身体障害、知的障害、精神障害とは
導入
1.障害者雇用率制度
民間企業の法定雇用率は2.3%です。従業員を43.5人以上雇用している事業主は、障害者を1人以上雇用しなければなりません。雇用義務を履行しない事業主に対しては、障害者雇用納付金を支払う必要があり、また、ハローワークから行政指導が行われます。
ここでいう障害者とされる範囲
障害者雇用率制度の上では、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の所有者を実雇用率の算定対象としています(短時間労働者は原則0.5人カウント)。
参考資料:障害者手帳とは
障害者雇用率制度とは
2.身体障害とは
身体障害者福祉法の第2節第4条
この法律において、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。
このように記述されているとおり、身体障害者は身体障害者手帳を交付された方であり、詳細については第4条で挙げられている『別表』で明記されています。この『別表』とは『身体障害者福祉法施行規則別表第5号』のことで、『身体障害者障害程度等級表』ともいいます。
この別表では身体障害として、視覚障害、聴覚又は平衡機能の障害、音声機能、言語機能、咀嚼機能障害、肢体不自由、心臓、じん臓、呼吸器またはぼうこう若しくは小腸、直腸、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫、若しくは肝臓機能の障害が挙げられています。身体障害者手帳の交付を受けるには医師の診断を受け、この等級表の障害に該当するという意見書が必要となります。
(1)視覚障害
視覚障害は様々な要因による視力の低下、また、視野が狭くなる視野狭窄をいいます。
視野狭窄には視野全体が狭くなる求心狭窄と視野が不規則に狭くなる不規則狭窄があります。不規則狭窄では視野の半分しか見えなくなる半盲という視覚障害も見られます。
視覚障害の先天的な原因としては、網膜色素変性症、先天性白内障、未熟児網膜症、眼球内に腫瘍ができる網膜細胞芽腫などが挙げられます。
後天的な原因としては糖尿病による血管の損傷により引き起こされる網膜症、緑内障、加齢黄斑変性や脳障害による大脳へのダメージなどがあり、これらも視覚障害を引き起こします。
視覚障害の等級は1~6級に区分され、国の統計ではこのような視覚障害者は約30万人いるとされています。
(2)聴覚又は平衡機能障害
聴覚障害は、左右の耳でどの程度の音の大きさ(デシベル)から聞こえるかで等級が決定します。つまり、聞こえる音のデシベル数が高いほど聴力は低く、障害は重度となります。ささやき声は30デシベル、普通の会話は60デシベル、地下鉄の車内は80デシベル、ジェット機の側は120デシベルぐらいとされています。
耳は外耳、中耳、内耳からなり、どの部分に障害があるかによって伝音性難聴(外耳または中耳)、感音性難聴(内耳)、混合性難聴(伝音難聴と感音難聴の混合)に分けられます。
聴覚障害の原因としては母体の妊娠期間中の風疹への感染のような先天的なもの、そして慢性化膿性中耳炎、老人性難聴、音響外傷、メニエール病などの後天的なものが挙げられます。
平衡機能障害とは、三半規管の機能障害やその他の要因で起立や歩行に必要なバランスが維持できない障害です。聴覚障害の等級は2~4級、および6級、平衡機能障害は3級と5級に区分されており、統計では聴覚・平衡機能障害のある人は言語障害を含め、約34万人います。
(3)肢体不自由
肢体不自由とは肢体、いわゆる左右の手(上肢)、左右の足(下肢)または体幹と呼ばれる胸部、腹部、腰部からなる胴体部分に欠損がある、または欠損がなくても機能障害があり、日常生活動作に制約を受けるような障害のことです。
四肢の場合、指の欠損や機能不全、上肢や下肢がどこが欠損しているか、日常生活動作や歩行ができるかによって等級の軽重が決まります。
(4)音声機能、言語機能、咀嚼機能障害
音声機能の障害とは発声をするための器官である喉頭がない(無喉頭)、または喉頭や構音器官になんらかの障害があるために話すことに障害がある状態です。
また、言語機能の障害は聴覚障害があるために音声言語が獲得できずに話すことができない、失語症などが原因となります。
咀嚼とは食べ物をかみ砕くことで、かみ砕いた食べ物を飲み込む運動である嚥下の障害もこの機能障害に含まれます。
咀嚼や嚥下ができなければ食べ物を食べることができないので日常生活に大きな影響があり、食べ物を細かくする、流動食にする、経管栄養などの手段を取る必要があります。主な原因は筋肉、神経の障害や傷病による口や喉頭の機能の消失などが挙げられます。
