障害者の離職を防ぐ3つのポイント

1.高い精神障害者の入社1年後離職率

栗本:
福田課長、実は、採用した障害者から「辞めたい」という相談がありまして……。

福田課長:
それは困ったね。できるだけ辞めなくてすむように、サポートしなくちゃ。私も協力するよ。

栗本:
はい、よろしくお願いします。あす、退職の意向を示している障害者から詳しく話を聴くことになっているのですが、その前に、障害者の離職について、全体的な傾向や、離職を防ぐ対策を押さえておきたいと思います。

福田課長:
障害者の離職は、同僚とのコミュニケーションがうまくいかない、職場の雰囲気や人間関係になじめない、賃金・労働条件に不満がある、仕事の内容が合わない、といった理由で起こることが多いんだ。障害が悪化して働くことが難しくなって離職するケースもある。でも、日本全体でみると、実際には多くの障害者が数年から10数年にわたって安定して就業しているんだ。

栗本:
そうなんですね!障害者雇用の現状について具体的に教えてください。

福田課長:
民間企業における障害者雇用数は、令和4年時点で61.3万人となり、19年連続で過去最高となった。特に精神障害者の雇用数が大きく増えているね。具体的な内訳を見ると、身体障害者が35.7万人(前年比0.4%減)、知的障害者が14.6万人(前年比4.1%増)、精神障害者が10.9万人(前年比11.9%増)。また、実雇用率も過去最高の2.25%(前年は2.20%)で、法定雇用率達成企業の割合は48.3%(前年は47.0%)となっている。
厚生労働省「令和4年 障害者雇用状況の集計結果」より抜粋
栗本:
なるほど、雇用数は増えているようですね。では、実際の職場定着率はどのような状況なのでしょうか?

福田課長:
高齢・障害・求職者雇用支援機構のデータによると、入社から3か月の時点では、知的障害者が85.3%、発達障害者が84.7%、身体障害者が77.8%、精神障害者が69.9%となっている。しかし、入社1年後になると、精神障害者の離職率が49.3%と大きく上昇してしまうんだ。
高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」より抜粋
栗本:
精神障害者の離職率が高いのですね。それに比べて、知的障害者や発達障害者の方々は比較的職場に定着しやすいのですか?

福田課長:
そうだね。知的障害者や発達障害者は、職場に定着しやすい傾向があるね。精神障害者の入社1年後の離職率が高いのは、精神障害による社会生活やコミュニケーションの困難さが影響している可能性があるんだ。

栗本:
精神障害者へのサポートや対策が重要なのですね。

福田課長:
その通り。精神障害者への適切なサポートやマネジメントは、離職を防ぐ上で重要だね。

2.採用時の取り組み強化で職場定着を図る

栗本:
離職を防ぐには、具体的にどうしたらよいのでしょうか。

福田課長:
「採用時の取り組み」「入社後のマネジメント」「支援者との連携」という3つのポイントがあるんだ
栗本:
それぞれについて教えてください。

福田課長:
「採用時の取り組み」から説明するね。ポイントは次の2つだよ。

 ① 選考過程に職場実習を取り入れる
 ② 選考ではスキルだけでなく、就業準備性も確認する


栗本:
①の職場実習の意義は何でしょうか。

福田課長:
就職希望者が、職場実習を通じて実際の業務を経験することで、仕事の内容が自分の能力や適正に合っているか、障害の状況から見て継続的に取り組めるものかどうかを確認できる。これは離職を防ぐ大きな効果が期待できるね。

栗本:
②の「就業準備性」は、初めて聞いた言葉です。

福田課長:
「就業準備性」とは、健康管理、日常生活管理、対人スキル、基本的労働習慣、職業適性など、働く上で求められる基礎的な力のこと。面談等でこれをしっかりチェックし、就業に必要な準備が整っているかを確認するんだ。もちろん、採用時には、障害者の適性や能力を正しく評価することが重要なので、適切な採用基準や面接方法を確立し、障害者の特性や個々のニーズに配慮した選考を行うことも欠かせない。
高齢・障害・求職者雇用支援機構「就業支援ハンドブック」より抜粋

3.入社後のマネジメント不足が離職を誘発

栗本:
「入社後のマネジメント」についてもお聞きしたいです。

福田課長:
障害者の個別のニーズに応えるためは、適切な配慮や支援が必要となる。それを実現するためには、入社後のマネジメントが不可欠なんだ。次の3つに気をつけるといいよ。

 ①体調について記録する
 ②業務の指示を書面で行う
 ③定期的な面談を行う


①では、特に精神障害のある方の体調の変動を把握し、適切な対応策を立てることにつなげるんだ。②は、手順書の提供など、明確な指示を出すこと。これにより、障害者が仕事を進めるうえで混乱することを防ぎ、業務の効率化にもつながる。③は、障害者とのコミュニケーションを促し、体調や業務の進捗状況、改善すべき点などを話し合うことができる。面談は短時間でも頻繁に行うと効果的だよ。

栗本:
面談では、働く障害者の個々の状況や体調などを、詳しく把握することが大切なんですね。

福田課長:
障害者の個々の能力や制約がわかれば、業務内容の調整や、必要な補助機器の導入、職場支援者の配置など、障害者がよりパフォーマンスを発揮できる環境を整えられる。また、体調が悪いときに休んだり、短時間勤務をしたりできるように配慮することも大切。そのほか、部署内での理解促進や配慮のための教育・研修プログラムの実施、相談窓口の設置なども、やってみる価値がある。

4.心強い社外支援者の協力

栗本:
最後に「支援者との連携」について、教えてください。

福田課長:
障害者の方々が職場で円滑に働けるようにするためには、障害者本人だけでなく、社外の支援者との連携が欠かせない。

栗本:
社外の支援者とは、具体的にはどういった人たちでしょうか

福田課長:
自社に就職した障害者が利用していた就労移行支援事業所などの就労支援施設、障害者就業・生活支援センター、地域障害者職業センターなどの支援者のことだよ。これらの支援者は、障害者の特性や必要な配慮について理解しているので、定期的にコミュニケーションをとって、情報共有を行い、適切なサポートにつなげるんだ。
神奈川労働局「障害者就業・生活支援センターの概要を掲載しました」より抜粋
栗本:
これは心強いですね!

福田課長:
こうした支援者は、専門知識を持っているし、障害者の就業面だけでなく生活面の状況や課題も把握しているから、積極的に協力してもらうよう、呼びかけるべきだよ。生活面の課題がクリアできれば、就業にもプラスになるから、離職防止に大きな効果がある。

栗本:
「採用時の取り組み」「入社後のマネジメント」「支援者との連携」という3つのポイントについて、よく理解できました。きょう教えていただいたことを頭に入れて、退職の意向を示している障害者の話に耳を傾けたいと思います。

福田課長:
ぜひ、そうしてください。そのうえで、会社として改善できるところは改善して、その障害者が働き続けられるよう、手を尽くしてほしいね。

栗本:
承知しました、頑張ります!
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★参考資料
障害者雇用に関する厚生労働省のウェブサイト:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/index.html

障害者雇用支援機構のウェブサイト:
https://www.jeed.or.jp/

障害者雇用に関する統計データや調査結果などの資料:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/dl/index.html

高齢・障害・休職者支援機構「就業支援ハンドブック」
https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/handbook.html

障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)の概要を掲載しました
https://jsite.mhlw.go.jp/kanagawa-roudoukyoku/news_topics/topics/20170816.html