【2025年4月2日公開】厚生労働省「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会の報告書」を読み解く ~「障害者雇用ビジネス」について考える~

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近年、法定雇用率の引上げや企業のノウハウ不足を背景に、法定雇用率の達成を目的として「障害者雇用ビジネス」を利用する企業が急増しています。
その一方で、このビジネスモデルには複数の問題が指摘されており、それに対する制度的対応(今後の対策)が検討されています。
この記事では、2026年2月6日に公表された厚生労働省「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」の報告書をもとに、特に「障害者雇用ビジネス」について論点を整理しました。
Ⅰ はじめに
今後、この報告書の内容を労働政策審議会障害者雇用分科会に報告し、この報告書にて示された検討の方向性にしたがって、更に議論を進めていくこととなります。
なお、障害者雇用ビジネスについて、報告書ではこのように記載されています。
令和6年4月以降段階的に行われる法定雇用率の引上げ及び除外率の引下げにより、企業においては、何よりも法定雇用率の達成に向けた障害者雇用の「数」の確保に意識が向かう環境にある中で、そのために乗り越えなければならない現実的なハードル(職務の選定・開拓、募集・採用、合理的配慮の実施、育成等)が高いことから、法定雇用率達成を目的に、いわゆる「障害者雇用ビジネス」の利用に至る企業が近年急増していることについても、問題提起の声が大きくなっている。

Ⅱ そもそも「障害者雇用ビジネス」とはなにか
具体的には、「企業(利用企業)の主たる労働者の就業場所とは異なる、第三者(ビジネス事業者)が提供する就業場所において障害者を勤務させる」という形態が主に想定されています。
共同通信による2023年1月9日の報道では、このように述べられています。少し長いですが、以下に引用します。
法律で義務付けられた障害者雇用を巡り、企業に貸農園などの働く場を提供し、就労を希望する障害者も紹介して雇用を事実上代行するビジネスが急増していることが9日、厚生労働省の調査や共同通信の取材で分かった。十数事業者が各地の計85カ所で事業を展開。利用企業は全国で約800社、働く障がい者は約5千人に上る。
大半の企業の本業は農業とは無関係で、障害者を雇うために農作物の栽培を開始。作物は社員に無料で配布するケースが多い。違法ではないが「障害者の法定雇用率を形式上満たすためで、雇用や労働とは言えない」との指摘が相次ぎ、国会も問題視。厚労省は対応策を打ち出す方針だ。
参考:
厚生労働省:いわゆる障害者雇用ビジネス(※)に係る実態把握の取組について 令和5年4月17日
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001087755.pdf
厚生労働省:障害者雇用の質について(いわゆる障害者雇用ビジネスについて) 令和7年12月1日
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001601782.pdf

