精神障害者の雇用管理、3つのポイント

1.精神障害の全体像

栗本:
精神障害のある従業員が社内にも何人かいます。改めて、より働きやすい環境づくりについて考えてみたいのですが……。

福田課長:
それは良いことだね!精神障害は外から見えにくいから、サポートや配慮の方法について、各職場だけでなく会社全体で、正しく理解することが重要だよ。

栗本:
精神障害って、具体的にはどういう状態なんですか?

福田課長:
障害者基本法では、「精神障害(発達障害を含む)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されている。精神的な問題が原因で、日常生活や社会活動に大きな制約がある人、ということだね。統合失調症、うつ病、双極性障害、てんかんなどの疾患が、よく知られているね。

栗本:
精神障害のある従業員は、精神障害者保健福祉手帳を持っていますね。

福田課長:
精神障害者保健福祉手帳は、精神障害のある人が支援やサービスを受けるための証明書のようなものだよ。この手帳を持っている人は、障害者雇用促進法で、雇用率の算定対象となるんだ。企業は、この手帳を持っている人を雇えば、雇用率にカウントできる。障害者雇用促進法は、企業に対し、一定以上の割合で障害者を雇用する義務を課しているから、その義務を果たすことにもつながるね。

2.具体的な症状

栗本:
先ほど教えてもらった主な疾患のうち、統合失調症って具体的にどんな症状があるんですか?

福田課長:
統合失調症は、幻覚や妄想などが特徴だよ。幻覚は、実際にはないものを感じる異常な知覚症状で、例えば、自分の悪口が聞こえるといった幻聴も、そのひとつ。妄想は、明らかに誤ったことを信じてしまう症状で、「被害妄想」や、何でも自分に関係があると思い込む「関係妄想」などがある。これらの症状は、本人には現実であるかのように感じられ、病気と気づきにくいんだ。日本では、統合失調症の患者数は約80万人とされている。

栗本:
そんなに多いのですね!うつ病や双極性障害とは、どのような疾患でしょうか?

福田課長:
うつ病は、気分が長期間にわたって沈んで、日常生活に支障をきたす状態だよ。うつ状態と躁状態を繰り返すのが、双極性障害なんだ。躁状態では、睡眠時間が少なくても平気になり、長々と話し続けるなど、活動的で興奮した状態になるんだ。日本では、うつ病は生涯において約6%の人が経験するとされていて、女性の方が男性よりも多い。双極性障害は、うつ病に比べると少なく、全人口の約0.4~0.7%と言われている。

栗本:
治療法はありますか?

福田課長:
うつ病や双極性障害では、薬物療法と、専門家との対話を通じて行う精神療法が有効だね。軽い有酸素運動も、うつ症状の改善に役立つとされているよ。統合失調症では、薬物療法が中心となることが多いが、精神療法や社会復帰支援も大切なんだ。

栗本:
治療法も含め、精神障害について正しく理解することは、とても重要ですね。

福田課長:
その通り。企業の雇用管理面だけでなく、社会全体にとっても非常に重要なことだよ。正しく理解することで、精神障害のある人たちに対する偏見や差別が減れば、支援を充実させることもできるからね。また、精神障害の早期発見や適切な治療にもつながる。精神障害は、患者だけでなく家族や友人など周りの人たちにも影響を及ぼすため、社会全体での理解とサポートが不可欠なんだ。

3.病気と障害が併存

栗本:
精神障害のある人が仕事をする際、会社としては、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか?

福田課長:
大きく3つのポイントがあるよ。まず、病気と障害が併存していること。身体障害の場合、病気が治った後に障害が固定されるが、精神障害は病気と障害が同時に存在するんだ。症状が、心理や環境の影響を強く受けるからなんだよ。

栗本:
そこが、雇用管理面で難しいところですね。

福田課長:
そうだね。本人の状態に配慮しながら、支援や工夫を行う必要がある。また、本人も積極的に体調管理に取り組むことが欠かせない。仕事をする上でより良い状態を保つために、会社と本人が共同で努力、工夫をすることが、とても重要だよ。「仕事を休みたい」と言ってきた場合には、具体的な体調を尋ね、休ませたり、無理のない範囲で仕事をさせたりと、きめ細かく配慮してほしい。また、注意をするときは感情的にならず、具体的な対処方法を助言することも大切だね。

4.認知機能の低下

栗本:
なるほど。2つ目のポイントは何ですか?

福田課長:
認知機能の低下が見られる場合があること。症状や薬の影響で、知覚や判断、記憶などの認知機能が低下する場合があるんだ。職場では、口頭での指示を理解するのが難しかったり、複数の業務を同時にこなすのが苦手だったりする。この記事が詳しいので、参照するといいよ(URL)。

栗本:
仕事の内容を調整し、指示の出し方も工夫する必要がありそうですね。

福田課長:
とても大事なことだよ。業務を単純化したり、分割したりすることが有効だね。職場での指示はできるだけひとつずつ出し、理解できたかを、その都度確認してほしい。口頭での指示は避け、メモを渡す方が良いね。

5.中途障害

栗本:
3つ目のポイントも教えて下さい。

福田課長:
精神障害は中途障害であるということ。精神障害は、生まれつきのものではないんだ。大人になってから、または成長過程で発症するため、自信を失って、自尊心が低下することが多い。また、精神障害を受け入れるのに時間がかかる人もいる。

栗本:
3つ目のポイントは、職場でも充分に配慮しなければなりませんね。

福田課長:
本人の自信回復や自尊感情の向上に配慮してほしい。本人の能力を引き出し、ポジティブなフィードバックを行うことが大切だよ。自己肯定感が低い人が多いので、肯定的な言葉をかけることも重要。厚生労働省のガイドラインでも、障害者雇用における支援の一環として、自尊感情の向上が挙げられているからね。

栗本:
3つのポイントについて、とてもよくわかりました。精神障害のある従業員が、より能力を発揮できるよう、これからも環境の改善に努めます!

福田課長:
期待しているよ!精神障害について知るには、厚生労働省のウェブサイトが役立つ。法律や精神障害に関する情報が豊富に掲載されているんだ。これらも参考にしながら、ぜひ取り組みを進めてください。
★無料ダウンロード
人事担当者のための頼れるガイドブック「障害者雇用Q&A集」

★関連情報
精神障害者に「無理をさせない」環境とは?
精神障害者に「頑張れ」と言ってもよいのでしょうか。
「こんなこと注意してよいのだろうか?」といつも悩んでしまいます。
【統合失調症】新しい業務を覚えられない精神障害者社員のスキルアップ