精神障害者の特徴、精神障害者の雇用管理のポイントとは?

1.導入

身体障害は、障害の状態によってできること、できないことが明確です。そのため、対応や配慮、指示の出し方もあまり迷うことはありません。

しかし精神障害の場合、障害による特性が見えないため、対応や配慮の仕方、指示の出し方について、どこまでお願いしていいのか、迷うことがあります。
ここでは精神障害の特徴、雇用管理のポイントについてみていきます。

2.「精神障害者」とは

精神障害者は、障害者基本法第2条によって「精神障害(発達障害を含む)がある者であって、障害及び 社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されています。

一方、障害者雇用促進法では、精神障害者の範囲を、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人または統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)、てんかんにかかっている人で、 病状が安定し、就労が可能な状態にある人としています。

また、雇用率算定の対象となるのは精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人です。

3.主な精神障害

(1)統合失調症

統合失調症は、脳の様々な働きをまとめることが難しくなるために、幻覚や妄想などの症状が起こる病気です。ほかの慢性の病気と同じように長い経過をたどりやすいですが、新しい薬や治療法の開発が進んだことにより、多くの方が長期的な回復を期待できるようになっています。

【特徴的な症状】
統合失調症の症状でよく知られているのが、「幻覚」と「妄想」です。
幻覚とは実際にはないものをあるように感じる知覚の異常で、中でも自分の悪口やうわさなどが聞こえてくる幻聴は、しばしば見られる症状です。
妄想とは明らかに誤った内容を信じてしまい、周りが訂正しようとしても受け入れられない考えのことで、いやがらせをされているといった被害妄想、テレビやネットが自分に関する情報を流していると思い込んだりする関係妄想などがあります。
こうした幻覚や妄想は、本人にはまるで現実であるように感じられるので、病気が原因にあるとはなかなか気づくことができません。

【原因】
発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、統合失調症になりやすい要因をいくつかもっている人が、仕事や人間関係のストレス、就職や結婚など人生の転機で感じる緊張などがきっかけとなり、発症するのではないかと考えられています。

【患者数】
日本での統合失調症の患者数は約80万人といわれています。また、世界各国の報告をまとめると、生涯のうちに統合失調症を発症する人は全体の人口の0.7%と推計されます。100人に1人弱。決して少なくない数字です。それだけ、統合失調症は身近な病気といえます。

【経過】
治療によって急性期の激しい症状が治まると、その後は回復期となり、徐々に長期安定にいたるというのが一般的な経過です。なかにはまったく症状が出なくなる人もいますが、症状がなくなったからといって自分だけの判断で薬をやめてしまうと、しばらくして再発してしまうことも多いので注意が必要です。主治医と相談することが大切です。統合失調症も糖尿病や高血圧などの生活習慣病と同じで、症状が出ないように必要な薬を続けながら、気長に病気を管理していくことが大切です。

参考:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス
(2)気分障害(うつ病・双極性障害)

うつ病は、気分障害の一つです。一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいといった身体症状が現れ、日常生活に大きな支障が生じている場合、うつ病の可能性があります。気分障害には、うつ病の他に、うつ病との鑑別が必要な双極性障害(躁うつ病)などがあります。うつ病ではうつ状態だけがみられますが、双極性障害はうつ状態と躁状態(軽躁状態)を繰り返す病気です。うつ病と双極性障害とでは治療法が大きく異なりますので専門家による判断が必要です。

【特徴的な症状】
うつ病では、自分が感じる気分の変化だけでなく、周囲からみてわかる変化もあります。

《周囲から見てわかるうつ病のサイン》
・表情が暗い
・自分を責めてばかりいる
・涙もろくなった
・反応が遅い
・落ち着かない
・飲酒量が増える

《身体に現れるうつ病のサイン》
・食欲がない
・性欲がない
・眠れない、過度に寝てしまう
・体がだるい、疲れやすい
・頭痛や肩こり
・動悸
・胃の不快感、便秘や下痢
・めまい
・口が渇く

《そう状態のサイン》
・睡眠時間が2時間以上少なくても平気になる
・寝なくても元気で活動を続けられる
・人の意見に耳を貸さない
・話し続ける
・次々にアイデアが出てくるがそれらを組み立てて最後までやり遂げることができない
・根拠のない自信に満ちあふれる
・買い物やギャンブルに莫大な金額をつぎ込む
・初対面の人にやたらと声をかける
・性的に奔放になる