Ⅲ 障害者雇用ビジネスは「3方よし」なのか
一般的な「三方よし」の「三方」とは、「売り手」と「買い手」、そして「世間」の3つを指しています。
例えば障害者雇用ビジネスにこれらを当てはめてみると、「売り手」である障害者雇用ビジネスを運営する事業者が利益をあげ、「買い手」である利用企業が法定雇用率を達成でき、「世間」となる働く障害者にとっては企業で雇用され、月に十数万円の月給が得られる……と考えられます。さらに障害当事者は、働くことで税金を納める側になり、これは社会参画にも見えます。
なお、障害者は、企業で雇用されると最低賃金以上の給与を受け取りますが、障害者福祉事業所等での工賃は全国平均で月約16,000円程度です。
また、いつまでも親が元気であるとは限りません。親が高齢になったら、亡くなったら……と、将来を心配する保護者や家族にとっては、仕事や生活が安定できる場があることは、安心できる材料の一つとなります。
Ⅳ 「障害者雇用ビジネス」が抱える主な課題
1. インクルージョンの観点からの課題と雇用責任の希薄化
利用企業の本業と障害者が従事する業務の関わりが薄く、就業場所も他の従業員と分離されているため、「障害の有無にかかわらず共に働く」という理念から離れてしまっています。日常的な接点が乏しいため、利用企業側の障害者への理解が深まらず、キャリア形成を含めた雇用管理の意識が希薄になることが指摘されています。
2. 雇用管理上の課題(能力開発の制限など)
付与される業務が固定化されており、障害者の習熟に応じた職務内容のレベルアップが図られません。
また、利用企業の組織的関与が薄いことや、ビジネス事業者の障害特性に対する理解が不十分であること等により、適正な雇用管理(計画的な育成や配慮)がなされていない点も課題です。
3. 能力発揮の成果が事業活動へ活用されないことに伴う課題
障害者が生み出した成果物が破棄されるなど、利用企業の事業活動に有為に活用されておらず、単なる「法定雇用率達成のみを目的とした雇用」に陥っています。
これにより障害者自身の働く意欲が減退・喪失するだけでなく、利用企業内でも「障害者雇用は一方的なコストである」という認識が強まり、我が国の中長期的な障害者雇用の進展に負の影響をもたらすことが懸念されています。
「障害者雇用ビジネス」が抱える主な課題
課題 | 何が起こるか(要約) |
インクルージョンの欠如/雇用責任の希薄化 | 業務内容・就業場所が分離し「共に働く」から離れる。日常接点が薄く、利用企業の理解や雇用管理意識(キャリア形成含む)が育ちにくい |
雇用管理上の課題(能力開発が進まない等) | 業務が固定化しレベルアップしない。事業者側の障害特性理解が不十分な場合もあり、計画的な育成・配慮が弱くなる |
成果が事業活動に活用されない | 成果物が破棄/重要性の低い頒布に留まる等で、雇用が形式化。本人の意欲低下、社内に「障害者雇用=コスト」認識が強まる懸念 |
Ⅴ 今後の対策(検討されている制度的対応)
1. 利用企業による行政への報告制度の導入
障害者雇用状況報告(いわゆるロクイチ報告)において、第三者が提供する就業場所を利用する企業に対し、就業場所、ビジネス事業者の情報、業務内容、利用予定期間などの報告を求める方向で検討されています。
これにより、行政庁が実態を網羅的に把握し、必要な指導監督を行えるようにすることを目指しています。
2. 望ましい在り方に向けた「ガイドライン」の創設
障害者雇用ビジネス事業者および利用企業の双方に対して、あるべき姿を示すガイドラインの策定が検討されています。
■ビジネス事業者に対して求めること:
・障害特性を十分に理解した資格者の配置や、スタッフへの教育訓練の実施。
・利用企業に対し、成果物が利用企業の事業活動で有為に活用されるための提案・支援を行うこと。
・最終的に、利用企業が自社の就業場所での障害者雇用に移行(自走)させていくための提案・支援を提供すること。
■利用企業に対して求めること:
・ガイドラインに沿わない運営を行う事業者の利用は「望ましくない」と明示すること。
・障害者の就業を通じた成果物は、自社の事業活動において有為に活用すべきであること。
・一定期間利用した後は、自社内で業務の切り出し等を行い、自社の就業場所へ障害者雇用を移行させていくことが望ましいと示すこと
Ⅵ 利用企業が報告すべき「一定の項目」の具体例
・就業場所
・ビジネス事業者の情報
・障害者が従事する業務内容
・利用予定期間等の適正な雇用管理に係る情報
これらの項目を報告させることで、行政庁が実態を網羅的に把握し、必要な指導監督を行えるようにすることが検討されています。
Ⅶ 「適正な雇用管理に係る情報」とは?
また、制度において重視されるべき「適正な雇用管理」そのものの内容としては、主に以下の要素が規定されています。
■採用・配置・育成等の計画的な実施
(募集から配置、能力開発までを計画的に行うこと)
■障害特性に配慮した働きやすさを高める措置
(障害の特性に対する十分な理解に基づいた配慮や環境整備など)
つまり、行政への報告においては、単に外部のビジネス事業者を「利用している」という事実だけでなく、いつまでその形態を利用する予定なのか(利用予定期間)や、その間に利用企業としてどのように計画的な育成や特性に配慮した対応を行っていくのかといった、雇用主としての責任を伴う管理計画の情報が想定されています。
Ⅷ 行政への報告制度の導入時期
今後の導入時期や具体的な制度設計については、引き続き「労働政策審議会障害者雇用分科会」において議論が深められていくこととされています
報告制度の導入に向けた現在の検討進捗は、「導入に向けてさらに議論を深めるべき」という方向性が示されつつも、具体的な制度化に向けて慎重な課題整理を行っている段階です。
具体的には、報告制度の対象となる「障害者雇用ビジネス」の定義(「主たる労働者の就業場所と異なる第三者が提供する就業場所において障害者を勤務させている」という条件だけでは対象範囲が必ずしも明確ではないこと)や、利用企業にかかる事務負担・心理的負担を考慮し、導入については慎重に検討すべきとの意見が研究会で挙げられました。
そのため、まずは当該ビジネスの業態等の実態把握をさらに進め、より明確な定義付けや企業側の負担を考慮した上で議論を進めていくこととされています。
今後の進め方としては、令和8年(2026年)2月に取りまとめられた本報告書を土台として、「労働政策審議会障害者雇用分科会」において制度設計の具体化に向けた議論が行われる予定です。
同分科会においては、次の法定雇用率設定期間である「令和10年(2028年)4月からの5年間」を想定して制度設計の具体化などを検討することとされています。
したがって、報告制度の導入時期についても、この令和10年(2028年)の期間設定を見据えたスケジュールのなかで具体化されていくと考えられます。
Ⅸ まとめ
だとするならば、すべての企業が今から準備すべき「雇用の質」とは以下の①~⑦に集約されると言っても過言ではありません。
①業務が事業とつながっている
(成果物が捨てられない/“配るだけ”で終わらない設計)
②職務の選定・創出とマッチングが企業主体で行われている
(丸投げになっていないか)
③育成の設計がある
(OJT・訓練・職務レベルアップの道筋)
④合理的配慮・働きやすさの措置がある
(外部就業場所でも“雇用主責任”で担保できているか)
⑤評価と処遇への反映がある
(配置・役割・昇給昇格等、少なくとも評価の仕組み)
⑥利用は“期限と移行計画”を持っている
(利用予定期間+自社内移行のロードマップ)
⑦法令面の基本が崩れていない
(最低賃金適用等。実態把握資料でも注意喚起されています)
報告書は、「障害者雇用ビジネス」を雇用の量を確保する手段として利用が広がる一方、雇用の質を損なう構造リスクがあるとして、報告制度+ガイドラインの制度対応を検討すべきと示しました。
本報告書は、障害者雇用の「量」から「質」への転換という方向性を、これまで以上に明確に示したものといえるでしょう。
雇用の質チェックリスト
業務が事業とつながっているか | ・成果物が捨てられない |
職務の選定・創出とマッチングが企業主体で行われているか | 丸投げになっていない |
育成の設計があるか | OJT・訓練・職務レベルアップの道筋ができている |
合理的配慮・働きやすさの措置があるか | 外部就業場所でも“雇用主責任”で担保できている |
評価と処遇への反映がある | 配置・役割・昇給昇格等、少なくとも評価の仕組みがある |
利用は“期限と移行計画”を持っているか | ・利用予定期間が決まっている。 |
法令面の基本が崩れていないか | 最低賃金が適用されている等 |
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