障害者雇用促進法の改正で求められる「雇用の質の向上」

1.事業主の責務は「数」と「質」であると明確化

栗本:
福田課長、障害者雇用促進法が改正されたそうですね。

福田課長:
そうなんだよ。2022年12月16日に公布された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」の中で、障害者雇用促進法も改正された。ここ数年の障害者雇用をめぐる動向に対応する改正となっている。経緯などの詳細は、労働政策審議会・障害者雇用分科会の資料を読んでほしい。こちらがそのURLだよ。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30341.html

栗本:
改正された障害者雇用促進法って、どのような内容なのですか?

福田課長:
障害者雇用の「人数」だけでなく、雇用の「質」も重視しているのが特徴と言える。

栗本:
雇用の「質」ですか……。具体的には、どんな改正が行われたのですか?

福田課長:
まず、雇用の質を向上させるため、「事業主の責務」が明確化された。「事業主の責務」を定めた条文(第5条)が改められ、「職業能力を開発し、向上させるための措置」の実施が加わったんだ。これは、企業が障害者を雇うだけでなく、その能力を磨き、アップさせるように努力しなければならない、ということ。2023年4月から、すべての企業に適用されているよ。

栗本:
法律の理念として、雇用の質を上げることが明確になったのですね。ほかにも、雇用の質の向上にかかわる改正点はありますか?

2.雇用の質を向上させるための二つの助成金を新設

福本課長:
助成金の新設も、雇用の質の向上が期待できるね。2024年4月に、次の2点をサポートする助成金が新たに設けられる。一つは、障害者の雇い入れや雇用継続のために、雇用管理上の相談援助を行う企業への助成金。もう一つは、加齢により職場への適応が難しくなった障害者を雇い続けるために、職務の転換に向けた能力開発、業務遂行に必要な施設の設置などを行う企業への助成金だよ。

栗本:
助成金が二つも新設されるのですね!

福本課長:
障害者雇用促進法では、法定雇用数を達成していない企業から「納付金」を徴収し、そのお金を、企業に「調整金」「報奨金」「助成金」として支給しているのだが、これまでは「調整金」と「報奨金」に支出が偏りすぎていて、「助成金」が少なかったんだ。政府は、この偏りを見なおして「助成金」を増やし、企業の雇用の質を上げることにしたんだ。

栗本:
政府の意気込みが感じられます。さらに、雇用の質の向上に向けた改正はありますか?

3.国会で問題視された障害者雇用代行ビジネス

福田課長:
障害者雇用促進法の改正そのものではないが、知っておいてほしいことがあるよ。障害者雇用促進法を含む「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律」が2022年の臨時国会で議論される中で、多数の「附帯決議」が付いたんだが、その中に「障害者雇用代行ビジネス」に関する附帯決議もあるんだ。

栗本:
「附帯決議」って何ですか?

福田課長:
「附帯決議」とは、法律に盛り込めないけれども重要な問題や中長期的な課題について、国会として「政府に取り組んでほしい」と決めたことだよ。

栗本:
「障害者雇用代行ビジネス」について、国会から取り組みを求められるって、重みがありますね。

福田課長:
その通り。附帯決議では、「事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供するいわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導等の措置を検討すること」と書かれてるよ。

栗本:
企業が自ら、主体的に取り組む必要があるのですね。

福田課長:
雇用率の達成のみを目的とした「障害者雇用代行ビジネス」は、雇用の質を重視する障害者雇用の理念からずれている--と国会も問題視したんだ。厚生労働省の今後の対応を注視しなくてはならないね。

栗本:
わかりました。「雇用の質の向上」以外で、改正障害者雇用促進法に盛り込まれたことはありますか?

