障害者採用を成功させる6つのコツ 

1.自社のパーパスや経営ビジョンを投影した障害者雇用の方針を持つ

栗本:
このたび、障害者採用担当となりました栗本です。福田課長、障害者の採用って、いったい何に気をつけて進めればよいでしょうか?

福田課長:
栗本さん、法定雇用率が引き上げられることは知っているね。この法定雇用率を満たした数の障害のある人を採用していくことは、企業の社会的責任として避けては通れない課題なんだ。
図1 法定雇用率の引上げ、除外率の引下スケジュール
栗本:
社会的責任ですか。経験がないのでとても不安です。

福田課長:
そうだよね。最初に大事なことをお伝えしよう。障害者本人にも、会社にもプラスになる採用を行うこと。これが栗本さんの最大のミッションだ。
ステップは、「準備段階」「選考プロセス」「受け入れ環境整備」の3つに分けられる。ステップごとに押さえるべきポイントがあるんだよ。そこをこれからお伝えするよ。
図2 採用フロー(例)
栗本:
ステップごとに押さえるべきポイントがあるのですね。ぜひ教えてください。

福田課長:
まず「準備段階」から説明するね。準備段階では、次のことをしっかり行ってほしい。

①障害者雇用の方針決定
②採用人数やスケジュールなどの計画立案
③業務切り出しと職務設計

この3項目だよ。

栗本:
いきなり、方針ですか?急にそんなことを言われてもどうやって方針を作って、どうやって決定すればよいのでしょうか。


福田課長:
ゼロからつくるとなると困ってしまうよね。障害者雇用だって経営課題なんだよ。だとすれば簡単だよ。うちの会社のパーパスや経営ビジョンを投影した障害者雇用の方針を明確化すればいい。自分たちも自信をもって障害者採用を進められるし、現場、そして経営層の理解も得やすいんだ。

栗本:
そうなんですね。ちょっと考えてみます。

福田課長:
いいね。ぜひ考えてみてほしい。それができたら僕と一緒に、本部長のところに説明にいこう。障害者雇用の現状や方針について経営層に説明し、協力を依頼しておくことが大事なんだ。そうすることで 人事だけでやることではなく、「会社全体で障害者雇用に取り組むんだ」という意識が社内に拡がり、他の部署の協力も得やすくなるからだよ。

栗本:
確かにそうですね!でも簡単ではなさそうですね。

福田課長:
僕も手伝うよ。まずは、うちの会社のパーパスと経営ビジョンをもとに具体的な障害者雇用方針を作ってみよう。

※参考資料:
厚生労働省/障害者雇用率制度について
https://www.mhlw.go.jp/content/000859466.pdf
【第3回】精神障害者の雇用義務化とは?障害者採用の法定雇用率の計算方法は?
https://company.fvp.co.jp/blog/detail.html?id=23

2.採用計画を策定する

福田課長:
障害者雇用の方針ができたら、次は採用計画だ。

栗本:
新卒採用、中途採用と同じ感覚でいいのですよね。これはイメージ湧きます。

福田課長:
頼もしいな!たのむよ。障害者雇用は、うちの会社の常用雇用労働者をもとに、採用が必要となる人数を算出して、それをスケジュールに落としていくといいよ。

3.業務の切り出しと職務設計

栗本:
次の「業務の切り出しと職務設計」は、難しそうなイメージがあります。

福田課長:
確かに簡単ではないし、時間もかかるね。でも、「業務の切り出し」と「職務設計」というプロセスに分けて考えれば、取り組みやすくなる。

栗本:
「業務の切り出し」と「職務設計」に分ける、ですか・・・

福田課長:
「業務の切り出し」とは、各従業員が現在行っている仕事を細かく分解して、障害があってもできる業務や、むしろ障害者の方が得意そうな業務を見つけ出すこと。それを基に、障害者が担当する業務を設計する。これが「職務設計」だよ。

栗本:
これは、障害者採用の担当部署だけではなく、他の部署にも協力してもらわないと、できないですね。

福田課長:
そうなんだよ。「業務の切り出し」がうまくいかなくても、現時点で担当者がいない業務や、何らかのサポートを必要としている部署が見つかる可能性がある。これらの手法を駆使して、障害者ができる業務や得意そうな業務を見つけ出し、それを1人の障害者に担当してもらってもいいし、複数の障がい者にやってもらってもいいんだ。

栗本:
そのようにやるんですね。とにかくやってみます。

4.マッチングは業務と環境の両方でみる

栗本:
障害者に担当してもらう仕事が決まれば、第2ステップの「選考プロセス」に入れますね。

福田課長:
「選考プロセス」は、次の順番で取り組む。

①職場見学開
②実習
③面接

①の職場見学会とは、新卒採用の会社説明会と同じイメージだよ。

栗本:
なるほど。新卒採用と同時に考えていけばいいのか。だとすると、たくさん説明会の参加者をたくさん集めて母集団が大きくなれば、優秀な人材を採用できる確率が高まる。

福田課長:
そうとも限らないよ。障害者採用の場合は、たくさん集めて優秀な人を採用するという考え方はなじまない。業務と環境とのマッチングが肝だから、応募倍率は1倍でもいいとすら思うよ。

栗本:
業務と環境のマッチング!そうなんですか!

