発達障害者の雇用を進めるうえで、クリアする課題やその方法とは?

発達障害とは?

知的な発達の遅れのない発達障害の方には精神障害保健福祉手帳が交付されますが、一般的な精神障害の方とは明確な違いがあります。発達障害が脳の働きに偏りが見られる先天的な脳機能障害であるのに対し、精神障害は思春期以降に心理的・外的要因で発症する疾患によって社会生活などに支障を来している障害です。

発達障害の現れ方は、障害の種類や程度によってさまざまです。発達障害のある子どもの親が「感情表現が少ない気がする」「友だちとコミュニケーションが取れていない」などの症状に気付く場合もあれば、中高生のときに発達障害が原因で周りの人とうまくいかず対立したり、不登校などになったりするケースもあります。

発達障害の特性は多様であり、一人ひとりの特性に合った支援や配慮が必要です。採用、雇用管理に当たっては、一人ひとりの発達障害の方の特性を具体的に把握し、、当事者に合ったサポートを行えるように知識を深めていきましょう。

ここからは、主な発達障害の種類として「ADHD」「ASD」「LD/SLD」を紹介します。

ADHD(注意欠陥多動性障害)

ADHDは「注意欠陥多動性障害」と呼ばれます。その名の通りADHDは、注意力が散漫で落ち着きがないなどの特徴が見られ、特に顕著なのは「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性です。




ASD(自閉症スペクトラム症・アスペルガー症候群)

ASDは「自閉症スペクトラム症」と訳され、以前は「自閉症」や「アスペルガー症候群」などと呼ばれていました。2013年にアメリカ精神医学会で精神疾患の診断基準「DSM-5」が発表されて以降、「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」を統合しASDとしています。

ASDは、コミュニケーションの困難性や、1つの物事へのこだわりに特徴を持つ障害です。ASDは一般的に、他人の気持ちを理解しにくく、自分の気持ちも表現しづらいため、人間関係をうまく築けないことが多くあります。また、興味・関心を持つ対象が限定されるので、独特のこだわりや反復行動がみられるのもASDの特性です。

人によっては感覚器官が過敏で、光や音に強いストレスを感じる場合もあります。その結果、ASDの方は、人間関係がうまくいかない、複数業務を並行してできない、臨機応変な対応が苦手といった困りごとを抱えています。

ASD傾向のある方の長所は、関心を持つ分野に特化した集中力・記憶力・分析力を持っていると言われます。プログラミングに興味のあるASDの方が高い集中力を活かし、優秀なプログラマーとして活躍しているケースもあります。

LD/SLD(学習障害・限局性学習症)

LD/SLDは「学習障害/限局性学習症」と呼ばれ、読む・書く・話す・聞く・推論する、などの学習面での困難を生じる障害です。

LD/SLDは知的発達に遅れがないにもかかわらず、特定の学習能力あるいは複数の学習能力に課題を抱えています。LD/SLDの主なタイプは、「読字障害」「書字表出障害」「算数障害」の3つです。LD/SLDは、失語症と似ていますが、脳の先天的な障害であることが後天的な障害と異なります。

LD/SLDは「理解すること」や「聞くこと」「計算すること」などが本人の努力でできないため、苦手な部分をサポートすることで力を発揮できます。知的能力やコミュニケーション能力に問題がないLD/SLDの方は、文字を使わない接客やクリエイティブな部門で才能を活かせるでしょう。

発達障害の特性は人によって違う

発達障害のある方者を雇用するときは、その方の困りごとや支援を必要とする部分を把握します。本人へヒアリングする前に「発達障害だからコミュニケーションが苦手だろう」などと決めつけてしまうことでのラベリングはNGです

発達障害の特性は人によって異なりますので、一人ひとりの特性に応じた配慮や支援が必要です。同じ診断名の発達障害でも、一人ひとり異なる配慮・支援が必要なことに注意しなければなりません。
発達障害に配慮がないことによって、業務面での成果が上げられなかったり、対人関係がうまくいかないといった状況が起こる怖れがあります。中には、適応障害、うつ病や不安障害といった二次障害を抱えてしまう方もいます。
採用段階では、業務、コミュニケーション等の面において、どのような配慮が必要なのかを確認しましょう。
また、音や光といった物理的な環境への配慮が必要な方もいますので、こちらも合わせて確認するとよいでしょう。


発達障害者の雇用は増加傾向にある

厚生労働省の調査によれば、発達障害者を含む精神障害者の雇用は増加傾向にあります。発達障害者の場合、2018年の雇用推計が3万9千人、2023年の推計が9万1千人と、前回の調査から約5万2千人の増加です。民間企業における障害者雇用数は全ての障害で上昇傾向にありますが、発達障害者は前回調査より約230%増と、急激な増加が見られます。

参考:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」


発達障害者は一般雇用と障害者雇用のどちらが良いのか

発達障害者を雇用する方法は主に、一般雇用(クローズ)と障害者雇用(オープン)という2つのパターンがあります。一般雇用は障害のない方と同じ採用枠で雇用する方法で、障害者雇用は障害者手帳を持っている方を対象に採用する方法です。
一般雇用と障害者雇用にはそれぞれメリット・デメリットがあります。一般雇用と障害者雇用のどちらが適しているかは、当人によって異なるので、雇用方法それぞれの特徴を知っておきましょう。ここからは、一般雇用と障害者雇用の特徴について解説します。

