用が制度化された今、次は、雇用を視野に入れた教育と福祉の連携(乗り入れ)が本格的に議論されるべきではないでしょうか。


《親会社への出向もスタート》

TMBSの大阪支社では、新しい試みも始まっています。

現在、TMBSから東京海上日動火災保険の関西エリアサービス部に、障害を持つ社員1名が出向中とのこと。昨年11月からの試行期間を経て、5月に正式に出向の発令が行われたそうです。淀屋橋にある東京海上日動のオフィスで、同社の社員とともに、順調に業務をこなしているとのことでした。

TMBSの各拠点と業務を分担しながら、独自の取組も着実に進めている大阪支社が、今後どのような取組を進めていくのか、これからも楽しみです。


《自社PR》

東京海上グループは、「障がい者への就業機会を広く提供し、多様な人材がいきいきと働いている企業グループへ」というビジョンを掲げ、その実現に向けて東京海上ビジネスサポートを設立しました。経営理念(①支援される立場から支援する組織へ、②夢と誇りを持てる会社へ、③活躍できる機会の拡大へ)のもと、やりがいを持っていきいきと働ける環境づくりに力を入れ、仕事を通して一人ひとりが成長できる会社を目指しています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 理事長

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。