音声・言語、そしゃく機能障害の等級は3~4級に区分されています。
(5)内部障害
内部障害とは、障害があると人間の生命の維持や日常生活に著しい影響を与える人体内部の器官等の障害をいいます。
身体障害の種別としては肢体不自由に次いで多い障害です。
現在、以下の7つが内部障害として規定されています。
①心臓機能障害
心臓の疾患等による機能低下により心不全、心臓発作、呼吸困難や倦怠感などが起きる状態や、ペースメーカーや人工弁を装着するなど日常生活に制限がある状態です。
日常生活に影響する度合いにより1、3、4級に区分されます。内部障害の約半数は心臓機能障害が占めています。
②じん機能障害
じん臓の疾患等により日常生活に制限がある状態です。じん臓は血液をろ過し、尿を生成しぼうこうに送る重要な器官で、その機能は一度消失すると回復が困難とされています。
じん臓機能障害の等級は1、3、4級に区分されます。
③呼吸器機能障害
呼吸器は鼻、口、気管、肺などの酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するために必要な器官で、呼吸器の機能低下により、息切れ等が生じ、日常生活に制限を受ける状態です。
呼吸器機能障害の等級は1、3、4級に区分されます。
④ぼうこう又は直腸機能障害
ぼうこうによる排尿、または直腸からの排便の機能に障害があり、日常生活に制限を受ける状態をいいます。尿路変更ストマや腸管ストマを(永久的に)造設している場合や、治癒困難な腸瘻(ちょうろう)がある、先天性の神経障害がある、直腸の手術を受けたなどが該当し、1、3、4級に区分されます。
⑤小腸機能障害
小腸は胃で消化された食べ物から栄養分を吸収する役割をもっています。小腸の機能が十分でないと、生命としての活動が維持できないため、日常生活に制限を受けるような小腸の機能障害があると認められる場合、身体障害となります。
小腸の機能障害は、1、3、4級に区分されます。
⑥ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は人間のリンパ球などに感染し、免疫力を低下させ、最終的には後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させます。
免疫力が低下、または不全となると、感染症を起こす確率が高まります。ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害は、ヒト免疫不全ウイルスに感染し、日常生活に制限を受ける状態を指し、1~4級に区分されます。
⑦肝機能障害
肝臓は脂肪の消化を助ける胆汁を作る、物質の解毒、グリコーゲンの貯蔵などの働きをする臓器です。肝臓の機能障害の原因としては肝炎、肝硬変、肝臓がんなどが挙げられます。
肝臓機能障害は設定された項目にいくつ該当するかなどで1~4級に区分されます。
(6)身体障害者手帳
身体障害者手帳は身体障害者福祉法に基づき、都道府県、政令指定都市、中核市などが発行する身体障害者程度等級表の1級~6級の区分を証明、表示する手帳です。
障害の等級は7級までありますが、交付の対象となるのは6級以上で、同級の重複障害がある場合は1級繰り上がるため、7級の重複障害では6級となり、手帳交付の対象となります。
参考資料:厚生労働省 障害等級表
2.知的障害
知的障害は精神遅滞とも表される、知的発達の障害です。最新の「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版(DSM-5)」では、「知的能力障害(知的発達症)」とも表記されています。例えば、複雑な事柄やこみいった文章・会話の理解が不得手であったり、おつりのやりとりのような日常生活の中での計算が苦手だったりすることがあります。
知的機能(平均が100で標準偏差が15の知能検査を用いて算出し、「同年齢の集団の中でどの位置にあるか」を表す。70未満の場合「知的障害(精神遅滞)」と診断される)や適応機能(日常生活でその人に期待される要求に対していかに効率よく適切に対処し、自立しているのかを表す機能のこと)に基づいて判断され、重症度により軽度、中等度、重度、最重度に分類されます。
障害のあらわれ方は個人差が大きく、少し話をしただけでは障害があることを感じさせない方もいます。しかし、自分のおかれている状況や抽象的な表現を理解することが苦手であったり、未経験の出来事や状況の急な変化への対応が困難であったりする方は多く、支援の仕方も一人ひとり異なります。
原因としては、染色体異常・神経皮膚症候群・先天代謝異常症・胎児期の感染症(たとえば先天性風疹症候群など)・中枢神経感染症(たとえば細菌性髄膜炎など)・脳奇形・てんかんなど発作性疾患があげられ、多岐にわたっています。