福田課長:
そうなんだ。そのマッチングは業務のマッチングだけでなく働く環境のマッチングも大事なんだよ。

栗本:
となると②の「実習」が大切ですね。

福田課長:
そのとおり。インターンシップだね。入社後にやってもらう予定の仕事を、配属予定の職場で、実際にやってもらう。それが実習というんだよ。音や光などに敏感な人もいる。他の社員の動きや声をストレスに感じてしまう人もいる。

栗本:
実習をやってもらうと体力とかコミュニケーションの特性とかもわかりますね。

福田課長:
栗本さん!そのとおりだよ!

5.面接では障害のことについて具体的に質問する

栗本:
そして、いよいよ③面接ですね。

福田課長:
面接では、次の項目をしっかり確認してほしい。

・就労意欲
・希望する働き方
・希望する勤務形態
・体調が安定しているか
・体調の管理方法
・通院の頻度
・障害に関する自己理解があるか
・障害を受容できているか
・セルフマネジメントができるか
・配慮に関する相談を自分からできるか
・就労支援機関の支援を受けているか
・家族などサポートしてくれる人がいるか
以上だ。

栗本:
はい、イメージがわきます。
でもちょっとよくわからないこともあります。「障害に関する自己理解」ってどういうことですか?

福田課長:
障害の特性や状況について、自分が理解できているかということだよ。その障害はどういうものなのか、症状、体調などについて、十分理解しているかということなんだよ。

栗本:
え、そんなのあたりまえじゃないんですか?

福田課長:
いや、そうでもないんだよ。疾患の中には「病識がない」ことが症状である精神疾患もあったり、主治医から言われた、それ以上のことは自分の障害のことを理解していない人もいるんだ。障害についての自己理解が不十分だと、通院や服薬をやめてしまったりするリスクもあるからね。

栗本:
そうなんですね。でもそれって、どうやって確認すればいいんですか?

福田課長:
あはは。ずいぶんビビっているね。でも大丈夫。障害について教えてくださいと質問するだけだよ。気を付けるポイントは簡単。聞き出すというより、働きやすい環境を整えるために、障害のことについて教えてもらうというスタンスで訊くんだ。
支援を受けている人の場合、支援者に意見を訊いてみるのもいいかもしれない。

参考資料:
【第8回】ここをチェック! 精神障害者の採用基準
https://company.fvp.co.jp/blog/detail.html?id=1108

6.入社する人の特性や状況に合わせて受け入れ環境を整える

栗本:
採用者が決まったら、第3ステップの「受け入れ環境整備」ですね。

福田課長:
そうだよ。

やることは、
①マニュアルのアップデート
②入社後の業務スケジュールの準備
③社員に向けた研修、情報提供
の3つだ。

栗本:
実際に入社する人の特性などに合わせて、マニュアルをアップデートするんですね。②の業務スケジュールの準備ってなんですか?

福田課長:
1日、あるいは1週間のワークテーブルと言えばいいかな。見通しをもって仕事に取り組めることは、本人の働きやすさにつながるからね。

栗本:
そうか。「受け入れ環境」って、「障害のある人が働きやすい環境」ってことなんですね。わかってきたぞ!

福田課長:
関わる社員が理解を深められるよう、事前研修をやっておく必要があるね。入社する人のことは実習である程度は知っていると思うけど、あらためてその人の性格、強みや業務面での得意なこと、障害のこと、症状や特徴、必要な配慮などを整理して伝えておくことが大事だよ。この研修は、もちろん障害者の人が働きやすい環境を整える目的でもあるんだけど、一緒に働く人たちの不安を取り除くことにもなるからね。

栗本:
そうか!どう関わればいいのかわからないと不安ですものね。

福田課長:
精神障害、発達障害、知的障害の人と働くにあたっては、マニュアルを整えたりすること、受け入れ前環境を整えることが大事なんだ。栗本さん、この部分もあなたの仕事だと思って取り組んでほしい。

栗本:
え!私がやるんですか!

福田課長:
障害者を採用することは、業務の最適化や効率化のきっかけにもなるんだ。その人の障害の特性や職務能力に合わせて業務を調整する過程が、部署全体や会社全体の業務見直しにもつながるよ。

栗本:
え!障害者雇用がチームの業務品質の向上につながったり、生産性の向上に貢献したりする可能性があるんですか!それはすごい!

福田課長:
その通り!
だから自信をもって障害者採用に取り組んでほしい。

栗本:
わかりました。とてもわかりやすく教えていただきありがとうございました。そして課長がなぜ障害者雇用の方針が必要だといったのかもわかってきました!障害者雇用は経営課題だと思ってしっかり進めます。
参考資料:
【FAQ】初めて障害者社員を受け入れる部門の社員や管理職に対して、人事部としてすべきことは何でしょうか?
https://company.fvp.co.jp/faq/jinji-yakuwari/