特例子会社をつくるメリット・デメリット(ワーク付き)

第1回では、特例子会社とはどのような会社で、どのような仕事を行っているのか、
また、特例子会社の設立要件、特例子会社を使ったグループ適用、企業グループ算定特例について見てきました。

特例子会社の設立を検討されるご担当者様は現在または将来の自社の障害者雇用の推進に何等かの課題感を感じていらっしゃると思います。

第2回は、特例子会社をつくるメリット・デメリットについて見ていきます。


1.特例子会社のメリット・デメリット 

特例子会社を設立する経済的な側面、非経済的な側面から、それぞれメリットとデメリットをまとめると次のようになります。
それぞれを詳しく見ていきましょう。


◎応募者が増加することで採用効率を高めることができる
特例子会社は障害者雇用を目的に設立されますので、障害のある求職者からは「働きやすい会社」と評価してもらえる可能性が高まります。一般企業で求人するのに比べて、一般的に応募者数の増加は期待できることと、一度の採用で複数の障害者を採用することができますので、採用効率を高めることができます。


◎雇用管理上の資源(人・設備・ノウハウ等)の集中的な投入が可能になる
障害のある社員を受け入れるためには、その受け入れ部署ごとに、個々の障害に配慮した設備を整えたり、障害者の雇用管理に必要なノウハウや経験のある社員を配属する必要が生じることがあります。
その点、特例子会社では、障害のある社員を集中的に雇用しますので、雇用管理において必要となる人材、設備、ノウハウなどの資源を特例子会社に集中させることができます。


◎職場定着率の向上による採用コストを低減できる
特例子会社は、設備や仕事内容、仕事の進め方などの面において、障害に配慮された働きやすい環境が整備されるため、障害のある社員の定着率を高めることが可能ですので、障害者採用に関するコストを減らすことが期待できます。


◎障害者の生産性を向上できる
特例子会社では、障害のある社員に合わせた業務や目標の設定、きめこまやかな指導ができるため、本人の特性を生かしやすく、結果として着実な成長が期待できます。一人ひとりの成長により、組織としての生産性の向上につながります。


◎各種助成金の活用が可能になる
障害者を雇用するうえでは、さまざまな助成金等がありますが、親会社とは別に助成金を活用することができます。
雇用保険を財源とするもの(特定求職者雇用開発助成金、トライアル雇用助成金、キャリアアップ助成金等)と障害者雇用納付金を財源とするもの(調整金、在宅就業障害者特例調整金、障害者作業施設設置等助成金等)があります。
また、特例子会社が中小企業に該当する場合は、親会社の規模にかかわらず、中小企業として各種助成金を活用することができます。


◎採用対象の障がい者の幅を広げることができる
部門配置や雇用管理の難しい多くの知的障害者、発達障害者、精神障害者の採用が可能となります。


◎独自の人事制度(就業規則、賃金規定、評価制度)を適用できる
障害のある人を雇用するにあたっては、障害の種別や程度に応じて、仕事内容、勤務時間、休暇制度、賃金、評価、昇給、教育など様々な面で、一般社員とは異なった対応や配慮が必要となる場合があります。
親会社の既存の制度の中での運用が難しく、結果として障害のある社員が働きにくい状況になってしまうケースも見られますが、特例子会社の場合は、親会社と別組織であるため、障害の程度や状況に合わせ独自の人事制度を整えることができます。


◎障害者雇用のノウハウの蓄積ができる
障害者雇用を目的に設立された特例子会社では、障害者雇用に関する知見や経験が蓄積しやすく、そこで得た知見や経験を、親会社やグループ会社の障害者雇用に役立てることができます。


◎社内外、ステークホルダーに対して社会的責任の履行やSDG’S活動を示す手段となる
◎企業イメージの向上が期待できる

特例子会社では、親会社で一般企業では就業が困難だった重度障害者、様々な場面でサポートを要する障害者など多様な障害者の就業機会を創出することが可能となります。
特例子会社によるそれらの取り組みにより、障害者雇用という企業の社会的責任を果たすことが可能になります。また、それは顧客、取引先等企業を取り巻くステークホルダーに対し、イメージの向上、信頼を得ることにつながります。