(2)療育手帳
知的障害者がもつ手帳は、「療育手帳制度について(昭和48年9月27日厚生省発児第156号厚生事務次官通知)」のガイドラインに基づいており、住んでいる自治体によっては、療育手帳と呼ばず「愛の手帳(東京都、神奈川県横浜市)」や「みどりの手帳(埼玉県)」といった名称を使う場合もあります。
手帳に記載される障害の程度についても、重度「A」と重度以外の中軽度「B」を3区分する自治体があれば、1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)の数字で4区分する自治体もあります。
4.精神障害
精神障害者は、障害者基本法第2条によって「精神障害(発達障害を含む)がある者であって、障害及び 社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」と定義されています。
一方、障害者雇用促進法では、精神障害者の範囲を、精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人または統合失調症、そううつ病(そう病及びうつ病を含む)、てんかんにかかっている人で、 病状が安定し、就労が可能な状態にある人としています。
また、雇用率算定の対象となるのは精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている人です。
(2)精神疾患の主なもの
・統合失調症
・うつ病、そううつ病などの気分障害
・てんかん
・薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
・高次脳機能障害
・その他の精神疾患(ストレス関連障害等)
(3)発達障害の主なもの
・自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)
・注意欠陥多動性障害等(ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)
・学習障害(LD:Learning Disability)
(4)主な精神障害
①統合失調症
10 代から 30 代の若い世代で発症することが多く、この疾患の頻度は約 1%と言われており、 およそ 100 人に 1 人が罹るポピュラーな疾患といえます。はっきりとした原因はいまだ不明ですが、脳の神経伝達物質(神経細胞の間で情報を伝達する 物質)の異常がさまざまな症状を引き起こすと言われています。
主な症状としては発症初期や調子を崩した際に現れやすい陽性症状として、幻視、幻覚、妄想、思考の混乱(自分の考えや気持 をうまくまとめて言えない)が挙げられます。このほか陰性症状と呼ばれる慢性的な症状として、意欲の低下、感情や表情の平板化(喜怒哀楽の表現が乏しくなる)などがあります。
②うつ病、そううつ病などの気分障害
うつ病やそううつ病(双極性障害)の総称です。これらの疾患に罹る原因ははっきりとはわかっていないものの、精神的、肉体的な疲労が続いていくうちに脳内の神経伝達物質に異常を来し、さまざまな症状が出現すると言われています。
うつ病は、一生のうちに15人に1人は罹ると言われているほど頻度の高い疾患であり、通常の生活に支障を来すほどに気分が沈む状態が長く続く疾患です。その際、身体の不調として、疲労感、倦怠感、睡眠障害、食欲不振、体重の減少、頭痛・腰痛等があります。また、精神症状としては、抑うつ状態、日内変動(朝方から夕方になるにつれて憂うつ感が軽くなっていく)、集中力低下、注意力散漫、意欲低下、興味・関心の低下、不安、取り越し苦労、自信の喪失などが見られます。
③その他
精神的な葛藤やストレスによって不安や恐怖を感じて精神や身体的な症状を引き起こす神経症(強迫性障害やパニック障害など)や、精神作用物質(アルコールやシンナーなど)による精神疾患、事故あるいは脳出血などで脳に損傷や衝撃が加わることにより運動機能や思考、言語、記憶などの認知機能に障害が生じる高次脳機能障害などの精神疾患があります。
④自閉症スペクトラム障害(ASD:Autism Spectrum Disorder)
コミュニケーションの場面で、言葉や視線、表情、身振りなどを用いて相互的にやりとりをしたり、自分の気持ちを伝えたり、相手の気持ちを読み取ったりすることが苦手です。また、特定のことに強い関心をもっていたり、こだわりが強かったりします。また、感覚の過敏さを持ち合わせている場合もあります。
⑤注意欠陥多動性障害等(ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)
