発達障害者の特徴、雇用管理のポイントとは?

1.    導入

「発達障害のある社員の対応に悩んでいる」

障害者雇用の現場で、このような声を聞くことは少なくありません。
なぜ、企業は、発達障害者の雇用に悩むのでしょうか。

ここでは、次のようなことを解説していきます
1.    発達障害のある人はどのような特徴を持っているのか
2.    発達障害者を雇用する上でのポイント
3.    参考となる事例

2.    発達障害者の特徴

発達障害は、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、行動面や情緒面に特徴が見られます。
発達障害があっても、本人や家族・周囲の人が特性に応じた日常生活や学校・職場での過ごし方を工夫することで、持っている力を活かしやすくなったり、日常生活の困難を軽減させたりすることができます。

・自閉スペクトラム症(ASD)
・注意欠如・多動症(ADHD)
・学習障害(LD)

これらを総称して、発達障害と言います。
その他、チック症、吃音なども発達障害に含まれます。
生まれつき脳の働き方に違いがあるという点が共通しています。同じ障害名でも特性の現れ方が違ったり、いくつかの発達障害を併せ持ったりすることもあります。

次に、それぞれの診断名について、特徴的な特性を説明していきます。


■自閉スペクトラム症(自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害)

以前は、自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害という診断名もありましたが、2013年のアメリカ精神医学会(APA)の診断基準DSM-5の発表以降、自閉スペクトラム症としてまとめて表現されるようになりました。

コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。

【主な特性】
・相手の表情や態度などよりも、文字や図形、物の方に関心が強い。
・見通しの立たない状況では不安が強いが、見通しが立つ時はきっちりしている。
・大勢の人がいる所や気温の変化などの感覚刺激への敏感さで苦労しているが、それが芸術的な才能につながることもある。


■ADHD(注意欠如多動性障害)

発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。

多動性-衝動性は、幼児期に、落ち着きがない、座っていても手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことが難しい、しゃべりすぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などで認められます。不注意の症状は、学校の勉強でミスが多い、課題や遊びなどに集中し続けることができない、話しかけられていても聞いていないように見える、やるべきことを最後までやりとげない、課題や作業の段取りが苦手、整理整頓が苦手、宿題のように集中力が必要なことを避ける、忘れ物や紛失が多い、気が散りやすい、などがあります。
大人になると、計画的に物事を進められない、そわそわとして落ち着かない、他のことを考えてしまう、感情のコントロールが難しいなど、症状の現れ方が偏しますが、一般に、落ち着きのなさなどの多動性-衝動性は軽減することが多いとされています。また、不安や気分の落ち込みや気分の波などの精神的な不調を伴うこともあります。

【主な特性】
・次々と周囲のものに関心を持ち、周囲のペースよりもエネルギッシュに様々なことに取り組むことが多い。


■LD(学習障害)

全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。

【主な特性】
・ 「話す」「理解」は普通にできるのに、「読む」「書く」「計算する」ことが、努力しているのに極端に苦手。

参考:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」「e-ヘルスネット」
「精神・発達障害者しごとサポーター養成講座」ウェブサイト


■その他の特性

また、その他の特性として、発達障害のある人は次のような特性を持っている場合もあります。

・感覚の過敏さ/鈍麻
・手先の器用さ/不器用さ・運動

聴覚に過敏さをもつ人は、パソコンのキーボードを打つ音、シュレッダーの音、電話の鳴る音などが気になって、業務に集中できないことなどがあります。
また、パソコンでプログラムを組むほどの能力がある人が、極端な不器用さがあり、書類のホチキス止めができなかったりする場合などもあります。


■二次障害

発達障害であることによる環境適応の難しさから、孤立やいじめ、度重なる叱責などの体験を経て、不安症やうつ病などの精神疾患を合併する場合があります。これを、「二次障害」といいます。

二次障害の診断のない人であっても、環境に対する不適応や、自己肯定感の低さなどがある場合も少なくありません。

3.    発達障害者の雇用管理のポイント

ここまで、発達障害の種類と特性についてご説明してきました。

これらの特性は生まれながらのもので、病気ではありません。したがって「治る」という考え方は適切ではありません。
また、その特性そのものが「障害」ということではありません。
特性によって環境とミスマッチが起こっている場合、その困難さが「障害」であると考えます。