【原因】
うつ病発症の原因は正確にはよくわかっていませんが、感情や意欲を司る脳の働きに何らかの不調が生じているものと考えられています。うつ病の背景には、精神的ストレスや身体的ストレスなどが指摘されることが多いですが、辛い体験や悲しい出来事のみならず、結婚や進学、就職、引越しなどといった嬉しい出来事の後にも発症することがあります。なお、体の病気や内科治療薬が原因となってうつ状態が生じることもあるので注意が必要です。

【患者数】
日本では、100人に約6人が生涯のうちにうつ病を経験しているという調査結果があります。また、女性の方が男性よりも1.6倍くらい多いことが知られています。女性では、ライフステージに応じて、妊娠や出産、更年期と関連の深いうつ状態やうつ病などに注意が必要となります。
日本における双極性障害の患者さんの頻度は、重症・軽症の双極性障害をあわせても0.4~0.7%といわれています。1,000人に4~7人弱ということで、これはうつ病に比べると頻度は少ないといえます。

【経過】
うつ病の治療を考える前に、まず、心身の休養がしっかりとれるように環境を整えることが大事です。職場や学校から離れ自宅で過ごす、場合によっては、入院環境へ身を委ねることにより、大きく症状が軽減することもあります。精神的ストレスや身体的ストレスから離れた環境で過ごすことは、その後の再発予防にも重要です。うつ病の治療には、医薬品による治療(薬物療法)と、専門家との対話を通して進める治療(精神療法)があります。また、散歩などの軽い有酸素運動(運動療法)がうつ症状を軽減させることが知られています。
双極性障害の治療には薬による治療と心理社会的アプローチがあります。
「こころの悩み」とは異なり、カウンセリングだけで回復が期待できるものではありません。薬物療法を基本に治療法を組み立てていきます。
参考:厚生労働省 みんなのメンタルヘルス

4.精神障害の特徴

では、精神障害のある人の、障害としての特徴とは何でしょうか?
精神障害のある人に仕事をしてもらう上で、どんなことに気をつければよいのでしょうか?

特徴は次の3つです。

(1)病気と障害が併存していること
(2)認知機能の低下が見られる場合もあること
(3)中途障害であること

(1)病気と障害が併存している
身体障害では、疾患が治療により終了すると、障害に移行し、固定化します。その障害のある「部分」で困難なこと、苦手なことがわかりやすく、配慮すべきことも比較的明確になります。
それに対して、精神障害は、病気と障害が相互に関わり、共存しています。疾患による障害を「部分」ではなく、社会生活全体で見ていかなくてはなりません。また、心理面や環境条件の影響を強く受けて症状が変化しやすいために症状の固定がされにくく、何年たっても疾病の状態が変化する可能性を残していることがあります。

(2)認知機能の低下が見られる場合もある
症状、薬の影響などによって、認知機能の低下がみられる場合があります。
認知機能とは、精神医学的には知能に類似した意味ですが、心理学では知覚を中心とした、判断・想像・推論・決定・記憶・言語理解といったさまざまな要素が含まれます。
職場においては、口頭による指示理解、状況判断と意思決定、新しい業務を覚える、同時並行で業務を行う、などに苦手さを生じることがあります。
発症前できていたことが、発症したことにより難しくなっていることも少なくありません。
言葉でのやり取りに問題がないように見えても、実際に仕事をやってもらうと、思うように遂行できないという場合もあります。

(3)中途障害である
精神障害は、先天的な障害ではありません。
大人になって、あるいは大人になる過程で精神疾患を発症されています。
病気になったこと、精神障害となったことによる偏見などで、落ち込んだり、自信をなくしたりしている方々も多くいらっしゃいます。
また、自分に精神障害があるということを受け入れるのに時間がかかる人もいます。

5.事例

(1)Aさん男性36歳、うつ病。

①状況
順調に就業できていたが、気分の落ち込みがみられるようになる。
他の障がい者社員に対して劣等感やイライラを感じてしまう。
気分の落ち込みによって生活が乱れ、さらに落ち込む。
仕事の意欲、作業スピードも落ちている。

体調(メンタル)不良 
・気分の落ち込み
・周囲の社員への劣等感
・周囲の社員へのイライラ
・生活リズムの乱れ

その結果、業務パフォーマンスの低下が見られた
・業務意欲の低下
・業務スピードの低下

②上司の悩み
いったん休ませるべきか、仕事を調整するのか・・・
その他やれることがあるのか?

