会社探訪 〜土屋喜久が訪ねた障害者雇用の最前線〜

ASKUL LOGIST株式会社 福岡物流センター

皆さん、こんにちは。
今回の訪問は、ASKUL LOGIST 株式会社です。

10月下旬に福岡県を訪問する機会がありました。現在の福岡労働局長は、前・厚生労働省障害者雇用対策課長の小野寺徳子さんです。小野寺さんに、県内でどこか見学できる会社はないか、お伺いしたところ、福岡市東区にある ASKUL LOGIST 株式会社(以下「アスクルロジスト」と記載します)の福岡物流センターを教えていただきました。

そこで、10月24日、同センターを訪問し、坂井博基課長、岡山誠さんにご対応いただきました。



《センターの中核となる作業で活躍》

アスクルロジストの福岡物流センターは、「福岡アイランドシティ」と名付けられた広大な人工島の一角にあり、アスクルが取り扱う様々な物品について、九州全体のみならず、山口県・広島県にも配送する一大物流センターです。

同センターでは、
1.顧客の発注内容を示す携帯端末の指示を見て、該当商品が置いてある棚から、ピッキングする作業
2.ピッキングして集められた商品を梱包する作業
3.ピッキングによって商品が少なくなった棚に、商品を補充する作業
という、センターの中核となる三つの作業を見学させていただきました。現場では、午前9時から午後10時までの間、早番・中番・遅番などのシフト勤務で、作業が進められています。

福岡物流センタ-の従業員数は、300名。そのうちの59名が障害を持つ社員で、知的障害者が約80%を占めるとのこと。現場では、どの作業にも障害を持つ従業員が配置され、それぞれの作業の中にすっかり溶け込んで、他の従業員と一緒に活躍しています。勤務時間の前半と後半で担当する作業を変え、基本的な作業であるピッキング作業は、全員が従事しているとのことでした。

ピッキング
梱包
補充


《きっかけには、ふたつの出来事が》

なぜ、福岡物流センターで、これほど数多くの障害者雇用が進んだのか?

同センターにおける取組の当初から担当した坂井さんによれば、状況が動くこととなった契機には、大きくふたつの出来事があったとのことでした。

ひとつは、アスクルロジストの本社が、障害者雇用に取り組む方針を打ち出したこと。ただ、この「方針」は、不足数へのすみやかな対応というスタンスによるものであり、福岡物流センターには、3人という「割り当て」が「指示」されたそうです。

3人の雇用は、結果として「失敗」に終わったとのこと。採用したひとりは、遠隔地への転居を理由に退職したそうです。「転居であれば仕方がない」と思っていた坂井さんは、しかし、ある日、その人を市内で目撃。その時、「これは、取組自体が間違っていたのではないか」と考えたとのことでした。

そんなことがあった時に、もうひとつの出来事が。それは、近隣の特別支援学校からの実習受け入れのお願いでした。坂井さんは、前述の経験から、「これまで障害者と接する機会がなく、実態を知らない。」「知らないので、受け入れられる作業環境のイメージがない。」と感じて、学校の見学を希望。素晴らしいのは、見学だけではなく、学校で行われている実習を一緒に体験したということです。いただいた説明資料には、「百聞は一見にしかず、百見は一験にしかず」とありました。実体験があってこその言葉です。

ふたつの出来事が重なったことで、優れた取組が生まれた。しかし、坂井さんの課題に取り組む真摯な姿勢がなければ、この偶然が成果に結びつくことはなかったと思います。



《「経験学習」のサイクルを回し続ける》

福岡物流センターの取組の特徴に、「採用率100%」があります。「採用率というのは、分母は何ですか?」と坂井さんにお尋ねすると、応募者数であるとのこと。ちょっとびっくりです。

採用は知的障害者が大半ですので、特別支援学校との関係が重要です。学校としても、在学中の実習を通じて、内定を得られそうな生徒に絞り込むことも、理解できます。「それでもなお、100%というのは、あまりないのでは」と思っていると、坂井さんから、次のようなご説明をいただきました。