発達年齢に比べて、落ち着きがない、待てない(多動性-衝動性)、注意が持続しにくい、作業にミスが多い(不注意)といった特性があります。多動性−衝動性と不注意の両方が認められる場合も、いずれか一方が認められる場合もあります。
⑥学習障害(LD:Learning Disability)
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の学習のみに困難が認められる状態をいいます。読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つがあります。
(5)精神保健福祉手帳
精神保健福祉法に基づき、社会生活・日常生活を送る際に制約がある人の支援や自立の目的で交付されます。都道府県知事・指定都市市長に申請します。1級から3級まであり、2年おきに更新する必要があります。更新するには新たな診断書の提出が必要です。
5.他の障害に比べ離職率が高い精神障害者
資料1では、障害種別の職場定着率を入社から1年後にわたってまとめられています。
それによれば、入社3か月時点で高い順に知的障害(定着率85.3%)、発達障害(同84.7%)、身体障害(同77.8%)、精神障害(同69.9%)ですが、1年後になると、発達障害(同71.5%)、知的障害(同68.0%)、身体障害(同60.8%)、精神障害(同49.3%)と、他の障害に比べて精神障害の離職率が高くなっていることがわかります。
資料1:障害種類別職場定着率
(2) 精神障害者の離職率が高い要因
① 目にみえない障害であること
身体障害は、障害の状態によってできること、できないことが明確です。そのため、対応や配慮、指示の出し方もあまり迷うことはないでしょう。
しかし精神障害の場合、障害による特性が見えないため、対応や配慮の仕方、指
示の出し方について、どこまでお願いしていいのか、迷うことがあります。
② 病気と障害が併存している
身体障害では、疾患が治療により終了すると、障害に移行し、固定化します。その障害のある「部分」で困難なこと、苦手なことがわかりやすく、配慮すべきことも比較的明確になります。
それに対して、精神障害は、病気と障害が相互に関わり、共存しています。疾患による障害を「部分」ではなく、社会生活全体で見ていかなくてはなりません。また、心理面や環境条件の影響を強く受けて症状が変化しやすいために症状の固定がされにくく、何年たっても疾病の状態が変化する可能性を残していることがあります。
③ 何年経っても症状が変化する可能性がある
精神障がいの特徴として、何年経っても症状が変化する可能性があります。そのため、会社側の配慮だけでなく、「本人のよい状態を保つための工夫や努力」が必要になります。
精神障害は、障害が目に見えないことによって、会社が提供する配慮の過不足が起こりがちで、そのことによって、業務遂行上の課題が生じたり、体調が悪化したりするケースがみられます。それらが、精神障害者の離職率を高くしている要因といえます。
資料2.具体的な離職理由
資料3 離職を防ぐことができたと考えられる職場での措置や配慮(精神障害者)(3) 企業の障害者雇用における課題と対策
資料3、4は企業が障害者を雇用するにあたって考える課題と対策です。
資料3.(企業が)雇用するに当たっての課題
資料4 (企業が)現在配慮している事項(複数回答)
6.まとめ
しかし、近年の障害者の就労希望人数は精神障害者の伸び率が圧倒的に多くなっており、今後障害者雇用を行うにあたっては、精神障害者を雇用することは必然となってきます。
その際には、疾患名や障害名で判断するではなく、お一人おひとりの得意なこと、不得手なこと、どのような配慮が必要なのか、といったことを採用段階でしっかり確認し、採用後はそれを一緒に働く社員にも共有しておくことが重要でしょう。
※出典
・平成30年度障害者雇用実態調査結果(別添)(令和元年6月25日、厚生労働省職業安定局障害者雇用対策課地域就労支援室 )
・障害者の就業状況等に関する調査研究(平成29年4月 障害者職業総合センター)
・障害のある求職者の実態等に関する調査研究(令和2年3月、障害者職業総合センター)
・障害者雇用の現状等(平成29年9月20日、厚生労働省職業安定局)
・精神障害者の職場定着及び支援の状況に関する研究(平成26年3月、障害者職業総合センター)
ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。障がい者雇用に関するご相談メール info@fvp.co.jp
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