◎メディアでの紹介が増え企業イメージの向上が期待できる
特例子会社での障害者雇用の取り組みを積極的に発信することで、メディアで紹介されることも増えていきますので、企業イメージの向上を期待することもできます。


では、逆にどのようなデメリットがあるでしょうか。

【デメリット】

× 営業上親会社への依存度が高い
時間的な経過により、親会社・グループ会社の支援が減少することがある
2018年12月の野村総研の調査結果(障害者雇用及び特例子会社の経営に関する実態調査)によれば、特例子会社における親会社・グループ会社からの業務の割合は、100%が43.5%、75~100%未満が42.5%にもなり、親会社・グループ会社からの仕事で成り立っている会社が多いことがわかります。

このデータからもわかる通り、特例子会は、親会社の理解、支援の多寡によって、経営面に大きな影響を与えるということがうかがえます。

また、設立当初は、親会社・グループ会社の全面的な支援が得られたが、法定雇用率を達成してしまうと親会社において障害者雇用に対する経営課題としての認識が低下し、十分な協力を得られなくなってしまうということもあります。親会社の業績が悪化した場合も、同様のリスクがあります。


× 親会社の障がい者雇用に対する当事者意識が低下しやすい
特例子会社が集中的に障害者雇用を行うことにより、親会社やグループ会社の中に障害者雇用は特例子会社が担うべきという意識が生まれ、当事者意識が低下してしまうことがあります。


2.事業会社としての特例子会社

上記のような特徴を持つ特例子会社ですが、独立した企業であることに違いはありません。特例子会社といえども、一定の収益を確保し、永続的に存続することが求められます。
そのためには、次のようなことに取り組む必要があります。


(1)特例子会社としての目標、計画を持つ

①経営方針、目標例
 (下にいくにつれて、難易度が上がり、時間はかかりますが、存在価値が向上します)

 ・法定雇用率を達成する
   ↓
 ・親会社・グループ会社の生産性向上に貢献する
   ↓
 ・特例子会社単体で黒字化する
   ↓
 ・社会貢献(いわゆるCSRやダイバーシティ&インクルージョン、SDGsなど)

②業務内容例
 ・親会社・グループ会社内から切り出されてきた業務が中心
 ・親会社・グループ会社が外部の請負会社、派遣会社に発注していた業務を特例子会社
  が取り込む(いわゆるBPO)
 ・親会社・グループ会社にとどまらず、広く仕事を受注する

 
(2)仕事の生産性や付加価値を向上させ続ける

外部の同業他社と比較しても、品質、納期、価格等の面で、十分に競争力を発揮できるように、環境整備、業務プロセスの改善など継続的に行い、仕事の生産性や付加価値を 向上させ続ける必要があります。親会社から発注された仕事だからと安心するのではなく、緊張感をもって業務を請負いましょう。


(3)障害のある社員のスキルの向上に取り組む

作業のスピードや品質の向上に向けた様々な支援や指導を実施すると同時に、研修を定期的に実施したり、新たな仕事を提供するなどして、障害のある社員のスキルを向上させ続ける取り組みを続けましょう。


特例子会社の設立を検討するにあたっては、自社にとっての具体的メリット、デメリットに対する対策を十分検討していくことが大切です。


3.【ワーク】自社の障害者雇用を見直してみましょう

◎自社の法定雇用率障害者数(障害者の雇用義務数)=(常用労働者数+短時間労働者数 ×0.5)×法定雇用率(2.3%)=(     )人
◎現在の自社の障害者雇用人数=(     )人
◎達成率=(     )%

4.まとめ

障害者雇用にまつわる背景、自社の障害者雇用の現状、法定雇用率改善のための特例子会社をつくるメリット、デメリットを確認しました。
法定雇用率を達成するだけでなく、自社の特例子会社つくることでどのような効果を生み出せるか、期待される特例子会社像を描きましょう。

次回は、実際に特例子会社を設立するための手続きについて紹介します。

特例子会社 事業計画書テンプレート

特例子会社制度や設立要件など記載されている項目について
自社の考えや状況をふまえ、検討していくことで、
社内に説明する事業計画書をつくることができます。
ご相談は無料です。まずはお気軽にご連絡ください。