一般雇用は職種の幅は広いが、離職につながりやすい

一般雇用の障害者は業種選択や会社の規模、給与条件がすべて健常者と同じになります。企業は障害者を他の社員と同様に扱うことができるため、一般社員のように責任ある立場や業務を任せられるというメリットがあるのが一般雇用です。

一方で一般雇用では他の社員と同じスピードで業務をこなさなければならない為、障害の特性によっては求められるスピードについていけず、離職につながるデメリットも存在しています。

障害者雇用は定着率が高く、法定雇用率を満たしやすい

障害者雇用は障害があることを前提として雇用されるため、障害者にとって働きやすい環境とサポート体制を整えることで、定着率の向上や離職率の上昇を防ぐことができ、それによって法定雇用率が満たしやすいメリットがあります。
その反面、きちんと雇用する方に合ったサポート体制や環境を用意する必要があることは留意する必要があります。

また、障害者雇用は障害特性に配慮した仕事を与えるため、仕事が単調になりやすいという課題があります。そのため、企業はモチベーションの低下などを防ぐ工夫を施す必要があります。


発達障害者に適している仕事

発達障害のある方の特性は一人ひとり異なりますので、一概に「この仕事が最適」とは言えません。しかし、発達障害の方の強みを活かせる仕事は多く存在します。

ここでは、発達障害の方に一般的に適している仕事として、業種と業務内容別にご紹介します。

発達障害者に適している業種

厚生労働省の「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によると、発達障害者の職業分布として最も多いのは卸売業・小売業で、40.5%を占めており、次いで、サービス業14.6%、製造業10.2%の順で発達障害者が活躍中です。




調査結果によると発達障害者の特性を活かせる仕事は、販売業や接客業、事務作業、専門的・技術的職業などが多いと分かります。

販売業や接客業は多くの場合、規則やマニュアルが定まっているため、臨機応変な対応が難しい方もルールにのっとって行動できます。また、事務作業はデータ処理やファイリングといった秩序のある作業を繰り返すので、ルーティンワークが得意な方に適しているでしょう。

参考:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」

発達障害者に適している業務内容

続いて発達障害のある方に適している「業務内容」について解説します。「英国自閉症協会による実践ガイド」では以下のように紹介されています。

【アスペルガー症候群の人に適すると思われる作業】
●     細部への注意と正確さが要求される作業 
    例: データ入力、文章の入力、調査
●    定型的で反復性のある作業
    例:ファイリング、コピー、精密検査、仕分け、情報発信
●    数字/統計/事実を扱う作業
    例:財務/会計
●    明確な手順のある作業
    例:郵便物の受取り/送付、データ保管/図書館司書
●    正誤の判断を伴う高度に構造化された作業
    例:IT サポート/プログラミング

発達障害の方は、細部への注意、集中力、論理的思考力など、仕事で活かせるさまざまな強みがあります。一人ひとりの特性を理解し、適切な役割を提供することで、これらの能力を最大限に引き出すことが可能に。そのためには、職場環境や業務内容を工夫することが重要です。

その他の業種・業務内容であっても、障害特性と業務のマッチング次第では、発達障害者の働きが売上アップや生産性向上に繋がり、会社全体の利益になるでしょう。

参考:アスペルガー症候群の人を雇用するために~英国自閉症協会による実践ガイド~


発達障害者を雇用するための課題

「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」によれば、発達障害者を雇用する課題として「会社内に適当な仕事があるか」という回答が76.9%と、最も多くなっています。これらを踏まえますと、発達障害者を雇用するための課題は、企業側が「発達障害者が実際にどこまでできるのか」「何ができるのか」を詳しく理解できていないことも要因の一つだと言えるでしょう。

参考:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」

さらには、発達障害者が担当する業務を切り出せず、雇用したとしても仕事がないことも発達障害者を雇用するための課題として挙げられます。担当する部署や仕事内容が決まらなければ、障害者の雇用に繋がりません。また、通常業務が多忙であり、障害者を雇用しても指導できる従業員がいないことも課題の1つです。

障害者の受け入れが進まないときは、現在行っている業務を細分化し任せられる作業などを創出する取り組みにより、仕事を切り出せる場合があります。障害特性や当人の能力とのミスマッチを防ぐため、企業は障害者一人ひとりに合った作業内容や柔軟な受け入れ方法を考えましょう。

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まとめ

障害者雇用を円滑に進めるためには、障害特性に配慮した職場環境(働きやすさ)と成果を上げられるマネジメント(働きがい)を整えることが必要です。厚生労働省の調査によれば、発達障害者を雇用するうえでの課題は、「適当な仕事がない」「障害者を雇用するイメージやノウハウがない」などの回答が寄せられています。また、「採用時に適性や能力を十分把握できるか」といった回答もあり、企業は障害者雇用に対する経験不足や、情報の少なさを懸念していることがわかります。

発達障害は、障害の特性に合った業務、環境、マネジメントが提供できれば十分に力を発揮でき、会社の戦力になりえると言い切って過言ではありません。発達障害者の中には、集中力を活かした技術職や、緻密な仕事が得意な特性を活かした事務職などに就き、成果を出している方もいます。

企業は、発達障害者の個別性に寄り添い、柔軟な姿勢で働きやすい職場環境を構築することが大切です。適切な支援体制が整えば、発達障害者の能力を最大限に引き出せるでしょう。障害者を雇用した結果、企業全体の多様性とイノベーションが促進される可能性もあります。


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