雇用管理においては、その人の持つ特性が、業務遂行上の弱みや問題とならないよう、職場環境を調整していくことが望まれます。
また、その特性は、将来においても一切変わらないということではなく、周囲のサポートや経験、本人の努力により徐々に改善していくことは十分にあります。

企業が、まず発達障害のある社員を受け入れる段階では、
次の3点を念頭に置くことをお勧めします。

1)障害特性に合わせた仕事の指示やコミュニケーションを心掛ける
2)不得意なことを克服するのでなく得意なことで会社に貢献してもらう
3)協調性や社風を必要以上に押し付けない


1)障害特性に合わせた仕事の指示やコミュニケーションを心掛ける

無理に環境へ合わせようとするのではなく、特性に応じた環境を作るようにします。
デスクの場所、チームの人数といった、物理的な環境面だけではなく、指示の出し方、指示系統、報告・連絡・相談のルールなど、業務管理のような環境面も含まれます。

2)不得意なことを克服するのでなく得意なことで会社に貢献してもらう

環境同様、不得意な仕事を無理にさせようと努力することはお勧めしません。
できること、得意なことに注目して業務を割り当て、出てきたアウトプットを評価するようにします。
ご本人も自己効用感を高め、意欲の向上という好循環が期待できますし、結果的に周囲も過度なストレスにさらされずに済みます。

3)協調性や社風を必要以上に押し付けない

「チームでコミュニケーションを大切に」
「阿吽の呼吸で」
といったことは、発達障害のある人の多くが苦手とすることです。
協調性を大切にすることよりも、業務を滞りなく行ってもらうことを優先して、業務の差配や環境調整を行っていきます。

4.    発達障害者への対応例

実際に、どのように業務管理やコミュニケーションを行っていけばよいのか、具体的なポイントをご紹介しますので、参考にしていただければと思います。

◆ルールを明確に決める
暗黙のルールや職場習慣を自然に感じ取ることは難しい人が多いため、業務の進め方はもちろん、明文化されていない職場の慣例・慣行なども、言語化、視覚化して「ルール」とし、はっきり認識してもらうことが重要です。
報告も、誰に、いつ(完了時、定時など)、どのような方法で(メール、口頭など)報告するかをあらかじめ「ルール」として決めておきます。報告後は確認・チェックして、早い段階でフィードバックするとよいでしょう。

◆遠まわしな言い方・抽象的な言い方をしない
注意やフィードバックは、直接的に明確に(一般的にはキツイ言い方と思えるほどに)、はっきり伝えます。ただし、感情的な叱責は避けます。遠まわしに伝える、態度で示すなどでは、ほとんど通じません。
(例)×「もう少し、言葉を選んで欲しいなあ」
   ○「その言い方は相手を不快にしています。そのような場合は、…と言います」

◆指示は視覚的に
口頭での指示(聴覚情報)を苦手とする人は多くいます。指示は、文書・メール・ホワイトボードなど、書いて(視覚情報にして)説明するとよいでしょう。また、マニュアル化・図式化すると本人も理解しやすく、指示を出す人も進めやすくなります。

◆「障害者」ではなく、通常の社員マネジメントの考え方で
発達障害の特性の大部分が当てはまる人もいれば、一部だけが該当する人もいます。「発達障害者」として接するより、考え方は一般の社員と同様にして、「特に、弱み・強みを意識して接することが不可欠な社員」と考えてのマネジメントを心がけます。

◆業務の目的・全体イメージを明確に伝える
作業・仕事の全体像がわかることで安心して仕事に取り組みやすくなるので、業務目的なゴールのイメージを伝えます。抽象的な表現は理解しにくいので、この場合も、明確な言葉にして、数値で表現したり構造的に伝えたりします。