③対応策
<Aさん>
・出勤時のコンディションを報告する
・終業時に、気持ち、業務のセルフチェックを行う
・体調が悪くて仕事を続けられないときはなるべく自分から相談する

<上司>
・口頭と業務日報での受容的な声掛けをする
(例)今日は〇〇でした→今日は〇〇だったんですね、といったん本人の言っていることを受け止める
・本人の体調報告と実際の業務の様子を観察して、どの程度の体調ならどこまで仕事をすることができるかを見極める
・本人から訴えがあったときは、仕事ができるかどうかを確認して判断する
(例)すぐに「休め」と言うのではなく、どこまでできそうか本人と相談して判断する

<FVP>
・Aさんへの受容的な声掛けをした
・Aさんの状況に対する見立てを上司に共有した
・上司へ関わり方への助言をした

(2)その他の事例
①仕事の指示の出し方で注意する点
・原則指示は一つずつ、本人の理解を確認しながら
・複数の仕事を指示する時は、優先順位もいっしょに伝える
・一般に口頭指示を受けることは苦手、メモにして渡すほうがよい
・自己肯定感が低い人が多いため、自信を持たせる声かけが重要

②仕事を休んでしまった時の対応
・連絡がない場合は、こちらから電話をかけて話を聞く(放置はしない)
・「体調が悪い」と言われたら、具体的にどのような状態なのかを訊く。
 体調が悪い=休み、ではなく、どこまでならできるか、例えば、会社まで来られるか、
 時間を短くしたら仕事ができそうか、と可能なラインを双方で確認し、実践する 
・病状悪化の兆候がありそうなら、かかりつけ医師への通院を促す

③注意の仕方で注意する点
・注意をする時は大声や感情的にならず、具体的な対処方法を助言する
例)×廊下は走るな
→〇廊下は歩きましょう
  ×なんで△■さんに確認せずに進めるの!?
  →〇次からは、先に△■さんに確認してから進めてください

6.精神障害者の雇用管理のポイント

精神障害者の特徴として、先に以下の3つを挙げました。

(1)病気と障害が併存していること
(2)認知機能の低下が見られる場合もあること
(3)中途障害であること

特徴それぞれに対する対応のポイントは次の通りです。

◎よい状態を保つための工夫や努力を会社と本人がともに行う
◎仕事内容や指示の仕方を調整する
◎本人の自信の回復、自尊感情の向上に配慮する

◎よい状態を保つための工夫や努力を会社と本人がともに行う
精神障害の病状はいつでも変化する可能性があり、日々の体調にも波があります。会社側は、そのことを前提として、できるだけよい状態を保つための配慮や工夫をしていくとよいでしょう。同時に、会社だけでなく、障害のある社員本人も自らの体調を保つための努力や工夫をしてもらう必要があります。

◎仕事内容や指示の仕方を調整する
認知機能の低下が見られる場合は、口頭による指示理解、状況判断と意思決定、新しい業務を覚える、同時並行で業務を行うなどに苦手さを生じる場合があります。このような苦手さに対して、仕事内容や指示の仕方を調整していただくとよいでしょう。

◎本人の自信の回復、自尊感情の向上に配慮する
精神障害のある人の多くは、大人になってから、あるいは大人になる過程で病気を発症され、症状が固定化して手帳を取得されています。病気にかかったこと、障害をもったことに落ち込んでいたり、自信をなくしたりしている人も少なくありません。精神障害のある人にそういった心情があるということも、知っておきたいことです。

7.まとめ

精神障害は目に見えないものです。
そのため、受け入れる会社側や現場で一緒に働く社員の方々が不安に感じることはあって当然かもしれません。

だからといって過剰な対応をしては、障害のある社員本人のためにもなりませんし、周囲の社員にも負担感が残るばかりです。

個々の状態を見極めたうえで、本人とも相談しながら判断することが重要です。
そのような過程で「やってみたらできた」と本人が自信をもつことはよくあることで、会社も「こうすればいいのだ」と精神障害者の雇用管理に自信を深めていく例もあります。
ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。障がい者雇用に関するご相談メール info@fvp.co.jp
電話 03-5577-6913
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