福岡物流センターでは、採用前の実習を重視しており、特に3年生の実習は、原則3回にわたって実施しているとのこと。そこでは、「経験→内省→教訓→実践」という「経験学習」のサイクルを回すことを基本とし、1回目の実習の「教訓」から導かれる課題について、2回目の実習で「実践」して、実習の内容を高め、さらに2回目から3回目へも、つなげていく。この実習では、適性などの見極めを行うだけではなく、採用に向けた準備をより具体的に高めていくこととなります。



さらに坂井さんのお話では、実習において繰り返したサイクルは、採用後も切れ目なく回し続けるとのこと。これがあれば、卒業・就職という人生の節目で、大きな「壁」を感じることなく、円滑に職業生活に移ることができそうです。送り出す学校の先生方にも、きっと大きな信頼感を生んでいることでしょう。

広く門戸を開き、安定した採用を続ける工夫と努力は、素晴らしいと思いました。



《「ヘルプ」ではなく、「サポート」で》

「経験学習」のサイクルには、「支援」のあり方に関する坂井さんのお考えが、強く反映されています。それは、「支援」の英訳を考えた場合にふた通りある概念のうち、「ヘルプ」ではなく、「サポート」であるべきという考えです。

坂井さんのご説明では、「ヘルプ」は、「失敗しないように、何でも先回りして準備してあげること」。それでは、結果として「永遠に自立できない。」「自己肯定感も育たない。」とおっしゃいます。

一方、「サポート」は、「自発的なやる気、自発的な行動を尊重し、やらせてみて失敗させる。」「失敗させても、その挑戦や行動を承認し、諦めない心を応援すること」であると考えているとのこと。それは「いつか成功につながる。」「自己肯定感が育つ。」という結果を生むとお考えです。

別の言い方をすれば、これは自ら「考えさせる」ということでもあるでしょう。そのことの重要性は、障害の有無に関わらずであるように思いますが、一般的にそのような経験が不足しがちとされる障害を持つ方々には、意識してその機会を提供していくことが大切かもしれません。

経験に裏打ちされたお考えを、実践にしっかりと組み込んでいることに、感銘を受けました。



《社内アワード受賞から、横展開へ》

アスクルロジストの福岡物流センターでは、多くの障害を持つ社員が日々活躍して、事業の展開に大きな役割を果たしています。では、他の事業所ではどのようになっているのか?

障害を持つ社員が、会社の主力事業の中核で、戦力として活躍している。当然ながら、同社では、福岡物流センターの取組を横展開する動きが始まっています。

同センターの障害者雇用の取組は、社内で評価されて、2013年に社内アワードで「優勝」を受賞。これに目を留めた同社の役員から、社内で広く取り組むよう、指示が出たとのこと。経営トップ・幹部の姿勢や判断は、障害者雇用を進める大きな推進力です。

坂井さんは、本社の人事総務部(人材開発課)の立場に異動して、他の事業所の取組を支援する活動を行っているとのことでした。

福岡物流センターの優れた取組が、アスクルロジストの全国の拠点に大きく広がることを、心よりお祈りしたいと思います。



《自社PR》

基幹作業にも障がい者スタッフを配置し責任ある仕事を任せることで積極的に人材の育成に取り組み、今では現場のリーダーを務める障がい者スタッフもいます。
障がい者スタッフを特別扱いせずに楽しく働けるように温かく接する「ナチュラルサポート」を継続的に実施しています。「ナチュラルサポート」では、特定の社員だけでなく同じ現場で働く従業員全員が一歩ずつ歩み寄り、互いに助け合いながら働きやすい環境づくりを行っています。

《会社概要》

*掲載した資料や写真は、各社からご提供いただいたものです。
*文中の「ショウガイ」の標記については、引用部分などを除き、法令と同様の「障害」としています。
土屋喜久(つちや・よしひさ)

株式会社FVP 執行役員
一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC) 顧問
学校法人ものつくり大学 顧問

1962年生まれ、群馬県出身。
厚生労働省において、障害者雇用対策課長、職業安定局長、厚生労働審議官を務め、障害者の雇用促進に深く関わった。
同省を退職後、2022年5月、SACECの顧問に就任。
本年10月、FVP・執行役員となる。
これからも障害者雇用へのかかわりを深めていきたいと考えている。