4.短時間労働者を実雇用率にカウント

福田課長:
あるよ。まず、週の所定労働時間が特に短い人を、実雇用率にカウントできるようにした。対象になるのは、週の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者。これは、2024年4月1日から施行される。
厚生労働省 第129回障害者雇用分科会資料より抜粋
栗本:
もう少し詳しく教えて下さい。

福田課長:
企業に雇用義務が課されているのは、週の所定労働時間が「20時間以上」の障害者なんだ。この点は、法改正後も変わらない。でも、週の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の人たちについても、企業に雇用義務はないけれども、雇った場合には、その企業の実雇用率に反映できる、ということなんだ。

栗本:
なるほど!。それってどういう効果があるんですか?

福田課長:
「短時間なら働ける」「短時間でも働きたい」という人たちには、雇用のチャンスが広がる。また、実雇用率を高めたい企業にとっても、「プラスの改正」と言える。

栗本:
確かにそうですね!

福田課長:
ただし、この改正に伴い「特例給付金」が廃止される。

栗本:
「特例給付金」とは?

福田課長:
週の所定労働時間が「10時間以上20時間未満」の障害者を雇う企業に、1人あたり月7,000円(常用労働者100人以下の企業は1人あたり月5,000円)を支給する制度なんだ。法改正で、「10時間以上20時間未満」の障害者も実雇用率にカウントされることになったから、「特例給付金」は必要なくなった。

栗本:よくわかりました。

5.事業協同組合等算定特例に(LLP)を追加

福田課長:
障害者雇用促進法の改正ではこのほか、2023年4月から、「事業協同組合等算定特例」に「有限責任事業組合」(LLP)が追加された。

栗本:
うーん、用語が難しいですね……。

福田課長:
「事業協同組合等算定特例」は、事業協同組合のスキームを活用し、複数の中小企業の実雇用率を通算できる特例制度。この制度の対象に、「有限責任事業組合」(LLP)を加えることにしたんだ。LLPは、さまざまな業種の企業が参画でき、行政の許認可が不要で設立手続きがシンプルなので、中小企業の障害者雇用を促す効果が期待されている。
大阪府「障がい者雇用率算定の特例制度(ご案内)」から抜粋
栗本:初めて知りました!

6.在宅就業支援団体の登録要件緩和

福田課長:
このほか、2023年4月1日から、「在宅就業支援団体」の登録要件も緩和された。

栗本:
これも知らないです……。

福田課長:
企業が「在宅就業支援団体」を介して、在宅で働く障害者に仕事を発注した場合に、その企業に納付金制度からお金を支給するしくみになっている。「在宅就業支援団体」とは、在宅で働く障害者に対する支援を行う団体として、厚生労働大臣に申請し、登録を受けた法人のことなんだ。

栗本:
厚生労働大臣への申請・登録の要件が緩められたのですね。

福田課長:
そうなんだ。「常時10人以上の在宅障害者に継続的に支援を行う」という要件が課されていたが、「10人」の部分が「5人」へ引き下げられた。

栗本:
障害者雇用促進法の改正に関連して、法定雇用率も引き上げられると聞きました。

福田課長:
これは、障害者雇用促進法により、少なくとも5年ごとに法定雇用率を見直すよう定められているからなんだ。具体的には、2024年3月までは現在の2.3%のまま、2024年4月から2026年6月までは2.5%、そして2026年7月以降は2.7%となる予定だよ。

栗本:
障害者雇用の質と量を、どちらも意識しなくてはなりませんね。

福田課長:
法定雇用率を満たすだけでなく、雇った障害者を他の従業員と同じ「働く仲間」として、そして「貴重な戦力」として育てていくことが、これまで以上に企業に求められるね。しっかりと取り組めば、労働力不足の解消や、わが社の社会的存在価値を高めることにつながるから、がんばってほしい。

栗本:承知しました!改正法の内容や、新しい法定雇用率に対応できるよう、早速、準備を進めます。
参考資料
改正障害者雇用促進法解説(人事ご担当者向け)
改正障害者雇用促進法の内容
・プロが徹底解説!障害者雇用の「助成金」とは?
・障害者雇用ビジネスに対するその後の動き
厚生労働省/いわゆる障害者雇用ビジネス(※)に係る実態把握の取組について