「精神障害」の特徴とは?

1.「障害」の全体像

栗本: 
課長、「精神障害」とは、具体的にどのような障害がある人たちなのでしょうか?

福田課長:
「精神障害」について説明する前に、「障害」のことを押さえておく必要があるね。法律では、「身体障害」「知的障害」「精神障害(発達障害を含む)」について、それぞれ規定している。具体的には、「身体障害者福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」だよ。

栗本:
障害者雇用における「障害者」の定義も、この3つの法律と同じですか?

福田課長:
障害者雇用における「障害者」の定義は、「障害者雇用促進法」で規定されている。この法律で、「身体障害、知的障害、精神障害などの障害があるために、職業生活に制限を受けている、または職業生活を営むのが著しく困難な人」と定めている。そして、実雇用率の対象となる障害者は、「障害者手帳」を持っていることが基本条件になっているよ。この手帳は「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類。下に、それぞれの手帳の具体的な内容を表にまとめておいたから、参考にしてほしい。

2.精神障害の3つの特徴

栗本:
よくわかりました。それでは、具体的に「精神障害」とはどういう障害なのでしょうか?

福田課長:
「精神障害」とは精神疾患のために精神機能に障害が生じ、日常生活や社会参加が困難となっている状態のことを言うんだ。

栗本:
精神疾患ですか。

福田課長:
そうだ。統合失調症、うつ病、双極性障害、躁病、不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、依存症(アルコール、薬物、ギャンブルなど)などが精神疾患だ。

福田課長:
精神障害を理解するためには、まず、精神障害の特徴である3つのポイントを押さえてほしい。

・精神障害は病気と障害が併存している障害である。
・認知機能の低下が見られる場合もある。
・中途障害である。

栗本:
最初の「病気と障害が併存している」とは、どういう状態なのでしょうか?

福田課長:
身体障害の場合、治療を終えると、症状が障害として固定されることが多い。例えば、手足の障害の場合、その部分が動かないなど、困難なことや苦手なことが明確になるわけだ。しかし、精神障害の場合、病気と障害が相互に関連して共存する。だから、一部分だけを見て判断するのではなく、社会生活全体の中での対応が必要なんだ。

栗本:
では、次の「認知機能の低下」について教えてください。

福田課長:
精神障害では、症状や薬の影響で、認知機能の低下が見られることがあるんだ。認知機能とは、精神医学的には知能に近いものだが、心理学的には、知覚、判断、想像、推論、決定、記憶、言語理解などが含まれる。職場では、指示の理解や状況判断、新しい業務を覚えること、複数の業務を同時に行うことなどが難しくなる場合がある。

栗本:
最後の「中途障害」は、どういうことでしょうか?

福田課長:
精神障害は先天的なものではない、ということだよ。生まれたときから精神障害があるわけではなく、大人になってから、または大人になる過程で発症することが多いんだ。このため、「自分には障害がある」と受け入れるのが難しい。また、偏見や差別によって自信を失ったり、落ち込んだりすることもある。詳しくは障害者職業総合センターが出している「精神障害者雇用管理ガイドブック」を見るといいよ。

3.統合失調症とは

福田課長:
代表的な疾患について伝えるね。まず「統合失調症」から。統合失調症は、脳の機能が正常に作動しないことで、幻覚や妄想などの症状が現れる病気なんだ。特に、実際にはない音や声を聞く「幻聴」や、誤った信念を持つ「妄想」がよく見られる症状。原因については、完全には解明されていないが、特定の要因を持つ人が、ストレスや人生の転機などのきっかけで発症すると考えられている。日本では約80万人が統合失調症と診断されているそうだよ。

※代表的な陽性症状
・幻聴:実在しない人の声が聞こえる
・妄想:実際にはあり得ないことを信じ込む
・思考伝播:自分の考えが他者に伝わっていると感じる
・滅裂思考:話にまとまりがなく、何を意図としているか理解しにくい

※代表的な陰性症状
・思考過程の障害:話や思考の脈絡にかける
・意欲の欠如:意欲や自発性が低下する
・感情の平板化:周囲への関心が薄くなる

栗本:
80万人もいるなんて、驚きました。治療の経過はどのような感じですか?

福田課長:
治療を受けると急性の症状は和らぎ、その後は回復期として、徐々に安定に向かう。もちろん、症状が出なくなったからと言って治療を自分の判断で終わらせるべきではないよ。再発のリスクがあるので、主治医との相談が不可欠なんだ。
栗本:
それは大切なポイントですね。詳しく知りたい場合、参考になる資料やサイトはありますか?

福田課長:
国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」を、まず読んでほしい。また、独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」が発行している職業訓練のマニュアルも参考になるね。

4.気分障害とは

栗本:
統合失調症のほかに、代表的な疾患はありますか?