5.    トラブルと改善事例

発達障害のある社員のトラブルとその改善事例を1つご紹介します。

Aさん、男性36歳。ADHDの診断をされています。
就労経験があり、業務スキルも高いことから採用されましたが、実際に仕事を始めてみると、業務のえり好みがあり、1日が終わっても、何種類か予定されていた業務の半分も終わっていない、という状態が続いています。
業務の遅れを指摘すると、単純作業などは「自分のやるべき仕事ではない」などの発言が。
マネジメントを担当する社員も手づまりな状態で、どう対処して良いかわかりません。

ここで問題となっている「業務のえり好み」ですが、その状況そのものに対策を打つというより、要因、背景について考えてみることが解決のヒントになります。

今回のようなケースの場合

・業務の優先順位が付けられていない
・仕事の見通しを立てたり、スピードを意識したりすることが上手にできない
・作業手順が間違っているため想定以上に時間がかかっていて、結果「えり好み」に見えている。
・着手しない仕事に対する苦手意識がある
・こだわりによって、別の仕事の方が自分は会社に貢献できると思っている(仕事は上司から指示されたことをやるもの、という前提を理解できていない)

などといった要因が考えられます。


このケースでは、マネジメントご担当者の協力を得て、次のようなことを実践していただきました。

・一日のスケジュールを明示する
・指示を視覚的にする
・マニュアルを提供する
・「予定通り」できたことも「予定通りできたと」伝える

●一日のスケジュールを明示する
何を、いつまでに、どれだけやっておけばいいのか、明確にした一日のスケジュールを作ります。時間、量など、できるだけ数値を用いることで、一日のイメージが明確となり、理解しやすくなります。

●指示を視覚的にする
スケジュールで業務指示の多くは可視化することができました。その他、細かな指示などについては、このケースではメールを利用しました。単発的に口頭で指示を行った際も、後からメールで確認を行いました。

●マニュアルを提供する
依頼する業務に関するマニュアルをできるだけ用意し、不明な点があった場合にも、それを確認することで業務を止めずに済むようにします。

●「予定通り」できたことも「予定通りできたと」伝える
マネジメントを担当する社員の方に、できたことを評価することをお勧めしました。褒める必要はなく、「できましたね」という評価で十分です。

これらにより、Aさんの「業務のえり好み」が格段に減りました。
じつは、えり好みをしていたわけではなく、優先順位付けや時間配分が苦手だったために、とりあえずできる仕事から始め、それに没頭したいたために、他の業務に手を付けられなかったというのが真相でした。
また、マネジメントを担当する社員から評価をされることで、反抗的な発言は減りました。マネジメント担当者との信頼関係が深まったと同時に、業務の遅れそのものがなくなったため、言い訳をしないで済むようになったのです。
完全に問題のない状態とはいきませんが、新しい業務を任されるなどして、意欲的に仕事を続けています。

6.    まとめ

発達障害者の特徴や特性、雇用する上でのポイントを下記にまとめます。

・発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)がある他、チック症、吃音なども含まれます。
・発達障害は生まれつきの脳機能の発達に偏りがあり、得意・不得意の特性と、環境や周囲との人との関わりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害です。
・自閉スペクトラム症は、コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。
・ADHD(注意欠如多動性障害)は、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。
・LD(学習障害)は知的発達には概ね問題がないのに「読み、書き、算数」のいずれか(重なることもあり)を極端に苦手とします。
・発達障害を併せ持つ場合もあるため、診断名だけで特性を判断しないようにした方がよいでしょう。
・その他の特性として、感覚の過敏さ/鈍麻、手先の器用さ/不器用さ、運動機能の特異性なども挙げられます。
・一次障害である発達障害そのものに加えて、不安症やうつ病など、二次障害を併せもつ人もいます。
・発達障害のある社員を雇用する際は、次の3点を念頭に置くことをお勧めします。
 1)障害特性に合わせた仕事の指示やコミュニケーションを心掛ける
 2)不得意なことを克服するのでなく得意なことで会社に貢献してもらう
 3)協調性や社風を必要以上に押し付けない

いかがでしょうか。

発達障害者の特性を理解し、その特性にあわせた雇用管理を行うことは、障害のある社員も周りの社員も、お互いに気持ちよく仕事ができる環境を整える助けになるでしょう。
ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。障がい者雇用に関するご相談メール info@fvp.co.jp
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