福田課長:
「気分障害」も、よく知られているね。気分障害には、うつ病や双極性障害が含まれるよ。

栗本:
「うつ病」はよく聞く病気ですが、どのような症状が出るのでしょうか?

福田課長:
うつ病とは、気分がずっと落ち込んでいる状態を指すんだ。何をしても楽しめないといった精神的な症状と、身体的な症状、例えば、食欲がない、疲れやすいなどの症状が現れるよ。

※気分障害の精神症状
・ゆううつな気分
・興味・関心の減退
・おっくう感
・漠然とした不安感

※気分障害の身体症状
・睡眠障害
・食欲不振
・性欲減退
・頭痛、腰痛
・疲労感や倦怠感

栗本:
「双極性障害」とはどういう障害なのですか?

福田課長:
双極性障害は、うつ状態と躁状態を繰り返す病気だよ。うつ病との違いは、躁状態があるかないかなんだ。治療方法も異なるので、国立精神・神経医療研究センターの「こころの情報サイト」を見てほしい。

栗本:
うつ病って、外見でわかるものなのでしょうか?

福田課長:
うつ病の人は、周囲から見ても変化がわかることがあるんだ。例えば、表情が暗かったり、反応が遅くなったりするからね。また、身体的な症状も多く、食欲がなくなったり、睡眠障害になったりするよ。

栗本:
双極性障害の躁状態について、周囲の人たちが気づく「サイン」はあるのでしょうか?

福田課長:
躁状態では、例えば、寝なくても元気で活動を続けられる、人の意見に耳を貸さない、根拠のない自信に満ちている、などの症状が見られるよ。

栗本:
うつ病や双極性障害の原因は何ですか?

福田課長:
うつ病の原因は完全には分かっていないが、脳の働きに何らかの不調が生じていると考えられているんだ。精神的、身体的なストレスが関連していることも多いね。

栗本:
日本ではどのくらい患者がいるのでしょうか?

福田課長:
日本では、100人に約6人が生涯でうつ病を経験すると言われている。女性の方が男性よりも倍くらい多いね。双極性障害の頻度は、1%だ。

栗本:
思ったよりも多いですね。どのような治療方法があるのでしょうか?

福田課長:
うつ病の治療は、薬物療法や精神療法が主流だね。また、運動療法や認知行動療法なども有効とされている。です。双極性障害の治療は、薬物療法を基本にして、心理社会的アプローチを組み合わせるよ。

栗本:
仕事をしていく上で、どのような影響があるのでしょうか?

福田課長:
大切なポイントだね。統合失調症と気分障害について、参考になる一覧表があるので、紹介するよ。

精神障害者の職務遂行上の現れやすい特性一覧

出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業訓練実践マニュアル 精神障害者編Ⅰ~施設内訓練~(平成24年度発刊)より抜粋
栗本:
「統合失調症」「気分障害」「双極性障害」について、よく理解できました。「高次脳機能障害」という障害も聞いたことがありますが……。

福田課長:
よく知っているね。高次脳機能障害は、交通事故や脳血管障害などによって、脳にダメージを受けることで生じる障害なんだ。外見からはわかりにくいので、"見えない障害"とも言われている。症状が人によって異なるので、注意が必要。具体的には、国立障害者リハビリテーションセンターのサイトを参考にしてほしい。

5.精神障害者の雇用義務化

栗本:
企業には、精神障害者を雇用する義務があるそうですね。

福田課長:
その通り。平成30年4月1日から、障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わった。身体障害者や知的障害者と比べると、ずいぶん遅れて雇用が義務化されたんだ。

栗本:
政府の議論にも時間がかかったそうですね。

福田課長:
義務化されるまでに、長い経緯があったね。まず、平成22年6月の閣議決定で、「精神障害者の雇用義務化についての結論を平成24年度内に出す」とされた。そして、平成24年に、「障害者雇用促進制度における障害者の範囲等の在り方に関する研究会報告書」が出されたんだ。

栗本:
その報告書には、どのようなことが書かれているんですか?

福田課長:
報告書では、企業の理解に不十分な点があることを認識しながらも、精神障害者を雇用義務の対象とすることが適当である、と結論づけられたんだ。

栗本:
どのような点で、企業の理解が不十分だったのでしょうか?

福田課長:
精神障害に関する知識や認識、具体的なサポート方法についての理解が不十分、ということだったんだ。このため、雇用義務化の実施時期について「慎重に検討する必要がある」とされた。この報告書については、こちらのURLで詳しく解説されているよ。

栗本:
お忙しい中、様々な観点から詳しく教えていただき、ありがとうございました。学んだ知識を、当社で働く精神障害者のサポートに活かしていきたいと思います!
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